新しい元号が発表され、5月には「令和」が幕を開ける。天皇主権から国民主権になった今の憲法下では2度目の改元になる。21世紀の日本に、元号をどう位置づけていけばいいのか。出典を万葉集に求めた意味とは。日本と中国の古典や歴史に詳しい識者3人が語り合った。(司会 編集委員・塩倉裕)

国文学者の辰巳正明さん、中国哲学者の水上雅晴さん、歴史学者の磯田道史さんが探る、新元号のメッセージとは。

 ――新元号は「令和」。出典は万葉集という説明でした。

 辰巳正明 大宰帥(だざいのそつ、長官)の大伴旅人(おおとものたびと)が、天平2(730)年に、梅花の宴という宴会を開いた。そこで、大宰府の役人たちが集まって、梅花の歌、32首が読み上げられた。その時の漢文で書かれた「序文」から採られている。

 万葉集に収められた歌は、当て字のような「万葉仮名」で書かれており、元号の典拠とするには不向きだとの声もあったが、今回は歌そのものではなく、序文から採った。漢文を引用しているといえるだろう。

令に「戒める」の意味も

 ――どんな意味でしょうか。

 辰巳 「初春令月、気淑風和」。「初春のこの良い月に、気は良く風はやわらか」という意味だ。春の訪れを喜び、みんなが和やかに歌を詠んで楽しむ。採り出した漢字だけに着目すれば、「和しむべし」「みんなで仲良くしましょう」という意味にもなる。

 磯田道史 令には「戒める」という意味もある。「平和にならなくてはいけない」と国民を戒めるという読み方も生じるかもしれない。いろいろなイメージがわく言葉だ。

 水上雅晴 令は令息とか令嬢とか「よい」という意味がある。ただ、読み方が「和に令す」だと、日本に命令するという風にも読まれかねない。

 磯田 令を上につけた年号は、過去に「令徳」、徳川に命令するという案があったが、退けられた。

 辰巳 実は、令和は、中国古典の中にも典拠を見つけられる。しかし今回はそれには言及していない。

 水上 確かに、万葉集より古い中国古典詩文集の「文選(もんぜん)」に収録されている、張衡(ちょうこう)の帰田賦に「於是仲春令月、時和気清」がある。ここにおいて仲春の令月、時和して気清しと。

相当苦労して選んだ

 ――首相会見をどう聞きましたか。

 水上 これからの若い人たちの目を意識していたのだろう。令和という元号とともに暮らす新たな世代に、愛着をもって使ってもらえるようにしたいという思いは感じた。

 辰巳 国民へのメッセージ性が強かった。元号には日本文化がきちんとある、古い日本文化が現代に生きているのだと。そうしたものを大切にしながら、国際的な世界に向かっていくと言いたかったのだろう。文学や文化は国境を越えていくので、平和の象徴としての元号になりうる。

 磯田 日本古典と同義の国書を出典としたことが非常に大きな歴史的転換だ。しかも日本書紀ではなく、みんなの歌集である万葉集から採ったということが強調されていた。人名や会社名で使われているものを避けようと、相当苦労して選んだのだろうなと思う。

 ――安倍首相は会見で「和」を説きつつ、自身の「働き方改革」政策や「抵抗勢力」の問題性を語りました。天皇の権威を利用していませんか。

 水上 令和は「平和にならしめよ」という言葉にも読みうる。「上からの」政治に持っていきたいという姿勢を読み込む余地があると感じた。