尾張の鍛冶屋からのし上がった世界的自動車メーカー「トヨトミ自動車」を舞台に、米国政府や国内外のライバルメーカーという外部との攻防は勿論のこと、内部における創業家と使用人との間の緊張関係まで描かれた経済小説。95年に創業家である豊臣家の後押しで創業家以外から抜擢された「使用人」武田剛平の社長就任からはじまり、以降サラリーマン社長が続いた後、リーマンショックにもがき苦しむ中で社長に就任するも米国におけるリコール騒動や世界的なハイブリッド包囲網など更なる困難に直面していく創業家のプリンス・豊臣統一の苦闘と、そこからの巻き返し策を打ち出すところまでを描いています。
お察しのとおりこれはかのトヨタ自動車を舞台に、創業家の後押しで社長に就任、同社の躍進とグローバル化を推し進めた奥田碩さんから、現在の創業本家直系社長である豊田章男さんまでの同社の経緯をトレースした「物語」と思われるものなのです。自動車業界担当記者の方にお聞きしても「事実と思われるエピソードばかり」とのことですので、過去にご紹介した「原発ホワイトアウト」同様、「事実をパッチワークして作られた物語」ということのようです(というわけでこちらも著者は不明)。ただ、こちらは「ほぼ史実をなぞったストーリーに大なり小なりの脚色が加わっている」というべきもので、ほとんどの登場人物はネットを駆使すれば大体実在の誰なのかわかると思います。
のっけからアラフォー時代の「トヨトミのプリンス」がホステスに入れあげてヤクザに軟禁され、そこに武田社長が颯爽と登場してプリンスを救い出す、という、事実とすれば衝撃的なシーンから始まるなど、巨大自動車メーカーの「創業家」と「使用人」たちの時に美しく、時にドロドロとした関係を中心に、局面局面のエピソード(と思われるもの)が非常に生々しく描かれているため、自動車産業関係者は勿論のこと、行政やメディアの関係者まで含めた「その筋」ではちょっとした話題になり、挙って読んでいるのだそうです。
些か陰謀論的に思われがちですが、グローバルな自動車メーカーが米国の政府と産業が仕掛けてくるえげつない「謀略」に対して如何に神経質になっているか、あるいは実際アンテナを高くしておかなければならないか、という過酷な現状。そして、企業にとって陰に陽に影響を及ぼす「創業家」という存在の「功罪」についてあらためて考えさせられる内容でした。グローバル経済下、サラリーマン社長やプロ経営者が株主と自分の報酬にばかり気を使って設備投資や技術開発を怠り短期的な利益の実現に走りがちな欧米から1周遅れの日本のコーポレートガバナンスの現状にあって、比較的長期的な視点で経営をすることのできる同族企業的な存在というのは割りと重要ではないか、と個人的には思っているのですが。
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