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中国軍がなぜ太平洋での日米戦争史を学ぶのか

2023-03-10 17:51:36 | 日記
中国軍がなぜ太平洋での日米戦争史を学ぶのか
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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久


中国人民解放軍が日米両国が戦った太平洋戦争の詳細な歴史を最近、熱心に研究し始めた。アメリカでの調査で明らかとなった。中国側のその動機はこんご太平洋の広大な海域で起きるかもしれない米中戦争に備えることのようだという。日本にとっても深刻な事態となる展望なのだ。日本側としてはまずアメリカとの戦争に備えるというような危険な隣国の存在を改めて認識すべきだろう。そのうえで同盟国のアメリカが中国側のそんな危険な動向を十二分に意識して、その対策をも考えているという現実を認識すべきである。そうした認識はみな日本自体の国家安全保障や防衛政策へと直結する基本点だといえよう。 アメリカの首都ワシントンに所在する安全保障の大手研究機関「戦略予算評価センター(CSBA)」は1月中旬、「太平洋戦争の中国への教訓」と題する研究報告書を公表した。副題に「人民解放軍の戦争行動への意味」とあるように、太平洋で日本軍と米軍が戦った際の詳細を中国のこんごの軍事行動への教訓にするという中国側の研究内容を調査し、分析していた。約100ページの同報告書を作成したのはCSBAの上級研究員で中国の軍事動向については全米有数の権威とされるトシ・ヨシハラ氏である。日系アメリカ人学者のヨシハラ氏は海軍大学教授やランド研究所の研究員を務め、中国人民解放軍の動向を長年、研究してきた。父親の勤務の関係でヨシハラ氏は台湾で育ったため中国語に精通し、中国側の文書類を読破しての分析で知られている。では中国はなぜいまになって70数年前に終わった太平洋戦争の歴史を熱心に学ぼうとするのか。ちなみにこの太平洋戦争を大東亜戦争と呼ぶことも適切だろうが、アメリカと日本の軍隊が主戦場としたのはやはり太平洋だった。ヨシハラ氏は中国側のこの研究の目的について「中国軍関係者による太平洋での日米戦争の研究が近年、激増してきたが、その背景には習近平主席が『人民解放軍を世界一流の軍隊にする』と言明したように、2030年までには中国軍はとくに海軍力で米軍と対等になる展望の下で太平洋の広範な海域での米軍との戦争研究を必要とするようになったという現実があるといえる」と述べている。ヨシハラ氏の分析では、中国が太平洋戦争での米軍の戦略や戦術、さらには日本軍の敗北要因を分析し、その結果、どんな教訓を得たのかを知ることはアメリカ側にとってもこんごの中国の対米戦略を占う上で重要だという。その目的のためにヨシハラ氏は中国側の人民解放軍当局、国防大学、軍事科学院などの専門家たちが2010年から22年の間に作成した太平洋戦史研究の論文、報告類、合計100点ほどの内容を通読し、分析したという。中国側のそれら報告書類は人民解放軍内の調査文書や軍民共通の紙誌掲載の論文などから広範に収集されている。 そのような中国側の太平洋戦史研究の文書多数を点検したこの報告書はその膨大な中国側の太平洋戦争研究のなかで、分析をミッドウェー海戦、ガタルカナル島攻防、沖縄戦の3件にしぼり、中国側の考察の主要点を次のようにまとめていた。 【ミッドウェー海戦】日本海軍が空母4隻を一挙に失ったこの戦いでは米軍は日本側の暗号を解読し、情報戦で当初から勝っていた。日本側は情報戦、偵察が弱かった。空母よりもなお戦艦の威力を過信していた。さらに日本側には真珠湾攻撃や東南アジアでの勝利での自信過剰があった。 【ガタルカナル島攻防】米側の補給、兵站が圧倒的に強く、日米両国の総合的国力の差が勝敗を分けた。日本軍は米軍の同島の飛行場の効果を過小評価し、空爆で重大な損害を受けた。日本軍は地上戦闘では夜襲と肉眼偵察を重視しすぎて被害を急増した。 【沖縄戦】米軍は兵員、兵器などの物量で圧倒的な優位にあった。だが日本側は米軍の当初の上陸部隊を水際でもっと叩くことが可能だった。空からの攻撃が海上の巨大な戦艦(大和)を無力にできることを立証した。だが日本側の自爆の神風攻撃はかなりの効果をあげた。 以上の諸点からヨシハラ氏は中国側のこの太平洋戦史研究の全体の目的や、そこから得たとみられる教訓、考察などについて以下の諸点をあげていた。
  • 中国側は習近平政権の登場以来、太平洋戦争の研究の分量や範囲を大幅に増し始めたが、その原因は習近平政権がアメリカとの大規模な戦争の可能性を真剣に考慮するようになったことだろう。
  • 中国軍には近年、実際の戦闘経験が少なく、とくに海上での大規模な戦争の体験がない。アメリカとの全面対決ではやはり太平洋戦争での日米戦でのような広大な海域での衝突が予測されるため、太平洋戦の歴史はとくに大きな意味を持つようになった。
  • 日本軍は最終的には敗れたが、その過程での先制の奇襲攻撃や自爆覚悟での神風特攻隊による攻撃はアメリカ側を揺らがせ、大きな被害を単なる物理的な次元ではなく、心理戦争というような側面でも与えた。
  • アメリカ軍による日本軍の暗号解読などインテリジェンス面での米側の優位は個別の戦闘でも決定的な有利をもたらした。情報収集、偵察などのインテリジェンス戦が実際の最終戦闘の帰趨までをも決めることが立証された。
  • ガタルカナル戦や沖縄戦での日米両軍の物量の圧倒的な差異は両国の総合的な国力の差から生じたことが明白だった。だからこんごの大規模な戦争でも当事国のとくに経済面での総合的な強さが軍事動向を左右することが再確認された。
  • 沖縄戦での日本の世界最大の戦艦「大和」の沈没が明示した海上戦闘での空軍力の決定的な効果は戦艦よりも空母の威力、さらには海上での空戦でも地上基地からの空軍力の効果の絶大さを立証した。
以上のような考察を述べたヨシハラ氏は中国の人民解放軍が将来のアメリカ軍との大規模な戦争を考えるうえで、太平洋戦争からの以上の諸点を教訓として活かそうとするだろう、と結んでいた。

