面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「飛べ!ダコタ」

2013年11月05日 | 映画

太平洋戦争集結から5ヶ月しか経たない昭和21年1月14日。

佐渡島の小さな村に、悪天候に見舞われたイギリス空軍の飛行機が不時着した。

イギリス人など見たことも無い村民たちは、墜落した「ダコタ」を遠巻きにして様子をうかがう一方、村長をはじめとする村役場の役人や小学校の校長、消防団の団長といった、村の主だった人々は困惑する。

GHQによって統治されていた日本にあって、イギリスは連合国のひとつであり、その空軍ともなれば占領軍の一翼を担う存在。

拙い対応をすれば、どんな制裁を受けるか分からない。

しかし村長(柄本明)の「これは人助けだ」という一言をきっかけに、「困った人を助けるのが佐渡モンら(佐渡の人間だ)」という意見のもと、イギリス兵を助けて再び「ダコタ」を大空へと送り出すために立ちあがる…

 

村長の自宅は、村唯一の旅館。 まずは機体の中で寝起きしていたイギリス兵たちに、仮住まいとして旅館を提供することにした。

村民の中には身内が戦死した者もあり、つい最近まで「鬼畜米英」などと敵視していた相手に対してわだかまりを持つ者もいたが、日が経つにつれて協力の輪は広がっていく。

村長の娘・千代子(比嘉愛未)も協力者の先頭に立つように、かいがいしく旅館に滞在するイギリス兵たちの面倒をみていた。

そんな千代子には気がかりなことが一つあった。

それは、訓練中の負傷で戦地に赴くことなく帰郷してきた幼なじみの健一(窪田正孝)のことだ。

村人たちがイギリス兵たちと交流を深め、互いに理解し合うようになってきても、健一はイギリス兵を敵視するかのように…

 

物語の舞台は佐渡島に限られているものの、油谷監督は「日本全体、日本人が昔から持っているもの」への思いを込めたという。

イギリス兵への対応に苦慮する村人たちに対して、村長が「人助けだ」というセリフに、監督の日本に対する眼差し、日本人に対する思いが集約されている。

更に、佐渡島の歴史を背景とした印象深いセリフがある。

「佐渡は、天子様から罪人まで、いろんな人が流されてきて、みんな受け入れてきた。それが佐渡の人間だ。」

かつて流刑地とされてきた佐渡島には、政争に敗れた天皇や貴族、僧侶から、重罪を犯した罪人まで、さまざまな立場や境遇の人々が流されてきた。

その全ての人々を受け入れてきたのが佐渡島であり、自分達であるということを誇る言葉に、グローバリゼーションによる人材流動が活発化する今の時代において、全ての日本人が考えていかなければならないことが込められている。

 

また、イギリス人と交流が深まるにつれ、その人柄に惹かれていく村人たちと村長の会話も示唆に富む。

「イギリス人が鬼だなんて、誰が言うとんのやろ?」

「陛下もおらち(自分達)も、悪い軍人に騙されとったっちゃ。」

そう村人たちが言うのを受けて、村長が諭す。

「戦争をはじめたのは、おらちだ。誰かに騙されたと思うとったままじゃ、次の戦争も止められん。」

日本の政治のあり方、日本人の政治に対する姿勢に対する痛烈な皮肉だ。

 

 

厳しい自然の中を生きてきた佐渡の人々だからこその温かさが胸を打つ。

心に響くセリフが、温かい「佐渡弁」で語られ、随所にちりばめられている、ハートウォーミング・ムービーの佳作。

 

 

飛べ!ダコタ

2013年/日本  監督:油谷誠至

出演:比嘉愛未、窪田正孝、柄本明、ベンガル、綾田俊樹、洞口依子、中村久美、芳本美代子、螢雪次朗、園ゆきよ、佐渡稔、マーク・チネリー、ディーン・ニューコム


「グランド・イリュージョン」

2013年10月28日 | 映画
スライハンドマジックの達人・アトラス(ジェシー・アイゼンバーグ)、美しい脱出アーティストのヘンリー(アイラ・フィッシャー)、相手の心を読むメンタリスト・メリット(ウディ・ハレルソン)、ストリートハスラーとして鮮やかな手腕を見せる若者ジャック(デイヴ・フランコ)。
4人のマジシャンが、差出人不明の招待状を受け、とあるマンションの一室へと集まった。

彼らは「ザ・フォー・ホースメン」と名乗ってチームを結成すると、ラスベガスで前代未聞のマジックに挑戦した。
巨大なホールで大観衆を前に、高らかに宣言する。
「今夜、銀行を襲います!」
客席からひとりのフランス人男性を無作為で選ぶと、ステージに出現させた「瞬間移動装置」に男性を乗せた。
装置が作動すると、男性はフランスはパリ9区にある「クレディ・リパブリカン銀行」の金庫へと瞬間移動!
男性が被るヘッドギアに取りつけられたミニカメラから、驚くべき光景が会場のモニターに映し出されて沸き立つ観客。
そして金庫の中に保管されていた大量のユーロ紙幣が、換気扇らしきダクトに吸い込まれていった次の瞬間、会場にはユーロ紙幣の“紙吹雪”が舞い始める。
大興奮の観客を残してザ・フォー・ホースメンは退場していった。

