日本と世界

世界の中の日本

中国、習近平独裁の裏に「国際収支危機?」競争力低下が顕著

2017-11-03 23:04:03 | 日記

勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。

2017-11-02 05:00:00

中国、習近平独裁の裏に「国際収支危機?」競争力低下が顕著

対GDP比の経常黒字1%台低下

このままだと国際収支リスク接近

 先の19回党大会で、習近平氏は大演説を打った。今世紀半ばには米国へ経済的・軍事的に対抗できる中国を建設すると高らかに宣言した。

これと引き替えに、毛沢東に次いで存命中に「習近平思想」が認められた。

順風満帆、向かうところ敵なしの感じだが、中国経済の底では、確実に過剰債務がもたらした腐食現象が進んでいる。

この危機を隠すために、あえて毛沢東並みの称号を習氏に与えたと読むべきだろう。私は一貫して、この見方に立っている。

 中国共産党、中央政治局常務委員7人による集団指導体制は事実上、習氏による独裁体制に切り替わった。

年齢的に次期トップになるべき人物は、新常務委員メンバーに見当たらないのだ。

5年後も習氏が続投する構えである。

これまでの党総書記2期10年のルールは、あっけなく破られる見込みが強くなっている。

この裏には、中国経済が過剰設備・過剰債務・過剰人員という「3つの過剰」によって建国以来の危機に立たされている結果と見るほかない。

いくら習氏が、強心臓・厚顔といえどもここまで全権を掌握できたのは、経済危機が深刻な局面にある証拠と見られる。

 対GDP比の経常黒字は1%台低下

中国の経済危機の予兆は、すでに国際収支の経常収支面に現れている。

 対GDPの経常収支黒字比率が、「世界の工場」と言われるにしては余りにも低水準に落ち込んでいる。

どう見ても、「世界の工場」は過去の話であることに世界は気づくべきであろう。

外貨準備高は約3兆1000億ドル(9月末)へと回復してきたが、厳重な資本規制を行なっている結果にすぎない。

経常収支の黒字拡大と中国対内投資が増えない限り、現在の外貨準備高維持は困難である。

もはや、無理は利かない「高齢化体質」になっている現実を認識して、対外的に見栄を張り続けることの無益を悟るべきだ。

 中国は、3兆ドル台の外貨準備高を「餌」にして、発展途上国を威嚇しながら自らの勢力圏に取り込んでいる。

「一帯一路」には、そういう狙いが込められている。

これを足場に、米国と張り合うことがいかほどの利益になるだろうか。

中国国民と企業は、その犠牲にされているのだ。

海外での資産運用禁止やM&A抑制は、中国共産党の見栄を実現するための踏み台である。

こういう矛盾した行動を止めて、自由変動相場制に移行し、外貨準備高を外交政策の「囮」(おとり)に使う愚を止めることである。

 好むと好まざるとに関わらず、現在の管理変動相場制は限界に突き当たる。

対GDPの経常収支黒字比率は、次のデータに示すように2009年以降、低水準で苦吟している。

日本とドイツを参考に掲げたので、比較しやすいであろう。

 対GDPの経常収支黒字比率(%)

        中国    日本     ドイツ

2000年  1.68   2.67  -1.75

  01年  1.30   2.00  -0.36

  02年  2.40   2.65   1.89

  03年  2.58   3.14   1.41

  04年  3.51   3.78   4.46

  05年  5.73   3.58   4.60

  06年  8.36   3.85   5.68

  07年  9.89   4.70   6.75

  08年  9.13   2.83   5.60

  09年  4.75   2.78   5.74

  10年  3.92   3.88   5.62

  11年  1.81   2.11   6.11

  12年  2.51   0.96   7.02

  13年  1.54   0.89   6.71

  14年  2.24   0.76   7.44

  15年  2.71   3.06   8.54

  16年  1.75   3.81   8.35

  17年  1.36   3.58   8.11(IMF予測)

