楽学天真のWrap Up


一語一句・一期一会
知的遺産のピラミッド作り

いい論文をかこう(10) いよいよ討論

2007-12-08 18:43:37 | 科学
この シリーズもいよいよ大詰めだ。
最終節の討論、考察の節。
ここが、著者がなにをいいたいのかを言い切るところ。
研究者としての真価が問われる。

私は、だいたいにおいてdiscussionとしている。自分の中での問答を記す、ということだ。
考察といってもよいが。

ま~、落語のような一人問答と思うとよい。
熊さん「え~、ところで八つあん、あの○○はどうなんだい?なんの意味があんだい?」
八つあん「それはだね~」
てなことを書き上げるわけだ。

まず、introの問題提起と完全にcouplingさせ、論点を整理し、構想する。
データ取り扱いと方法に関する問答は、科学そのものではないからここに混ぜ込むめないよう気をつけよう。
それは反論の出ないように、方法のところで十分に展開しておく必要がある。データは信頼できるのだと。

主要論点はいくつか?
私は多くても論点は3つまでに、と決めている。
なぜ?
それもまた、読者の立場に立ってみよう。
3つ以上のことって多すぎないかい?
人間の能力のキャパシティーで、記憶にすとんと落ちるのはせいぜい3つまででしょ?
だらだら並べるとインパクトが落ちる。

プライオリティーの低い論点は書いても良いが、明らかに比重を下げて、一括するなどの書き方が必要だ。

最近、人間とチンパンジーが、記憶沈殿継続時間コンテストをやって負けたとか。
あれを見て、私は確信した。3つまでの記憶沈殿なら五分五分だったかもね、なんてね。

さて、論点とはなにか?
それは新しい発見の意義、意味についてである。
この新しい発見によってこれまでの常識がどう覆り、自然に対する見方を変えなければならないかに関してインパクトの大きい順番にならべるのである。

またラブレターの例で。

私はあなたを愛するようになって、人生に対する見方が180度変わりました。

第1に、それまで傲慢であった自分にはないその優しさが私の人間観を変えました。そして、もうあなたなしでは生きられないーーー。
第2に、あなたのその細やかな気遣いは、私のような部屋の掃除も出来ないがさつな人間に取っては驚きであり、もうあなたなしでは生きられないーーー。
第3に、あなたの個性溢れる美貌と笑顔がまぶたに焼き付き、寝ても覚めてもーーー、もうあなたなしでは生きられないーーー。

なんて例のように、「新しい発見の意義と波及効果」を大きい順に展開するのである。

3つの論点を整理できたら、その論点にタイトルをつけ、サブタイトルとする。

そして、順番になぜそのような意義があるのかを展開していくだけだ。

論争中の一方の側が正しいということが分かった、という場合もあろう。それだけでも新しい発見ではあるが、議論とはそのことが決着する事によってどう全体へ波及するかということが展開されているかが大事だ。
 だって、その場合の論争点は多くの場合、人の提案した仮説であり、喜ぶのは仮説の提案者。
「証明してくれてありがとう」だろう。そんな場合には仮説の提案者が気がつかなかった波及効果を十分に独創的に展開できるかだ。それができればその点に関わる研究の仲間入りが出来る。
でなければ、他人の研究を持ち上げるだけとなってしまう。
そのような論争に介入し、「どちらも駄目、このことが欠落しており、新しい研究結果は全く別の事を示している」なんてのはもちろん十分に独創的である。

日本人の論文には、上に述べた「他人ふんどし論文」が多いと言われて久しい。それに対して、欧米研究者はこのdiscussionだけで論文の半分を占めるくらいのページを割くものも多い。そこが違いだ。なんだかんだと展開することが大事だ。

たとえば、地球科学の観測や観察では、特定の地域ということが必ずつきまとう。そんな場合、もちろん地域を選んだ理由はintroあたりにすでに書いてあるが、それが地球一般に如何に波及できる重要な発見であるのかを縷々展開する訳である。

さて、そのような意義に関わる議論をしていると、もちろん次なるテーマがたくさん出てくるはずである。
いわゆる「今後の課題」である。
それらはうまい書き方をしなければならない。
なぜならあまりにも具体的すぎると、それはテーマばらまき論文となる。
先に記したようにテーマの発掘、それ自身が重要な研究の中身である。

今後も継続的に研究を進めていこうという根幹に関わる部分はぼかし、他にも多いに進めて欲しいことははっきりと書くなんてことも必要だ。もう他のテーマにスイッチするという時は、今後のすべてを他の研究者に託すために、全部さらけだすなんてことも重要だ。

さて、かけそうな気になってきたかな?
頑張ろう!

形式に関わるところ(文献と本文中の年号の一致など)もきちんとね。汚い原稿を見させられ、ここで怒る査読者も多いので。






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日本は戦争をしてきた

2007-12-08 17:42:18 | 読書
戦後日本は戦争をしてきた (角川oneテーマ21 A 75)
姜 尚中,小森 陽一
角川書店

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現代史、現在進行形の政治をめぐる対談。
両者の人生を交えつつ、なされている。
私は世代が同じなので、時代認識を共有できる。
私は、彼らのようにメッセージを発する立場にはいないが、この間の政治の混乱の時代背景に対する1つのアンティテーゼ的見方がよくわかる。

自らを”ゴーマニズム”と称した論陣が大きくなっていた日本社会の中で、この著者らのような反権力的陣営が縮小している日本に居心地の悪さを感ずる人たちも多いはず。このような本が店頭にたくさん並び、論壇のバランスをとるのはいいことだね。

アメリカ社会だって、一方の極端が暴走すると必ず反対のバネが機能する。
それが民主主義だろう。
日本はどうも一方的論陣が氾濫し、少数をバッシングするという極端なところがあって居心地が悪いね。
まだ、民主主義60年だからね。やっと2世代目だからね。今の若者の祖父母は戦前派だからね。無理もない。
その時、異論は牢獄の時代だからね。

アメリカだって、ブッシュ的ネオコンはもう末期だ、と思っている(期待している?)人が多いのだろう。
そして逆のバネが働き、それがまたゆきづまる。
ーーー、そして歴史という時間が重ねられている。

そんな人間社会の現代の一コマだって、長い長い人類の歴史、長い長い生命の歴史、長い長い地球の歴史から見たら、
「お~い!一回きりの人生。頑張れよ!」かな?



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