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低所得者層と富裕層の実質所得格差

2023-03-08 13:51:30 | 日記
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 低所得者層と富裕層の実質所得格差

2023.03.08 05:50
経済

永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」
低所得者層と富裕層の実質所得格差、一段と拡大…低所得者層の実質購買力がより低下
文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
【この記事のキーワード】消費者物価指数, スクリューフレーション, “バイアスを排除した”経済の見方, CPI

「gettyimages」より

はじめに
 近年の日本経済は、中産階級の貧困化(Screwing)とインフレが重なったスクリューフレーション(Screwflation)の脅威に晒されており、特にロシアのウクライナ侵攻以降にスクリューフレーションが深刻化している。そこで本稿では、所得階層別の消費者物価(Consumer Price Index、以下CPI)や費目別CPIの動向、所得階層別の消費構造から、特にロシアのウクライナ侵攻以降の日本のスクリューフレーションの状況について分析してみたい。

原因は消費の4割以上を占める生活必需品の価格上昇
 まず、CPIを生活必需品(食料、持家の帰属家賃を除く家賃、光熱水道、被服履物、交通、保健医療)と贅沢品(生活必需品以外)に分類し、その動向を比較してみると、2022年は贅沢品の価格が低下する一方で、生活必需品の価格が急上昇していることがわかる。

 このように、日本でも生活必需品の価格が急上昇した背景としては、ロシアのウクライナ侵攻により、食料・エネルギーをはじめとした輸入原材料の価格が高騰したことがある。 ここで重要なのは、生活必需品と贅沢品での物価の二極化が、生活格差の拡大をもたらすことである。生活必需品といえば、低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる傾向があるためだ。事実、総務省「家計調査」によれば、消費支出に占める生活必需品の割合は、年収 1500 万円以上の世帯が 40%程度なのに対して、年収 200 万円未満の世帯では 58%程度である。従って、全体の物価が下がるなかで生活必需品の価格が上昇すると、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まり、購買力を抑えることになる。そして、低所得者層の実質購買力が一段と低下し、富裕層との間の実質所得格差は一段と拡大する。

より実感に近いのは年収階層別の消費者物価

 以上より、消費者物価の実感は、消費全体で測る場合と、所得階層別の消費行動で分けて測る場合で結果も変わってくる可能性が高い。総務省で作成している消費者物価指数は、消費者全体の消費構造に着目し、品目毎の価格動向を統合することによって計測される。つまり、家計調査によって得られた基準年における月平均の世帯当たり品目別消費支出金額のウェイトを用いて作成することによって、一国全体の物価動向を判断している。

 しかし、実際に消費者が実感する物価は、消費者それぞれが購入する財やサービスの構成比によって異なる。従って、少なくとも所得階層別における消費の構成比の違いに着目し、それぞれの消費者物価を見れば、より人々の実感に近い消費者物価指数になる。特に、同じ所得階層の中での消費構造に大差がないと仮定すれば、所得階層別の消費者物価は、所得階層別の消費構造から計測されるウェイトに依存する。つまり、価格が上昇している財やサービスを多く購入している階層の消費者であれば、その人にとっての消費者物価はより上昇しているかもしれない。

 このように、消費構造の違いをもとに所得階層別の消費者物価を見ることは意味があるといえる。そこで、実際に所得階層別の消費構造に着目したCPIを確認してみた。下のグラフは、高所得者層の消費者物価として年収階層上位 20%世帯のCPIと、低所得者層の消費者物価として年収階層下位 20%世帯のCPIを時系列で比較したものである。現局面のCPIを両極端な2つの階層で比較すると、低所得者層のCPIは2022年に高所得者CPIより急激に上昇していることが分かる。

 以上より、生活必需品の価格が相対的に上昇局面にある場合は、消費者全体のCPIの動きのみで物価を判断すると、低所得者層の消費者が感じるインフレ率を過小評価してしまうことになるといえよう。この結果は、特にロシアのウクライナ侵攻以降の我が国でスクリューフレーションがより深刻化していることを示している。

地域格差ももたらす物価の二極化

 実質的な所得格差には、名目所得の格差に加えて物価変動による影響の格差も反映されるため、こうした物価変動も家計の実質期待所得の増減を通じて個人消費にも影響を及ぼす。このため、所得階層間による物価変動の格差は先行きの所得格差を見通す上でも非常に重要になってこよう。そして、高所得者層と低所得者層の生活格差が拡大する我が国のスクリューフレーションの背景には、所得階層の違いによって購入価格の変化が異なることも影響しているといえる。特に、所得の伸びが低い低所得者層では、一方で購入する生活必需品の価格が上がりやすいことに伴い購買力が損なわれている。

