面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ロード・オブ・ツリメラ」

2015年09月23日 | 映画
つり目のアイドルグループ「ツリメラ」は、今日もライブを開いていたが、観客は熱狂的な追っかけの男が一人だけ。
ライブの後、キャプテン(仁後亜由美)は悲惨な状況に対する怒りをメンバーにぶつけるが、恋愛禁止のルールを破っているメンバーが二人いたことに衝撃を受けて突如解散を宣言。
懸命に夢を追ってきた桃子(赤澤ムック)は、あまりのショックに気を失う。

平凡な日常に埋没し始めたとき、突然仲間の訃報が飛び込んできた。
更にショックを受ける桃子、藍子(葛木英)、留璃子(岡田あがさ)の三人は、そこから何だかロクでもない方向に暮らしが向かっていく。
桃子は、同棲しているマザコンで極端なベジタリアンな彼氏に、自分の自由を押し殺して尽くしていたが、突然やって来た彼氏の母親に気に入られずに落ち込む一方で、バイト先の花屋に元カレが押しかけてくるようになってグダグダな毎日に。
久しぶりに実家に戻ってみた藍子は、いつの間にか親の不始末に巻き込まれて多額の借金を背負ってしまい、それを清算するために、バイト先の居酒屋へ藍子目当てにやってくる常連のオッサンが命じるままに、オッサンの足を舐めさせられるハメに。
ティッシュ配りのバイトをしている留璃子は、しょっちゅうティッシュを捨てるところをバイトの先輩に見つかってボコられる。

高校時代から、芸能界デビューを果たしてスポットライトを浴びることを夢見ていた三人。
そんな彼女たちがどん底の生活まで落ちたとき、思いがけず知ることとなった仲間の死の信じられない原因に何かが弾ける。
ついに彼女たちの、怒涛の上昇が始まるのだった…!


かつて自分たちが望んでいたことも、自分を偽って、自分らしさを押し殺して実現しても、万事に“イイ目”はでないもの。
何事によらず「just the way you are」が、実は正解。
とはいえ、現実社会においては「そのままの自分」でい続けることは難しい。
「そのままの自分」と、自分の置かれた状況・環境の中で「あるべき自分」とのギャップに苦しみ、悩むもの。
しかし実は、「あるべき自分」というものは「そのままの自分」の延長線上にあるべきもので、「そのままの自分」を自分自身が気づいていないと、この“延長線上の自分”になれず、ギャップとして苦しむことになってしまうのだろう。

ツリメラの三人は人間としての底辺にまで落ちた時、大きなキッカケを得て覚醒し、素の自分を爆発させてのし上がり、「ドS」へと変化していくことで自分たち自身の尊厳を取り戻していく。
そう、彼女たちの“素”は「ドS」なのであり、その延長線上の姿にたどり着いたことで、自分たちがかつて望んでいた舞台でキラキラ輝くアイドルへと昇っていくことができたのだ。

そんな三人が繰り広げる「ツリメラ」のライブは、熱く、エロく、パワフルで、ドMな男たちを虜にして隷属させる。
「ツリメラ」を頂点とする奴隷社会で、つまらない日常を駆逐する快感に浸ることで、再び現実社会に立ち向かっていくエネルギーが充填されるのだ!

…おそらく(見たことないので)


つり目でドSの三人組ボーカルユニット「ツリメラ」主演の、V字復活型ブラックコメディ♪


ロード・オブ・ツリメラ
2014年/日本  監督・脚本:塩出太志
出演:赤澤ムック、岡田あがさ、葛木英、仁後亜由美、大中淳史、岡本裕輝、松本高士、馬場泰光、長山浩巳、牛丸亮、泉水美和子、後藤直樹、長岡明美、広正裕子、村田啓治、萩原正道、星野祐樹、ほりかわひろき、富永茜、市原叶晤、よこえとも子、ちえり、木村知貴、矢島康美

「死神ターニャ」

2015年09月20日 | 映画
人間の死に際に立ち会うだけの日々に退屈を感じ、笑ったり泣いたり怒ったりする人間が楽しそうで、美味しいものを食べて美味しいと言ってみたい、ハンバーグを食って美味いと言ってみたくなった死神。
死んだばかりで、黄泉の国へとつながる道を歩いている人間に触れるとその肉体に乗り移り、人間になれると仲間(の死神“女子”)に教わった死神は、嫌がる仲間を道連れに、交通事故で死亡した佐々木英雄(芹澤興人)となって人間となる。

死神が乗り移った佐々木は、実は交通事故に遭う直前、強盗仲間から奪った金を持って逃げているところだった。
しかしそんなことは露知らぬまま佐々木となった死神は、人を車で撥ねて死なせてしまったと茫然自失に陥っている谷屋みゆき(小堀友里絵)の前に笑顔で現れる。
ビックリ仰天のみゆきだったが、事故で記憶喪失になったように話しかけてきながら頭から血を流している佐々木を、自分の部屋へと連れて帰る。
佐々木は、自分を死神だと言い、あらぬ方向を見ながら疫病神と話をしているという。
何だかよく分からないが、バイトをクビになったり彼氏から突然別れを告げられたり、最近ロクなことがないみゆきは、その原因が自分に憑りついた疫病神のせいなのだと知らされて納得。
2日以内に涙を流せないと消えてしまうという佐々木@死神に協力することに。

ところがみゆきは、大金を奪われて追ってきた仲間と佐々木のトラブルに巻き込まれることになり、更に災いが拡大。
そこへ、人間の姿になった死神の仲間の“女子”も絡んで、どえらい事態に…!