ラスベガスにいながらにして、パリの銀行の金庫破りを成功させた彼らは、一夜にして全米にその名前をとどろかせることとなった。
実際に銀行から320万ユーロが消えたため、FBIが捜査に乗り出し、ホテルに滞在中のメンバーを拘束。
特別捜査官のディランが、インターポールのフランス人女性捜査官アルマを相棒として、捜査の指揮を取ることとなった。
「ケチな手品師どものトリックなど、すぐに暴いてやる!」
女性捜査官とコンビを組まされたことが気に入らないディランは取り調べをはじめたが、決して一筋縄ではいかない。
犯行を裏付ける証拠は何も持っていないことを見抜いているリーダーのアトラスは、軽く追求を受け流して言い放つ。
「僕らはいつも先を行く。絶対に追いつけない。」
決定的な決め手が無く、4人を釈放せざるを得なかったディランは、マジックの種明かしを生業にしているサディアス(モーガン・フリーマン)に接触する。
「ミスディレクション。それがマジックの基本だ。」
客の判断力を間違ったほうにそらせ、判断を誤らせることでマジックを成功させる手法、ミスディレクション。
奇跡のマジックが行われた会場で 「ザ・フォー・ホースメン」の緻密なイリュージョンを解き明かし、ショーの種明かしをしてみせたサディアスは、自信満々にディランに言うのだった。

「ザ・フォー・ホースメン」2度目のショーが ニューオーリンズで開かれることが決定。ディランとアルマは会場の最も見やすい席に付くと、彼らの登場を待ちうけたのだが…


小学生の頃。
「木曜スペシャル」などと銘打たれた、今でいうところの「特番」で、よく先代・引田天功の脱出マジックを見た。
手錠や鍵を付けられた太い鎖で身体の自由を奪われた姿で小さな小屋などに入れられ、一定時間の間に脱出しなければ、仕掛けられたダイナマイトが爆発して、天功は死んでしまう。
だいたいそんなシチュエーションで、決死の脱出劇が繰り広げられるというのがお決まりの映像だった。
いつも脱出に成功するのだが(成功しなければ放送されないのだから当たり前ではあるが)、多少やけどしたり切り傷があったりして妙にリアル感を出すのもいつものお約束。
よくよく振り返れば「予定調和」なマジック・ショーだったのだが、子供心にいつもワクワクドキドキしながらテレビに見入ったものだった。

そんな大仕掛けのマジックをふと思い出した「グランド・イリュージョン」。
特に脱出のスペシャリストである美人イリュージョニスト・ヘンリーのショーに、当代の引田天功だダブったりした。
そういえば彼女の脱出マジックを見た覚えがないのだが、“ネタ”として持っているのだろうか?

そんな大仕掛けのマジックが、日本でも「イリュージョン」と呼ばれるようになったのは、いつからだったのだろう。
しかし先代・引田天功のパフォーマンスに比べて、圧倒的に美しく幻想的な映像は、イリュージョンと呼ぶにふさわしい。
本職のマジシャンの手ほどきを受けたという、イリュージョニストを演じる4人の鮮やかなワザが楽しい!


それにしても最後のオチは全く読めなかった(おそらく誰も読めない…はず)。
会社帰り、劇場の大スクリーンを通して騙され、シビれた脳ミソを癒すのが、本作の正しい楽しみ方。
何も考えず、大量の紙幣が何度も舞い散るバブリーなイリュージョンに、身を浸していただきたい。


グランド・イリュージョン
2013年/アメリカ  監督 ルイ・レテリエ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、マーク・ラファロ、メラニー・ロラン、モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、ウディ・ハレルソン、アイラ・フィッシャー、デイヴ・フランコ

「R100」

2013年10月21日 | 映画
都内の有名家具店に勤める片山貴文(大森南朋)は、ふとしたはずみから謎の秘密クラブ「ボンデージ」に入会した。
契約は1年。
途中退会はできない。
クラブの“メニュー”は、日常生活の中に突然、現実離れした様々な“美女”が現れるというもの。
現れた美女には絶対に手を出してはならず、常に受け身でいなければならない。
日常に突然巻き起こる緊張感によって得も言われぬ愉悦を味わうことができるという。
その快楽にハマる片山だったが、次第にエスカレートしていくメニューに不信を抱き、危機感を募らせていく…


デビュー作の「大日本人」では、円谷プロばりに特撮技術を駆使して“怪獣モノ”を描き、次の「しんぼる」では、タイトルそのままに“男性シンボル”が溢れる抽象画のような映像を展開し、「さや侍」では時代劇というモチーフを取り上げ、次々と新たな世界を我々に見せてきた松本人志監督。
「さや侍」公開時、記者会見で次回作についてむちゃくちゃな映画を作ると語った監督は、会見直後の企画会議で「R100」というタイトルから決定し、作り込んでいったという。
今までは現場で、その場その時の感性で撮影していくことが多かったが、今回は台本をしっかり作ってセリフを固めて作りあげていったとか。
これまでの作品とは違い、一番映画らしく作られた作品といえる。
とはいえ、監督の宣言どおり内容はむちゃくちゃ。
ワケの分からない登場人物と荒唐無稽なストーリーが展開する。