 上掲のデータによると、中国は06~08年まで高い経常収支黒字率を保ったが、リーマンショック後は下り坂に入っており、回復する兆候が見えない。

その点で、日独とは大きな違いである。

中国の「新興国」と日独の「成熟国」が、際立った対照を見せている。

この原因はどこにあるのか。そこで、経常収支を構成している項目を見ておきたい。これによって、中国はどこに問題があるかが分かる。

 経常収支とは、①貿易収支、②サービス収支、③第一次所得収支、④第二次所得収支の合計である。

①  貿易収支は、財貨(物)の輸出入の収支を示す。

②  サービス収支は、輸送・旅行・知的財産権使用料

③  第一次所得収支は、直接投資収益・証券投資収益・その他投資収益

④  第二次所得収支は、官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払等

 貿易収支の差額は、「純輸出」として算出される。これが、GDPに占める比率は、次のようになっている。

 2001年 2.1%

  02年 2.5%

  03年 2.1%

  04年 2.6%

  05年 5.4%

  06年 7.6%

  07年 8.4%

  08年 7.6%

  09年 4.3%

  10年 3.7%

  11年 2.4%

  12年 2.7%

  13年 2.4%

  14年 2.5%

  15年 3.4%

  16年 2.2%

 15年の純輸出比率がそれまでの2%台から3%台へ上がったのは、この年に人民元相場が急落したことの反映である。

その後は、人民元相場が投機売りの対象にならないように、中国政府が人民元高へとテコ入れした結果、輸出の減少となり純輸出比率は2%台へ戻っている。

人民元相場が、国際投機筋の目標回避を狙った戦略で元高シフトし、輸出減となって跳ね返ったものである。

 この2%台の純輸出比率は、2001~04年のレベルと同じである。

米国政府が、人民元を「監視通貨」から外している理由は、この純輸出比率の水準から見れば頷ける。

この事実は、「世界の工場」と言われた中国が、もはや輸出面で大きな影響力を失っていることの証明であろう。

ただ、鉄鋼やアルミなどでダンピング攻勢をかけ世界市場を攪乱しているのは、苦し紛れの脱法ビジネスを示している。

 サービス収支は、2009年以降に赤字に転化し、その赤字幅が拡大している。

輸送収支と旅行収支の赤字幅が拡大した結果だ。

輸送収支は、国際貨物や旅客運賃の収支だが、輸出入貨物の増加で外国籍の船舶を使用すれば、その収支が悪化して当然である。

実は、「一帯一路」で、中国はヨーロッパへの鉄道路線を開拓した。

中国の貨物が鉄道でヨーロッパへ運ばれているので、輸送収支の赤字改善に寄与しているのであろう。

「一帯一路」は、中国の窮状を救う役割も課せられている。中国人の海外旅行急増も輸送収支には負担となっている。

 旅行収支は、海外旅行者の宿泊費、飲食費等の受取・支払いの差額である。

中国では海外からの旅行者よりも、自国民の海外旅行が圧倒的に増えた。

中国国内は、大気汚染・水質汚染・土壌汚染など生命に関わる事態が起こっている。

こういう環境悪化の国へ好んで旅行する人も限られるだろう。

中国人の「爆買い」によって、旅行収支は大幅赤字になっている。

 第一次所得収支は、次のような内容だ。

直接投資収益:親会社と子会社との間の配当金・利子等の受取・支払


証券投資収益:株式配当金及び債券利子の受取・支払


その他投資収益:貸付・借入、預金等に係る利子の受取・支払

