日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-11-04 05:00:00
積弊清算の名で報復合戦
朝鮮半島がきな臭い状況になっている現状で、韓国では文在寅政権を支持する労組と市民団体が、露骨な「反米デモ」を始めている。
焦点を、トランプ大統領の訪韓に合わせ、「ヤンキー・ゴー・ホーム」とまで叫んでいる。日本で言えば、戦後の昭和20~30年代前半に起こった「反米デモ」を思い起こさせる。
韓国防衛で駐留する米軍へのデモは、「86世代」による「反米・親中朝」派が裏に回ってテコ入れしている。そう疑わせるほどだ。
彼らは、米軍の存在に感情的な反発をしており、前後の見境もなく騒ぎ回ることで満足する集団である。
理性的な判断が欠如しているのだ。
北朝鮮の核とミサイルの危機が迫っている中で、「反米デモ」とは余りにも思慮に欠ける。本来なら、「反北デモ」が起こって当然であろう。それが、逆になっている。
「86世代」は、1960年代に生まれ1980年代に大学生活を送った学生運動家の集団である。
年齢的には文大統領と同世代であり、「南北統一」を願う民族派である。
共産主義に親近感を持っており、韓国が共産化してまでも南北統一を優先させるという主張である。
現在、韓国で目立ち始めている「反米デモ」は、現政権がトランプ米大統領に反対意見を言えない立場だけに、「反米デモ隊」を使って言わせていると疑われても仕方ない局面だ。
トランプ氏の訪韓の際、デモ隊が「ヤンキー・ゴー・ホーム」と騒ぎ回ったら、米国内での対韓国感情は一挙に下がって、米軍の韓国撤退論まで出てくる懸念があろう。
米大統領訪韓で嫌がらせ
『朝鮮日報』(10月28日付)は、社説で「米大統領来韓、韓国政府は反米デモ勢力を制御せよ」と論じたい。
この社説を読んで痛感することは、韓国社会の思慮の浅さである。朝鮮戦争で韓国を救ってくれた米国に対する評価の低さだ。
米国は、命を捨ててまで韓国を共産主義から防衛してくれた国である。
国賓として訪韓する米大統領に対して、「ヤンキー・ゴー・ホーム」では、余りにも礼を逸した振る舞いである。
韓国が現在、民主主義下で自由な生活を送れる理由は、米国の防衛があってのこと。こういう歴史への認識が、完全にゼロである。
この例から見ると、「反日行動」は別段、根が深いものではなさそうだ。
韓国の国民は、極めて「短慮」であるという動かしがたい事実を示しているからだ。
「感情8割、理性2割」の国民であるゆえに、その時々の感情のままに動かされている民族である。
歴史を冷静に眺めて、そこから学び取るという「理性派」の国民ではない。
日本が、この程度の国民に「喜怒哀楽」の感情を持つに足る対象ではなさそうだ。
本当に残念な振る舞いをしている国民である。韓国の評価を下げる「決定的」な動きである。
(1)「11月7日から8日にかけて米国のトランプ大統領が韓国へやって来るのに先立ち、韓国国内の左派団体が反米・反トランプ・デモを予告した。
全国民主労働組合総同盟(民労総)、民主社会のための弁護士会(民弁)、韓国進歩連帯など実に220の団体からなる「NO トランプ 共同行動」は26日、デモ計画と日程まで公開した。
11月1日にはソウルの光化門広場、4日には韓国各地で同時多発的に集会を開き、国会・大統領府(青瓦台)などトランプ大統領の行く先々を追いかけていって反米集会を開くという」
ここで「反米デモ」を組織している団体は、文在寅政権実現で奔走したグループである。
いわば、文氏の「身内」である。この関係を見れば、文大統領が裏に回って動かしていると勘ぐられるのだ。
実は、一年前に朴槿恵・前大統領弾劾運動である「ロウソク・デモ」が始まった。これを記念して、文氏が次のようなメッセージを送っている。
「文大統領は10月28日、フェイスブックを通じ『ロウソク集会1年を迎えろうそくの意味を振り返ってみる。
ろうそくは偉大であり、民主主義と憲法の価値を実現した』と評価した。
また、『政治変化を市民が主導し、新しい大韓民国の方向を提示した。
ろうそくの火は理念と地域と階層と世代で組分けしなかった。思いは断固としており平和的だった』と強調した。
その上で、『ロウソクは終わらない私たちの未来。国民とともに進んでこそ成し遂げられる未来であり、粘り強くくじけなければ到達できる未来』とした」(『中央日報』10月29日付)
この文氏のメッセージは、「反米デモ」への激励に読めるのだ。
時期が時期だけに、大統領として、トランプ氏に言えない部分をデモ隊に代弁させる。
