1976年8月1日。
F1ドイツグランプリのレース直前。
宿命のライバルであるニキ・ラウダとジェームス・ハント二人が、互いに視線を交わした。
d6年前のF3サーキット。
酒とドラッグとSEXを存分に楽しみ、毎日面白おかしく生きているジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)は、命知らずなドライビング・テクニックを誇る天才肌のレーサー。
F3のレーサーである彼が、痴話喧嘩の怪我を手当してくれたナースを新しい彼女としてサーキットに連れてきたその日、見慣れない男がいた。
新人だというその男の名はニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)。
しかしレースが始まるとラウダは、とても新人とは思えない腕でハントとデッドヒートを繰り広げる。
事故になりかねない、ハントの危険な走行に阻まれて敗れたラウダは、表彰台に立つハントに向かって中指を突き立てるのだった。
ラウダは自らの生命保険を担保に銀行から融資を受けると、それを“持参金”にF1チームに加入する。
プロのエンジニアも顔負けのメカの知識でチームの車を改良し、いきなりチームメンバーの信用を得ると、イッキにF1レーサーとしてデビューを果たすことに。
一方ハントも、スポンサーである貴族が参戦を決めたことで、ラウダの後を追うようにF1の舞台へと乗り込む。
二人は再び、ライバルとして対決することになった。
その後、ラウダはフェラーリ、ハントはマクラーレンに加わってステップアップを果たし、二人は年間優勝を激しく争った。
年間の通算ポイントで、ラウダがハントを大きくリードして迎えた1976年8月1日のドイツグランプリ。
その日、難コースとしてドライバー達が恐れるサーキットは、天候不順によって路面の状態は最悪だった。
レース開催の是非はレーサー達による賛否で決められるが、その会合の場でラウダは、レースの危険性を訴えてレース中止を提起する。
しかし少しでもポイントを稼いでラウダに迫りたいハントは、ラウダを臆病者呼ばわりして決行を主張。
他のレーサーからも人気のあるハントに賛成する者は多く、ラウダの訴えは却下された。
悪天候の中で強行されたレース序盤、悲劇は起きた。
ラウダの車は激しくクラッシュし、燃料タンクに引火。
400度の炎に1分間包まれたラウダは、瀕死の重傷を負って生死の境をさまよう。
そのレースで優勝を果たしたハントだったが、ラウダを死の淵に追いやった自責の念にかられるのだった。
一命を取り留めたラウダは、着々とポイントを稼ぐハントのレース映像をモチベーションに、懸命のリハビリを続け、事故からたったの42日でレースに復帰。
その初戦で見事4位に入賞してポイントを稼ぐと、再びハントと年間優勝を争った。
そして迎えた最終決戦は日本グランプリ。
“あの日”と同じ悪天候のもと、激しい豪雨に見舞われた富士スピードウェイのスタートに二人は並ぶ。
ラウダ68ポイント、ハント65ポイント。
視線を交わした二人は、アクセル全開で最後の決戦に飛び出す…
中学生の頃、「スーパーカーブーム」というのがあった。
ランボルギーニ・カウンタックやミウラ、フェラーリやポルシェなどのスーパーカーの消しゴムのガチャガチャがあり、かなりの数を集めた。
学校の教室で休み時間になると、友人たちと机をレース場に仕立て、ノック式ボールペンのノック部分で消しゴムを押してレースをした。
滑りをよくするために、プラモデルの塗料を塗ったりもして、かなり凝ったものだった。
そして消しゴムには、F1のレーシングカーもあった。
また、プラモデル好きが高じて一時ラジコンカーにも首を突っ込み、雑誌も買ったりした。
そんなこんなで、レーサーとしてニキ・ラウダの名前は知っていた。
しかし、ジェームズ・ハントは知らなかった。
F1レースに関しては、そんな程度の知識しか無かったのだが何の問題も無かった。
メカにも強く、冷静沈着で計算され尽くしたドライビング・テクニックで精密機械のような走法を見せるニキ・ラウダ。
違反ギリギリのアグレッシブなステアリングで、事故も厭わないかのように激しい走法を見せるジェームス・ハント。
慎重で真面目ではあるが面白みに欠け、ストレートな物言いで孤立しがちなラウダと、享楽的で奔放で、態度も不遜だが憎めない人気者のハント。
性格も走法も全く正反対の二人。
しかし互いに相手を一番尊敬していて、理解し合っていて、そして仲が良い。
ラウダの復帰戦。
彼の元に駆けつけたハントは、事故の原因を作ったのは自分だと謝罪する。
「ああ、そうだな。しかし、テレビで君の勝利を見て生きる闘志が湧いた。僕をここに戻したのも君だ。」
ニコリともせずに応じたラウダは、事故の恐怖をものともせずサーキットを駆け抜け、4位と大健闘を果たす。
優勝して浮かれ遊ぶハントに、ラウダは節制を説く。
ハントは苦笑しながら享楽に耽る。
性格の違い、生き方の違いを互いに理解しつつ、和解することはないが、同じ価値観を共有できる唯一の“友”として互いを認め合う二人の姿は、体育会系的な清々しさにあふれていて眩しい。
世界のトップレベルに君臨したライバル二人の、火花を散らして激突するプライドと、交わることの無い相互理解に立った熱い友情が胸を打つ、ヒューマンドラマの傑作!
「
ラッシュ プライドと友情」
2013年/アメリカ 監督:ロン・ハワード
出演:クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール、オリビア・ワイルド、アレクサンドラ・マリア・ララ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