が、突然、思わぬ形で観客はパラレルワールドへと放り込まれる。
その瞬間は呆気にとられるが、また違った眺めを味わうことになって更なる摩訶不思議に包まれる。
松っちゃんは鈴木清順監督が好きなのか?とふと思ってしまったが、それは余計な詮索だった。


この作品を理解できるのは、タイトルどおり100歳を超えてから。
101歳の誕生日に、本作のDVDを鑑賞することを楽しみに、これから生きていこう。


R100
2013年/日本  監督:松本人志
出演:大森南朋、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美、前田吟、YOU、西本晴紀、松本人志、松尾スズキ、渡部篤郎

「シャニダールの花」

2013年09月29日 | 映画
女性の胸に謎の植物が芽を吹き、美しい花を咲かせるという不思議な現象が起きていた。
採取した花から画期的な新薬の開発に役立つ成分が発見されたことから、製薬会社は研究施設を併設したゲストハウスを作り、花の提供者を高額の報酬と引き換えに“スカウト”して収容した。

セラピストの響子(黒木華)は、植物学者の大瀧(綾野剛)のもとで、ユリエ(伊藤歩)やミク(山下リオ)ら、花の提供者へのケア業務に就いた。
ある日、ハルカ(刈谷友衣子)という花の提供者が発見され、大瀧と響子は施設への入居を勧めに向かう。
はじめは頑なに拒否していたハルカだったが、響子の魅力に心を開き、入居を受け入れた。
日々仕事を共にしていくうちに、惹かれあった大瀧と響子は恋に落ちていく。

成長して開花した花は採取されるが、その手術の際に提供者の女性が死亡するという事件が相次いだ。
単なる偶然として、死因を隠蔽しようとしているように見える研究所の所長(古舘寛治)に対して、大瀧は不信感を抱き始める。
そんな中、響子の胸に小さなつぼみが芽吹いた…


イラク北部のシャニダール洞窟で、ネアンデルタール人の化石とともに、ノコギリソウや、ヤグルマギクなど数種類の花粉が遺体の傍らに大量に残っているのが発見されている。
発見した花粉が現代当地において薬草として扱われていること、そして花粉の量が大量である事から、
「ネアンデルタール人には死者を悼む心があり、副葬品として花を遺体に添えて埋葬する習慣があった」
との説をソレッキー教授らの研究チームは唱えた。
(ウィキペディア参照)
このシャニダール遺跡での発見は、人間に“心”が芽生えた瞬間である、という説を生んだ。
野蛮とされてきたネアンデルタール人が、初めて死者を悼むという気持ちをもった証しであるという。


「花」のはじまりは謎に包まれているのだとか。
古代、地球上に君臨していた恐竜たちに食い荒らされた植物たちは、絶滅を逃れるために進化し、花を持ったという説がある。
花と種によって小型化し、分散化した植物は、逆に恐竜の食料を減らすこととなって絶滅に追い込んだ。


女性の胸に赤い花が咲く。
その花は必ずしも育つわけではない。
美しく満開の花を咲かせる女性もいれば、なかなか花開かない女性もいる。
花の成長は女性の感情にも影響を与える。
そして開花した花を放置すると毒素が出て命に関わる。
芽吹いた花は、まるで女性を支配していくかのように成長していく。
かつて恐竜を滅ぼした花が、今、地上に“君臨”する人類を支配しようとしてるのか。

自分の胸に咲いた花を守ろうとする響子と、響子を守るために花を処分しようとする大瀧。
決定的にすれ違った二人の思いが交錯する時、「シャニダール」の秘密が解き明かされる。
もの言わぬ花の強さと恐ろしさの前に、為す術もなく立ちすくむ思いがした。


女性の胸に花が咲くという不思議な現象を中心に、サスペンス・ラブストーリーとして展開する大人の童話。
石井岳龍監督が、7年もの歳月をかけて温め続けてきた渾身の一作。


シャニダールの花
2012年/日本  監督:石井岳龍
出演:綾野剛、黒木華、刈谷友衣子、山下リオ、古舘寛治、伊藤歩

「エリジウム」

2013年09月24日 | 映画
2154年。
地球の環境破壊は手の施しようが無い程に進み、人口は増加の一途をたどり、地上は過密状態になっていた。
一部の“超”富裕層は、あらゆる汚染を排除したスペースコロニー「エリジウム」を建造して地球を脱出。
住民は最先端の医療技術によって開発された医療ポッドを住居内に設置し、あらゆる疾病やどんな大怪我でもたちどころに回復することができた。
快適に維持された自然環境の中、健康と長寿を享受できる「エリジウム」は、人類にとっての理想郷であった。

一方、“超”富裕層から見放された圧倒的多数の人類は地球に住み続けていたが、環境汚染が進み、人口過密となった地球は貧困と犯罪が蔓延する、荒みきった世界になっていた。
マックス(マット・デイモン)は自動車泥棒の常習犯だったが、どん底の生活を打開するべく超巨大企業アーマダイン社の工場で働き始めていた。
組立ラインに従事する彼は、ある日、作業中の事故により、致死量をはるかに超える放射線を浴びてしまう。
余命5日と診断されたマックスは何としてでもエリジウムに潜入するべく行動に出るが、不法侵入者から「エリジウム」を守る防衛省長官デラコート(ジョディ・フォスター)が立ちはだかった…