そういう、狙いが込められている。
もし、デモ隊に冷静さを呼びかけたかったならば、別の文言があったと思う。
これまでに、デモ隊は、次のような過激な動きをしてきたからだ。この『朝鮮日報』社説では別途、次のように既述している。
反米団体「釜山民衆連帯」のメンバー70人は10月14日、釜山の米海軍創設記念行事の会場へ乱入し、「DOTARD」(老いぼれ)と書かれたプラカードを持ってデモした。
米軍の兵士たちをののしり、「トランプの子分どもめ、うせろ」「ヤンキー・ゴー・ホーム」などのスローガンを叫んだ。
「DOTARD」とは、9月金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長がトランプ大統領を非難する声明を発表した際に使った単語だ。
ソウル・光化門で先月開かれた反米集会では、参加者らがトランプ大統領の顔に×印のステッカーを張り、ペイント用のローラーで擦るというパフォーマンスを行った。
8月には、高高度防衛ミサイル(THAAD)のデモ隊がトランプ大統領の「火あぶり」まで行った。
(2)「今回新たに組織された『NO トランプ 共同行動』には、裁判所から利敵団体とされた後、看板だけをすげ変えた単なる親北朝鮮団体も相当数加わっている。
どんな言葉や行動が飛び出すか分からない。
こうした反米デモの場面は報道機関やソーシャルメディアを通して伝えられ、
米国のネットでは
『韓国は正気なのか?』『このまま韓国から手を引いてしまおう』というコメントや反応が出ている。
トランプ大統領は北朝鮮の核問題を取り扱うホワイトハウスの会議で『韓国人は米国の防衛支援に、なぜもっと感謝しないのか」と尋ねたという。
これが、トランプ大統領の韓国に対する認識だ。韓国をよく知らないトランプ大統領に植え付けられたこの認識を、相当数の米国人も共有しているとみるべきだ。
全て、韓国国内で繰り広げられている反米デモが作り出した結果だ」
今回の「反米デモ」は、親北朝鮮団体で裁判所から利敵行為を理由に解散させられたものが、名前を変えて参加しているという。
明らかに、北朝鮮の指示を動いているに違いない。これに「86世代」が関わる諸団体が結束してデモ隊を組織している。
感情家でもあるトランプ氏が、この「反米デモ」に遭遇した場合、どのような反応をするだろうか。
もともと、彼には訪韓予定がなかったのだ。
日本でたっぷりと時間を過ごして中国を訪問するスケジュールを立てていた。
だが、韓国を外すと北朝鮮を利するという配慮から急遽、韓国行きが組み込まれた。
こういう事情だけに、トランプ・ツイッターは強烈な内容になるのでは、と懸念される。
文氏もこれが分からないはずがない。
一心同体の前記諸団体に、非公式にでも早急に話合う必要があろう。
もし、それを怠ってやりたい放題の「反米デモ」をさせると、今後の米韓関係は決定的に悪化するであろう。
(3)「トランプ大統領を追いかけていって反米デモをやるという勢力を見ると、大部分は現政権寄りで、ロウソク・デモを主導した面々だ。
この事実をトランプ大統領が知らないはずがない。
韓国政府は、この人々を事前に制御して、予想できない事態の発生を防がなければならない」
文氏の政治生命は、意外にもこの「反米デモ」の如何に関わってくる気がする。
米韓関係の悪化は今後、始まる米韓FTA(自由貿易協定)の改定交渉を左右する。また、米軍の韓国駐留費負担問題に跳ね返ってゆくであろう。
米韓の政治・経済・安保の関係を見れば、「反米デモ」のもたらすマイナス効果は見過ごせないのだ。
すでに、韓国の安全保障は米中露三カ国の話し合い任せられている。
残念ながら、他国に安保を委ねている国家の宿命である。それが嫌なら、独立した防衛体制を構築するほかないが、膨大な軍事費を必要とし、それが国家財政を圧迫する。
韓国の「反米デモ」は、この厳しい現実が理解できないのであろう。多分、文大統領もその一人と思われる。
韓国で繰り返される歴史の悲劇は、感情論に突き動かされて理性的な判断を欠いていることであろう。
歴史を現実のものとして受け止められないのだ。
過去の成功も失敗も、全てをありのままに受け止める。その原因を分析して納得できれば、過去を振り替えずに前に進めるはずだ。
韓国では、こうした「歴史の受容」を拒否してきた。
だから、絶えず過去を振り向いて情念の火を燃やしている。「反米」も「反日」も、その根源は同一と見られる。いずれも、過去が未消化である結果であろう。
韓国では、国内問題でも同じことを繰り返している。