韓国、「日本と協調」尹氏、大統領選に当選して1年、新自由主義説いて左派と「妥協せず」

2023-03-10 16:37:11 | 日記
韓国、「日本と協調」尹氏、大統領選に当選して1年、新自由主義説いて左派と「妥協せず」


2023年03月10日

  • 韓国経済ニュース時評日本経済ニュース時評

   
韓国大統領の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が、当選したのは昨年3月9日(就任は5月)である。僅差の勝利であった。敗北した左派陣営は、悔しさも手伝って尹氏の哲学である「新自由主義」を時代遅れと批判して止まないのだ。

左派は、軍事政権を民衆のデモで追放したことに無上の誇りを持っている。それを理由にして、好き勝手なことをやっているのも事実だ。未だに、公営企業数がOECD(経済協力開発機構)の中で最大という非効率な経済運営をしている。だが、これを変えようとすれば、左派が絶対反対という狼煙を上げるのだ。

「新自由主義」では、公営事業でも民間で行なえるものは民間に任せて効率化を図ることを原則とする。日本は、この線に沿って公営事業は郵便局も含めてすべて民営化した。韓国では、全くの手つかずである。尹氏と言えど、これだけは「沈黙」を余儀なくされている。韓国国民は、李朝時代から公務員(昔の両班:ヤンバン)になることに憧れてきた。その夢が、現在まで続いており、国営事業の整理はタブーになのだ。韓国の経済民主化は、ほとんど不可能である。それでも、尹氏は新自由主義を唱えなければならない。苦しいところだろう。

