彼女の家に行き、晩御飯に大嫌いな「ブリのあら煮」を出され、無理やり流し込んだ・・・これは彼にとっては拷問に等しいものだった。
彼女のためにと3杯の丼飯を喉の奥へ押し込んだのだが、家に帰った途端に熱を出し、三日間、寝込んだと言っていた。
「もう、絶対、ブリのあら煮はいや!!」
彼は心底、ブリのあら煮を憎んでいるようだった。
私はご飯とブリのあら煮があれば、それで十分である。
骨からいい味が出て、あんなにおいしいものはないし、あらの微妙に湾曲した部分にへばりついている魚肉を、お箸でこちょこちょかきだすのも楽しい。
魚は骨があるから面倒くさいという人がいるが、骨があるからこそ、食べていて楽しいのだ。
骨がが全部、取り除いてある、お上品な魚の切り身を食べていても面白くも何ともない。
おいしくて、骨から身をはがす遊びのある、ブリのあら煮などは最高の食べ物なのだ。
私がそう力説しても彼は納得なぞしない。
「信じられない」と言って私に軽蔑のまなざしを向ける。
そして「日本にハンバーグや、スパゲッティや、ピザが入ってきて本当に良かった。昔ながらの日本の料理だけだったら、おれはもう、生きていないと思う」と真顔になったのだった。
そうは言っても昭和40年代のはじめに生まれた彼は、いわゆる典型的な日本人の味を毎日、食べた世代であるはずだ。
パンよりもご飯、肉より魚、ケチャップよりも、しょうゆ味。それなのに何故、今になって自分の年齢よりもはるかに幼い、お子様向き味覚になってしまったのか?理解できない。
確かに子供のころは、特別、煮物やイワシの丸干しがおいしいとは思わず、それよりも卵焼きや洋食に心を奪われる時期もあった。
中学生の時にクラスで一番、最初にピザを食べた女の子がいて彼女は得意気に「ピザって手で食べるのよ。チーズがこーんなに伸びるんだから」と自慢した。
私達はその話を舌なめずりして聞き、自分も食べた時は「こんなにおいしいものがあったのか」とうっとりした。
つづく
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