私の母は大正生まれで「もったいない」が口癖である。
何でもかんでも、もったいないを連発する。
物を大切にするのは立派な心がけだが、時と場合によっては、あんまりだと思うことも多い。
まだ私が学生の頃、近所に二人の男の子を持った、お医者さんの奥さんがいた。
留学経験もある人で色白で美しく「ちょっとそこまで」という買い物が、いつもベンツだったのが近所の評判になっていた。
たまたま、うちの母が彼女に編み物を教えていたので、知り合ったのだが、奥さんは「お嬢さんがいらしていいわねぇ」と、いつも言っていた。
彼女は結婚した時から将来は女の子を産んで、いっぱい服を買って着せ替え人形みたいにしたかったのだ。
しかし生まれたのは男の子で、心底、がっかりしたのだそうだ。
母が私と歩いていると、いつも彼女は、羨ましそうにしていた覚えがある。
ある時、私は彼女から誕生日プレゼントをもらった。
「一度でいいから自分に女の子がいるつもりで、着る物を選んでみたかったの。寝間着なんですけれど、気にいっていただけると嬉しいわ」
私は家に帰って箱を開けてみた。
まっさきに飛び込んで来たのは、豪華な真っ白いレースだった。
そこには大きなピンク色のリボンがついている。
「げげっ」
嫌な予感がして箱から中身を出してみると頭がくらくらした。
なんとそれは、薄いクリーム色の透け透けのネグリジェだったのである。
フランス製で生地も仕立てもよく、間違い無く高価なものだったが、明らかに、私の趣味とは、ほど遠いものだった。
今でもそうだが、私は豪華なレースとかリボンのついた服は大の苦手だし、第一、全く似合わない。
オカマに見えてしますのだ。
当時はジーンズばかりはいていたこともあり、そういうヒラヒラした女っぽいものに、より嫌悪感を持っていたのである。
それを見た母は「あら!!」と言ったきり、しばし絶句していた。
つづく
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