あらゆる疾病を瞬時に完治させる医療ポッドを住居に備えたスペースコロニー「エリジウム」。
住民である“超”富裕層の人々は、半永久的な命を実現させ、完璧にコントロールされた自然環境の中で、優雅な時間を過ごしていた。
莫大な資産を誇る人々によって支えられる「理想郷」は、汚れの無い美しい世界。
しかしそこに住む「市民」の生活は、地球にとどまる貧困層からの搾取によって成り立っており、彼らは貧困層を顧みることなどない。
劣悪な生活環境によって病気や怪我に苦しむ多くの貧困層に対して、医療ポッドを提供して彼らの生活を改善しようという気など、さらさら無い。
「美しい」世界の住人達は、一見優雅に美しく暮らしているのだが、心の内は決して「美しくない」。

そして美しい理想郷が造り上げられている「エリジウム」も、医療ポッドによる治療を求めて地球から接近してくる人々が乗るシャトルに対して、不法侵入として情け容赦なく攻撃し、例え侵入に成功したとしても徹底的に探し出して全員捕縛し、強制排除することによって“平和”が保たれている。
美しく快適な環境だが、その維持の方法は決して美しくない。
更に、完璧にコントロールされた平和な社会のはずが、その実は政治的な思惑が錯そうする内実を抱えている。
人間のエゴの上に構築された見せかけだけの「理想」の中へ、厳しい「現実」を抱えたマックスが飛び込むことから、物語の展開は急速にスピードアップし、歴史的な献身によって成し遂げられる明るい未来への序章となるクライマックスへと突き進んでいく。


昨年の「TIME」や上映中の「アップサイドダウン 重力の恋人」など、格差社会が究極まで行きついた先を描く作品が続いている。
世界的に広がる格差社会の急速な進展に、映画界は一石を投じ続けようとしているのだろうか。

スペースコロニーの映像がとにかく美しく、まるで自分がそこにいるかのような気分を味わえるのは、CG映像技術の発達のたまもの。
マット・デイモンが“改造人間”となって暴れまわり、ジョディ・フォスターが黒い権力者として見事な悪役ぶりを見せてくれる、SFアクション・ムービーの快作!


エリジウム
2013年/アメリカ  監督・脚本:ニール・ブロムカンプ
出演:マット・デイモン、ジョディ・フォスター、シャルト・コプリー、アリシー・ブラガ、ディエゴ・ルナ、ウィリアム・フィクナー、ファラン・タヒール

「EDEN」

2013年09月10日 | 映画
新宿二丁目のショーパブ「EDEN」。
ニューハーフのノリピー(入口夕布)が、男に振られたショックでヤケ酒をあおっていた。
泥酔して眠ってしまったノリピーを、店長兼演出家のミロ(山本太郎)は担ぐようにして自宅に連れて帰る。

翌朝ミロが目を覚ますと、ノリピーは息絶えていた。
遺体の第一発見者として警察署に連れて行かれたミロは、差別的な目を向ける刑事達の侮蔑を含んだ聴取を受ける。
性転換手術を受けたノリピーは心臓を悪くしていて、急死の原因も心不全と断定されたが、事情聴取に傷ついたミロは憔悴しきってアパートに帰ってくる。
ミロにとって42回目の誕生日だったその日は、暗く沈んだものとなったのだった。
そこへ、「EDEN」のオーナーである美沙子(高岡早紀)が、ストーカーに暴行されたことを知らされて激怒。
犯人が進学塾で評判の講師であることを知ったミロは、「EDEN」の仲間たちにド派手な格好で集合させると、生徒の前で教鞭を取っていたその男に強烈な罰を食らわした。

溜飲を下げて塾を後にしたメンバー達に、ミロはノリピーの死を告げた。
泣き崩れる仲間達だったが、ペペロンチーノ(齋賀正和)の提案で、ノリピーの弔いを兼ねたミロのバースデーパーティーを開くことに。
「EDEN」でパーティーが盛り上がっているところへ、警察署からノリピーの遺体が運び込まれてくる。
遺族から遺体の引き取りを拒否されたと言うと刑事は、そのまま棺を置いていってしまった。
メンバー達は悲しい事実に落ち込むが、エルメス(高橋和也)の一言から、ノリピーの遺体に化粧を施して生前の様子そのままに美しく仕上げると、棺をトラックに乗せ、ノリピーの実家へと出発する…


新宿2丁目のショーパブで働くニューハーフやゲイたち。
華やかに賑やかに、毎日を面白おかしく楽しそうに過ごしているように見える彼ら。
今ではすっかり「市民権」を得たように思われるトランスジェンダーたちだが、実の家族にも理解されず、世間からはゲテモノなどと呼ばれ、侮蔑の目を向けられることもあるという現実がいまだにある。

実の父親と兄に遺体の引き取りを拒否されたノリピーの実家は、房総半島の田舎町。
昔からその町に暮らす家族にとって、その町が“世界の全て”。
そんな狭い社会の中では、異彩を放つノリピーの存在は正に「化け物」。
近隣の住人から「あそこの息子は女になりよった」と言われ、後ろ指を指されて白眼視されては生きていけない。
父親は、家族を「社会的」に守ろうとして、“息子”の引き取りを拒否する。
いきなり運び込まれてきた棺に対しても嫌悪感を見せる父親だが、一目散に棺に駆け寄る母親の姿を目の当たりにして、忸怩たる思いが顔にじむ。
父親としての強さと、母親が持つ強さのコントラストが哀しい。


