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白滝姫の涙水 (西宮の民話より)

2008-02-28 00:31:33 | 旧有馬郡の民話
*白滝姫に関する民話が神戸市北区山田町を中心に長田区や西宮にあり、多少の違いはありますが、おおむねそのような事があったとおもわれます。
ロイヤルモータース ホームページ「ようこそロイヤルモータースへ」 のロイヤルモータースニュースの16年春号と同ブログ平成19年12月13日を見て下さい。 


白滝姫(しらたきひめ)の涙水

 遠いむかしのことでした。
 六甲山の北側のふもとの山田という里に、真勝(さねかつ)という若者がいました。
 「このままこんないなかにいては楽しくもない。都に出て、何か新しい仕事がしたいものだ。」
 都へ出た真勝は、さいわいにも、天皇に仕(つか)えることができました。
 ある日のことでした。真勝が庭のそうじをしていると、その日に限って、御殿のすだれがまきあげられていました。
 「今日はどうしたのだろう。何かお祝いごとでもあるのだろうか。」
 近づいて、中を、そうっとのぞいてみました。
 なんと、なんと、美しいお姫さまが座っておられるではありませんか・・・。薄衣(うすぎぬ)をまとったはだはぬけるように白く、もの思いに沈んだひとみは、底深い湖水(こすい)の色をたたえていました。
 姫の名は、白滝姫(しらたきひめ)といいました。ある大臣(だいじん)の娘で、都の若者たちのうわさのまとになっていました。真勝は、白滝姫の美しさにすっかり心をうばわれてしまいました。
 「あんなお姫さまをお嫁さんにできたら、これ以上の幸せはあるまい。あー、あー何とかしてお嫁さんにもらうことはできないだろうか。」
 真勝の胸の中は、姫のことでいっぱいになり、はりさけんばかりになりました。そこで「朝な夕な、あなたのことを一時も忘れることができません。あなたへのおもいをつのらせています。」という恋文(こいぶみ)を送りました。
 しかし、姫の心をとらえることはできませんでした。
 恋文を送り続けて、春が過ぎ夏が来ました。秋も来て冬をむかえ、また春がめぐってきました。とうとう、恋文は千通(せんつう)をこえてしまいました。それでも姫は、まっ黒な顔をした庭はきの若者を、かえりみようともしませんでした。
 「そうだ、歌合わせだ。歌合わせに勝てば、姫もみとめてくれるだろう。」
 そのころ、御所では「歌合わせ」といって歌のよみくらべをして勝ち負けを決める遊びがありました。真勝は、さっそく、天皇にお姫さまとの歌合わせをお願いしました。千通もの恋文を送ったという真勝をあわれに思った天皇は、姫との歌合わせを許しました。
 歌合わせの日がやってきました。
 真勝は、姫を恋している胸のうちを歌によみました。

 水無月(みなづき)の稲葉(いなば)の露(つゆ)もこがるるに
 雲井(くもい)をおちぬ白滝の糸
 (六月の稲田(いなだ)では、稲の葉にやどる露の水さえ待ちのぞまれているのに、どうして空からは、白滝のような雨が落ちてこないのだろう。わたしもかわいた稲田と同じです。心から白滝姫を待っているのです。)

 姫も、真勝に返し歌をよみました。

 雲井からついにはおつる白滝を  さのみな恋そ山田男(やまだおとこ)よ
 (待っていればいつかは空から白滝のように雨が落ちてくるでしょう。そんなに恋しく思わないことです。いなか者さん。)

 二人の歌を聞いた天皇は、真勝の真剣な気持ちに打たれました。そして、心のなびいていない姫に言いました。
 「姫よ、そなたは真勝をいなか者と思ってきらっているようだが、真勝はすばらしい歌を読むことができるではないか。人は顔かたちではない。そなたに千通もの恋文を送り、そなたを恋したってくれる男に嫁(とつ)ぐほど幸せなことはあるまい。そなたは真勝の嫁になるがよかろう。」
 いくらお姫さまでも、天皇の命令にそむくことは出来ません。姫は、真勝に嫁ぎ、都をあとに山田へ向かうことになりました。
 西国街道(さいごくかいどう)から、生瀬(なまぜ)を経て有馬街道(ありまかいどう)に入り、荒れ果てた河原(かわら)を、とび石伝(いしづた)いに上がっていきました。都をはなれてからいく日も過ぎていました。ようやく二人は、船坂(ふなさか)をこえるあたりまでやってきました。

 真勝に手を引かれ支えられ、やっとここまで来た姫でしたが、とうとう、くたくたと、その場にくずおれてしまいました。生まれて初めての長旅のつかれからでしょう。もう一歩も歩く力も気力もありませんでした。
 真勝は、姫を背負って歩いて行きました。背負われた姫には妻をおもいやる夫のやさしい心が、背中を通してひしひしと伝わってきます。夫の背中に顔をあてて、姫は泣きました。姫のはげしく泣くようすにおどろいた真勝は、姫をそっと降ろして、道ばたのやわらかい草の上に横たえてやりました。
 「たとえ命令とはいえ、父や母に別れてこのような山奥で苦しむ自分がかわいそうです。けれども、都を出て何日も過ぎた今、あなたのやさしい心がわかりました。あなたのやさしさを知って、よけいに心が苦しいのです。」
 姫はそう言うと、その場に泣き伏し、さめざめと涙を流すのでした。
 すると、ふしぎにも、土に落ちた姫の涙は泉となってあふれ、川となって流れだしていきました。
 この川は、その後も絶えることなく、清い流れは、旅人ののどをうるおし喜ばれました。人々は、この川を「白水川(しらみずがわ)」と呼びました。
コメント
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