 また、物価の二極化は、地域格差も広げる可能性がある。公共交通網の目が粗い地方では自動車で移動することが多く、家計に占めるガソリン代の比率も都市部に比べて高い。また、冬場の気温が低い地域では、暖房のために多くの燃料を使う必要があり、こうした地域にとって灯油代の高騰は大打撃だ。電力料金やガス料金も燃料市況に連動するため、原油やガスが上がれば光熱費も増える。特に、電気は生活必需品である一方で、一般的に低所得者層のほうが高所得者層に比べて消費性向(所得に占める支出の割合)が高い。このため、相対的に低所得者層に対する負担が高まるという問題がある。

 従って、ロシアのウクライナ侵攻以降に深刻化した我が国のスクリューフレーションは実質所得の格差をさらに拡大させる可能性を示唆しており、今後も生活必需品価格の上昇や電気料金値上げを通して格差拡大が生じる危険性も考えられよう。

デフレの克服には「良い物価上昇」が必要

 そもそも、我が国において食料やエネルギーの価格が大きく変動しているのに対し、それ以外の物価は落ち着いてきたことの一因に賃金の低迷がある。ロシアのウクライナ侵攻に伴う石油や農産物等の資源高が食料品やエネルギーの価格を押し上げる一方で、企業収益の圧迫を通じて賃金を押し下げてきたためである。特にサービス価格の低迷は、国内の賃金伸び悩みが影響している。そして、こうした原油や穀物といった国内で十分供給できない輸入品の価格上昇で説明できる物価上昇は「悪い物価上昇」といえる。

 物価上昇には「良い物価上昇」と「悪い物価上昇」がある。

「良い物価上昇」とは、国内需要の拡大によって物価が上昇し、これが企業収益の増加を通じて賃金の上昇をもたらし、さらに国内需要が拡大するという好循環を生み出す。しかし、特にロシアのウクライナ侵攻以降の物価上昇は輸出入物価の高騰を原因とした値上げによりもたらされている。そして、国内需要の拡大を伴わない物価上昇により、家計は節約を通じて国内需要を一段と委縮させている。その結果、企業の売り上げが減少して景気を悪化させていることからすれば、「悪い物価上昇」以外の何物でもない。

 特に、ロシアのウクライナ侵攻継続により世界経済の低迷が危惧される状況下、今後とも食料エネルギーに関しては需要が供給を上回る状態が継続する可能性が高い。これに対し、日銀は中長期的な物価安定について「消費者物価が安定して前年より+2%程度プラスになる」と定義している。しかし、資源価格の上昇により消費者物価の前年比が一時的に+2%を大きく上回ったとしても、それは安定した上昇とはいえず、「良い物価上昇」の好循環は描けない。


 従って、本当の意味でのデフレ脱却には、消費者物価の上昇だけでなく、国内需要不足の解消が必要となる。そしてそうなるには、賃金の上昇により国内需要が強まる「良い物価上昇」がもたらされることが不可欠といえよう。


(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)


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韓国・不動産市場が崩壊の兆候…建設会社の倒産続出に警戒、PFへの新規融資凍結