 第一次所得収支は、2007年にいったん黒字化したが、2009年に赤字へ転落した。

その後、赤字幅は拡大している。主因は、直接投資収益の赤字幅拡大である。

中国のM&A(買収・合併)は、大雑把な収益見通しで踏み切るケースが多いとされる。

要するに、「アバウト」なのだ。

もともと、合理的な経済計算という資本主義の原点から外れた、国有企業をありがたがっている国家である。

国有企業は、共産党幹部によって経営されるが、経営センスよりも政治的思惑が優先する「計画経済」(正しくは、社会主義市場経済)育ちである。

資本主義経済の本場の欧米で、上手く経営できないのは当たり前だ。

 このままだと国際収支リスク接近

以上、経常収支を構成する項目について、個別的に中味を追ってきた。

結論は、経常収支黒字率の改善は望みがたいことである。ここで、重要なレポートを紹介したい。

 大和総研は10月25日、「高まり続けている中国の国際収支リスク」と題したレポートを発表した。

そのなかで、「増加傾向に転じない経常収支黒字と減少傾向の続く対内直接投資の状況が続けば、いずれ対外直接投資に対する規制強化、本格的な緊縮的マクロ経済政策の発動など中国発の経済ショックにつながりかねない」と注意を促している。

この指摘は重要である。

大和総研は、長いこと中国経済については楽観的な見方であり、私とは方向が異なっていた。

それ故、大和総研レポートを紹介することもなかったが、今回は完全に私見と同一線上にある。

 前記レポートでは、中国の生産性(全要素生産性)が、リーマンショック後に回復せず年2%以下に落ち込んでいる事実を指摘している。

これは、前掲の純輸出の対GDP比が停滞している事実と符合している。

中国では、国内企業と外資系企業が混在しているが、2014年時点でも輸出入それぞれの4割強を外資系企業が占めている。

貿易収支を貿易主体別にみると、中国の貿易黒字の相当部分は、外資系企業が稼ぎ出す状態が続いている。

世界有数の貿易黒字国となった中国だが、依然として外資系企業の寄与によるところが大きい。

要するに、「他人の褌で相撲を取る」国に変わりないのだ。

その意味で、「大言壮語」するの習氏の姿は、みっともない恥ずべき行為である。

 中国の全要素生産性が停滞していることは、外資系企業にとって中国での生産が、すでにメリットを生まなくなっていることを意味する。

中国からそれぞれの母国へ引き揚げている理由が、まさにここにある。

中国で、差別されながら生産するよりも、母国へ帰還して、AI(人工知能)や、ロボットを多用して生産する方が採算向上をもたらしているのだ。

 こうなると、外資系企業は新たに中国での生産を増やす理由がなくなる。

つまり、中国への対内直接投資は減ることはあっても、増える可能性が小さい。

現に、2016年の対内直接投資(実行ベース)は前年比0.2%減の1260億ドルとなった。

中国にとっては、この対内直接投資がドル資金の流入になる点では、大きな意味を持っている。

 大和総研レポートは、次のような結論を出している。

 「このまま対内直接投資の減少傾向が続くと、対外直接投資に対する規制の執行を強化しても、直接投資収支が流入超にならなくなる可能性がある。

また、経常収支の対GDP比は、外的要因等によって赤字になる可能性がないとは言えない水準と考えられる。

経常収支と対内対外の直接投資の金融収支が、比較的安定した外貨準備高の増減要因であると考えられる。

従って、両者が資金流出超になると、本格的な緊縮的マクロ経済政策をとらざるを得なくなったり、変動相場制に移行せざるを得なくなったりして、中国の経済社会が混乱する危険性が高まる。