冒頭、紙兎ロペ風な死神同士の掛け合いが絶妙。
“神さま”もイマドキはこんな感じやろ的なリアル感が面白すぎて、いきなり物語に引きずり込まれる。
人間の死に際に立ち会うだけでつまらないと感じている死神(男)は、人間になってみたいと仲間に言う。
「人間になりたいなんておかしい」と答える死神(女)。
なぜなら、人間より“ランクが上”の神様なのだから、そんな“ランクが下”の人間になってどうするんだ!?と言うのだが、確かにもっともだ。
でも、なんだか人間は楽しそうだ。
面白ければアハハと笑い、美味しいものを食ったら美味いという。
そんな刺激ある体験がしたくて人間になる死神(男)だが、自分だけでなく死神(女)も軽いノリで巻き込んでしまうところがまた、イマドキな少々チャラい神様なればこそ。

王侯貴族の高貴な生まれの“やんごとなき方”が、なんとなく庶民の生活に憧れて庶民に混ざってみるという展開は、洋の東西を問わず昔からあるパターンではあるが、神が人間に憧れるというのはなかなかない(というか自分の記憶にはない)。
しかし死神に限らず、神の日常というものは、案外つまらないものかもしれない。
快楽を求め、面白いことに首を突っ込み、美味いものが食いたいと煩悩にまみれて生きるのは、それはそれは楽しいものだ。
欲望を超越した神の日常とは、良く言えば平穏ではあるが、平々凡々とした刺激のないものではなかろうか。
だからこそ、暇をもてあまして人間のフリをして遊ぶ神々もいるのだろう(「モンスターエンジン」参照)


「神とはなんぞや?」ということを(もしかすると)考えさせてくれる、人間でいることはエエやんと思わせる(はず)、ファンキー・ファンタジック・コメディ♪


死神ターニャ
2013年/日本  監督・脚本:塩出太志
出演:芹澤興人、小堀友里絵、岡田あがさ、竹田尚弘、松本高士、河嶋健太、仁後亜由美、星野祐樹、矢島康美、桜木梨奈、ほりかわひろき 、小田学、萩原正道、香取剛、長岡明美、箱田友紀、大高健二、五十嵐さゆり、下川邊寿美、岡本裕輝

「セシウムと少女」

2015年09月08日 | 映画
17歳のミミちゃんは、阿佐ヶ谷で両親と暮らす17歳の高校生。
生来の記憶力の良さもあって成績は常にトップクラスの優等生ながら、なんとなく周囲から浮いた存在になっていて、あまり居心地は良くない。
自分がいるべき本来の場所はどこだろう?本当の自分て何だろう?

ある日の学校の帰り道、送電線の下で落雷に遭うが、そこで雷神のらーさん(長森雅人)と出会った。
それをきっかけに、風神のふーさん(飯田孝男)に海神のうみさん(川津祐介)、田の神のたーさん(山谷初男)、阿修羅のあーちゃん、大黒天の大ちゃん(山崎恵史)、芸能の神のミッキー(なんきん)という、古来より日本に住むちょっとくたびれた神様たちと知り合い、行動をともにするようになる。
そして、老人ホームに暮らす静おばあちゃんが可愛がっていた歌う九官鳥のハクシを、“神様的手段”を駆使して探す時空を超えた旅に出たり、東日本大震災以来、ミミちゃんを悩ませてきた食事のたびに舌がチクチク痛む症状の原因を突き止めようとしてセシウムのホットスポットを辿ったり…


東日本大震災の3日後、東京にセシウムの雨が降り注いで以来、ミミちゃんの舌は食事をするとチクチクと痛む。
出会った神々と共にその原因を突き止めようとして、セシウムのホットスポットを辿ったり、神様たちが原発政策に対して喧々諤々の議論を戦わせる。
静おばあちゃんの九官鳥を探す時空の旅では、アニメと実写が絵本のように織り交ざって描かれ、ほのぼのとしたファンタジー映画の様相を呈する一方で、神様たちの口を通して原発への懸念や原発に対するこの国のあり方を憂い、憤る。

事故を起こした福島の原発は、周辺を巻き込んで二度と人の住めない土地を作り出し、今もなお放射能を吐き出している。
原発事故に近い福島はおろか、東京のそこかしこにも、セシウムのホットポイントが存在する。
本当に「まだ何も終わっちゃいない」のだ。

にも関わらず、原発推進は止まらず、原発周辺の避難指示は次々と解除されていく。
そして原発に対する国民の不安を吹き飛ばすかのように、安保法案を推し進めて自衛隊の戦争参加への道筋を整えようとする。
この国の為政者は、本気で国民のこと、日本のあるべき姿を考えていない。
いや、為政者は考えていないのではなく、首相個人が独善的かつ自己満足的に、「日本の為に」なることを推し進めているのである。
併せて、こんなことを書いたら警察組織から目をつけられる可能性のある国へと突き進んでいる。


主人公のミミちゃんが溌剌と弾ける可愛い映画でありながら、どストレートに原発政策に対する疑問をぶっ放し、北原白秋の歌に乗せて日本の来し方行く末への考察を明るく促す、POPでキュートなトゲのあるファンタジー。
反戦意識だけでなく、原発への憂いも忘れてはならないことを思い起こさせてくれる。


セシウムと少女
2015年/日本  監督:才谷遼
出演:白波瀬海来、長森雅人、飯田孝男、川津祐介、山谷初男、なんきん、山崎恵史、金野美穂