トランスジェンダーたちにとって、自分が自分らしくあるために生きることは、膨大なエネルギーを要する。
家族との関係を断ち切り、孤独に生きる彼らにとって、大勢の“仲間”がいる新宿二丁目は、生き生きと暮らせる別天地ではないだろうか。
しかしやはり絶ち切れない肉親への思い。
「EDEN」のメンバーたちは、ノリピーの実家への小旅行を通して、家族への慕情が沸々と沸き起こってくる。
ミロも何年かぶりで実家の母親に電話するのだが、この山本太郎のひとり芝居が圧巻。


一人のニューハーフの死を背景に、強い絆を持つトランスジェンダーたちの仲間同士のつながりと、肉親に対する思いと切ない関係性を描いた、ヒューマンドラマの傑作!


※大阪では現在「シネ・ヌーヴォ」にて再上映中( http://cinenouveau.com/schedule/schedule1.html )


EDEN
2012年/日本  監督:武正晴
出演:山本太郎、中村ゆり、高橋和也、齋賀正和、池原猛、小野賢章、大橋一三、入口夕布、高岡早紀、浜田晃、藤田弓子

「終戦のエンペラー」

2013年08月18日 | 映画
ポツダム宣言を受諾し、無条件降伏した日本に、連合国軍最高司令官総司令部を率いるマッカーサー元帥(トミー・リー・ジョーンズ)が降り立った。
彼は側近の中から“日本通”だったボナー・フェラーズ准将(マシュー・フォックス)の重用を決め、直ちに戦犯容疑者の逮捕を命じると共に、天皇(片岡孝太郎)の戦争責任の有無を調査するよう指示する。
連合国側は天皇を戦犯として裁くことを希望し、アメリカ本国からも天皇の処罰を要求されていたが、マッカーサーは天皇を処断することは、GHQへの反乱を引き起こすだけでなく、多くの自決者を出すことになり、日本が大混乱に陥ると考えていた。
そしてその混乱に乗じて、日本に共産主義が台頭する恐れがあるとも考えていたのだった。

かつて日本兵の心理について論文を書いたフェラーズはマッカーサーの意見に同意するが、それはたった10日間で果たさなければならないという困難を伴うミッションでもあった。
フェラーズは、自決する恐れのある戦犯容疑者の逮捕に直ちに取りかかると同時に、通訳兼運転手である高橋(羽田昌義)に、大学生の頃に出逢った日本人留学生・アヤ(初音映莉子)の消息を極秘裏に調べるよう指示した。
学生時代に恋人同士だったアヤは父親の急病で突如日本に帰国してしまったのだが、フェラーズはアジア方面に配属となった機会に日本を訪れ、再会を果たして愛を育んだものの、日米開戦によって再び仲を引き裂かれていた。
それ以来彼は、片時も彼女のことを忘れることはなかったのである。

まずは天皇の周辺人物を洗い出していったフェラーズは、未遂の自決でで生き延びた前首相の東條英機(火野正平)や、開戦直前に首相を辞任した近衛文麿(中村雅俊)に会い、天皇にとって相談役でもある内大臣の木戸幸一(伊武雅刀)が鍵を握ることを導き出して面会を申し出るものの、捕縛を恐れた木戸は現れなかった。
証拠となるものは何もなく、有力な協力者もないまま調査が行き詰ったフェラーズは、天皇の側近中の側近でもある宮内次官の関屋貞三郎(夏八木勲)に狙いを定めると、マッカーサーの命令書を楯にして強引に皇居へと乗り込む。
しかし関屋から得られたのは、開戦直前の御前会議で天皇が平和を望むことを意味する短歌を朗詠したという話だけ。
説得力のない証言に腹を立てて退出したフェラーズに、アヤが暮らしていた静岡が空襲を受けて大部分が焼けてしまった事実が知らされる。

天皇は開戦に関与していたのかいないのか。
確たる証拠は何もなく、全てがあやふやなことに業を煮やしたフェラーズは、戦犯として天皇を裁くことはやむを得ないと報告書を書き始めた。
そこへ突如、夜陰に乗じるように内大臣の木戸幸一が現れる。
そして木戸の口から、驚くべき事実が語られた…


日米開戦前の御前会議で、天皇は祖父である明治天皇の短歌を読んだという。
四方の海が静かに(平和に)各国とつながっていてほしいのに波立っている。
そんな意味の歌から、平和であることを希望するという意思が込められていることが汲みとれる。
イギリス王室同様に、「君臨すれども統治せず」を旨とする立場の天皇にしてみれば、最大限の意思表示と言えるが、「戦争はするな」という明確な指示にはなっていない。
しかし逆に、戦争開始を指示する命令でもない。
開戦に関する天皇の責任の所在は、確かにあやふやと言える。

ところが終戦前の御前会議において、閣僚の意見が降伏するか否かで半々に分かれたとき、天皇は明確に降伏を指示したという。
そして自らの意思で、「玉音放送」として有名な「終戦の詔勅」を録音したということは異例中の異例であり、その決意のほどがうかがい知れるというもの。
この終戦の決意が陸軍の一部の暴走を招き、皇居が襲撃されるという事件を引き起こすことになったのだが、過去の歴史を紐解けば、天皇が明確に意思表示をすることが自らの命を危険にさらす可能性があることは明白で、並々ならぬ覚悟のうえでの行動だったことが推し量れる。
終戦に至るプロセスから、「天皇」になるための覚悟の重さを改めて認識した。

