TOMO's Art Office Philosophy

作曲家・平山智の哲学 / Tomo Hirayama, a composer's philosophy

アニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」はなぜ凄いのか

2022年01月22日 | 哲学的考察
「ITは機械と機械をつないだにすぎません。人と人との心をつないだわけではないんです」

NHKのインタビューで台湾デジタル担当相オードリー・タンが語った言葉である。これは現在のインターネット、AI、ロボティクスを含むIT・デジタル(以下、「情報技術」と呼ぶ)の限界を端的に突いた指摘だろう。インターネットで人と人との心のつながりができたなら、既に戦争などなくなっているはずだ。(それどころか現実は米ソ、米中対立が象徴するように分断への道を突き進んでいるように見える)

さて、この情報技術の限界と予期しうる困難をいち早くアニメ化したのが「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」である。原作者は士郎正宗。監督は押井塾出身の神山健治。

攻殻機動隊の世界では人体を極限まで機械化する「義体化」という技術が発達し、義体化した人間同士で通信、インターネットへの接続が可能となっている。さらに義体の首筋には接続プラグが組み込まれており、「電脳」技術で各個人の記憶や感情の共有が可能になっている。一言で言えばサイボーグ化が極限まで進んだ世界ということになるだろう。

ゴースト~人が人たる条件とはなにか

それでも人間に残る「何か」を作中では「GHOST(ゴースト)」と読んでいる。ゴーストの定義は作中では明示されていない。感情か、心か、はたまた超越論的な純粋思惟とでも言うべきものなのか。視聴者は主人公の草薙素子やトグサ、バトーらの葛藤を見つめながら自ら考え、判断することを求められる。作中登場する天才ハッカーが図書館(紙媒体)に残された最後の司書であることは極めて象徴的である。

タチコマ~AIは意思と感情を持ちうるか

さらに示唆的なのは「タチコマ」と呼ばれる多脚戦車である。AIが搭載され、複数台あるタチコマの記憶(記録)は常に並列化され、個体差を発生させないよう一元管理されている。まさに近未来型の戦闘兵器である。ところが人間との会話や実戦経験を積むに従い、タチコマに個体差(個性)が生まれ、最終的に人間の感情に近い「何か」を獲得する様が描かれている。この「何か」を獲得したタチコマは人間があたえたコマンド=「命令」に逆らい、トグサを救うために自らの意思(らしきもの)で自爆する道を選ぶ。
これは「人間とはなにか」という哲学的問いのみならず、AIの「ブラックボックス化問題(※)」をいち早く捉えた問題提起であろう。

スカパーでの放映が約20年前の2002年であることを考えると、その先見性と情報技術に対する優れた洞察力には脱帽せざるを得ない。日本のアニメ、SFが世界に誇るコンテンツであることはやはり疑いようのない事実なのである。

※AIは超大量のデータやディープラーニングをもとに何等かの判断を下すことはできるが、その根拠を人間が理解することはできない

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(Amazon Prime Video)

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