中国政府が、投資中心の経済成長促進策を修正する等により、そのような国際収支リスクを低下させられるか否かを注視する必要がある」

 最近の中国の対内直接投資(実行ベース)は、次のような推移をたどっている。対内直接投資とは、海外企業が中国へ投資するもの。

2012年 1117億ドル

  13年 1176億ドル

  14年 1196億ドル

  15年 1262億ドル

  16年 1260億ドル

 ここ数年の動きは、小浮動と言うにふさわしい変化だが、今年の1~6月は前年同期比で9.1%減の95億9700万ドルに落ちてきた。

この背景には、年初から資本移動に厳しい規制がかかっていることが嫌気されたことだ。

配当金の本国送金もままならぬ状態では、外資系企業にとって機動的な経営が困難になる。

また、中国の全要素生産性の停滞が、海外企業の採算を圧迫しているという事情も考えられる。

 従来、中国が「世界の工場」ともてはやされて、対内直接投資が自然に増加する状況にあった。

だが、そういう恵まれた時代は過ぎている。

資本規制を続けている結果、これを嫌気して対内直接投資が減少に向かうので、国際収支における「金融収支」(直接投資や証券投資など)黒字幅が減少するはずである。

こうなると、国際収支上で安閑としていられないのだ。

 すでに見てきたように、「経常収支」黒字幅は、最盛期を過ぎている。

これに加えて、「金融収支」が落ち込むと、外貨準備高3兆ドル台維持が困難になろう。

それは、人民元相場の大規模投機を誘い込見かねない危険因子になる。

中国の外貨準備高は、3兆ドル台という途方もない金額になっているが、経常収支と金融収支の「双子の黒字」がもたらした歪みである。

こんな異常な状態が、いつまでも続くはずがない。必ず破綻する時期が来る。中国は頭を冷やすことである。

 (2017年11月2日)


「中国の融資を受ける国々は膨大な債務を背負わされる」

2017-11-03 22:11:02 | 日記

「中国の融資を受ける国々は膨大な債務を背負わされる」

2017.10.19 22:26更新

 ティラーソン米国務長官が中国を痛烈批判 

【ワシントン=黒瀬悦成】

ティラーソン米国務長官は18日、ワシントン市内で講演し、経済発展が著しい太平洋・インド洋地域の新興諸国に対しての中国によるインフラ投資に関し、「中国の融資を受ける国々の多くは膨大な債務を背負わされる」と指摘した。

 また、「インフラ整備事業には外国人労働者が送り込まれる事例が大半で、雇用創出に結びつかない。

融資の仕組みも、些細なことで債務不履行に陥るようにできている」と批判。

米国を中心に東アジアサミット参加国の間で、中国に対抗する形での代替の融資枠組みの構築に向けた協議がすすめられていることを明らかにした。

 ティラーソン氏は一方、中国が南シナ海で造成した人工島の軍事拠点化を進めていることについて、

「国際的な法や規範に対する直接的な挑戦だ」と指摘し、「中国は法に基づく国際秩序をしばしば侵害している」と強く批判した。

 トランプ政権はこれまで、北朝鮮の核・ミサイル開発問題で中国の協力を取り付ける思惑からこの問題で批判を自制してきた。

今回、歴代米政権のアジア太平洋政策を踏襲し、米国主導による「法と規範」に基づいた地域の安定化を進めていく意向を打ち出した。

 ティラーソン氏は「中国とは建設的な関係を目指していく」と述べつつ、「中国が法に基づく秩序に挑戦し、近隣諸国の主権を侵害し、米国や友好国に不利益を生じさせる行為に対してひるんだりはしない」と強調した。

 また、民主主義の価値観を共有するインドと日本、それにオーストラリアを加えて安全保障分野などでの連携を強め、太平洋からインド洋にかけての安全と安定を確保していく立場を表明した。


韓国、「家計破産」米利上げあれば直撃「貸出規制」へ着手

2017-11-03 16:32:09 | 日記

勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。

2017-11-03 05:00:00

韓国、「家計破産」米利上げあれば直撃「貸出規制」へ着手

最悪の家計債務比率へ転落

政府の対策が出遅れ理由は

 2009年韓国が、金融危機に陥った理由は家計債務の破綻にある。

米国が、今年12月に予想される利上げがあれば、米韓金利の逆転を招く。

韓国からの資金流出を促すだけに、韓国の追随利上げが避けられない。

過剰債務にあえぐ韓国家計の破綻が、現実問題として登場する懸念が強まってきた。

韓国家計の過剰債務状況は、極めて悪化している。韓国経済のアキレス腱になった。

 韓国は、これまで米国の金利引き下げの恩恵を受けて、8年間も低金利のまま過ごしてきた。

この間、家計債務が急増している。

このブログでも、この問題をしばしば取り上げてきた。ついに「年貢の納め時」がきた感じだ。

韓国政府も重い腰を上げて、家計債務の総量規制に乗り出す。

 最悪の家計債務比率へ転落

韓国の家計債務の対GDP比は、アジアで最悪という芳しからぬデータが出てきた。

 『韓国経済新聞』(10月12日付)は、次のように報じた。

(1)「ドイツ保険会社であるアリアンツ・グループが発表した『グローバル資産報告書』によると、韓国は昨年の対GDP比家計負債割合が95.8%で、アジア国家の中で最も高くなった。

