石川県の七尾で経営していた縫製工場が傾き、多額の借金を抱えて身動きがとれなくなった清水(三浦友和)は、大腸ガンの手術は終えたものの再発する可能性が高い妻のひとみ(石田ゆり子)と共に、なけなしの50万円をもってワゴン車で旅に出た。
観光地なら夫婦で住み込みの仕事が見つけられるという清水の当ては外れ、都市部でパチンコ屋の求人を当たるも、ハローワークを訪れても50歳を過ぎた男に対する求人は見当たらない。
焦りと苛立ちから怒りを露わにするする夫を温かく見守り、元気づけるひとみ。
キャンプ用のコンロで炊事をし、ワゴン車の後部座席で身を寄せ合って眠る生活を送りながら、ひとみはただ二人でいられるだけで幸せそうにしている。
結婚してからも働きづめだった清水と、二人でゆっくりと過ごす時間など無かったひとみにとって、ワゴン車で最初に訪れた東尋坊が、二人で初めての旅行だった。
姫路城、鳥取砂丘、明石海峡大橋、三保の松原、そして山梨の温泉地を経て石川へと戻ってくる。
山あいの道から眺めた富士山、清水がひとみのために作ってくれた味噌汁、水平線に沈んでゆく夕陽。
たくさんの“初めて”を積み重ねながら放浪を続ける二人だったが、再発したガンは確実にひとみの体を蝕んでいた。
夏が過ぎる頃、ひとみはすっかり衰弱し、痛みが激しくなる。
見かねた清水は病院に担ぎ込むが、片時も離れたくないと入院を頑なに拒否してしがみつくひとみに、最期のときまで一緒にいることを決意。
港の片隅にワゴン車を停め、二人だけの世界で清水は献身的に介護する。
しかし、時には悲鳴をあげるほどの痛みに襲われて錯乱し、常にうめくひとみを受け止め、清水も消耗していく。
食べ物はおろか、飲み物さえも受けつけなくなってきて、いよいよ最期のときが近づいてきたある日。
小康状態になって穏やかな笑顔を見せたひとみは、二人で初めてデートした東尋坊で夕陽が見たいと言った。
清水はワゴン車を走らせ、東尋坊へと向かう…
タイトルを見ただけで、自分を清水の身に置き換えて考えては涙が込み上げていた作品。
時期遅れでようやく観ることができたが、予想通りハンカチが涙と鼻水でグッショリ。
特に妻のひとみが激しく衰弱し、港に停めた狭いワゴン車の中で清水が懸命に介護を続ける姿は、涙なくしては見られない。
久しぶりにボロボロになりながらエンドロールを迎え、映画館を出て人とすれ違うのが恥ずかしかった。
末期ガンの妻をワゴン車に乗せ、9ヶ月間に渡って日本各地を彷徨い、妻を看取った男が、「保護責任者遺棄致死罪」で逮捕されたという実際に起きた事件を、男の手記に基づいて映画化された作品。
2000年秋に雑誌「新潮45」に掲載された、夫・清水久典氏の手記は大きな反響を呼び、文庫本は15万部を売り上げたという。
縫製工場を営む清水は結婚以来働きづめで、そんな彼をひとみは懸命に支えてきた。
高度経済成長期からバブル期にかけて、日本の中小零細企業では当たり前のように見られた光景が、二人にも当てはまっていたに違いない。
バブル崩壊後の不況と、安価な輸入品に押されて経営は悪化し、巨額の負債を抱えると同時に妻のひとみがガンに倒れる。
大きな負の連鎖に襲われたときに初めて、夫婦二人だけの時間が生まれるのは何とも皮肉。
娘ももうけ、平凡で平和な家庭を築いてきた清水だったが、経済的に破綻したうえに妻までもがガンに侵されるという厳しい現実に打ちひしがれるも、どこか逃避的で現実感が乏しい清水。
そんな清水を、深い愛情で大きく包み込み、優しく見守るひとみ。
ほとんど夫婦水入らずの時間を持つことができなかったひとみが自分の死期を悟ったとき、現実逃避的な清水の内面にぴったりと寄り添うことで、人生の最期を二人の愛で満たし、過去の隙間を埋めたかったのではないだろうか。
朦朧とする意識の中で、清水がロープに手をかけた夜。
夫を解放しようと、ひとみがカミソリで手首を傷つけた朝。
二人で涙を流しながら寄り添うシーンに、何度も何度も涙があふれた。
ワゴン車の中という狭い狭い狭い、しかし二人だけの世界で濃密な時間を過ごせた最期は、ひとみには幸せなひとときだったことだろう。
グイっ!とイッキに、全てを現実に引き戻すラストシーンが鮮烈。
しょぼくれた感じが秀逸の三浦友和と、渾身の演技が更に涙を誘う石田ゆり子の好演が心に響く、究極の夫婦愛を描いたヒューマンドラマの佳作。
「死にゆく妻との旅路」
2010年/日本 監督:塙幸成
出演:三浦友和、石田ゆり子、西原亜希、掛田誠、近童弐吉
観光地なら夫婦で住み込みの仕事が見つけられるという清水の当ては外れ、都市部でパチンコ屋の求人を当たるも、ハローワークを訪れても50歳を過ぎた男に対する求人は見当たらない。
焦りと苛立ちから怒りを露わにするする夫を温かく見守り、元気づけるひとみ。
キャンプ用のコンロで炊事をし、ワゴン車の後部座席で身を寄せ合って眠る生活を送りながら、ひとみはただ二人でいられるだけで幸せそうにしている。
結婚してからも働きづめだった清水と、二人でゆっくりと過ごす時間など無かったひとみにとって、ワゴン車で最初に訪れた東尋坊が、二人で初めての旅行だった。
姫路城、鳥取砂丘、明石海峡大橋、三保の松原、そして山梨の温泉地を経て石川へと戻ってくる。
山あいの道から眺めた富士山、清水がひとみのために作ってくれた味噌汁、水平線に沈んでゆく夕陽。
たくさんの“初めて”を積み重ねながら放浪を続ける二人だったが、再発したガンは確実にひとみの体を蝕んでいた。
夏が過ぎる頃、ひとみはすっかり衰弱し、痛みが激しくなる。
見かねた清水は病院に担ぎ込むが、片時も離れたくないと入院を頑なに拒否してしがみつくひとみに、最期のときまで一緒にいることを決意。
港の片隅にワゴン車を停め、二人だけの世界で清水は献身的に介護する。
しかし、時には悲鳴をあげるほどの痛みに襲われて錯乱し、常にうめくひとみを受け止め、清水も消耗していく。
食べ物はおろか、飲み物さえも受けつけなくなってきて、いよいよ最期のときが近づいてきたある日。
小康状態になって穏やかな笑顔を見せたひとみは、二人で初めてデートした東尋坊で夕陽が見たいと言った。
清水はワゴン車を走らせ、東尋坊へと向かう…
タイトルを見ただけで、自分を清水の身に置き換えて考えては涙が込み上げていた作品。
時期遅れでようやく観ることができたが、予想通りハンカチが涙と鼻水でグッショリ。
特に妻のひとみが激しく衰弱し、港に停めた狭いワゴン車の中で清水が懸命に介護を続ける姿は、涙なくしては見られない。
久しぶりにボロボロになりながらエンドロールを迎え、映画館を出て人とすれ違うのが恥ずかしかった。
末期ガンの妻をワゴン車に乗せ、9ヶ月間に渡って日本各地を彷徨い、妻を看取った男が、「保護責任者遺棄致死罪」で逮捕されたという実際に起きた事件を、男の手記に基づいて映画化された作品。
2000年秋に雑誌「新潮45」に掲載された、夫・清水久典氏の手記は大きな反響を呼び、文庫本は15万部を売り上げたという。
縫製工場を営む清水は結婚以来働きづめで、そんな彼をひとみは懸命に支えてきた。
高度経済成長期からバブル期にかけて、日本の中小零細企業では当たり前のように見られた光景が、二人にも当てはまっていたに違いない。
バブル崩壊後の不況と、安価な輸入品に押されて経営は悪化し、巨額の負債を抱えると同時に妻のひとみがガンに倒れる。
大きな負の連鎖に襲われたときに初めて、夫婦二人だけの時間が生まれるのは何とも皮肉。
娘ももうけ、平凡で平和な家庭を築いてきた清水だったが、経済的に破綻したうえに妻までもがガンに侵されるという厳しい現実に打ちひしがれるも、どこか逃避的で現実感が乏しい清水。
そんな清水を、深い愛情で大きく包み込み、優しく見守るひとみ。
ほとんど夫婦水入らずの時間を持つことができなかったひとみが自分の死期を悟ったとき、現実逃避的な清水の内面にぴったりと寄り添うことで、人生の最期を二人の愛で満たし、過去の隙間を埋めたかったのではないだろうか。
朦朧とする意識の中で、清水がロープに手をかけた夜。
夫を解放しようと、ひとみがカミソリで手首を傷つけた朝。
二人で涙を流しながら寄り添うシーンに、何度も何度も涙があふれた。
ワゴン車の中という狭い狭い狭い、しかし二人だけの世界で濃密な時間を過ごせた最期は、ひとみには幸せなひとときだったことだろう。
グイっ!とイッキに、全てを現実に引き戻すラストシーンが鮮烈。
しょぼくれた感じが秀逸の三浦友和と、渾身の演技が更に涙を誘う石田ゆり子の好演が心に響く、究極の夫婦愛を描いたヒューマンドラマの佳作。
「死にゆく妻との旅路」
2010年/日本 監督:塙幸成
出演:三浦友和、石田ゆり子、西原亜希、掛田誠、近童弐吉
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます