先日、30代なかばの男性と話していて、びっくりした。
彼は食べ物の中で和風の煮物が一番嫌いだと言う。
10代は別にして20代以上の男性はみーんな和風の煮物が好きだと私は思っていた。
それさえ、きちんと作ることが出来れば、男性は料理に関して文句を言わない。
浮気もしない。
煮物がちゃんと出来れば、男性は無条件に大喜びすると、決めつけていたからである。
「だから、うちの奥さんは楽だって言ってます。子供と同じ、ハンバーグとかパスタを作っていればいいのだから」彼はそう言って笑った。
子供が生まれると、お父さんの食事は一変して、お子様風になると聞いたことがある。
お母さんだって料理を子供用とお父さん用と二種類作るのは大変だから、ついつい、お父さんは我慢させられる。
仕事から疲れて帰ってきたというのに、真っ赤っかのケチャップ味のスパゲッティを食べさせられるのは気の毒だと同情していたのだが、そういう方がありがたいという彼の言葉は、男性の味覚に対して固定観念を持っていた私には衝撃だった。
私は料理は下手だが、和風の煮物さえクリアすれば、これから男性をおびきよせることも出来るんじゃないかとふんでいた。
しかし、こういう人がいるとなると、私の計画も変更せざるをえないかもしれないのである。
彼の味覚が子供の頃から、どのように発達してきたかは定かではないが、今まで食べた中で一番嫌いだったのが「ブリのあら煮」だったという。
彼は高校生の時にガールフレンドの家に遊びに行った。
彼女のお父さんは大工の棟梁で、わしわしと丼飯を山ほど食うのが男だと思っているタイプであった。
娘のボーイフレンドである彼の堂々とした体格を見たお父さんは喜び、「飯を食っていけ」と誘った。
彼も断る理由がないので一緒に食卓につくと、目の前に出されたのが、特大の器に山のように盛られたブリのあら煮だったのである。
げっとのけぞったが好きな彼女の手前、嫌な顔をするわけにもいかない。
お父さんはにこにこしながら「これ、うまいぞ」とすすめる。
そこで彼は死ぬ思いで丼飯とブリのあら煮をかきこんだ。
もたもたしていると喉に詰まるし、息をするとあら煮の妙なにおいがするので、殆ど息をとめて、ろくに噛まず、お茶とご飯でどんどん胃の中に落とし込み、やっと丼を空にした。
すると、お父さんが「おお!たのもしいなぁ、男はそれでなきゃいかん。どうだ、もう一杯」とご飯をよそおうとする。
「いえ、もう十分いただきましたから」
「若いもんがだらしがない。丼飯の一杯や2杯、どうってことないだろ」とご飯がてんこ盛りになった丼を彼の前に置いた。おかずは相変わらず、ブリのあら煮だけである。
つづく
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