面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「シャニダールの花」

2013年09月29日 | 映画
女性の胸に謎の植物が芽を吹き、美しい花を咲かせるという不思議な現象が起きていた。
採取した花から画期的な新薬の開発に役立つ成分が発見されたことから、製薬会社は研究施設を併設したゲストハウスを作り、花の提供者を高額の報酬と引き換えに“スカウト”して収容した。

セラピストの響子(黒木華)は、植物学者の大瀧(綾野剛)のもとで、ユリエ(伊藤歩)やミク(山下リオ)ら、花の提供者へのケア業務に就いた。
ある日、ハルカ(刈谷友衣子)という花の提供者が発見され、大瀧と響子は施設への入居を勧めに向かう。
はじめは頑なに拒否していたハルカだったが、響子の魅力に心を開き、入居を受け入れた。
日々仕事を共にしていくうちに、惹かれあった大瀧と響子は恋に落ちていく。

成長して開花した花は採取されるが、その手術の際に提供者の女性が死亡するという事件が相次いだ。
単なる偶然として、死因を隠蔽しようとしているように見える研究所の所長(古舘寛治)に対して、大瀧は不信感を抱き始める。
そんな中、響子の胸に小さなつぼみが芽吹いた…


イラク北部のシャニダール洞窟で、ネアンデルタール人の化石とともに、ノコギリソウや、ヤグルマギクなど数種類の花粉が遺体の傍らに大量に残っているのが発見されている。
発見した花粉が現代当地において薬草として扱われていること、そして花粉の量が大量である事から、
「ネアンデルタール人には死者を悼む心があり、副葬品として花を遺体に添えて埋葬する習慣があった」
との説をソレッキー教授らの研究チームは唱えた。
(ウィキペディア参照)
このシャニダール遺跡での発見は、人間に“心”が芽生えた瞬間である、という説を生んだ。
野蛮とされてきたネアンデルタール人が、初めて死者を悼むという気持ちをもった証しであるという。


「花」のはじまりは謎に包まれているのだとか。
古代、地球上に君臨していた恐竜たちに食い荒らされた植物たちは、絶滅を逃れるために進化し、花を持ったという説がある。
花と種によって小型化し、分散化した植物は、逆に恐竜の食料を減らすこととなって絶滅に追い込んだ。


女性の胸に赤い花が咲く。
その花は必ずしも育つわけではない。
美しく満開の花を咲かせる女性もいれば、なかなか花開かない女性もいる。
花の成長は女性の感情にも影響を与える。
そして開花した花を放置すると毒素が出て命に関わる。
芽吹いた花は、まるで女性を支配していくかのように成長していく。
かつて恐竜を滅ぼした花が、今、地上に“君臨”する人類を支配しようとしてるのか。

自分の胸に咲いた花を守ろうとする響子と、響子を守るために花を処分しようとする大瀧。
決定的にすれ違った二人の思いが交錯する時、「シャニダール」の秘密が解き明かされる。
もの言わぬ花の強さと恐ろしさの前に、為す術もなく立ちすくむ思いがした。


女性の胸に花が咲くという不思議な現象を中心に、サスペンス・ラブストーリーとして展開する大人の童話。
石井岳龍監督が、7年もの歳月をかけて温め続けてきた渾身の一作。


シャニダールの花
2012年/日本  監督:石井岳龍
出演:綾野剛、黒木華、刈谷友衣子、山下リオ、古舘寛治、伊藤歩

「エリジウム」

2013年09月24日 | 映画
2154年。
地球の環境破壊は手の施しようが無い程に進み、人口は増加の一途をたどり、地上は過密状態になっていた。
一部の“超”富裕層は、あらゆる汚染を排除したスペースコロニー「エリジウム」を建造して地球を脱出。
住民は最先端の医療技術によって開発された医療ポッドを住居内に設置し、あらゆる疾病やどんな大怪我でもたちどころに回復することができた。
快適に維持された自然環境の中、健康と長寿を享受できる「エリジウム」は、人類にとっての理想郷であった。

