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其角発句集 春の部 (2)

2024年06月19日 13時59分38秒 | 俳諧 山口素堂 松尾芭蕉

其角発句集 春の部 (2)

 

    三月四日雪ふりけるに

雛やその佐野のわたりの雪の袖

 註 駒とめて袖打つ拂う影も無し佐野のわたりの雪の夕暮れ

   紙雛のさうざうしさよ立ち姿

註 さうざうし 淋しいの意味

  綿とりてねびまさりけり雛の顔

   雛のさま宮腹々にましましける

  いもうとのもとにて

世わすれに我酒かはむ姪がひな

雛やそも碁盤にたてしまろがたけ

折菓子や井筒になりて雛のたけ

くり言をひなもあはれめ虎が母

段のひな清水坂を一目かな

ひなくれぬ人をはつせの桟敷哉

     永代島八幡宮奉納

汐干也たづねてまゐれ次郎貝

親にらむ鮃(ひらめ)を踏まむ汐干かな

 註 諺に「親を睨むと比目魚になる」という。

紀の國の鯛釣つれて汐干かな

貝(ばい)つるや白洲の末のながれ松

へなたりやかづき上げしは水の栗

われからと雀はすずめからす貝

     貝にて貝をむき侍るを

あさり貝むかしの例うらさびぬ

海松(みる)ふさや浪のかけたるほらの貝

藤潟や鹽瀬によするふくさ貝

すだれ貝雪の高濱みし人か

子安貝二見の浦を産湯哉

     貝ぞろへを送られしに

蛤のしかもはさむかたま柳

鐡槌にわれから嬴螺(にし)のからみ哉

江の島や旦那跡から汐干がひ

東潮留守見舞

出代や人おく世話も連衆から

傀儡師阿波の鳴戸を小うた哉

     伊勢の雪津を過侍る

馬に出る孤を待つもんや傀儡師

     露沾公司庭にて

寝時分にまた見む月かはつ櫻

沓足袋や鐙にのこる初ざくら

     一筆令啓上候と招かれて

はつ櫻天狗のかいた文みせむ

いざさくら小町が姉の名はしらす

猿のよる酒屋きはめて櫻かな

京中へ地主のさくらや飛ぶこてふ(胡蝶)

     仁和寺

いなづまのやどり木なりし櫻かな

八つ過の山のさくらや一沢み

     雨 後

さくらちる彌生五日はわすれまじ

さくら狩けふは目黒のしるべせよ

     妙鏡坊より花送られしに

文はあとに櫻さし出す使かな

     上野清水堂にて

鐘かけてしかも盛のさくら哉

     折るに殺生偸盗あり

あた也と花に五戒のさくら哉

これは/\とばかり散るも櫻かな

     上野にて

浮助や扈従見にゆく擾寺

  註 浮助は「うかれ者」

芳野山ぶみして

明星やさくらさだめぬ山かつら

口びるを魚に吸はるゝさくら哉

     大悲心院の花を見侍りて

灌頂の闇より出て櫻かな

     酒のさかなに櫻花をたしなむ人に

下臥に漬味見せよしほざくら

墨染に鯛さくらいつかこちけむ

身をひねる詠(ながめ)なりけり糸ざくら

     浦人の花をもらうて

   ちる時を計に買はむ磯ざくら

     花中尋友

饅頭で人をたづねよ山ざくら

山ざくら鏡戀しき偕あらむ

やまざくら猿をはなして梢がな

     石河氏宜雨公の山荘にて

二すぢの道は角豆かやまざくら

ひまな手の鎗持寒し山ざくら

     目黒松隣堂にて

浮世木を麓にさきぬやま櫻

小坊主や松にかくれて山ざくら

土取の車にそふや山ざくら

     辛未の春上野に遊べる日門主薨御のよしをふれて

世上一時に愁眉ひそめしかば

其彌生その二日ぞや山ざくら

     含秀亭の花植ゑそへ給ふに

植足(うえたん)に三切の供や山ざくら

     勢多春望

山ざくら身を泣くうたの捨子哉

荼もらひに此晩鐘をやま櫻

萬日の人のちりはや遅ざくら

     一食千金とかや

津の國の何五両せむさくら鯛

友猿のともぎらひすな花ごろも

縁からはこなたおもふや花の庭

泥坊や佗のかげにて踏まれたり

     行露公熱海へ御浴養の頃

脇息にあの花をれと山路かな

花鳥もうつゝとならむ願かな

     含秀亭の山ぶみに御供して

御近習や花のこなたにかたをなみ

花ひとつたもとにお乳の手出し哉

地うたひや花の外には松ばかり

     讀荘子

彼是は嵐雪の協花のうそ

     門柳岸を彿ふ折ふし鶯啼く

御用よぶ丁兒(でっち 丁稚)かへすな花の鳥

花見哉母につれだつ盲兒(めくらちご)