台湾(80.4%)、マレーシア(88.5%)よりはるかに高い。

報告書は『韓国の負債の割合は、金融危機直前である2007年末に、スペイン(86.6%)、アイルランド(100.7%)、米国(99.7%)と似たような水準に高まった』と指摘した」

ドイツ保険会社のアリアンツ・グループによる調査で、昨年の韓国の家計債務が、対GDP比で95.8%にも達した。

アジアで最悪水準だ。2008年、世界的な金融危機に直面した各国の家計債務レベルに匹敵する「危険ライン」である。

 韓国家計は、これまでも過剰債務に陥る傾向が強かった。

「入るを図りて出(いずる)を制す」という家計の原点を見失う傾向が強い。

カネを持つと見境なく乱費する無計画性である。

これまでも「徳政令」を3回出しており、「借金し得」という間違った観念を植え付けてきた。

こういう「甘やかし」が、家計債務問題の裏に隠れている。

 『韓国経済新聞』(10月13日付)は、「今度は家計負債発の危機」と題して、次のように伝えた。

 韓国の銀行は、2008年の金融危機の際、企業向け貸出で多額の不良債権を発生させた。

これに懲りて、それ以降は家計融資に積極的になっている。

現在の過剰家計債務問題は、これが引き金になった。

借りる方も借りたものだが、貸す方も貸したものだ。

「魚心あれば水心」という関係が認められる。家計貸出の担保は住宅が主体である。

それだけに銀行側は、不良債権回収で心情的に「強制執行」しにくい面もある。

住宅を差し押さえると、翌日から住むところを奪うからだ。家計向け貸出は決して、「安全な貸出先」でないことが分かる。

 (2)「1997年の家計負債(家計貸出+販売信用)は、211兆2000億ウォン(約21兆円)で、家計の可処分所得の61%水準だった。

2008年の通貨危機後、銀行の貸出姿勢は大きく変わった。

企業の相次ぐ倒産で大きな損害を被った結果、危険分散効果の大きい個人向け貸出しに積極的なった。

しかも、2008年以降の低金利固定化によって、家計融資はさらに増えた」

 (3)「家計負債総額は今年4~6月期末で1388兆2914億ウォン(約139兆円)に、1997年比で6.6倍に増加した。

しかし、可処分所得は同期間に2.7倍の増加に留まった。

こうして可処分所得に対する家計負債比率は153%へと悪化した。

ただ、超低金利で銀行全体の家計融資のうち、不良債権比率は昨年0.3%台から今年0.2%台にむしろ下がった。

問題は、金利の上昇局面に入った時だ。

米国がすでに政策金利を引き上げ始め、韓国内の銀行の住宅担保融資金利も上昇傾向にある。

銀行の住宅担保ローン金利は1年間で0.5%上がった。

米国の追加金利の引き上げが、韓国銀行の基準金利の引き上げにつながる場合、市場金利はさらに上昇する見通しである」

1997年の家計負債は、可処分所得の61%水準だった。それが、今年4~6月期になると、なんと153%へと悪化した。

この間に、家計債務総額は6.6倍にも膨張している。

可処分所得は同期間に2.7倍の増加に留まった事実を見ると、明らかに韓国の家計は危機的な状態に向かっている。

ここへ、米国の金利上昇が加わると、米韓金利差が逆転して韓国から資金流出が起こる金利環境になる。そこで、韓国が利上げを迫られる。

 韓国から資金流出が起これば、「第3の金融危機」の勃発になりかねない。

韓国は、資金流出を食い止めるべく金利を本格的に引上げれば、どうなるか。家計債務に大きな影響を与える。

すでに、可処分所得に対する家計負債比率は既述の通り153%である。この比率は今後、さらに上がる。

可処分所得とは、所得から税金や年金、社会保険料等を差し引いた後の、「自由に使える」所得である。

ここから、債務返済が優先的に行なわれれば、実質的に消費に回る金額は減るのだ。

