野菜や穀物などを焼く、炒める、揚げるなど高温で調理すると、アクリルアミドという化学物質が発生する。動物実験で発がん性が認められており、内閣府食品安全委員会の作業部会は「できる限り低減に努める必要がある」という評価書案をまとめた。家庭ではどうしたらいいのだろうか。
先月16日に公表された評価書案はアクリルアミドの発がんリスクについて「ヒトにおける健康影響は明確ではないが、懸念がないとは言えない」と指摘した。どういうことなのか。
作業部会はまず、日本人がどれだけアクリルアミドを摂取しているかを調べた。体重1キロあたりで算出した推定量は1日0・24マイクログラム。その約半分は炒めたモヤシやタマネギ、レンコンといった高温調理した野菜からで、残りはコーヒーや緑茶などの飲料、菓子類や糖類、パンなどの穀類からと推定された。
この量は動物実験でがんの増加が確認された量の1千分の1ほどにすぎない。しかし海外のリスク評価機関には、1万分の1より多い場合は低減対策が必要だとする所もある。「懸念がないとはいえない」という表現になったのはこのためだという。
動物実験ではなく、ヒトの摂取量とがんのリスクとの関連を調べた研究成果も多数分析した。すると、こちらは一貫した傾向はみられなかったという。
食安委の佐藤洋委員長は次のように説明する。
「アクリルアミドは動物実験で発がん性が確認されている。ただ、ヒトを対象とした調査の全体をみるとアクリルアミドが原因でがんが増えているとは認められない。そうした意味ではそれほど心配しなくてもいい。とはいえ摂取しない方がよいことには変わりないので、できるだけ減らすよう気にかけてくださいということです」
■保存方法や下準備に一手間
アクリルアミドは多くの加熱した食品に、わずかながら含まれる。加熱調理は食材をおいしく安全に食べるために必要なことでもある。アクリルアミドをまったくとらないようにするのは難しい。
だが、家庭でのちょっとした工夫で量を減らすことはできる。
まずは準備段階でできることから。農林水産省によると、炒めたり揚げたりするジャガイモは常温で保存するといい。長期間冷蔵すると、加熱時にアクリルアミド生成の原因となる糖が増えるという。
イモ類やレンコンは、切った後に水にさらすとアクリルアミドに変化する成分が表面から洗い流される。
調理する時は加熱しすぎないことが大切だ。
炒めたり揚げたりする場合は焦がしすぎないよう注意する。農研機構食品総合研究所の実験では、食材を炒める時間が長くなり、焦げ色が濃くなればなるほどアクリルアミドの濃度が増した。食パンを焼いた場合も、トースト時間や焼き色とアクリルアミドの濃度には同じ傾向が出た。
炒めるときは火力を弱めにする。さらによくかき混ぜれば、一部分だけが高温になるのを防げる。
■ゆでる・蒸す・煮る…調理の一部、置き換えてみる
ゆでる、蒸す、煮るといった水を利用する調理では、食材の温度は120度以上にならず、アクリルアミドはほとんどできない。炒める調理の一部を蒸す、煮るなどに置き換えることも効果的だ。
食品総合研究所などはそのことをきんぴらゴボウ作りで確かめた。15人の協力者に、それぞれの普段の作り方と研究所が指定した作り方の2通りで作ってもらい、アクリルアミド濃度を比較した。
指定の作り方では、炒める時は火加減を弱くして速くかき混ぜる。さらに炒め時間を短くして、代わりに弱火で15分間蒸し煮にしてもらった。
普段の作り方では、アクリルアミドの濃度は人によってばらつきが出た。一方、指定の作り方では全員、濃度が低く、中には普段の100分の1以下になった人もいた。
味の評価もした。指定の作り方をしたきんぴらゴボウを大学生65人に食べてもらったところ、52人が「普段食べているのと同じくらいおいしい」、3人は「よりおいしい」と答えた。
小野裕嗣上席研究員は「アクリルアミドは少しの工夫で減らせる。できる範囲で工夫をすればよいと思います」と話している。
農林水産省は「安全で健やかな食生活を送るために アクリルアミドを減らすために家庭でできること」という冊子をまとめ、ウェブサイト(http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/index.html)で公開。希望者には配布している。問い合わせは同省食品安全政策課(03・3502・8731)。(沼田千賀子)
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〈アクリルアミド〉 有機化合物の一種。食品中では炭水化物を多く含む野菜や穀類などを揚げる、焼く、あぶるなどして120度以上の高温で加熱すると特定のアミノ酸と糖が化学反応を起こして生成される。加工食品に含まれるほか、条件がそろえば家庭での調理でもできる。