写真 長さ390メートル、谷底からの高さ173メートル。大自然に囲まれた日本一のつり橋を渡ると、渓谷に吸い込まれるような感覚になった=大分県九重町 |
深緑に抱かれるように伸びる白い橋。勢いよく落ちる滝の音があたりに響き渡る。九重(ここのえ)“夢”大吊橋(大分県九重町)は長さ390メートル、谷底からの高さ173メートルを誇る。歩行者用のつり橋としては、いずれの数字も日本一だ。
周囲には、日本の滝百選に選ばれた「振動の滝」や九重(くじゅう)連山など絶景が広がる。九重町が構想10年、工期2年半、総工費20億円を投じて平成18年に完成させた。国や県からの補助は受けていないという。名前は公募で選ばれたが「こんな田舎の渓谷に橋を架けるなんて、夢のまた夢…」との意味合いもあった。
新しい観光スポットへの反響は大きかった。隣接する湯布院温泉(大分県由布市)の客や、九重連山の登山客、大型バスでやってくる団体客、さらには外国人も詰めかけた。町民の夢をのせた橋は、当初の予想を上回る人気を集め、開通からの来場者の累計は今年800万人を超えた。
通路の幅は、わずか1・5メートル。中央部分は網状になっており、足のはるか下に鳴子川渓谷が見える。目のくらむような高さに尻込みする人も少なくない。下を見ないようまっすぐ前を向いて歩いたり、人につかまって目を伏せたり…。せっかくの「観光」を避ける気持ちは分かる気もする。
大分県中津市から訪れた会社員、坂田美穂さん(24)と、看護師の水野すみれさん(24)は「自然を満喫したかったが、橋の中央では揺れが怖くて下を見られなかった。癒やされたいと思ってきたが、同時にスリルも味わってしまいました」と、満足そうだった。(写真報道局 鈴木健児)