2022/04/10
格差大国「韓国」、不可解な退職年齢の急低下 過酷な実情とは?
OECD(経済協力開発機構)の最新調査によると、韓国の実質退職年齢(Effective Age Of Labour Market Exit)がコロナ禍のわずか2年間で6.6歳下がったという。
同国は、所得水準が日本を超えるなど急発展を遂げている裏で、65歳以上の半分が貧困生活を送っている格差大国でもある。
高齢者の自殺率もOECD加盟国の平均の3倍と極めて高い。それにもかかわらず、なぜ実質退職年齢が下がったのか。
日本の実質退職年齢はOECDで最も高い
この調査は、経済活動から完全に退いた40歳以上の労働者の年齢に基づき、実質退職年齢(Effective Age Of Labour Market Exit)を算出したものだ。
2020年のOECD加盟国の平均は、男性63.8歳、女性62.4歳。
実質退職年齢が最も低かったのはルクセンブルクの男性(59.2歳)とギリシャの女性(58.1歳)で、最も高かったのは日本とニュージーランドの男性(68.2歳)と日本の女性(66.7歳)だ。
OECD加盟国の平均は1970年以降、低下に転じ、2000年に男性61.4歳、女性59.7歳を記録。
その後、高齢化にともない再び上昇を続けている。
「日本より高齢者就労率が高い」という現実
そもそも、実質退職年齢が高い国と低い国があるのはなぜなのか。
退職後や年金受給開始後も何らかの形で賃金を得ている場合は退職していることにはならない。
極端にいうと、実質退職年齢が高い国=公的年金受給開始年齢を過ぎても働く高齢者が多い国ということになる。
その理由として、少子高齢化にともなう労働力の確保や健康寿命が延びたことによる就労意欲の高まり、公的年金支給開始年齢の引上げなどが挙げられる。
国連(UN)の統計によると、日本に次いで少子高齢化率が高いドイツやイタリア、スペインの実質退職年齢は、それぞれ日本より4.3歳、5.65歳、6.7歳低い。
しかし、これらの国においても高齢者の就労率は増加傾向にある。
このような中、実質退職年齢を短期間で大きく下げたのが韓国だ。
2016年は男性が72.0歳、女性が72.2歳、2018年は男女ともに72.3歳と、OECD加盟国の中で最も実質退職年齢が高かった。
ところが2020年は、男性66.7歳、女性64.9歳へ低下した。
韓国でも少子高齢化が加速しているが、現時点で総人口に対する65歳以上人口の比率は日本の6割にも満たない。
それにもかかわらず、高齢者の就労率は2020年までの10年間で19%以上増加し、10人中3.5人が働いて賃金を得ている。日本は2.5人だ。
これらのデータを見る限り、韓国における実質退職年齢の低下は不可解としかいいようがない。
所得は上がったものの高齢者貧困率はOECD加盟国中1位
可能性として挙げられるのは、所得水準の向上だ。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス公共経済学部ニコラス・バー教授らは、2006年に発表した論文『年金の経済学』の中で、「退職を正常財(所得の増加により需要が増加する財の一種)と見なした場合、収入が増えると退職年齢が下がる可能性がある」と指摘している。
OECDの1990~2020年のデータによると、賃金が過去30年間低迷している日本とは対照的に、韓国ではほぼ2倍に増えた。
2015年以降は日本を上回り、2020年の賃金は4万1960ドル(約511万円)に達した。
しかし、ここでもこれらのデータを額面通りに受け取ってよいものか、疑問は残る。
所得水準が上がったからといって、すべての国民の生活水準が上がったわけではない。
韓国の所得格差は他国と比べても大きく、2018年の時点でOECD中11位(34.5%)、総人口に対する貧困率は7位(16.7%)だ。
特に、66歳以上の貧困率は43.4%とOECD中1位。
老後貧乏が問題になっている日本の2倍以上である。
韓国メディアの「コリア・ヘラルド」が入手した統計庁のデータでは、2019年時点で貧困率が47.4%へとさらに上昇し、2022年3月に初めて30%台まで下落した。
とはいえ、他のOECD加盟国より依然として高い水準だ。
多数の国で実質退職年齢が上昇している背景には、「公的年金だけでは食べて行けない」や「公的年金すら受給できない」という高齢者が増えている現状もある。
実際、統計庁が2021年に実施した調査では、65〜79歳の4割強が就業しており、理由の多くが「生活費の補填」だったことが明らかになっている。
この点を踏まえると、同国の実質退職年齢が下がったのはやはり腑に落ちない。
年金制度も頼りにならず 平均受給月額は日本の半分以下
「2014年に基礎年金が導入されたことが高齢者の貧困率改善に貢献している」との見方もあるが、現実は過酷だ。
同国で公的年金が導入されたのは1988年、国民皆年金が導入されたのは1999年と、年金制度自体がまだ成熟していない。
保険料の支払い期間が短く、満額を受け取れる高齢者は一握りである。
平均受給月額は64万ウォン(約6万4,000円)と、物価がさほど変わらない日本の半分にも満たない。
また、韓国政府は国民年金制度を導入した当初、保険料を所得の3%に設定するという致命的なミスを犯した。
低い保険料で加入者をかき集め、5年ごとに3%引き上げるという計画で、現在は9%まで引き上げられているが、行きつく先は「枯渇」だ。
国会予算局は2021年、「年金基金が2040年までに赤字になり、2054年までに枯渇する」と予測した。
これでは若者が絶望し、生活苦に耐えられなくなった高齢者が自殺に追い込まれるのも不思議ではない。
2045年には世界一の高齢化大国に?
韓国経済研究院の予想では、同国の高齢者の割合は2024年に19.2%とOECD加盟国の平均(18.8%)を上回り、2045年には37%と日本(36.8%)を追い越すという。
早急な年金改革と所得改善が求められる中、新政権がどのように対応していくかが注目される。
文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)