『聯合ニュース』(3月9日付)は、「尹大統領当選から1年 『自由・連帯』掲げ政権運営加速へ」と題する記事を掲載した。

韓国の錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は当選から9日で1年を迎えた。記念行事などは開かず、南東部・蔚山市で行われた石油化学プラントの起工式に出席した。経済状況が厳しい中、政権交代を果たした大統領選勝利を祝うより、国民生活を重視する姿勢をアピールする狙いがある。

(1)「尹大統領はこの1年間、「自由」と「連帯」に重点を置き、文在寅(ムン・ジェイン)前政権とは異なる道を進んできた。経済政策では「民間主導の成長」を掲げ、輸出を拡大して経済危機を乗り越えるとして、大胆な規制緩和を通じた企業支援を強調してきた。労働・教育・年金などの改革にも乗り出した。尹大統領は自由で公正な国づくりのためには少数の利害関係が絡む「利権カルテル」を断ち切る必要があると認識している」 

尹氏の思想的背景は、米国のノーベル経済学賞受賞のミルトン・フリードマンの『新自由主義』にある。この「新自由主義」は、左派から誤解され非難されている。だが、実態は左派的な要素を加味したものである。自由放縦な競争に枠をはめた、規律ある競争と同時に、競争からこぼれた人達への公費による福祉支援強化を前提にしている。つまり、「弱肉強食」という古典的自由主義を大きく修正したものだ。韓国左派は、新自由主義を目の敵にしているが、韓国経済の将来は、この思想のうちどれだけを実現できるかにかかっている。その意味では、実験場である。

韓国は、宗族社会の遺制を引きずっている。未だに大卒の第一希望は、公務員志望である。2~3年就職浪人しても公務員を希望する背景には、李朝時代の「ヤンバン」による楽な生活を夢見ているのだ。

(2)「自由と連帯の価値は対外政策にも反映された。尹大統領は自由民主主義と市場経済の価値を共有する国との連携、特に韓米同盟の強化や韓日関係の回復を最優先課題に据えた。日本との関係改善が欠かせないと判断し、今月には両国関係の最大の懸案だった徴用被害者への賠償問題を巡り、韓国が自ら解決するという決断を下した。世界的な複合危機の中、外交や経済、安全保障などあらゆる分野で日本との協力が重要という認識が反映された結果とみられる。来週と予想される尹大統領の日本訪問、4月の国賓訪米を通じ、韓米日3カ国の連携はさらに加速する見通しだ」

尹氏は、「新自由主義」の実現に努力をしている。この対極が文在寅・前大統領であった。文氏は、「民族主義」の基盤に立って「親中朝」を鮮明にしていた。韓国国民は、こうした全く相容れない思想基盤の大統領を選んでいるのである。左派と右派が、ほぼ交代で政権を担ったのだから、韓国経済が本当の意味での市場経済化できなかったのは当然で不幸と言うほかない。

(3)「尹大統領は今月8日に開かれた与党「国民の力」の党大会に出席し、新しく選出された党執行部と一体になることの重要性を強調しながら「皆が力を合わせ、新しい国民の国をつくろう」と訴えた。党大会では自身に近い金起炫(キム・ギヒョン)氏が新代表に選出されたことから、党内の求心力を高めて改革を含む国政運営に弾みをつけたい考えだ。ただ、野党や市民団体などが改革の方向性などを巡り反発を強めていることは課題となる。検事総長出身で、要職に検事を重用していることから「検事政権」との批判を受けている人事問題の解消にも取り組む必要がある」

尹政権は、「検事政権」とも揶揄されている。多くの政府ポストが、検事出身者によって占められているからだ。これは、文政権が市民運動家や左派弁護士で構成されたのと似通っている。これこそ、韓国社会の「宗族制」という伝統が表面化したものだろう。相手陣営から登用するという度量も必要だ。韓国社会は、そこまで脱皮できない証明と見られる。

ただ、尹政権が日韓関係改善で舵を切ったことは、歴代右派政権でもできなかったことである。李明博政権・朴槿惠政権も反日の殻に閉じこもって、「反日」を利用していたのだ。その点で、尹氏は「新自由主義」の理解者らしく理詰めで日韓関係を捉えている様子だ。韓国では、初めての大統領である。