手紙も荷物も一緒にポストに投函(とうかん)して送ることができる日本郵便のサービス「レターパック」を使った詐欺被害が急増している。警察庁によると、2013年は846事件で使われ、前年の3・3倍に。手軽に送れる利便性と、憲法で定められた通信の秘密が、犯罪に悪用されている。

 ■「現金も送れる」とウソ

 関東地方の70代の男性は怒りと自責の念で言葉を詰まらせた。「犯人を許し難い。レターパックのことをもっと知っていれば……」

 今年4月初め、「ベトナムの通貨への投資」をうたうパンフレットが突然送られてきた。東京都新宿区の業者からだった。その後、勧誘の電話が10回ほどあり、宛先欄に都内の別の住所が記された未使用のレターパックの封筒が届いた。

 この時初めてレターパックを知り、「現金を送ることはできません」という注意書きを不審に思ったが、業者の男は「秋から現金が送れるように変わるので大丈夫。万一の時は郵便局が補償してくれますから」。そのウソにだまされ、数回に分けて1千万円以上を郵便ポストから送った。その後、連絡は途絶えた。

 警察庁によると、電話などで不特定多数をだます特殊詐欺のうち、レターパックが使われたのは、13年に846件と前年(255件)の3・3倍、被害額は54億円に上った。件数では宅配便を含めた現金送付型の45%を占める。今年も4月までに341件、被害額21億円と昨年を上回るペースで増えている。

 警察庁は「『レターパック、宅配便で現金送れ』は、全て詐欺」と注意を呼びかけている。

 ■防止策、「通信の秘密」が壁

 日本郵便によると、レターパックは2003年、わかりやすい一律料金と郵便ポストに投函(とうかん)できることを売りに「エクスパック」として始まった。その後、10年に信書も送れるレターパックに衣替えした。年間約185億通の郵便物に占める割合は非公表だが、個人利用のほか通信販売などにも使われ、取扱数は増えているという。

 ■ポストで手軽に

 人気の一方で、犯罪に使われる例が急増している。

 一番の理由は、窓口に行く煩わしさがなく、ポストに出すことができる点だ。警察庁幹部は「24時間、誰にも会わずに手軽に使え、現金を送るのに心理的な抵抗が小さい」と解説する。

 また、憲法21条で定める「通信の秘密」と郵便法8条で定める「信書の秘密」との兼ね合いで、対策が取りづらいことも悪用を助長している。

 総務省によると、令状なしに、差出人の許可がない開封▽差出人への利用目的の確認などはできない。

 ■宅配は対策進む

 一方、同じ日本郵便でも信書を扱わない「ゆうパック」や、ヤマト運輸佐川急便などの宅配では、警察が公表している過去に犯罪に使われた送付先の住所と照合し、警察に連絡するなどの対策が進みつつある。

 国の第三者機関、消費者委員会などでの話し合いを受け、日本郵便も今年4月からレターパックの対策を強化。ポスターや職員による窓口での注意喚起のほか、「現金を送ることはできません」という従来の表示に加え、封筒本体の表と裏に赤字で「詐欺等にご注意ください」と明記するようにした。

 ただ、限界もある。日本郵便の担当者は「現金が入っていれば、重さや形から感覚的に分かる」というが、依頼主欄が未記入だったり、連絡がとれなかったりした場合は、送付先に届けざるを得ないという。「信書の秘密は我々の仕事の砦(とりで)。犯罪防止面だけで見ると批判を受けるかもしれないが、法律の範囲で今できるぎりぎりの対応をしている」という。総務省警察庁など関係機関では現在、より効果的に被害を防ぐ方法を検討中だという。

関連情報:デhttp://digital.asahi.com/articles/DA3S11216914.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11216914ジタル朝日: