・皇女のような、
高貴な女人でも、
恋の諸わけを知っているひと、
うわべはつつましく見せながら、
本心は色好みな、
そういうひとならば、
かりそめの恋のたわむれに、
男にたなびき、
何食わぬ顔をしている、
といったこともできよう。
しかし女三の宮は、
そういう大人では、
いらっしゃらない。
いうなら、
災難に遭われたような、
気がされるだけである。
あの夜のことも、
人が知って噂しているのでは?
とひたすら恐れおののいて、
いらっしゃる。
おどおどとおびえて、
明るいところへも、
お出になれない。
辛いことになってしまった、
と嘆いてばかりいられる。
「お具合がよろしくないようで、
ございます」
二條院で紫の上を看病していた、
源氏のところへ知らされて、
更に宮までも、
と驚いて急いで六條院へ来た。
宮は、
どこが苦しいというさまでもなく、
ただ恥ずかし気に沈んで、
視線も合わそうとなさらない。
(あちらの看病のため、
宮を打ち捨てたように、
なっていたのを、
怨めしく思われたのか)
と源氏は思うと、
さすがにふびんな気がして、
紫の上の容態など話した。
源氏はやさしく弁解する。
何カ月かの看病で、
源氏はやつれているが、
宮にも言葉惜しみせず、
話かける。
宮は、
やさしくいたわれられれば、
いたわられるほど、
秘密の恐ろしさに戦慄された。
源氏は夢にも宮の罪を、
知らない。
柏木は、
女三の宮にも増して、
物苦おしい日々を送っていた。
明け暮れ、
宮が恋しくてならない。
賀茂祭の日も、
物見に友人が誘いに来るが、
気分がすぐれない、
と断って横になって、
ぼんやりしていた。
北の方の、
女二の宮(女三の宮の異腹の姉君)を、
表面上、大切にしているが、
いつまでたっても打ち解けず、
顔も合わさず、
自室に閉じこもっていた。
晴れぬ心を抱いて、
祭のにぎわいを、
よそごとに聞いていた。
それもこれも、
われから招いた苦しみ。
女二の宮は、
捨てられた妻、
といってよかった。
女房たちは、
祭見物にみな出払って、
邸内は人少なであった。
女二の宮は、
(何がお気に召さないのだろう、
わたくしにご不満がおありのせい?)
そう思い、
味気なくもあり、
夫に疎まれる自分が、
恥ずかしかった。
その沈んださまは、
さすがになまめかしく、
上品であったが、
柏木は、
(同じことなら、
お妹の女三の宮を、
頂きたかった・・・)
と思いつつ、
こんな歌を書きすさんでみる。
<もろかづら
落葉をなにに拾ひけん
名はむつまじきかざしなれども>
(賀茂のまつりのかざしは、
桂と葵のもろかづら、
同じようなものながら、
私の拾ったのは、
落葉だった)
同じ姉妹ながら、
私の引きあてたのは、
落葉に似て魅力なきひと。
(落葉の宮か・・・)
柏木は苦笑する。
恋に目のくらんだ彼は、
妻をさえ、落葉の宮と、
おとしめるようになっている。
(次回へ)