2023-03-08 13:40:46 | 日記
韓国・不動産市場が崩壊の兆候…建設会社の倒産続出に警戒、PFへの新規融資凍結

2023.03.05 ビジネスジャーナル

韓国・ソウル(「gettyimages」より)
不動産PF崩壊のきっかけはレゴランド
 韓国の建設業界に激震が走っている。資金調達難や不動産バブル崩壊で大量の建設会社や不動産会社が破たんに追い込まれるのではないかといわれているからだ。中小零細だけでなく、大手の建設会社にも飛び火し、韓国ロッテグループでは建設会社を支援するグループ会社の経営にも大きな波紋が広がっているという。
 きっかけとなったのは江原道(カンウォンド)が推進していたレゴランド開発事業での債務不履行だ。 韓国では大掛かりなマンション建設や大型のプロジェクト開発の資金調達には不動産プロジェクトファイナンス(PF)が活用されている。レゴランドも不動産PFを活用して2050億ウォンのABCP(Asset-backed Commercial Paper、資産担保コマーシャルペーパー)を発行した。レゴランドのABCPは自治体の債務保証がついているということで短期社債としては最高のA1という格付けを獲得していたが、道が債務保証の履行を拒否し再生手続きの申請を行ったことで、A1からD(デフォルト)の評価に変わり、PF市場は大混乱に陥った。
「レゴランド事件が建設業や不動産業の倒産につながることが懸念されています。調達率は年利7%以上上昇し、不動産不況が続くため、不動産プロジェクトファイナンス(PF)に関する新規融資はほとんど行われていません。不動産PFローンの延滞率も4.7%に達し、昨年末(2021年末)から1.0ポイント上昇しました。資金不足により資金業者の経営が悪化した場合、元本の回収が難しい場合があります」(22年10月25日付スポーツ東亜) 
 現代建設が連帯保証しているソウル黒石9区域再開発PF ABSTB(貸出資産担保付短期債)の借り入れ金利は昨年9月には年3.34%だったのが、10月には年7%と2倍以上急騰した。さらに一部のABCP取引では金利が20%を超え、11月14日にはGS建設が信用補完したSPC「パインウノ」のABCPの金利が20.3~21%に跳ね上がっている。このようななかで中小零細の建設会社は相次いで資金繰りが悪化し、債務不履行に陥るといった噂が絶えず、忠清南道(チュンチョンナムド)で6番目に大きい建設会社Woosuk E&Cは破産宣告を受けた。
 ここで改めて不動産PFローンの仕組みについて簡単に説明しておこう。不動産PFローンとは、不動産開発による将来の収益を担保にあらかじめ開発資金を調達する仕組みだ。開発主体が建設会社の債務保証をもらって着手金として銀行からブリッジローンと呼ばれる金利の高い資金を調達する。期間はだいたい半年から1年程度といわれている。その後、事業計画の承認を得て金利の高いブリッジローンは返済し、建設工事費を調達するためにメインPFを行うことになる。メインPFではSPC(特別目的会社)を設立してABCPなどを発行する。
グループ企業から資金をかき集めるロッテ建設
 レゴランドショック以降、韓国で新しいPFは承認されていない。ブリッジローンをメインPFに転換することも難しいという。それでなくてもマンション市場は減速し、売れ残り住宅が増加。それまで販売したマンションの頭金や住宅ローンの一部でPFの返済などが行われてきたが、それが滞っているという。
「売れ残り住宅の数は2020年には1万7710戸だったのが、今年(22年)9月末時点では4万1604戸と2.3倍以上に増加している」(22年11月6日付時事ジャーナル)
 PFは通常、建設会社が債務保証しているためにプロジェクトを実施している会社がローンを返済しなかった場合は、建設費の支払いの有無にかかわらず、請負業者が債務を負担するか、建物を完成させなければならない。売れ残り・未着工工事が増え続けるなかで、PF保証が建設会社の偶発債務になる可能性が高まっているのである。大手建設会社がかかわっていた首都圏の大規模開発事業では、PFローンの借り換え(リファイナンス)に失敗し、大手建設会社が自ら資金を用意しなければならないというケースも出てきている。

「韓国最大の復興工事」と呼ばれ、現代建設やロッテ建設など大手建設会社が進めていた首都圏の大規模開発事業、遁村住公アパートの再建プロジェクトでは、7000億ウォンのプロジェクト費用の借り換えができずに、危うく建設会社の自己負担で返済しなければならなくなりそうだったが、政府が金融安定化政策の一環で創設した債券市場安定基金を通じて満期日の前日に借り換えに成功し、難を逃れた。昨年9月に韓国ビジネス格付け(KR)は、ロッテ建設、テヨン建設、HDC現代産業開発、GS建設、大宇建設のPF偶発債務が大きいと分析した。「なかでもロッテ建設では多数のプロジェクトが進行中で、その多くは未着手の建設プロジェクトだ」(同)という。 
「韓国信用評価によると、ロッテ建設の偶発債務(近い将来突発的な事態が発生すると債務となるもの)は6兆7000億ウォンを上回る。今月(11月)と来月(12月)はそれぞれ1兆3970億ウォンと3472億ウォンの手形などの満期がくる。来年第1四半期のうち返済すべき債務も1兆8696億ウォンに達する」(22年11月20日付デジタルタイムズ)
 ところがロッテ建設は事業で確保できる現金性資産はそう多くない。現金性資産は6788億ウォンしかなく、追加の資金を確保しなければならない事態に陥っていた。そのようななかでロッテ建設はグループ企業から資金をかき集め、2022年10月から11月にかけて系列会社などから1兆1000億ウォンの資金を調達している。
 10月18日には関連会社を対象に2000億ウォンの有償増資を行った。主要な出資先はロッテ建設の43.8%の株式を保有する筆頭株主のロッテケミカルが875億ウォン、第2位の株主(43.03%)のホテルロッテが861億ウォン、ロッテアルミニウムが199億ウォンだ。その2日後の10月20日にはロッテケミカルから短期借入金返済のため5000億ウォン借り入れている。さらに11月8日にはロッテ精密化学が3000億ウォン、その2日後にはロッテホームショッピングが1000億ウォンの支援を行っている。
 韓国の連合ニュースTVが22年11月10日付で、ロッテ建設側の説明として「短期不動産プロジェクトファイナンスでの資金調達は金融環境が正常化されておらず、安定した財務構造を得ようとしたものだ」と報じている。
ロッテ建設の波紋はグループ企業にも
 しかし、グループ企業へのダメージは大きく、ナイス信用評価は11月16日、資金調達に協力したロッテケミカル、ロッテショッピングをはじめグループの持ち株会社のロッテ持株、ロッテキャピタル、ロッテレンタルの長期信用格付けの見通しをこれまでの安定的からネガティブに下方修正した。同日、韓国企業評価もロッテ持株とロッテケミカル、ロッテ物産の無保証社債信用等級をすべて安定的からネガティブに引き下げた。
 資金調達はグループ企業だけからではない。金融機関からも巨額の資金調達を進めている。日本のメガバンクのみずほ銀行は11月3日、ソウル市瑞草区蚕院洞のロッテ建設本社の土地建物を担保に3000億ウォンを融資した。「日本の金融機関が海外で、売却できるかどうかもわからないものを担保にとって融資するというのはあまり考えられない」(メガバンク幹部)というから、かなり異例のことだったようだ。みずほ銀行にこの融資について確認したところ、「融資をした事実も含めてすべてノーコメント」(同社広報部)と頑なに口を閉ざしている。みずほ銀行はロッテグループの持ち株会社、ロッテホールディングスのメインバンクでもあることから、取引先に対する経営支援のような意味合いがあったのかもしれない。

