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新札登場、なぜ今?なぜこのデザイン? 疑問に答えます
笠井哲也 2019年4月26日12時00分
経済の「モヤモヤ」解説
1万円札と5千円札、千円札が新しくなることになりました。実際に新札に切り替わるのは5年後の2024年度前半ごろから。新しいお札の「顔」やデザインが話題ですが、そのデザインはどうやって決まるのか、なぜこのタイミングで変わることになったのか。知っているようで知らない、お札のギモンをまとめました。
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使い慣れたのになぜ変えるの?
大きな理由は「ニセ札防止」です。印刷技術が進んでニセ札がつくりやすくなっており、偽造防止のため、お札は定期的に新しくする必要がある、と財務省はいいます。
前回お札のデザインが変わったのは04年。当時はニセ札が増えており、急にデザインを変えることになったそうです。
今回ニセ札対策として、3次元画像が角度を変えると回って見える「ホログラム」で、最新技術を採り入れています。ホログラムは今の1万円札と5千円札にもついていますが、3次元画像は世界初だそうです。透かしの部分にも、肖像だけでなく背景に新たに模様を入れています。
お札を変えるもう一つの理由として、技術の伝承があります。これまでも約20年ごとにデザインを変えていて、これはお札をつくる技術を引き継ぐ狙いもあるようです。
「顔」はどうやって決まるの?
お札の「顔」となる人は、かつては聖徳太子など、写真がない歴史上の人物が選ばれたこともありました。しかし近年は、明治以降に活躍し、写真の残る「文化人」から選ぶことが慣例になっています。政治家や軍人は外されます。
財務省の職員は何年も前から、日本史の教科書などに出てくる人を調べ、候補者を絞っていました。今回はその中から麻生太郎財務相が決めました。
新しいお札の顔は、1万円札が「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一、5千円札が津田塾大学の創立者の津田梅子、千円札が細菌学者の北里柴三郎です。
裏面は、1万円札が東京駅の丸の内駅舎、5千円札が藤の花、千円札が葛飾北斎の富嶽三十六景「神奈川沖浪裏」です。
2千円札は使われている枚数が少ないため変えません。
お札の寸法は変わりませんが、外国の人もわかりやすいよう、額面の洋数字が大きくなります。目が不自由な人のために、指でさわっただけでどのお札かが分かるよう、模様の形や位置も変えています。
肖像は写真なの?
いいえ、写真そのものではありません。何枚かの写真をもとに、独立行政法人・国立印刷局の職員によって描かれた「絵」です。お札を刷るための原版は、この絵をもとに、国立印刷局の職員が手で彫ってつくります。
財務省が公表した5千円札の画像で、津田梅子の肖像が写真を左右反転したのではないかという指摘がありました。ただ、公表された画像はまだ見本段階です。原版をつくるための彫刻の作業はこれから始まります。
肖像に写真が残っている人を選ぶのは、絵をより細かく描くためです。写真以外の絵などしか残っていない人を使わないのは、その絵などからマネされやすいからです。
この肖像画が、一番のニセ札対策だともいわれます。「ニセ札ではないか」と人が疑うのは、肖像画が不自然な場合が多いそうです。髪の毛の太さが変、顔の照りが違う、といった具合です。
また、新しいお札をつくるため、機械などを入れるので、70億円のお金が必要になるそうです。
「日本銀行券」なのに財務大臣がデザインを決めるの?
お札を発行する権限は日本銀行法で、中央銀行である日本銀行だけに認められています。日銀は一定の独立性を保ったうえで、市場に流すお金の量を調節して、経済を安定させる役割を担っています。
ただ、同じ日銀法で、お札のデザインなどの「様式」は財務大臣が定めるとされています。
お札は単なる紙ですが、お金として価値を持ち、流通するのは国の信用が後ろ盾になっているからです。そうした背景もあり、法律では、お札を発行する権限は日銀だけに認められているものの、国も発行にある程度の関わりを残す形になっています。
財務大臣がデザインを決めるのも、そうした「関わり」の一つです。麻生財務相は昨夏に国立印刷局を視察し、その頃から新しいお札をつくる準備に入っていたと考えられています。
3月末時点で、1万円札は99.7億枚、5千円札は6.6億枚、2千円札は1億枚、千円札は42億枚、合計149.4億枚の日本銀行券が流通しています。なお、500円や100円、10円といった硬貨は、政府が発行しています。
出回るのは5年後なのに、なぜこんなに前に発表を?
財務省の説明では、国立印刷局で原版を手彫りする作業におよそ2年半、その後、銀行の現金自動出入機(ATM)などを新しいお札に対応させるのにおよそ2年半がかかる、といいます。
ただ、前々回の新札発表は実際に出回る約3年前、前回は出回る約2年前でした。今回はそれよりだいぶ早いのは確かです。
また、今回の発表は4月9日で、5月1日の「令和」への改元直前の発表でした。麻生財務相は「(発表時期が)たまたま重なった」と説明し、関係はないといいます。
お札が変われば、ATMのほか、自動販売機の改修なども必要です。お札を見分ける機械をつくるメーカーなど、紙幣関連のビジネスは売り上げが増えそうです。1兆円を超える経済効果が見込めるという専門家もいます。
ただ、前回デザインが変わった04年と比べ、紙幣を取り巻く環境は大きく変わっています。
スマートフォンの普及もあり、電子マネーなど現金を使わない「キャッシュレス」決済が増え、紙幣の関連ビジネスが以前ほど大きいかどうかはわかりません。むしろ新札対応のため、システムを切り替えるなどの負担が重くなる可能性もあります。
5年後、新札が出回るころには、お金を取り巻く環境はさらに変わっていることでしょう。新札は我々の生活にどれだけ溶け込んでいくことになるでしょうか。