GDPは2期ぶりプラスも 力強さ欠く日本経済 成長のカギを探る
2023年02月15日 (水)
佐藤 庸介 解説委員
「回復に向かっているものの、その歩みは遅い」
そんな日本経済の姿が読み取れる結果でした。
14日発表された、去年10月から12月までのGDP=国内総生産は2期ぶりのプラスとなりました。しかし、市場予想を下回り、力強さに欠けるという評価が大勢です。今回は新型コロナウイルスの影響を乗り越えて、日本経済が持続的に成長する条件を探ります。
【2期ぶりプラス成長の背景】
まずは今回発表されたGDPの具体的な内容をみていきます。
内閣府が発表した去年10月から12月までのGDPの速報値は、物価の変動を除いた実質の伸び率で、前の3か月と比べてプラス0.2%となりました。これが1年間続いた場合の年率に換算するとプラス0.6%でした。
去年はプラスとマイナスを繰り返した成長率。プラスとなったのは2期ぶりです。コロナの影響が落ち着いて、消費が活発化した結果と言えます。
半分以上を占める「個人消費」は、プラス0.5%と3期連続で増加しました。とくにコロナで大きな打撃を受けていた飲食・宿泊業を中心とする、サービス消費が回復しました。去年10月からは「全国旅行支援」が始まり、旅行需要も押し上げられました。
さらに外国人旅行者の増加も成長に寄与しました。統計上、この分がカウントされる「サービスの輸出」はプラス5.2%と大幅に増えました。同じく10月から水際対策が緩和され、韓国や台湾などアジアを中心に急速に日本を訪れる旅行者が増加しました。
しかし、前回、7月から9月のマイナス分さえ取り戻せなかった今回の成長率は「伸び悩んだ」と言わざるを得ません。
設備投資が3期ぶりにマイナスになったことに加えて、物価の高騰でモノの消費が振るわなかったことも影響したとみられます。
【先行き 成長を後押しする材料は】
「景気に力強さがない」という結果は、物価高に悩む多くの人たちの実感通りともいえるのではないでしょうか。
一方で、弱いながらも、今後の成長を後押しすると見込まれる材料はあります。そうした明るい面に焦点を当ててみていきます。あわせて3つあります。
【プラス材料① 積み上がる貯蓄】
1つ目が、コロナの影響で家庭や個人の貯蓄が増えていることです。
これは日銀が「強制貯蓄」と呼びました。本当は消費に使いたいのに、コロナで外出を自粛したことなどで、半ば「強制的に」お金がたまったからです。
大和総研の試算によりますと、2020年1月から去年12月までの3年間で膨らんだ貯蓄は47.3兆円程度に上るということです。
とりわけ富裕層の貯蓄が増えているということが注目されます。こうした層が旅行などの消費をさらに積極化する可能性はあります。
【プラス材料② 中国人旅行者の消費】
2つ目が中国人旅行者への期待です。
中国に対して政府は、去年12月以降、コロナの拡大を受けて、臨時の水際措置を続けています。去年12月に日本を訪れた中国人旅行者は、2019年より95%減っています。韓国がすでにコロナ前より増えているのとは対照的です。
それでも期待が強いのは消費額が多いからです。1人あたりの消費額は、韓国人旅行者の3倍近くに上ります。
今後、中国の感染状況が落ち着いて水際措置が緩和されることになれば、地方を含めて観光の起爆剤になりえます。感染拡大を防ぐということを大前提に、経済効果を取り込むという工夫が必要です。
【プラス材料③ 半導体不足解消で生産増】
そして、3つ目が半導体不足の解消です。
世界的な半導体不足の影響で、特に自動車は作りたくても作れない状況が続いていました。新車の納車が長期化する事態になっていました。
日銀短観では、自動車について「需要超過」と答えた割合から「供給超過」と答えた割合を引いた値は、去年12月、過去最も高くなっています。これは「自動車が不足している」という声がかつてなく強まっているということを意味します。
大和総研は、家庭や個人が納車を待っている車の台数は、ことし1月の時点でおよそ66万台、金額にしておよそ1.6兆円に達すると試算しています。