 ロッテ建設はみずほ銀行以外にも11月18日にはハナ銀行から2000億ウォン、韓国スタンダードチャータード銀行から1500億ウォンを調達したことを明らかにした。地元メディア、デジタルタイムズの22年11月20日付報道によれば、「系列会社であるロッテ物産と『ロッテ建設が貸出金を返済できない場合やロッテ建設の返済金が不足した場合は貸出や出資で補充する』」との約定までかわしていたという。
 これだけではない。22年12月19日には、1月2日と4日に満期を迎える2000億ウォンの超短期高金利(金利は10%)のCPを、サムスン証券を含む証券会社4社に発行。このローンを返済するためにその3日後、12月30日に転換権を行使できる高金利転換社債(CB、表面金利8.4%、満期金利10%)を発行したという。22年12月26日付の金融消費ニュースでは「さまざまな問題や副作用があることから、このCBはロッテなど大企業グループが近年発行していない資金調達手段です。ロッテ建設は依然として不動産PF関連の資金調達関連に苦労していることが認められます」と報じている。
 韓国政府は社債などを買い入れ、金融市場の安定化を図るために22年10月23日に「50兆ウォン プラスアルファ」の緊急支援を表明。ロッテ建設は23年1月9日、メリッツ証券から1兆5000億ウォンの投資契約を取り付けたことを発表した。メリッツ証券はロッテが推進中のプロジェクトでロッテ建設が保証するABCPなどの債券に投資するという。これに先立ちロッテホームショッピングから借り入れた1000億ウォンやロッテ精密化学の3000億ウォン、ロッテケミカルの5000億ウォンは返済したというから、当面の資金難の問題はとりあえず解決したようだ。
 しかし短期金融市場の信用崩壊による資金調達の悪化は単なる前哨戦にすぎない。すでに不動産バブルが崩壊し、その荒波は不動産会社や建設会社に押し寄せている。ロッテ建設は今後、ソウルのMagok MICE複合施設(3兆3000億ウォン相当)や仁川の巨大丹101駅周辺開発プロジェクト(1兆1800億ウォン相当)などを推進していくというが、資材高騰などのあおりを受けてどこまで利益を上げることができるかは未知数だ。さらに今後、完成するマンションの販売はマンション価格の下落や金利高騰でさらに厳しいものになっていく。韓国では住宅ローンの延滞率も10%を超えたという。韓国の不動産関係者の間では「今度どうなってしまうのかわからない」(中小不動産関係者)といった悲観論が飛び交っているという。おのずとPFのリファイナンスも再び難しい局面がやってくるかもしれない。 
 そのようななかで筆頭株主のロッテケミカルは前年度の決算で7584億ウォンの営業赤字に転落し、イルジンマテリアルズを2兆7000億ウォンで買収する。グループ会社を支援する余力がどの程度、残っているのかは不明だ。さらにロッテケミカルをはじめ他のグループ企業も信用格付けの引き下げなどで資金調達がますます難しくなっている。
 果たして韓国ロッテグループはこの難局をどう乗り越えるのか、大きな課題に直面している。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)