「姥ざかり」

田辺聖子著
昭和56年新潮社刊より

39番、参議等

2023年05月10日 08時23分43秒 | 「百人一首」田辺聖子訳










<浅茅生(あさぢう)の 小野の篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき>


(丈の低いチガヤの野に
篠竹は生い繁る
ああその 荒涼たる風景よ
わが心象風土そのままに
しのだけの しのびこらえているけれど
包みかねてあふれる恋心
なぜこうまで ぼくは
あの人が恋しいのか)






・『後撰集』巻九・恋に、
「人につかはしける」として出ている。

「人」は「女」。

「浅茅生の小野の篠原」は、
「しのぶ」をいいたいための序であって、
「しの」という言葉が必要なことから持ち出された。

何となく広漠の原野が想像され、
荒野に立つ心ぼそさと、
忍ぶ恋の辛さが貼りついて、いいムードである。

小野の篠原、というのは、
特定の場所ではなく、「小」は接頭語。

王朝の昔は、ちょっと都を外れると、
浅茅の野や、篠原を目にすることが多かった。

浅茅の「浅」は、丈が低いとか、
まばらに生えているという意味で、
ほんとうは茅という。

作者の源等(みなもとのひとし)は、
どの本でも二、三行で片づけられている影の薄い人。

嵯峨天皇の曽孫、天暦元年(947)に参議となり、
四年後に没。伝記は不明。

『後撰集』に三首残るのみで、
歌人としては無名に近い。






          


(次回へ)

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