当店には、
以前(いぜん)
南国(なんごく)出身のお客様が、ひとりだけだが、
よくこられていた。
今は、もう、あまり、来てもらっていないのだが、
以前は、よく来てくれていた。
この、南国出身のお客様は、
方言(ほうげん)が、きつく、
なにをしゃべっているのか、わからなかった。
その御客様は、当店に来るときは、
いつも、ひとりで来てくれていた。
この、南国出身のお客様と、
また、べつで、
大阪出身で、前歯がほぼなく
奥歯も、けっこう ぬけていて、
あまり、歯が残っていない、御客様がいてた。
余談だが、
ぼくの、あたまには、毛が、あまり残っていない。
大阪出身の、あまり歯のない御客様も、
かん高い声で、はなすのだが、
歯がなく、かつぜつもわるいため、なにをしべっているか、
僕には、わからなかった。
いつも
しゃべりかけてくれるのだが、
何を しゃべっているのか わからないので、
てきとうに、うなずいたり、
適当に、返事を、かえしたりしていた。
ある日のこと、
この、
南国出身者の、御客様と、
歯が無い、大阪出身の御客様と、
当店で、ブッキングした。
ブッキングしたと言うのは、
この、両名が、すこし時間が ずれながら、だいたい同じ時間帯に、
しゅつげんしたのだ。
そして、なぜか、となりどうしに座った。
はじめのころは、
ぼくと、方言のきつい南国出身の御客様と、
話をしたり、
ぼくと、歯の無い、大阪出身の御客様と、
話をしたりしていた。
ふたりは、なかなか話をしなかった。
席は、となりどうしなのだが、
はじめてどうしなので、
なかなか話をしなかった。
しばらくすると、
その、ふたりは、おたがい、しゃべりだした。
方言のきつい南国育ちの御客様が、
なにやら、
歯の無い大阪出身の、お客様へ、
話しかけたのである。
もともと、二人は、はなしをするのがすきなので、
いつも、僕に話しかけてくれていた。
が、
何を、はなししているのかわからないため、
僕は、適当に、返事をかえしていた。
その、
ふたりが、席を となりどうしにし、話し だしたのである。
方言のきつい南国育ちの御客様と、
大阪出身の、奥歯と前歯が、あまり残っていない御客様と、
はなしをしている。
よくよく、耳をすませて、聞いていると、
料理の話をしていた。
ふたりは、えがおで、しゃべっている。
どこどこの店は、おいしいとか、
僕の育った南国の料理は、おいしいとか、
そのたぐいの はなしなのだろう。
何をしゃべっているか?わからない人と、
何をしゃべっているか?分からない人が、
話をして、
おたがい
うなずいたり、
おたがい
「あっはっはっはぁ~~~」
と
わらったり、
時には、
ふたりで、神妙(しんみょう)な、顔をしてみたり、
ふたりで、
「う~~~ん」と、
腕を、くんでみたり、
手を 大きくうごかしてみたり、
なんか ゼスチャーを してみたり、
ふたりは、結構もりあがっていた。
僕は、
不思議だった。
この、ふたりが、
こんなにも、意気投合(いきとうごう)するなんて、
おもってもみなかった。
それにしてみても、
おたがい、理解しあっているのだろうか?
おたがい はなしは、わかりあえているのだろうか?
僕は、ふしぎで、ならなかった。
でも、
僕は、
このふたりが、
すきだった。
いまは、
もう、2人とも、おこしになられていない。