愛ーエステ

長年のエステティシャンとしての経験を生かし正しいスキンケアをお伝えします。

母の病気2

2019年05月15日 | 美容

レースとリボンだらけのネグリジェを見た母は「あらっ!」と言ったきり、しばし絶句していた。

 

 

 

「もったいないから着てみたら?」

 

 

 

そう言われてしぶしぶ私は、Tシャツの上からネグリジェを着てみた。

 

 

 

 

まるで肩が落ちそうなくらい、襟ぐりが大きく開いていて、そこにレースが二重、三重についていて、中央にはピンクのリボンだ。

 

 

 

そして透ける身ごろはギャザーの三段切り替えになっていて、そこにも、これでもかというくらいに、レースとリボンがあしらってあった。

 

 

 

 

「あら!!」再び母は絶句しつつ、笑いころげていた。

 

 

 

 

段々ギャザーの透け透けネグリジェを着た私は、まるで松ぼっくりそのものだった。

 

 

 

 

「女の子だったら、みんなこういうのが好きだと思っているのね。娘さんがいないからしょうがないんだけど、これは、ちょっと違うわねぇ」

 

 

 

 

母はネグリジェのタグを、もう一度確認しながら、「フランス製なんだけどねぇ、これじゃあねぇ」と何度も繰り返しながら暗い顔をしていた。

 

 

 

 

私に似合うというよりも、医者の奥さんが、そういったふりふり趣味の人だったのだろうけれど、こんな透け透けのネグリジェなんか、こっぱずかしくて着られない。

 

 

 

 

一応、奥さんにはお礼は言ったものの、押し入れの引き出しの奥深くしまいこんでいた。

 

 

 

しかし母は「もったいない、もったいない」と言う。

 

 

 

あんなに私には似合わないし、趣味ではないとわかっていながら、「もったいない」を連発したのである。

 

 

 

 

娘に似合わないのは重々わかっていながら、放ってあるネグリジェを思うと「もったいない」は体の奥からじわじわと、わきでてくるみたいなのだ。

 

 

 

 

「どうせ外に着てでていくわけじゃないんだから着たら?」遠慮がちに母は言った。

 

 

「やだ!」

 

 

つっぱねると彼女は「それはわかるけれど、もったいない」と自分の部屋に持って行った。

 

 

 

そして「私が着ようかしら」と言って試着したが彼女の姿には、私以上にすさまじいものがあった。

 

 

 

それ以来、そのネグリジェを見ていないが、きっとまだ捨てずに持っていると思う。

 

 

つづく

 

 

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