主として起業家さん向けの書ということになると思いますが、彼らが「自家ブラック」に陥らないためのビジネスの「ストック化」の勧めというのが本書の要旨ではないかと。売上や収益のうち、ワンショットで流れ去ってしまう「フロー」(オフェンス重視型)ではなく、継続的に利益をもたらすものが「ストック」(ディフェンス重視型)です。勿論、その分ストックのビジネスモデルを構築するには手間と時間が必要ながら、その代わり、走り出せば雪だるま式に売上と利益が伸びていく。そして、ビジネスの、この「ストック化」が完成しない限り、企業や個人の収入は安定しないまま、自分が働き続けないと存続できない「自転車操業」のような状態を余儀なくされてしまうと言います。
本書でいう「ビジネス」とは何かと言えば、「連続的に利益(粗利益=売上-原価)を生み出す活動」です。そして、ストックビジネスを定義づけるものは2つあり、(1)継続的にお金が入ってくる、(2)売ることができる(人に依存していない:属人的ではない)、ということ。そして、ずばり究極のストックビジネスというのは不動産であり、それも無借金の不動産を所有するだと言っています。まごうことなき憧れの(笑)不労所得なのでそれは間違いないですね。ちなみに、昨年華々しくデビューしたソフトバンクの「Pepper」も、間違いなく原価割れな本体価格(20万円程度)で儲けているわけではなく、継続的に得られる基本料金プランと、修理が必要になった時のための保険プランという月額料金を継続的に得られるもので、本業の携帯電話と同じストックビジネスであるとしています。
さて、著者によれば、世界的に有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏の投資スタイルは長期間保有することにあり、具体的に投資先に選んでいたのがカミソリの「ジレット」や「コカ・コーラ」など、やはりストック性の高いビジネスであると言います。要は、「インターネットがいくら発達しても、大人の男は毎日ヒゲを剃る。それが私の求めるビジネスだ。」とソロス氏が言うように、様々な要因にあまり左右されることなく伸びていく可能性の高い、ストック性の高いビジネスを選ぶだろうということです。髭剃りなら替え刃を継続的に購入する必要があるので、ワンショットでは終わらないということです。
更に言えば、ストック性が高いだけでなく、市場シェア1位のモデルというは、首位としての優位性の恩恵を受けると同時に、ストック性の継続的な利益と言う側面も更に加わり、時間が経てば経つほど資産価値が増大していく。したがって、「ストック性が高い×シェア1位」は最強のビジネスと言っています。
ただ、そのストックビジネスも、一度作ればその利益が永続的に続いていくというものではない。先ほどのバフェット氏は先ほどの言葉に続けてこんなことも言っている。「常に替え刃の研究開発を怠らず、販売力の増強にも励み、強力なブランド力を保持し続けることができている企業があるのなら、これに投資しない理由はない。」。つまり、ストックビジネスを維持・強化していくためには「収益ユニット」の絶え間ない「チューニング」が必要となる(収益ユニットとチューニングについては後述)。こうしてバフェット氏は消費させ続けられる商品を寡占もしくは独占状態で販売することができる企業へ主に投資をし、巨額の富を築きあげていった。つまり彼はストック性が高い企業を常に探していたということ。
では具体的にどのようにストックビジネスを構築していったらよいのか。まずはチャンスを引き寄せるために「信用」を勝ち取る。そして信用は継続的な仕事をもたらしてくれる。「切れない糸」を垂らしておき、「消えてなくなるもの」を組み入れておくことはビジネスをやる上でとても有利になるので覚えておくとよい。ストックビジネス構築の順序を、(1)フロービジネスを作る→(2)「フロービジネス」のストック化、(3)ストックビジネスを作る、としているが、どのステップからスタートしてもよい、という程度のもののよう。
ストックとは、「継続的に利益をもたらすもの」という定義づけたが、これは何も利益を生み出す「仕組み」だけを言っているのではない。利益をもたらすための要因となる。たとえば「コンテンツの質」や、また「顧客リスト」などもストックと言うことができる。そして「信用」もストックになる。
ビジネスを始めるにあたり、どの業界に軸足を定めるべきか。それは、長期的な視野に立って、これから伸びるだろう業界に立ち位置を定めるか、あるいはひたすらコンテンツの質を高めることによって、需要を喚起していくか。それにより、「価格の上昇」を実現しブランド価値が上昇すると、自然とマーケティングが不要になる。そもそも需要超過という状況こそが最強のPRであり、例えば行列は最強の広告となる。いったん需要超過に立ち位置を定めれば、価格の上昇によって利幅を多く取れるばかりではなく、マーケティング費用を縮減することができるので、ダブル効果で利益をもたらすことになる。
さらに、どうやってビジネスを起こすかという観点で言えば、例えば、女子大生がおじいさんやおばあさんにfacebookのやり方を指南してお金をもらう、といった形で、顧客と自分の「スキル差」を利用してビジネスの種とするのが、最もシンプルなビジネスの作成方法。実のところ、アイディアもビジネスも、全く新しいものをイチから構築していくのは難しい。世の中のアイディアもビジネスも99%は既存のアイディアやビジネスの組み合わせや、あるいは応用から生まれたもので、全く新しいものはほとんど存在しないと考えてもよい。つまり、今あるアイディアやビジネスを組み合わせたり、定義を変えたりすることによって、新しいものを生み出せばいいだけ。これを本書では「リノベーション」と呼ぶ。
先述の収益ユニットとは「継続的に安定した利益を得るための仕組み」のことで、具体的には、(基準の)収益〔粗利益〕×増加数×継続率という構造。ただし、このうち「増加数」は増やすと言うことよりも、「保つ」ことが重要である。
そして、いずれ「ストックビジネスは経年劣化する」ことと「人間の飽き」というものの恐ろしさを痛感することになる。その経年劣化を防ぐために、これまた先述の「チューニング」が必要となるが、それはそのストックビジネスの「収益ユニット」が高い収益を上げ続けるために必要不可欠な、きめ細かい「調整」ということ。
ユーザーに購入をやめさせない仕組みの一例としては、①コンテンツの「質」を高めること、②やめる理由がない金額に設定すること、③定期的にプラスアルファを投入すること、④コスト意識を転換させること、⑤提供する数を限定化すること、⑥コミュニケーションで接触回数を増やすことなどがある。この際、値下げというのはもはや非常手段であるから、どうしても下げなければならない場合には「ここまでなら下げても損をしない」という「最低価格」をあらかじめ設定しておく必要がある。いずれにせよ、このチューニングの鉄則とは、継続率を上げて、増加数を減らさないことにある。
以上が、拙いものですが私なりにまとめた本書の要旨です。本書の定義によれば、現在の自分の仕事はほぼ「フロー」ビジネスである、という理解で間違いなく、まさに自転車操業でブラック気味です(笑)そんな我が社でもかねてよりストックビジネス的なものを模索はしていて、今後本書から得られたこともヒントにしていきたいとは思いはするものの、なかなか実現まで持って行くのは難しいのでしょうね。一方では、一消費者の立場として、ストックビジネスの術中にやすやすとハマってチャリンチャリンとお金を吸い上げられることのにないよう注意したいところです。レッズでチャリンチャリンやられてんだろ、という突っ込みも既にいただいていますが…。
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