     護國寺にあそぶ時馬にて迎へられて

白雲や花になりゆく顔は嵯峨

はなざかり瓢ふみわる人もあり

大佛膝うづむらむ花の雪

世の花や丑年已前の女とは

     憶 芭蕉霜

月花や洛陽の寺社残りなく

傀儡の鼓うつな心花見哉

寝よとすれば棒つき廻る花の山

花に遂げて親達よばむ都かな

     立君をあはれむ

ざれありく主よ下人よ花ごろも

徳利狂人いたはしゃ花ゆゑにこそ

花ざかり子であろかるゝ夫婦哉

人は人を戀のすがたや花に鳥

     庚申の雨といふ題にて

此降を人が延ざる花見かな

ちるはなゃ踏皮(足袋)をへだつる足の心

此雨に花見ぬ人や家の豆

     九條殿御下向

傳奏にものかは見ばや花の門

     雑司ヶ谷にて

山里は人をあられの花見かな

花折て人の礫(つぶて)にあづからむ

屋形舟花見ぬ女中出にけり

     意馬心猿解

立場の目くは猿のはなごころ

     永代寺池邊

池をのむ犬に入相のはなの影

をろとても花の間のせかれ哉

     侍 座

花にこそ表書院でお月代

     神力品現大神力

法の花ちるや高座をたゝく昔

はな笠を着せて似合うはむ人は誰

     惜花不掃地

我奴落花に朝寝ゆるしけり

日輪寺の僧と對興して

花に酒僧どもわびむ鹽ざかな

   花に都ものくるゝ友はなかりけり

かんざしや散りゆく花のおちしにも

     上野御

わたり徒(がち)見立つる頃の花見哉

酒を妻つまを妾の花見かな

     妓子萬三郎を供して

その花にあるきながらや小盞(さかづき)

花に来て邸は幕のさかり哉

     代

彫リ笛ヲ縫テ蓑ヲ花に晴せむ浮世かな

車にて花見をみばや東やま

     尋 花

植木屋の亭主留主なり花いまだ

この/\と花の名残や杖筇(つえおうぎ)