翻って鑑みるに、今の日本において本当に覚悟を持って公人を務めるのは、天皇しかいないのではないだろうか。
実際に政治の表舞台に立っている閣僚をはじめとする政治家の中に、果たして天皇ほどの覚悟を持って臨んでいる人間がいるとはとても思えない。


天皇が開戦に関与したかどうかは不明。
しかし戦争を終わらせたのは天皇であることは明らかになった。
とはいえ、そのことを証明する確たる証拠となる物は何もない。
フェラーズは、記録の無い証言に基づく、推論でしかない報告書をマッカーサーに提出する。
それを受けてマッカーサーは、天皇と直接会談してその人となりを見て、報告書の“裏付け”とすることに決める。
日本文化に造詣の深い将校と、勇気ある決断のできるトップによって、日本の復興が支えられたと言える。

第二次大戦において天皇が、一部ではヒトラーやムッソリーニと並ぶ独裁者とみなされていた。
終戦にあたって連合国側が天皇を裁判にかけ、処刑することを望んだのも当然と言える。
これに対してマッカーサーは異を唱え、天皇の戦争責任を問わない道を探った。
たとえそれが、日本の占領統治を成功させることで大統領への道を切り開こうとしたという政治的な思惑があったとしても、我々日本人にとって英断だったことは間違いない。
そしてそのマッカーサーの決断を支えたのは、日本文化に通じ、日本人の心理を深く理解するボナー・フェラーズという将校。
かつて日本とアメリカが戦争したという事実を知らないという人々には特に、本作を観て知ってもらいたい。


第二次大戦で壊滅的な打撃を受けた日本が復興する礎となった史実を、ラブ・ストーリー仕立てのフィクションを巧みに交えて描く秀作。


これはあくまで私見であるが。
白黒はっきりさせ、明確に記録に残すことを当然とするアメリカにとって、日本の“曖昧模糊”とした文化は到底理解できないだろう。
東洋の中でも特殊な“異文化”を持つ日本に対して、アメリカは“理解”したのではなく「そういうものである」と“認識”し、観察を続けながら弱点を探り、自分達の都合のいいように操る方策を練り、時間をかけて仕掛けてきたのではないだろうか。
その結果が、今日の荒んだ日本を作り出しているように思えてならない…


終戦のエンペラー
2012年/アメリカ  監督:ピーター・ウェーバー
出演:マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、片岡孝太郎、羽田昌義、伊武雅刀、夏八木勲、中村雅俊、火野正平、桃井かおり

「少年H」

2013年08月15日 | 映画
戦前の神戸。
明朗快活で好奇心旺盛な少年・妹尾肇(吉岡竜輝)は、母親が編んでくれたセーターに大きく「H」と入っていたことから、「H」のあだ名で呼ばれていた。
Hは、洋服の仕立屋を営む父・盛夫(水谷豊)と優しい母・敏子(伊藤蘭)のもと、妹の好子(花田優里音)とともに、明るく元気に楽しく毎日を送り、好奇心いっぱいにすくすくと育つ。
誠実で腕のいい職人である盛夫は、神戸に滞在する多くの外国人から贔屓にされていた。
敏子は、日曜の礼拝を欠かさない敬虔なクリスチャンで、肇や好子に倒して時に優しく、時に厳しく、大らかに一家を支えていた。

幸せいっぱいの妹尾家にも、戦争の影がひたひたと迫る。
外国人が次々と母国へと帰り始めて盛夫の仕事も減ってきただけでなく、教会での礼拝に対して批難する声も大きくなっていった。
Hに洋楽を聴かせてくれた「うどん屋の兄ちゃん」(小栗旬)が政治犯として逮捕され、召集令状が来た映写技師の「オトコ姉ちゃん」が脱走して憲兵に追われる。
盛夫までもがあらぬ嫌疑をかけられて特高に連行されるに至った。
日に日に軍事統制が厳しくなり、自由に発言することも憚られる世の中へと変わっていく。

やがてHは中学に進学するが、軍事教練ばかりの毎日が続いた。
盛夫は召集は逃れたものの消防署に勤めることとなり、空襲が始まった神戸の街を忙しく走り回っていた。
敏子は「隣組」の班長になり、戦況悪化の折から、妹の好子は田舎に疎開することとなって、妹尾家の日常は激変していく。
ついに敗色濃厚となってきたある日、神戸は大空襲を受ける。
燃え盛る炎の中、敏子と共に懸命に逃げるH。
翌朝、消防活動から戻った盛夫を迎えるHだったが、焼け野原となった神戸の街の中、ただ立ち尽くすしかなかった。

敗戦を迎え、何もかも失ってしまったHたち。
家族四人、生き残って一緒に暮らせることは何よりも幸い。
突然大きく価値観が変わってしまった世の中だったが、一家は再び新たな一歩を踏み出していく…


