能登山から椿漁港を望む
むかしむかし ある春のこと男鹿の浜辺の村に 遠い都から船に乗って
行商の若者がやってきた。若者はさまざまな美しいものを売って歩いていた。
そして、乞われるままに、都や遠い国の珍しい話を語って聞かせた。
村に笑顔の美しい娘がいた。毎日海に潜って 貝や海草をとる働き者だった。
二人は浜辺で出逢い、浜近くの小高い丘の上で 都や浜の話をした。
やがて、冬も間近になり、若者が言い出した。「もう都にかえらなくては ならない
でも 来年の春にはあなたを きっと迎えにこよう」
「そのときには どうぞ都に咲くという椿の赤い花をもってきてくださいね」
若者は旅立ち、冬が来た。しかし椿の花を思って娘の心は暖かかった。
春 娘は毎日丘に登って南の沖をながめた。
ながめ続けたが 若者の船は来なかった。「必ず着てくれる」
信じる心をささえに 2度目の冬が過ぎたが、この春も若者は来なかった。
暗く長い3度目の冬。ようやく春がきて、丘の上に立った娘の顔はやつれ果てていた。
そして ある日娘は断崖から海に身を投げた。
若者の船がついたのはすぐそのあとだった。娘の話を聞かされ若者はなげき悲しんだ。
若者はあの丘に登り、花のかわりにもってきた椿の種をうめた。
椿はこの寒い北国に根をおろし、やがて春ごとに 娘の見たがった真っ赤な花を
咲かせるようになった。
(男鹿に自生する北限の椿にはこんな悲しい話が伝えられています)
男鹿半島 椿漁港の近くに 北限の椿山 能登山があります。