以前ご紹介した「いたこニーチェ」の続編と理解してよいものだと思います。今回は東日本大震災直後の日本を舞台に、主人公は平凡な31歳の男性営業マン「山本」。山本は、彼の元同級生であり、実は前作の主人公だった「吉田」と久方ぶりに出会い、そして新興宗教か何かの勧誘かと思いきや「ニーチェの講義を受けて『プラトンの呪い』から世界を救う手助けをして欲しい」という荒唐無稽な願いに付き合わされる羽目になり、ニーチェの言葉を浴び続けることで徐々にその現状認識を改めていくことになります。
著者の適菜収さんはニーチェの著作"Der Antichrist"(独題、英語では"The Antichrist")を「キリスト教は邪教です!」という刺激的な邦題で訳した方だけに、現代の「脳内」に降臨したニーチェの口を借りてプラトンと、そのプラトンの「やり口」を使って世界を席巻したキリスト教を徹底的に批判し、現代社会の常識やコモンセンスのようなものの見直しを迫りまくってきます。それをコメディタッチのドタバタ劇で描いているので、さながら「哲学ラノベ」といったところなのでしょうか(ラノベ読んだことないので自信はありませんが…)。
現実世界の背後に見えない《真の世界》を『でっち上げた』プラトンと、そのプラトンのカラクリを利用して「神の国」なるものを打ち立て、イエスの教えをさえ歪めて、というかイエスの教えを正反対のことをして信者を増やしてその後の世界を支配し続けている「邪教」キリスト教やそこから生まれた「民主主義」いったものの呪縛から、震災後の日本を、そして世界を解き放て!というのが本作におけるニーチェの「教え」なのだと思います。
そもそも歴史というのは古今東西、その時々の勝者によって都合よく塗り替えられてきたわけです。従って、現代社会で「常識」とされていることをすんなりと受け入れるのではなく、疑って自分の頭で徹底的に考えるべきだ、という、ネットの普及でより莫大な情報のシャワーを浴びる昨今にあってより求められる「情報リテラシー」の基本も教えてくれているのかもしれません。やや前作の焼き直しっぽいところがあり物語としての目新しさには欠けますが、軽い「頭の柔軟体操」にはなる作品だと思います。
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