歴代大統領が退任後、在任中の業績が掘り返され、司法の手に委ねて裁くという繰り返しである。この問題について、次のコラムが痛烈に韓国を批判している。
積弊清算の名で報復合戦
『朝鮮日報』(10月29日付)は、コラム「韓国の『積弊清算』政治、世界基準ではどう見えるのか」である。筆者は、同紙編集局社会部長の鮮于鉦氏である。
私が、韓国人ジャーナリストで最高に評価している鮮于鉦氏が筆者だ。一度もお目にかかってはいないが、バランスのとれた内容が魅力である。
文在寅氏は、大統領選で「保守派の積弊を清算する」という大目的を掲げて当選した。
過去の保守派政権の行政を全て洗いざらい断罪するというのだ。
本来、これは司法の分野である。
そこへ大統領府が割って入ると宣言したもの。
これが、韓国国内の保革対立を激化させている。これこそ、過去の出来事を消化していない証拠であろう。こういう報復合戦は、憎しみを生むだけである。
その典型例が「反日」である。日本の植民地時代を穿り返して「謝罪せよ」。
慰安婦問題は、人道問題であるから永遠に時効はない。
だから、「永遠に謝罪せよ」と繰り返してくる。
日本が、これを受け入れない以上、韓国の日本への憎しみは深まって、韓国自身が身動きできなくなっている。
全て、韓国が国内外の問題について、過去を消化するという知的作業を怠り、感情のままに時間を過ごしてきた結末であろう。希有の民族と言うほかない。
(4)「10月23日、本紙に米国の元大統領の写真が載った。5人の元大統領が、ハリケーンの被災者を支援する行事の会場に集まった。カーター、ブッシュ・シニア、クリントン、ブッシュ・ジュニア、オバマ。3人は民主党、2人は共和党だ。
写真には、このような説明書きがある。
『積弊清算という名目で前大統領のみならず前々大統領を捜査し、これに対抗して前々々大統領の不正をほじくり出す韓国政治とは正反対の姿だ』。
なぜ、こうも違うのか。米国大統領は立派で正しいからなのか。
もし米国が私に司法の刃を握らせてくれるのなら、そして今の韓国式の物差しによって審判できるのなら、これら米国の元大統領のほとんどは弾劾の危機に陥ったり、監房に押し込められたりしかねない」
ここでは、米韓大統領について論じている。
米国の歴代大統領も、それぞれに問題を抱えているが、「政治的な知恵」によって将来へ持ち越さずに解決してきた。
韓国では、その逆である。
過去を穿り返して「唾」を吐きあっている。
中国の歴史では、死者でも「罪人」とされれば遺骸を掘り起こして、大衆が「唾」をかけあうのが常であった。
周恩来も鄧小平も散骨を願ったのは、死後の「侮辱」を恐れたとされる。儒教社会の悪弊が、韓国社会に持ち込まれている。
(5)「米国はたびたび、政治的解決を司法的解決より優先する。
司法の刃がどれほど鋭利でも、政治がつながる縫い目をばらばらにはしない。
傷だらけの大統領でも、生かしておいて国民統合の道具として使う。
対立が血の雨を降らせた南北戦争の経験があるからだろうか。
米国大統領の赦免は、法の枠組み内に限定するには大きすぎるからだろうか。
さもなくば、これが先進国の政治なのか。
(韓国のように)政権が変わるたびに正義の刃を振るい、前政権を断罪し、相手勢力を根絶やしにする国は、思っているほど多くない。
それを正義と考える国民も多くない。
独裁もしくは内戦の国を除くと、そのレベルにあるのはアフリカや南米、東南アジアの数カ国だ。
世界『発展途上国』と軽んじる国々だ。外から見る韓国のレベルも、その程度なのだろう」
英国や米国では、「司法取引」がある。刑事裁判で検察と被告との間で取引し、被告が取引する代わりに刑の軽減をはかる制度である。
難解な事件の解明に有効とされている。
「罪を憎んで罪人を憎まず」という主旨か。
日本のように「因果応報」論の強い国では馴染まない制度かもしれない。
米国には、こういう法意識が存在する。大統領にまつわる事件では、政治的解決が優先され、国家の団結が維持される。
韓国では、全く異なる。解決済みの事件すら、現政権の意向で再捜査される。
これは、現政権が絶対的な権力を握り、司法を支配している結果である。
民主政治では、三権である司法・行政・立法は分離独立している。
韓国は、この関係がはっきりせず、行政がずば抜けた権力を保持しているのだ。
これに加えて、過去の歴史が理性的に把握せず未消化であることが、韓国では異常な政治的な報復合戦に陥っている。
不幸な話だ。過去が、意識の上で清算できず常に、遺恨となって現在まで引きずって歩く。「反日」もその一つである。気の毒な民族である。
(2017年11月4日)