一方、“超”富裕層から見放された圧倒的多数の人類は地球に住み続けていたが、環境汚染が進み、人口過密となった地球は貧困と犯罪が蔓延する、荒みきった世界になっていた。
マックス(マット・デイモン)は自動車泥棒の常習犯だったが、どん底の生活を打開するべく超巨大企業アーマダイン社の工場で働き始めていた。
組立ラインに従事する彼は、ある日、作業中の事故により、致死量をはるかに超える放射線を浴びてしまう。
余命5日と診断されたマックスは何としてでもエリジウムに潜入するべく行動に出るが、不法侵入者から「エリジウム」を守る防衛省長官デラコート(ジョディ・フォスター)が立ちはだかった…


あらゆる疾病を瞬時に完治させる医療ポッドを住居に備えたスペースコロニー「エリジウム」。
住民である“超”富裕層の人々は、半永久的な命を実現させ、完璧にコントロールされた自然環境の中で、優雅な時間を過ごしていた。
莫大な資産を誇る人々によって支えられる「理想郷」は、汚れの無い美しい世界。
しかしそこに住む「市民」の生活は、地球にとどまる貧困層からの搾取によって成り立っており、彼らは貧困層を顧みることなどない。
劣悪な生活環境によって病気や怪我に苦しむ多くの貧困層に対して、医療ポッドを提供して彼らの生活を改善しようという気など、さらさら無い。
「美しい」世界の住人達は、一見優雅に美しく暮らしているのだが、心の内は決して「美しくない」。

そして美しい理想郷が造り上げられている「エリジウム」も、医療ポッドによる治療を求めて地球から接近してくる人々が乗るシャトルに対して、不法侵入として情け容赦なく攻撃し、例え侵入に成功したとしても徹底的に探し出して全員捕縛し、強制排除することによって“平和”が保たれている。
美しく快適な環境だが、その維持の方法は決して美しくない。
更に、完璧にコントロールされた平和な社会のはずが、その実は政治的な思惑が錯そうする内実を抱えている。
人間のエゴの上に構築された見せかけだけの「理想」の中へ、厳しい「現実」を抱えたマックスが飛び込むことから、物語の展開は急速にスピードアップし、歴史的な献身によって成し遂げられる明るい未来への序章となるクライマックスへと突き進んでいく。


昨年の「TIME」や上映中の「アップサイドダウン 重力の恋人」など、格差社会が究極まで行きついた先を描く作品が続いている。
世界的に広がる格差社会の急速な進展に、映画界は一石を投じ続けようとしているのだろうか。

スペースコロニーの映像がとにかく美しく、まるで自分がそこにいるかのような気分を味わえるのは、CG映像技術の発達のたまもの。
マット・デイモンが“改造人間”となって暴れまわり、ジョディ・フォスターが黒い権力者として見事な悪役ぶりを見せてくれる、SFアクション・ムービーの快作!


エリジウム
2013年/アメリカ  監督・脚本:ニール・ブロムカンプ
出演:マット・デイモン、ジョディ・フォスター、シャルト・コプリー、アリシー・ブラガ、ディエゴ・ルナ、ウィリアム・フィクナー、ファラン・タヒール

本塁打日本新記録

2013年09月16日 | 野球
【バレンティン一問一答】鳥肌立った日本新「王さんは本当に尊敬できる、偉大なホームランバッター」(デイリースポーツ) - goo ニュース


1985年、史上最強の助っ人と呼ばれたタイガースのランディ・バースが、残り3試合で54本のホームランを打っていた。
しかしそのうちの2試合が讀賣。
結局、讀賣戦では6四球とまともに勝負されず、55本の日本記録に並ぶこともできなかった。
あれから28年。

