米軍のアフガニスタン撤退は「惨劇」、米議会公聴会で海兵隊員が涙の証言
アメリカ連邦議会下院の外交委員会で8日、2021年のアメリカ軍のアフガニスタン撤退をめぐる調査が始まり、現地で負傷した米海兵隊員が、当時の状況を「惨劇」だったと涙ながらに語った。
アフガニスタンでは2021年8月、武装勢力タリバンが実権を掌握。
米軍による市民の避難が行われる中、空港で混乱が起きた。
ジョー・バイデン政権は同月末に、米軍を完全撤退させた。
下院多数だが政権野党の共産党が主導する外交委員会は、バイデン政権のこの判断について調査している。
この日の公聴会に召喚された兵士たちは、タリバンが実権を握った直後の混乱と、米軍の準備不足、自分のトラウマや心理的打撃が続いていることなどについて語った。
米海兵隊のタイラー・ヴァーガス=アンドリューズ軍曹(25)は当時、カブール空港を警備していた米兵の1人。
この空港では2021年8月26日、避難のために殺到していた市民を狙う自爆テロが2件発生し、アフガニスタン人170人、米兵13人が亡くなった。
ヴァーガス=アンドリューズ氏は、自分ともう1人の海兵隊員が爆発が起きる可能性を情報機関から入手しており、事件当日、容疑者を見つけたと証言した。同氏は上官に警告を送り、出動許可を得ようとしたが、許可は下りなかったという。
「単純に言えば、私たちは無視された」とヴァーガス=アンドリュース氏は話した。
ヴァーガス=アンドリュース氏は感情をあらわにしながら、爆発で空中に投げ出されたことや、次に目を開けた時には同僚が死んでいたり、意識を失って倒れていたことなどを証言した。
「身体が爆発によるけがに覆われていた。胴体が引き裂かれていた。むきだしになった体のあらゆる場所に、軸受けや破片が刺さっていた」
「もう助けられない人たち、置いてきてしまった人たちの顔が目に浮かぶ」
その上で、米軍の撤退は「惨劇」だったと述べ、「言い訳できない責任の欠如と怠慢があった」と指摘した。
委員会では、他の米兵や退役軍人からも、撤退によるメンタルヘルス(心の健康)への影響の証言があった。
アフガニスタン人の避難に携わっていたデイヴィット・スコット・マン中佐(現在は退役)は、味方を逃がそうとした経験は「とてもつらい」ものだったと語った。
また、アフガニスタンからの撤退後、退役軍人ホットラインへの問い合わせが81%増加したと指摘。アメリカは「メンタルヘルス問題の津波の最前線」にいると警告した。
マン中佐と共に従軍していた友人は、その後自殺したという。
「友人はただ、心理的打撃の暗闇から抜け出せなかった」
証言者の大半は、ジョージ・W・ブッシュ氏から現職のバイデン氏まで、米軍がアフガニスタンに派遣されて以降の全政権に責任があると述べている。
また、アフガニスタンやアメリカにいるアフガニスタン人協力者への支援を直ちに行うよう求めた。
マン中佐は、「アメリカは、協力者を何世代にもわたって構造的に見捨てるという、嫌な評判を作りつつある。ベトナムのモンタニャールからシリアのクルド人に至るまで、我々は人間のごみのように捨て去ってきた」と指摘した。
一方、長らく調査を求めてきた共和党は、バイデン政権を非難している。
同委のマイク・マコール委員長(共和党、テキサス州選出)は、撤退は「連邦政府の全方面のシステム崩壊と、バイデン政権によるとんでもないリーダーシップの失敗」だと述べた。
これに対し政権与党・民主党の委員たちは、バイデン政権を擁護した。
グレゴリー・ミークス議員(民主党、ニューヨーク州選出)は、バイデン氏は「全部隊をアメリカに帰還させるために正しい決定を下した」と述べた。
「アフガニスタンにこれ以上のアメリカ人を送り込んで戦わせることは、良心的に考えられない」
バイデン大統領は先に、「根本的に起こったこと全てについて責任を負う」と発言している。一方で、タリバンと撤退合意を結んだドナルド・トランプ前大統領を批判している。