     湖春をいたみて

泣てよむ短尺もあり花は夢

     甫盛はじめて上京に

花ぞ濃伊勢をしまへば裏移

名ざかりや作(たて)戀吾郎花定め

    行露公年々花を給はることし遅かりければ

花を得む怯者の夜道に月を哉

はな下げてやりてがひとり寺参り

花に鐘そこのき給へ喧嘩買

註 鎌倉権五郎景政

客ずきやこゝろを花に俘蔵主

     榎島

花風や天女負れて歩(かち)わたり

     宰府参詣の舟中

菜のはなの小坊主に角なかりけり

海棠の花のうつゝやおほろ月

山吹は黄玉青玉露ぞうき

     三月正當三十日

やまぶきも柳の糸のはらみ哉

月雪に山吹花の素顔よし

     浅草川逍遥

鯉の義は山吹の瀬やしらぬ分

小鳥居は葉守の神かつゝじ山

こゝろなき御影さんはに岩つゝじ

日夕のはしゐはじむるつゝじ哉

亦是より木屋一見のつゝじ裁

   きりしまに豆腐を切て捨てばやな

柴舟の里は茶摘の水けぶり

白藤を酢みそにつ但ふ雫かな  

畫 讃

藤の花これまで顕れいで蛸なり

ふぢ咲きて松魚(鰹)くふ日をかぞへけり

水影や鼯(むささび)齢わ但るふぢの桶

錦にも脂の虱(しらみ)憎からし

よそに見ぬ石の五徳やふぢの露

     秋航庭せゝりせらるゝに

たそがれや藤うゑらるゝ扇取

     若狭嘯公侍従になりて、京使にたち給ふを祝して

藤浪や廿七人草履とり

こゝかしこかはづ嗚く江の星の數

ちんば引く蝦にそふる涙かな

     市間喧

   つけ木屋の手なら足なら雨蛙

景政が片目をひろふ田螺かな

     ある人の子の名をきいて

ことわりや養ひ子なら蜂之劫

     竹に蜂の巣かけし繪に

なよたけのさゝら三八宿とこそ

何必逃杯走似雲

此虻をたばこで逃すけぶり哉

     龍樹菩薩の禪陀伽王に封して貪欲をしめし給ふにたとへば

有瘡人近猛煙始雖悦後増苦の文の心を

雁瘡のいゆる時えし御法かな

     魔訶止観に一目之羅不能得鳥得鳥之羅唯是一目此文のこゝろを

   鳥雲に餌差(えさし)ひとりのゆくへ裁

     南村千調仙臺へかへるに

行春や猪口を雄島のわすれ貝

     三月盡

   鳶に乗て右を逞るに白雲や


其角発句集 春の部 炊高久械考訂

2024年06月19日 13時57分11秒 | 俳諧 山口素堂 松尾芭蕉

其角発句集 炊高久械考訂

 春 之 部

日の春をさすがに鶴のあゆみ裁

鐘ひとつ賣れぬ日はなし江戸の春

鶴さもあれ顔淵生きて千々の春

     題黄金

目には見ず一萬枚を群代の春

世の中の栄螺も鼻を明のはる

   松かざり伊勢が家かふ人は誰

神明町に居をうつして

行きあひの松もかたそぎ飾竹

年たつや家中の禮は星月夜

明くる夜のほのかにうれし嫁がきみ

元日や月見ぬ人の橋のおと

元日の炭賣十の指くろし

破魔弓や常時紅裏(もみうら)四天王

     手握蘭口含雞舌

ゆづり葉や口にふくみて筆はじめ

師走の分野(さま)是かや春の物ぐるひ

     高砂住の江の桧を古今萬葉のためしに引かれしより

     散りうせすして連歌に傳ふしからに

此松は枝葉百間にあまりで諸木にことなら景色尤俳諧なるべし

蓬莱の松にたてばや曾根の松

     蓬莱の讃

島ぞよる三つの書院のかがやくまで

庭竈(かまど)牛も雑煮をすわりけり

     春王正月老

生死のむかし男ぞ水いはひ

     したしき友に

こなたにも女房もたせむ水祝ひ

若水に松魚(かつお)の躍る涼しさよ 

     福禄寿(ふくろくじゅ)の讃

長き日や年のかしらの影法師

はつ夢や額にあつる扇より

寳引に蝸牛の角をたゝく也

     寳引の讃

保昌がちからひくなり胴ふくり

     衆鼠人懐の夢をひらきて

引きつれて松をくはへる鼠かな

     大根画賛

兵のひかへてふたり子日かな

松かさやまはさば独楽にまはるべぐ

花さかば告げよ尾上の畚(ふご)おろし

帯せぬぞ御代ならまし踏歌宴

蛭子帋かけとり帳の三枚目

十一日

お汁子を還城楽のたもと哉

     大黒殿をいさめ申せとて樽送られしに 

年神に樽の口ぬく小槌かな

     漸覚春相泥といふ切句

削りかけ膏薬ねりの鼻にあれ

景清か世帯見せぬや二薺(なずな)

百人の雪かきしばし薺ほり

とばしりも顔に匂へるなづな裁

七種や明けぬに婿のまくらもと

なゝ草や跡にうかるゝ朝がらす

さわらびの七種打は寒からむ

砂植の水菜も来たり初若菜

     二人静のかけものに

なつみ哉扇ふたつを飛ぶこてふ(胡蝶)

うかれ雀妻よぶ里の朝若菜

畠から頭巾よぶなり若菜摘

傘特はつくばひなれし若菜裁

     長嘯の記をおもひ出て

土手の馬くはむをむげに菜摘かな

菜摘ちかし白魚を吉野川に放てみう

     河州八尾嫁そしり

うすらひやわづかに咲ける芹の花

     渓邊雙白鷺

沐(ユア)ぶ鴛芹梳るながれかな

萬葉集にも朱雀の柳と侍、所がらのけしきを

たびらこは西の禿にならひけり (たびらこは佛の座)