「戦争とは、年寄りがはじめて、おっさんが命令し、若者が死んでいくもの。」
以前、何かで見聞きしたこの“戦争の定義”に大いに共感する。
そして戦争によって最も被害を被るのは、市井に生きる名もなき庶民。
戦争の色が濃くなるに連れて不穏な空気が漂い始めると、庶民はその“空気”に怯えるしかないのだが、中には“空気”に迎合して保身を図ることで不安を払拭しようとしているかのような者がいる。
やがて戦争が始まれば、働き手である夫や息子たちは戦場に送られ、残された家族も戦禍の中を命の危険にさらされ、庶民は不安に苛まれる日々を送らされることになる。
リベラルで平和に暮らす少年Hの一家を通して第二次大戦の実情が丁寧に描かれ、戦争の記憶を残しておくための記録映画としても意義深い。

厳しさを増す軍事統制下に、はばかることなく「おかしい」「間違っている」「なぜ?」を口にするH。
そんな息子に対して盛夫は、しっかりと現実を見つめることの大切さを説くと共に、家族が無事でいるためには、信仰や自分の考え、時には正義であっても自分の胸の内に収め、決して表には出さないことが大切であると家族を諭す。
多くの外国人と交流し、誰よりもリベラルな思想を持っているはずの盛夫だが、家族を守るためには全てを押し殺して生きていくことの重要性を肝に銘じる強さがあったからこそ、終戦直後の茫然自失となる状態からも立ち上がることができる、強い絆を持った家族を築くことができたのだろう。
戦争を通して描かれてはいるが、矜持を持ちつつしなやかに生きることの必要性を改めて思い知らされ、現代を生きるうえでも大切なことだと認識を新たにした。


また、神戸大空襲のシーンも、戦争の記憶を後世に伝えるものとして特筆すべき点。
轟々と燃え盛る炎の迫力はもちろんのこと、全て燃え尽くして一面瓦礫の原と化してしまった神戸の街並みに思わず息を飲む。
また、空襲時に空から降り注ぐ焼夷弾の描写も、過去に例を見ない生々しさが見事。
焼夷弾はモノに当たった瞬間や、上空で爆発するものと思っていたが、それだけではなく、地面に突き刺さって一瞬の間があってから爆発するものでもあるということを、本作で初めて知った。
残された当時の資料や体験者の話を丹念に取材して再現したとのことで、自身も戦争体験者である降旗監督の思いがひしひしと伝わってくる。


「事件記者チャボ」以来という共演を果たした水谷豊と伊藤蘭が、実際の夫婦であるということを超えて見事に役にハマっていることも、本作をより魅力的にしている。
「配役の妙」ということの重要性もまた再認識。

戦前から戦後にかけての神戸を舞台に、今までになく個別具体的に戦争の悲惨さ・愚かさを伝え、戦争に翻弄されながらもしたたかに生きる庶民の力強さに「希望」を描く、名匠・降旗監督の手腕が光る秀作。


少年H
2012年/日本  監督:降旗康男  脚本:古沢良太
出演:水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬、早乙女太一、原田泰造、佐々木蔵之介、國村隼、岸部一徳

「戦争と一人の女」

2013年08月14日 | 映画
太平洋戦争末期。
悪化する一方の世相に、店をたたむことにした飲み屋の女将(江口のりこ)は、常連客の一人である飲んだくれの作家(永瀬正敏)と同棲することにする。
元娼婦の女将は他の常連客とも関係を持っていたため、女将が作家と一緒になることに不満をもらす他の常連たちをよそに、憮然と酒を飲む一人の復員兵(村上淳)がいた。
その男は、中国戦線で右腕を失って帰還してきたのだが、戦場での体験がトラウマとなったのか、妻との間に“夫婦生活”を営めなくなっていた。

同棲をはじめた女将と作家は、連日昼夜を問わず互いの身体をむさぼるように求めあう。
作家は、戦況が悪化する一方の戦争に絶望し、ただ生きているだけのようになって酒をあおるばかり。
女将は、幼い頃に身売りされ、長年に渡って何人何十人何百人と男の相手をしてきたことが原因で不感症になっていたのだった。
お互いの心の傷をなめ、隙間を埋め合うように、二人は毎日身体を重ね続けた。

復員兵は、娘が男たちに乱暴されている場面に遭遇したとき、その様子を見て自分が激しく興奮していることに気づく。
そして、かつて戦場で現地の女たちに凄まじい乱暴をはたらいていた記憶が蘇った。
それ以来、街中で米の買い出しに向かう女性に、
「米を分けてあげる」
と声をかけては人里離れた山中へと誘い込み、強姦して殺害するという行為を繰り返していた。

やがて日本は終戦を迎える。
戦争によって深く傷ついた三人が、思わぬ形で再び交錯する…


「生きる」ことの証しとも言える「性」を、死や暴力との“抱き合わせ”で描きながら、戦争が引き起こす狂気を淡々と語る。
声高に「戦争反対」を叫ぶ「反戦映画」ならぬ、虚無的に戦争を厭う「厭戦映画」。
感情の起伏がほとんど現れない女将を演じる江口のりこの表情が、映画の全編に漂う虚無感を物語っていて印象的。

坂口安吾の小説を原作に、故・若松孝二監督の下で映画作りを学んだ井上淳一が監督した官能文芸ロマン。
暴力と性の描き方に、師匠譲りの作風を感じた。


よくある「反戦映画」とはまた違った角度から、戦争の虚しさを静かに訴えかけてくる。
憲法第9条の改訂が取り沙汰され、なんとなくキナ臭い空気が蔓延している昨今だからこそ観るべき小作品。