要するに、債務返済額が増えれば個人消費を減らして、景気を冷やすマイナス効果が発生する。このように、家計債務増加は個人消費にとって大敵である。

 (4)「韓国銀行(中央銀行)によると、金利上昇に伴い家計の負債返済能力が落ちて、負債の返済遅滞が懸念される世帯は昨年基準で126万3000世帯に及ぶ。

全負債世帯の11.6%で、彼らが保有する負債は186兆7000億ウォン(約18兆7000億円)規模に達する。

専門家は韓国に再び危機が発生すれば、家計負債の危機がもたらされる可能性が高いとみている」

 金利の上昇幅次第だが、貸出金利が引上げられると最低限、126万3000世帯(全負債世帯の11.6%)で、債務返済が滞る懸念が発生するという。

これは、重大問題である。

すでに文政権は、徳政令を出して救済策を行なっている。

ここへ新たな返済遅滞組の126万余の世帯が加わる事態となれば、韓国経済はお手上げになる。その一歩手前に来ているのだ。

 『共同通信』(10月4日付)は、「IMF、家計の借金増、金融危機招く恐れ」と題して次のように報じた。

 (5)「国際通貨基金(IMF)は3日、『世界金融安定報告』の分析編を公表し、家計の借金増が金融危機を招く恐れがあるとして、各国当局に警戒を呼び掛けた。

国内総生産(GDP)に対する家計の借金の比率は、先進国が2008年の平均52%から16年には63%に、新興国が08年の平均15%から16年には21%にそれぞれ上昇したとの統計も示した」

 家計債務増加が、経済成長の足かせになる理由は、債務返済で実質的な可処分所得が減るために、個人消費がその分食われる点にある。

だが、過剰な家計債務で、返済そのものが滞る事態になると、信用機構全体にヒビが入って一国経済が危機に直面するのだ。

上記のように、韓国経済がその懸念を持たれ始めている。

 IMFは、後のパラグラフで示しているように、家計債務の対GDP比が30%を超えると危機に陥ると具体的なデータを出している。

 新興国平均では08年が15%。16年に21%へと増加しているが、韓国の増加ぶりは目を剥くほどである。

マッキンゼー国際研究所の推計では、2014年4~6月期で81%であり、現在で92%に達している。

IMFの定めるレッドラインは、とうの昔に超えた。この状態で、金融リスクが起こらない保証はない。「危ない橋」を渡っている。

 (6)「家計の借金は、短期的には経済成長や失業率低下と連動するが『(数年で良い影響はなくなり)中期的には金融危機の恐れを増大させる』と強調。

借金のGDPに対する比率が30%になると経済への悪影響が生じ得るとの分析を示した。各国の中央銀行も『物価が低迷し、賃金の伸びが鈍い中での借金増はリスク』と警告していると訴えた」

 韓国の家計債務急増の裏には、住宅資金で融資を受けたことが影響している。

朴槿恵政権では、不動産業で景気を刺激する方針がとられたので、家計債務急増を放置していた。

だが、このパラグラフで指摘されているように、家計債務増加は短期的に経済成長や失業率低下に寄与するが、中期的には金融危機の恐れを増大させる、時限爆弾となる危険性が高まる。

こういう前提で、韓国経済の現状を見ると、「おお、危険だ」という感想が率直なところであろう。

 政府の対策が出遅れた理由は

『中央日報』(10月25日付)は、社説で「出し遅れた証文のような家計負債対策、今回が最後になるよう」と論じた。

政府が、家計の債務管理までやらなければならない。

これは、韓国国民にとって大いなる恥辱のはずだ。

「反日」であれだけ盛り上がる国民が、自分の家計すら満足に管理できず、「徳政令」期待とは不思議である。有り余っている「反日」エネルギーを、自分の家計管理に向けるべきなのだ。

