2017年06月26日 10:55国際
試練に晒されている文大統領の外交
日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
お断りしておくが、私はプロの政治評論家ではない。今回は、一般市民の目線で、韓国外交はどのような方向に進もうとしているのかを書いてみたい。
外交の世界では、国力が物を言う。韓国のように世界列強に挟まれていては、外交は甚だ難しい。
それに、いつの時代もそうであったように、外交というのは、表向きにはいろいろな理屈はあっても、結局は自国の利益を優先することになる。
現在、世界各国はそれぞれ大きな課題を抱えていて、露骨に自国の利益追求に躍起になっている。
そのような状況のなかで、韓国に課された外交課題は、北朝鮮の核開発の中止、THAADミサイル配備に関する決定、慰安婦問題の円満な解決などであろう。
まず、韓国の国内事情に触れておこう。去年10月ごろから文大統領が就任するまで、韓国の政治には空白があった。
今、1つずつ明らかにされているが、常識では考えられない国政介入、不正と不透明な意思決定が前の政権では行われていた。
たしかに韓国は、普通なら100年くらいかかる経済成長を30年という短い期間に成し遂げた国である。しかし、高速成長がもたらした社会のさまざまな弊害が、今まさに噴出し始めている。
筆者の世代は、親の世代の苦労もよく知っていると同時に、親の世代の問題もよく知っていて、それを変えたいという問題意識を持った世代である。
経済が大事であることには間違いないが、経済発展のためにすべてが犠牲になるべきではないと考えている。
経済成長が少し遅れることになっても、このあたりで韓国社会を改造しないと、韓国に未来がないと思っている。
朴前大統領に対する弾劾は、旧時代に対する弾劾でもある。
今回、ろうそくデモを主催したのは、民労組という極左団体であるという指摘もあるが、今回のデモを通じて国民は極左の主張に賛成したわけではなく、新しい時代の到来を希望したのだ。
日本のマスコミでは、国民の感情に流されて朴大統領が弾劾されたという主張も見られるが、それは事実をあまり知らない話である。
また、日本のマスコミでは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領を親北と決め付けているが、実際は少し違うような気がする。
文大統領は、貧しい家庭で生まれ、人権弁護士という道を歩んでいたため、経済的にはそれほど恵まれなかった。
特権意識や優越感で人の意見を聞こうともしない前大統領とは対照的で、そのような側面が国民に大いに受けたかもしれない。
文大統領は盧大統領の秘書室長として国政に深く関わった経験もあって、その経験が有効に活かされることを国民は期待しただろう。
文大統領は人の意見を傾聴し、よく考えてから行動に移すタイプである。弁護士であったため、人の話を聞いて判断する能力に長けていて、頭も明晰なようだ。
しかし、そのような文大統領にとっても、外交問題は大きな試練になるだろう。ところが、日本のマスコミが伝えているように、北朝鮮一辺倒ではない。
このあたりを日本人に理解してもらうことは、並大抵のことではない。
韓国国内でも北朝鮮に対して下手な発言をすると、すぐ北朝鮮に同調する勢力として罵倒されることもあるので、意見を言うのも、慎重にならざるを得ない。
韓国国内だけではない。北朝鮮問題の解決をめぐっては、各国の立場も少しずつ違う。
しかし、冷静に考えてみてほしい。問題解決の大原則の1つに、人間は自分を変えることはできても、他人は変えられないというのがある。
すなわち、問題の解決に外部に頼るのではなく、当事者同士で解決するのが早道であると考える人たちがいる。
北朝鮮を敵だとしか思わない韓国の保守勢力にとっては、このような思想は危険極まりない思想である。
北朝鮮が好きで助けるのではなく、戦争を抑制し、結果的に平和をもたらすために北朝鮮を刺激しないようにしようということなのに、場合によっては、それは大きな誤解を生む。
北と南の違いは認め、それぞれが別の体制を維持しながら、1つの国にしようという金大中元大統領の主張もあった。
このような主張をすると、韓国ではすぐ親北勢力と決め付けられる。今の文大統領もどちらかというと、このような思想を持っていて、一方的に北の肩を持つものではないと思っている。
それでは、北朝鮮の立場を考えてみよう。
金正恩は核兵器を手放すと、自分は相手にされないと思っているに違いない。
どんなことがあっても、体制維持のために核開発は止めないだろう。
米国の立場はどうだろうか。
米国にとっては、北朝鮮は脅威でも何でもない。
しかし、北朝鮮の存在が東北アジアの緊張を高めることによって、米国は武器の販売にもつながるし、存在感も高められる。
韓国にとっては、米韓同盟は防衛の要で、大事である。
しかし米国は中国を牽制するために、韓国の防衛にはあまり関係のないTHAADミサイルを韓国に配備しているのも事実である。
一方、中国との武力衝突をちらつかせ、武器などを販売しながら、一方で米国は中国とは実益を重視した外交を展開しているのも事実である。
このように外交は、自国の利益を優先する場である。
中国の立場はどうだろうか。
中国は米国を刺激しないようにしながらも、常に米国を追い越すための努力を続けていくだろう。
中国は、米国に動きが把握されることだけは避けたいので、韓国にTHAADミサイルが配備されることも強く反対するだろう。
中国にとって大事な国は米国であって、韓国とか北朝鮮ではない。
どちらに統一されても、自分の配下におけるだろうと中国は判断しているようだ。
最後に、日本の立場はどうだろうか。
日本は米日同盟を鮮明にしている。今現在、日本として選択できる最善の方法であろう。
しかし、防衛ではそうあっても、他の面では近隣国家である中国、韓国とも、もっとうまく付き合う必要があるだろう。
日本のマスコミでは、中国経済崩壊のような記事が散見されるが、日本が衰退することはあっても、中国が崩壊することはないと思っている。
日本の物差しで相手を判断しては、相手を正しく見ることはできない。
日本は、華やかな過去を持っている素晴らしい国であることは認める。
しかし、日本の物差しで相手を判断していては、相手と親しくなれないし、それは共存共栄ともほど遠い道である。
慰安婦問題で筆者の意見を言うならば、韓国政府は日本のお金をもらうべきではなかったし、もう少し国民の意見も聞くべきだった。
韓国で問題されているのは、合意のプロセスの不透明さである。日韓関係の足かせになっている慰安婦問題が、早期に解決されることを願ってやまない。
(了)