「まだ人生の途中」「いつかはきっと」「チャンスさえあれば」と言いながら、ダラダラ毎日を送る26歳のフリーター・伊藤カイジ(藤原竜也)。
ある日彼の前に、金融会社の女社長・遠藤(天海祐希)が現れた。
遠藤の会社から30万円を借りた友人の連帯保証人になっていたカイジは、借金をした友人が失踪したために肩代わりの返済を迫られるが、負債総額は利子が膨らんでなんと202万円。
明日の家賃にも事欠く自分が払えるわけがない!そんな他人の借金など払えるか!とあがくカイジに遠藤は、今まで言い訳ばかりを繰り返したダメ人生の報いだと罵倒するが、たった一夜で借金を帳消しにでき、更には大金を手にするチャンスがあると話を持ちかける。
そうして、半強制的に送り込まれたのは、豪華客船エスポワール。
そこには、カイジ同様、無為に人生を送ってきた“負け犬”達が集まっていた。
やがてゲームの主催者である利根川(香川照之)が会場に現れ、一発逆転の「限定ジャンケン」の説明を始める。
参加者は、ゲームの備品として星型のバッジを1つ100万円で3つ購入させられるが、その購入費用は貸付金として参加者の債務となり、しかも1分間につき1%複利の金利が付く。
参加者にはジャンケンカードが手渡され、制限時間内に相手見つけてジャンケンをし、カードを全て使い切って星の場バッジを3つ以上持っていれば勝者となるが、達成できなければ敗者として別室へと強制的に連れていかれるという。
ふざけるな!と騒ぎ出す参加者に利根川は、彼らをクズ呼ばわりして一喝し、「勝つことが全てだ!勝たなければゴミだ!」と面罵して参加者を煽りたて、ゲームを開始した…
本作は、「負け組」が負け続ける理由は、明日変わろうと考えるからだと言う。
今変わろうと決意し、チャレンジする者にのみチャンスは与えられる。
いつか誰かが助けてくれると甘え、何事にも挑戦することなく、常に勝負や責任から逃げてきた結果が今のお前達であり、そんなお前らはクズだ!
莫大な債務を抱える「負け組」は面罵される。
過激な表現で、極論に見えるが、しかしこれは真理だ。
人生において、「ここが勝負!」という場面は必ずやってくる。
その勝負に「挑むか否か」の選択肢があるが、挑まないことには勝利は無い。
「勝つ」か「負ける」かはその結果でしかなく、まずは勝負に出なければならないのは自明の理である。
しかしこの勝負の場面で、挑むことをせず、勝てなかった場合のことを考えるという“言い訳”で勝負を避ければ、何も事は始まらない。
勝負から降りた時点でそれは不戦敗であり、「負け組」に自ら飛び込むことになるのである。
この「不戦敗」の状況は、勝負の厳しい場面に臨まないため、しんどい思いをしなくて済むのだから、それはそれは楽チンだ。
そんな「不戦敗」によって身に付く負け癖は、楽チンであるがために、まるで麻薬のように心を蝕んでいく危険性を孕んでいる。
その麻薬に染まった結果が、本作における「負け組」の連中だ。
ところで、ここで言う「勝負」とは、いわゆる「飲む・打つ・買う」の「打つ」、いわゆる博打のことではないのは言うまでもない。
しかし、カイジをはじめとする「負け組」の連中は、人生における勝負は逃げ続ける一方で、パチンコなどのギャンブルや宝くじなどは「勝負」する。
自分の意思や力ではどうにもならないことには「挑戦」するのである。
なぜならそれは、たとえ負けても自分のせいではないからだ。
「ああ、自分の力が及ばなかった…」という悔しい思いをしなくて済む、言い換えれば自分の弱さを感じずに済むからだろう。
結局「負け組」とは、自分自身から目を背け、自分自身から逃げようという「無駄な努力」にエネルギーを費やした結果と言えるのではないだろうか。
自分の弱さを認める強さを持つことが、「勝ち組」になる秘訣なのかもしれない。
ところで、人生における「勝負」の場面で、全てに勝てるものではない。
五分五分なら十分幸せな人生を送れるのではないだろうか。
ちなみに自分は、6勝4敗の自信があるが(傲慢か!?)
「人生」というものをデフォルメして提示する、なかなか示唆に富んだ傑作。
「
カイジ ~人生逆転ゲーム~」
2009年/日本 監督:佐藤東弥
出演:藤原竜也、天海祐希、香川照之、山本太郎、光石研