 (7)「文在寅(ムン・ジェイン)政府発足後、初めての家計負債対策が昨日発表された。

多住宅保有者の不動産資金源を引き締め、脆弱階層に対する支援を強化するのが骨子だ。

まず来年1月から既存の担保融資の元利金を反映する『新総負債償還比率(DTI)』制度が導入される。

来年下半期からはこれをさらに強化した総借金元利金償還比率(DSR)が導入される。

一方では長期延滞者の債務再調整と債権焼却対策も含めている。全体的に対応できる範囲内で借りるようにシステムで管理するという趣旨が垣間見える」

 二段階で、家計債務管理を始めるという。まず、来年1月から既存の担保融資の元利金を反映する①「新総負債償還比率(DTI)」が導入される。

次いで、来年下半期からさらに強化した②「総借金元利金償還比率(DSR)」が導入されるという。

あえて、二段階で家計債務管理を始めるのは、家計債務が昨年の対GDP比で95.8%にも上がっている結果だ。段階を追って、債務管理を強めてショック度を下げる方針である。

前記の①と②について整理しておきたい。

①  「新総負債償還比率(DTI)」は、不動産担保融資の元利金。

②「総借金元利金償還比率(DSR)」は無担保融資を含めた総債務だから、いわゆる「サラ金」の類いで無担保融資まで含められる。クレジットも入るのかどうかは不明である。

これらを実行すれば、個人消費に影響する。

 (8)「朴槿恵(パク・クネ)政府は、『金を借りて家を買え』という式の不動産景気刺激策を使った。

その中で融資の健全性を管理する手段であるDTIと担保認定比率(LTV)まで無力化した。

その結果、景気は底入れして回復後も、家計負債が毎年2桁ずつ増加する非正常的な状況が続いた。

今年に入って増加傾向が止まったとはいえ、上半期にも家計負債は10.2%も増えた。

規模が1400兆ウォン(約141兆3213億円)を越えて国内総生産(GDP)の95.6%に達した。

韓国銀行と韓国開発研究院(KDI)などが家計負債に対する警告のシグナルを出し始めて久しい」

 朴政権が、景気刺激策として住宅投資を奨励してきた。それが、家計債務を増やす原因になった。

景気が底入れした後も、住宅投資重視政策をとったので住宅価格がバブル化して、住宅投機の波にもまれた。

購入契約と同時に転売。巨額の利益を懐に入れる層が増加したのだ。政府の対策が生温かった。

 (9)「家計負債は韓国経済最大の雷管だ。それでも量と質いずれも悪化している。

対GDP比家計負債の規模は危険水準に迫っている。

李明博(イ・ミョンバク)政府時代まで150%台を推移していた可処分所得に比べた家計負債の割合も2015年169%、2017年179%まで上昇した。

負債負担で家計の可処分所得が減って消費が冷え込み、成長の困難に陥る悪循環が始まった。

住宅担保融資の金利はすでに年5%台を脅かしている。米国の利上げによる影響で韓国銀行が金利を引き上げる日も遠くない」

 可処分所得に比べた家計負債の割合は、2015年が169%、2017年に179%まで上昇している。

むろん、これら債務は分割返済のはずだが、それにしても月々の返済額負担は大きいであろう。

この支払い金利が、今後は増えそうな気配である。月々の返済総額は増えて、実質的な可処分所得が減るのだ。

 韓国の住宅金利は、すでに年5%台へ達している。

日本はマイナス金利を受けて低利そのものだ。日本の方が恵まれている。

経済成長率で見た日韓の差は狭まっている。日本は、アベノミクスの効果で住宅購入による金利負担が軽微である。

こういう面も忘れてはならない。

 

(2017年11月3日)