     正月廿日冠里公に侍座

菜刻みの上手を握る蕨かな

     新二十三開堂

若草やきのふの箭見も木福音

参宮の四判は来たり亥子の開

巻の水かろく能書の手をはしらす

ちくま川巻ゆく水や鮫の髄

     四十の賀し給へる家にて

御秘蔵に墨をすらせて梅見哉

なつかしき枝のさけめや梅の花

うめが香や乞食の家ものぞかるゝ

     小庭にうつしたる栴の小枝に鵙(もず)の草莖を見出て

人々に句をすゝめけるついで

梅の名をうたてや鵙のやどりとは

さす枝のゆきとどかぬや繪馬のうめ

     等躬あいさつ

やみの夜のをりないかとは樹の袖

百八のかねて迷ふや闇のうめ

進上に闇をかねてやうめの花

こつとりと凪のやむ夜は藪の梅

     旅立ける人に

古郷へうめをり入れよか仁な箱

     不曲亭

あぜをこす目あても梅の匂ひ哉

腕押のわれならなくに梅のはな

三日月の命あやなしやみの俗

     元禄十四年二月廿五日聖廟八百齢御年忌

於龜戸御社詩歌連俳令興行一坐

梅松やあがむる数も八百所

箒木のゐぐひは是に闇のうめ

     和心水推敲之列

たゝく時よき月見たり梅の門

     自主改名

白黒の間の障子やうめと星

     梅津硯水會に

窓をやれと梅ほころびぬ大家中

     宰府奉納

守梅のあそびわざなり野老賣

     元日眞珠喰ひあてし人の句を祝へといふに

夜光る梅のつぼみや貝の玉

小袖着せて俤にほへ梅がつま

     仙石壹岐守殿正月五日にみまかり給ひぬ

玉芙公に御悔申上侍るとて

外様まで手向のうめを芦みけり

     久松肅山亭にて   `

梅寒く愛宕の星のにほひ哉

  

     梅津氏の祖父大坂表の軍功によりて御感歌詞太刀を頂戴せらる。

正月十七日の朝とかや、上杉蜂須賀等の家臣十七人と也家の風相つたへて

     今も正月十七日鏡開の興行あり

其雫家督執権として此春の賀會あり

幡持を文豪脇やヽ不めのはな

宿のうめ樅いかばかり青かつし

 

     芭蕉翁 百ケ日懐舊

墨のうめ春やむかしの昔かな

  

氷肌玉骨とかや

むかしみし花にも香にも梅の皮

うぐひすの身を逆にはつねかな

鶯よいでもの見せむ杉鋏

  

芭蕉庵をとひて

うぐひすや十日過ぎてもおなじ梅

 

     あらし座にて

鶯の子は子なりけり三右衛門

うぐひすに罷出でたよひきがへる

うひすの曉寒しきりぎりす

鶯に薬をしへむ聲偉のあや

     市 隅

竹と見て鶯来たり竹虎落(たけもがり)

うぐひすや鼠ちりゆく閨のひよ

荼臼にとまりたる畳に

鶯やこほらぬ聲を朝日山

     茶杓にとまりたる畫に

うぐひすの曲げたる枝を削りけむ

鶯がねぐら笛ふぎおこせ笹鼬(いたち)