既に日本記録の55本を放っているバレンティンと対戦することとなったタイガース。
14日(土)の試合では若きエース藤浪が堂々勝負に出て、ヒットは許したものの、その他の2打席は三振とサードフライに打ち取る天晴れなピッチングを見せた。
第4打席で対戦したリリーフの渡辺は、得点圏にランナーを置いて1塁が空いたた状態でバレンティンを迎えたことから、敬遠に近い四球を出して勝負を避けた。
タイガースファンの中からも「勝負せんかー!」と渡辺や和田監督を非難する声が上がったが、試合の勝利を考えるなら当然の策。
追加点を許すことなく後続を断ちきったのだから、この敬遠策は成功。
打線が不発で逆転することがなかったために采配を悪く言われるなら言語道断だ。

そして迎えた15日(日)。
先発の榎田まバレンティンに対して真っ向勝負を挑んだが、ものの見事に捉えられてスタンドへと運ばれてしまった。
これでついに、年間56本塁打という日本新記録が生まれた。
気を良くしたバレンティンに、次の打席でも一発くらってしまったのは本当に余分なことだったが、何はともあれ堂々たる勝負に出て敗れたことは仕方ない。
そんなことよりも、正々堂々勝負に出たことが大事なのである。

かつて、日本記録に王手をかけたバースが、讀賣から露骨に勝負を避けられた苦い経験のあるタイガース。
あの悔しさ、やるせなさを知る我々古くからの虎ファンとしては、同じ思いをスワローズファンにさせるワケにはいかない。
だからこそ、タイガース投手陣には皆、正々堂々と立ち向かうことを望んでいた。
その結果として、一発を許さなかった藤浪は天晴れだったし、被弾した榎田には、二発目の反省を促しつつ労いたい。

見事に記録を打ち立てたバレンティンには祝福を送ると共に、60発の大台をを期待したい!

「EDEN」

2013年09月10日 | 映画
新宿二丁目のショーパブ「EDEN」。
ニューハーフのノリピー(入口夕布)が、男に振られたショックでヤケ酒をあおっていた。
泥酔して眠ってしまったノリピーを、店長兼演出家のミロ(山本太郎)は担ぐようにして自宅に連れて帰る。

翌朝ミロが目を覚ますと、ノリピーは息絶えていた。
遺体の第一発見者として警察署に連れて行かれたミロは、差別的な目を向ける刑事達の侮蔑を含んだ聴取を受ける。
性転換手術を受けたノリピーは心臓を悪くしていて、急死の原因も心不全と断定されたが、事情聴取に傷ついたミロは憔悴しきってアパートに帰ってくる。
ミロにとって42回目の誕生日だったその日は、暗く沈んだものとなったのだった。
そこへ、「EDEN」のオーナーである美沙子(高岡早紀)が、ストーカーに暴行されたことを知らされて激怒。
犯人が進学塾で評判の講師であることを知ったミロは、「EDEN」の仲間たちにド派手な格好で集合させると、生徒の前で教鞭を取っていたその男に強烈な罰を食らわした。

溜飲を下げて塾を後にしたメンバー達に、ミロはノリピーの死を告げた。
泣き崩れる仲間達だったが、ペペロンチーノ(齋賀正和)の提案で、ノリピーの弔いを兼ねたミロのバースデーパーティーを開くことに。
「EDEN」でパーティーが盛り上がっているところへ、警察署からノリピーの遺体が運び込まれてくる。
遺族から遺体の引き取りを拒否されたと言うと刑事は、そのまま棺を置いていってしまった。
メンバー達は悲しい事実に落ち込むが、エルメス(高橋和也)の一言から、ノリピーの遺体に化粧を施して生前の様子そのままに美しく仕上げると、棺をトラックに乗せ、ノリピーの実家へと出発する…


新宿2丁目のショーパブで働くニューハーフやゲイたち。
華やかに賑やかに、毎日を面白おかしく楽しそうに過ごしているように見える彼ら。
今ではすっかり「市民権」を得たように思われるトランスジェンダーたちだが、実の家族にも理解されず、世間からはゲテモノなどと呼ばれ、侮蔑の目を向けられることもあるという現実がいまだにある。