まだ十分とは言えないとはいえ、半導体不足が少しずつ解消している今、取引が動き出せば、景気には一定のプラスとなります。
【課題① 人手不足 観光業などに広がる】
これらの前向きな材料を十分に生かすため、向き合うべき課題は何でしょうか。重要な点として、「人手不足への対応」と「中小企業の賃上げ」を挙げます。
多くの分野で人手不足は顕著になっていますが、特に深刻なのは今後、追い風が期待できるはずの観光業界です。
宿泊・飲食業での人手の状況を示した日銀短観のデータをみますと、もともとひっ迫傾向だったのが、コロナで過剰になりました。ところが、再び一気に人手が足りなくなり、去年12月にはコロナの前の水準までひっ迫しています。
コロナで一時的に仕事がなくなった結果、別の業種に人が移り、携わる人が減ってしまったことが要因とみられます。
観光産業は、まだ回復の途上にある段階で、今後ますますニーズが高まると予想されます。にもかかわらず、すでにひっ迫感が強まっていることは大きな問題です。
三井住友カードと日本総合研究所がまとめたデータでは、外国人旅行者のカードあたりの決済額は、コロナ前より5割以上、増えています。円安に加えて、各国でも貯蓄が増え、消費意欲が膨らんでいます。ところが人手不足が続けば、受け入れきれなくなり、このチャンスを逃す可能性があります。
人手不足の問題は、建設業や運輸業など別の業種でも日を追うごとに厳しくなっています。
【課題② 進まぬ中小企業の賃上げ】
もう1つの課題が賃上げです。中でも、雇用全体の7割を占める中小企業の賃上げが日本経済にとって重要です。しかし、困難に直面しています。
東京の城南信用金庫が、顧客の中小企業、738社に行ったアンケートの結果です。
賃上げの意向を聞いたところ、「賃上げする予定」と答えた割合は、全体の26.8%。実に72.8%が「賃上げの予定なし」と回答しました。個別回答の中には「物価の高騰で収益が圧迫され、賃上げは困難」という記述が随所に見られます。
あわせてコストの増加を転嫁できているか尋ねたところ、「まったく」、あるいは「ほとんどできていない」という回答があわせて32.8%と3分の1近く。「一部できていない」も半分を超える、50.8%を占めています。
調査結果からは原材料価格の上昇をうまく転嫁できず、賃上げの原資を確保できていないという構図が浮かび上がります。
【転嫁を円滑に進めるために】
「発注先の大企業から取引を打ち切られることを恐れて、転嫁を求めることができていないのではないか」
こうした問題意識に基づいて状況を確認しようと、経済産業省は去年9月から11月にかけて中小企業が取引先との間で価格交渉や転嫁を適正に行うことができているか、調査しました。結果をまとめ、ことし2月、初めて企業名とともに公表しました。
中小企業10社以上から、業務の発注先として挙がった企業は大手148社。このうち、直近の半年間、価格交渉がしやすかったかどうか確認した項目では51社が最高ランクだったのに対し、機械メーカーの「不二越」1社が最低ランクでした。一方、価格転嫁を受け入れたかどうかについては、最高ランクは8社にとどまり、「日本郵便」1社が最低ランクでした。
具体的な情報を開示することがどこまで効果的か、分からない面はあります。それでも一定程度、大手企業へのプレッシャーにはなるでしょう。
中小企業でも価格転嫁を円滑に進めて、賃上げをしやすくする。賃上げを通じて、人手不足の中でも優秀な人材を確保し、それが商品やサービスの質の向上につながる。企業が収益性、生産性を高め、単価を上げられるようにする。こうした循環を作り出すことで、人手不足や賃上げといった課題を解決することが重要です。
日本経済は来年にかけて回復に向かうとみられます。しかし、依然続く物価高に加えて、世界経済の減速などリスクにも取り囲まれています。追い風が吹いている間、迅速に手を打てるかどうか。そこに確かな成長へのカギがあります。
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