うぐひすや遠路ながら禮がへし

うぐひすに長刀かゝるなげし哉

     柳上鷺の圖に

さかさまに鷺の影見る柳かな

まがれるをまげて曲らぬやなぎ哉

蝸牛豆かとばかり柳かな

風なりに青い雨ふるやなぎ哉

     傾城の讃

青柳の額の櫛や三日の月

青柳に蝙蝠つたふタばえや

柳には鼓もうたず歌もなし

欄干や柳の曲をつたふ狙

    山更上京

貫ざしもわかねて軽き柳かな

傾城の賢なるはこの柳かな

’    こと葉書有略

焼けのこる琴にうらみの柳哉

     芭蕉の自畫十三懐周之讃

師の坊の十年しばし柳蔭

     正月己巳布施弁財天へ詣侍る奉納

玉椿畫と見えてや布施ごもり

白魚や漁翁が歯にはあひなから

しら魚の罾(よつで)にあがる雲雀かな

     白魚露命

月と泣く夜生雪(いつまで)魚の朧闇

しらうをの色かはるもの川げしき

白魚や海苔は下邊の買あはせ

行く水や何にとどまる海苔の味

のりすゝぐ水の名にすめみやこ鳥

一升はからき海より蜆(しじみ)かな

石ひとつ清き渚やむき蜆

陽炎や小磯の砂も吹きたてず

     四睡圖

   かけろふに寝ても動くや虎の耳

   梟(ふくろう)にあはぬ目鏡やおぼろ月

     黙印半面美人の字を彫て琴形の中に備へたるを始めて

     冠里公の満句の柳谷に御巻に押し弘め侍るとて

春の月琴に物かくはじめ哉

おぼろとは松の黒さに月夜かな

     二月十七日原驛

富士の朧都の太夫見て誉めむ

     沾徳岩城に逗留して餞別の句なきを

恨むよし聞え侍りしに

松島やしまかすむとも此ついで

     不二の繪にのぞまれ侍り

三帆舟は鹽尻になるかすみ裁

     みの路にかゝり侍るに

孫どもの皿やしなふ日向かな

はるさめや桑の香に酔ふ美濃尾張

春雨やひしきものには桔つゝじ

綱が立て綱が噂の雨夜かな

この雨はあたゝかならむ日次(ひなみ)かな

     本多總州公にて

春の夜や草津の鞭の夢ばかり

     遠遊酔帰の駕のうちにて

はるの夜の女とは我むすめ哉

     三州小酒井村観音奉納

卸意輪や鼾(いびき)もかゝず春日影

伶人の門なつかしや春のこゑ

     悼後立志初音答也

昔かなはつ昔三井寺夢の春

引きかへて燕をはたのに春の駒

     畫賛

浦島がたよりの春か鶴の聲

たねかしや太神宮へひとつかみ

舞鶴や天気さだめて種下し

たねおろしも俵にわたす小橋かな

苗代や座頭は得たる畝づたひ

     格技繪馬合に

   ことし斯螽(いなご)ふえたり稲荷山

     禁固を破りて暇を玉はる也

破(やぶいり)や見にくい銀を父のため

やぶ入りやそれはいなばの是は星

薮いりや一つはあたるうらや算

薮入や早いにろくなつらはなし

やぶ入りや牛合點して大原まで

     故赤穂主浅野少府監長矩之舊臣大石内蔵之劾等四十六人

同志異體報亡君之讎今茲二月四日官裁下命一時伏刄齊屍

萬世のさへづり肺肝をひるがへし肺肝をつらぬく

   うぐひすに此からし酢はなみだ哉

  

参考資料 

明穂浪士討ち入り 詳細 日本随筆 : 山梨県 歴史文学館 山口素堂資料室

 

     畫 賛

拾得の鳳巾にからむや玉箒

かつしかや江戸をはなれぬ鳳巾(いかのぼり)