実の父親と兄に遺体の引き取りを拒否されたノリピーの実家は、房総半島の田舎町。
昔からその町に暮らす家族にとって、その町が“世界の全て”。
そんな狭い社会の中では、異彩を放つノリピーの存在は正に「化け物」。
近隣の住人から「あそこの息子は女になりよった」と言われ、後ろ指を指されて白眼視されては生きていけない。
父親は、家族を「社会的」に守ろうとして、“息子”の引き取りを拒否する。
いきなり運び込まれてきた棺に対しても嫌悪感を見せる父親だが、一目散に棺に駆け寄る母親の姿を目の当たりにして、忸怩たる思いが顔にじむ。
父親としての強さと、母親が持つ強さのコントラストが哀しい。


トランスジェンダーたちにとって、自分が自分らしくあるために生きることは、膨大なエネルギーを要する。
家族との関係を断ち切り、孤独に生きる彼らにとって、大勢の“仲間”がいる新宿二丁目は、生き生きと暮らせる別天地ではないだろうか。
しかしやはり絶ち切れない肉親への思い。
「EDEN」のメンバーたちは、ノリピーの実家への小旅行を通して、家族への慕情が沸々と沸き起こってくる。
ミロも何年かぶりで実家の母親に電話するのだが、この山本太郎のひとり芝居が圧巻。


一人のニューハーフの死を背景に、強い絆を持つトランスジェンダーたちの仲間同士のつながりと、肉親に対する思いと切ない関係性を描いた、ヒューマンドラマの傑作!


※大阪では現在「シネ・ヌーヴォ」にて再上映中( http://cinenouveau.com/schedule/schedule1.html )


EDEN
2012年/日本  監督:武正晴
出演:山本太郎、中村ゆり、高橋和也、齋賀正和、池原猛、小野賢章、大橋一三、入口夕布、高岡早紀、浜田晃、藤田弓子

大仰な「つながりやすさ」の裏に。

2013年09月04日 | ニュースから
「47都道府県別 通信会社のつながりやすさ」満足度1位獲得県数はdocomo26県、au18県、ソフトバンク2県(マイナビウーマン) - goo ニュース


白い犬をメインに置いて、大々的に「つながりやすさ」をPRするCMを打ちまくっている某携帯電話会社がある(どことは言わないが)。
CMとは、「眉唾」と同義語であると考えている自分にとって、この某社のCMは逆に「つながりにくさ」の払拭に躍起になっているだけではないか?と感じていたが、全くその通りだったようで。

ネット調査会社のネオマーティングが発表した、各都道府県に住む20歳~59歳の男女計4,230人を対象とした『47都道府県別 通信会社のつながりやすさ満足度調査』によると、「通話・通信品質・エリア」の総合満足度1位獲得県数(各都道府県で最も高い評価を得た件数)は、docomo が26県、au が18県、ソフトバンクが2県、引き分け(docomo と au が同率)が1県という結果だったとのこと。
調査結果によると、docomo は北海道、宮城県、静岡県、福岡県など全国で偏りなく1位を獲得。
一方で au は、東京都、神奈川県、愛知県、広島県などでトップをマークし、関東、北陸で強さが目立った。
そしてソフトバンクは、なぜか大阪府と岐阜県の2府県でのみ1位を獲得できず、優位性を見せることができなかった。
何をかいわんやである。

先述の某社が「つながりやすさ No.1 」を掲げるに至った根拠を提供していたのは、調査会社イプソスと Agoop 社の調査だったそうで。
そしてその調査結果に対しては、調査サンプル数がキャリアごとに異なっている点などから、客観的や公平性に関して疑問の声があがっていたとのこと。
今回の調査結果は、その疑問が正しかったことを示しているようで。

とはいえ、犬のお父さんも人間の娘さんも、この結果については一切触れることはないのだろう。
今日も「バリバリバンバン」とか唱えながら、つながりやすさを懸命にアピールしている。
必死になって悪事をごまかすかのように。