「ジジイが始め、オッサンが命令し、若者が実行する」のが戦争とは、誰の言葉だったか。
かつて日本がアメリカ相手に戦ったことを知らないという、イマドキの若者には特に、観て感じて戦争に嫌気がさしてもらえればと願う…


戦争と一人の女
2012年/日本  監督:井上淳一
江口のりこ、永瀬正敏、村上淳、柄本明、高尾祥子、大島葉子、酒向芳、川瀬陽太、佐野和宏、千葉美紅、牧野風子、大池容子、瀬田直、真田幹也、飯島洋一、牛丸亮、小野孝弘、草野速仁、福士唯斗、奥村月遥、奥村彩暖、Guillaume Tauveron、marron

「ワイルド・スピード EURO MISSION」

2013年07月22日 | 映画
モスクワで重要機密が盗まれた。
犯人は、ロンドンに拠点を置き、元エリート軍人であるショウ(ルーク・エヴァンス)という男が率いる犯罪組織だった。
高いドライブテクニックで特殊車両を駆使し、強力な戦闘能力を持つ巨大組織に、警察は太刀打ちできない。
アメリカにもその魔の手が伸びることを危惧するFBI特別捜査官のホブス(ドウェイン・ジョンソン)は、一計を案じる。

リオの犯罪王から大金を奪い取り、優雅な逃亡生活を送っているドミニク(ヴィン・ディーゼル)の前に、宿敵であるホブズがやって来た。
犯罪組織を壊滅させるために、ドミニクに協力を要請に来たのだ。
思いがけない話を持ちかけられたドミニクは訝しがり、一度は要請を断るが、一枚の写真を見せられて衝撃を受ける。
そこには、死んだとはずの恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)が写っていたのだ。

元恋人が犯罪組織に関与していることを仄めかされたドミニクは、相棒のブライアン(ポール・ウォーカー)をはじめとするチームを召集し、ロンドンへと乗り込むと、ホブズに協力の条件を突きつけた。
自分達を“自由”にすること。

ドミニクは「世界一のチーム」を率いて、レティの“真相”を確かめ、ショウを追跡して国際的犯罪組織を壊滅し、チームの自由を手に入れるために、一大ミッションに立ち向かう……


圧倒的なスピード感と、高級車を惜しげもなく注ぎ込んで、他のカー・アクション映画の追随を許さない「ワイルド・スピード」シリーズの第6弾。
回を追うごとにスケールアップしていく…というよりはハデさを増していくが、今回は想像を遥かに超えたカー・アクションに度肝を抜かれた。
列車を駆使した前作も息を飲むばかりの迫力を楽しめたが、その上を行くアクションが待っていたのである。

度肝を抜かれた一つめ。
ハイウェイで激しいカーチェイスを繰り広げるのだが、その相手はなんと戦車!
元軍人だけに、高度に武装したショウの組織は、ドミニク達を倒すために戦車を全速力で走らせるのである。
しかもハイウェイ上で大砲をぶっ放すからむちゃくちゃだ。
それでも、あり得ないほど高度なドライブテクニックと、「そんなに高かったのか!?」と驚かされる身体能力で果敢に立ち向かう“チーム・ドミニク”。
しかし彼らはいいが(いや、良くもないが)、カーチェイスに巻き込まれる一般人はたまったものではない。
突如現れる戦車に踏みつぶされ、障害物と化した車に衝突し、カーチェイスを避けようとして壁に激突し、ハイウェイ上で阿鼻叫喚の世界が繰り広げられる
冷静に考えるととんでもない蛮行が展開するのだが、これをあげつらっては映画は楽しめない。

度肝を抜かれた二つめ。
なんと、敵は軍用の輸送機をも駆使してドミニク達を攻め立てる。
しかしその巨大な機体をものともせずに立ち向かう、飛行機を相手にしたカーチェイスは圧巻!
機体に引きずられて離陸されそうになりながらも、どうにかこうにか耐え忍んだ挙句に地面へと引きずり落とすわ、機体から飛び出して危機を脱するわ、さながらサメが巨大なマッコウクジラに群れを為して襲いかかるように、輸送機にアタックを繰り返す。
「滑走路どんだけ長いねん!?」という野暮なツッコミは封印して、純粋にハラハラドキドキを楽しんでいただきたい。


高級車を散々に蹴散らす豪快さではなく、戦車や巨大輸送機を相手にした、比類なきハチャメチャ度の高いカーチェイスは、大きなスクリーンでこそ堪能できるというもの。
劇場で画面の中に入り込み、疾走するドミニク達の車に自分も一緒に乗り込んで、スリルを存分に楽しむべし!

カーチェイスによるエンターテインメントを徹底的に追及した、アトラクション・ムービーの王道にして、ハリウッド大作の基本と伝統を忠実に踏襲した、正統派娯楽大作♪

次のカーチェイスはしかし、何を相手にする??


ワイルド・スピード EURO MISSION
2013年/アメリカ  監督:ジャスティン・リン
出演:ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー、ドウェイン・ジョンソン、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター、タイリース・ギブソン、ガル・ギャドット、サン・カン、ルーク・エヴァンズ