     支考が遠遊のこゝろざし有りけるに

白河の間に見かへれいかのぼり

     人に胡椒の粉をふりかけられて

耳ふつてくさめもあへす嗚く音哉

     自 得

蝶を噛んで子猫を舐めるこゝろ哉

     或お寺にねう比丘とて腰のぬけたるおはしけり住持の深く

いとほしみ申されしに五の徳を感す

能睡 あたゝかな所嗅ぎ出すねぶりかな

能忘 おもへ春七年かうた夜の雨

能捕 鶉かと鼠のあぢを問てまし

能狂 陽炎としきりに狂ふ心かな

能耽 髭のあるめをと珍し花心

     吉原の初午

はつうまや賽銭よみは芝居から

    はつ午に寺のぼりの例をふたりの御子達に祝願いたし候   

いの字より習ひそめてやいなり山

     奉 納

金柑(きんかん)や冬青(もち)にさしても稲荷山

爰にけふ御馬水かへ水間寺

     惜 春

梅ちるやこれを箕にせむ鳳巾

すべらすに筏さす見よ雪の水

     類焼のころ邊鄙の居を問て一樽に玉子を送る人に

わらづとや雪の玉水十とよむ

杉起きて畠をみする宵闇哉

     浅茅が原出て山寺に遊び畠中の梅のほつえに

六分ばかりなる蛙のからを見付て鵙(もず)の草莖なるべしと折取侍る

草莖をつゝむ葉もなき雪間哉

霞きえて不二を裸に雪肥えたり

足あとをつまこふ猫や雪の中

猫の子のくんづほぐれつ胡蝶かな

近隣戀 京町の猫通ひけり揚屋

寄竹戀 埋られたおのが斑■

幼 戀 箒木の百目なき子に別かな

寄寺戀 柏木の柳もそれかあがり猫

思仙戀 飯くへば君か方へと訴訟猫

疑 戀 花の夢胡蝶に似たり辰之助

御 忌

人の世やのどかなる日の寺ばやし

わたし舟武士はたゞのる彼岸哉

     授記品無有魔事

くもりしが降らで彼岸の夕日影

     不生不滅のこゝろを

海棠の鼾を悟れ涅槃像

     佛若し大晦日に人減し給はばいかに佛ともとんちやくすべき

かゝる衆生のためには往生もふのものなるべし

佛とはさくらの花に月夜かな

     二月十九日上京発足

西行の死出路を旅のはじめ哉

寒食や竈下に猫の目を怪む

今案するに寒食の家には自身番餅配り国柄人(くずびと)ごまめ奏してより

野老賣こゑ大原の里びたり

はつ茸の盆と見えたり野老賣

駒とめて雪見る僧に蕗のたう(蕗の薹)

うめが香や此一すぢをふきのたう

竹の香や柳をたづね蕗の薹

     菜 苑

黒胡麻でこゝをあへぬか土筆(ツクツクシ)

すこ/\と摘むやつまずや土筆

野鼠のこれをくふらむ土筆

泥亀の腕とおもへば土わさび

山里の名もなつかしや作り獨活

     南都にあそぶ雨

傘や薪の夜のあれとほし

ねぶる蝶よる/\何をする事ぞ

     見獅手仱有感

蝶しるや獅子は獣の君なりと

百とせはねるが薬の胡蝶かな

     無車馬喧

夕日影町中にとぶ胡蝶かな

蝶とぶや猿をよびこむ原屋敷

藁屑に花を見すてしこてふ哉

     釋 菜

聖堂にこまぬく蝶もたもと哉

雀子やあかり障子の笹の影

山の端におつ鳥をかへす入口かな

    画 讃

燕やかろき巣を曳くいかのぼり(烏賊幟)

からかさ(唐笠)に塒(ねぐら)かさうよぬれ燕

川燕纚(さで)緬さす邪魔と見ゆる哉

     柳燕の圖

乙鳥の塵をうごかす柳かな

海づらの虹をけしたる燕かな

茶の水に塵なおとしそ里つばめ

階子からとふさに及ぶ乙鳥かな

帰る雁米つきも古郷やおもふ

小田かへす鍬もはしらや残る雁

     市川才牛追善 一子九蔵名を継ぎ侍る

塗顔の父はながらや雄子の聲

世の中は何かさかしききじのこゑ

うつくしき顔かく雄子の距(けづめ)かな

     角田川にて

なれも其子を椋ぬるか雉子の聲

人うとし雉をとがむる犬のこゑ

帆柱のせみよりおろす雲雀裁

蜻蛉や雲雀あがれとか夕日かけ

     浅草川泛舟(うかぶふね)

   川上は柳か梅かもゝちどり

俗にいふ姑獲鳥(うぶめ)なるべし呼子烏

註、うぶめは産婦の死して化けしたる鳥なりと云う。

 

花さそふ桃や歌舞妓の脇踊り

 註、花は歌舞伎の本狂言、桃は脇踊りとなり。

 

醴(甘酒)に桃李の詩人髭しろし

菓子盆にけし人形や桃の花

緑豆(やへなり)の頭もしろし挑の眉

燕にすさめられてや庭の桃

あけほのやことに桃花の雞こゑ

鶏の獅子にはたらく逆毛哉

順禮はよそにをがむや鶏あはせ

勝足をひたさば關の清水かな

炭喰の聲だにたゝぬねらひ哉

毛ごろもに腹黒き名を雪(きよめ)けり

老鳥のけふわかやぎぬ固本丹

割つて入るくるみ花冠も箕手かな

     王子曲水もよほされて

水呑を烏帽子にきせむ岩つゝじ

曲水にあの気違は茶碗かな

曲水や筧まかする宿ならば

おはしたに木兎もあり鶵座敷

かつらぎの神はいづれぞ夜の鶵(雛)

 註 葛城神は夜間のみ出で歩きくと云う

もどかしや雛に対して小盞(さかづき)

見てのみや盗まぬ雛は松浦舟

上座ほど雛のすがたの新なり

傳へ来てひなのたからや延喜錢