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地方自治の危機(10)…【実例1の続き⑧】地方自治を阻害する長野地裁 

2015-04-20 15:52:16 | 地方自治
 判決だけ見た全国の自治体は、発注業務における随意契約の理由は不要、予定価格の設定や、受領物の検収としての数量把握、相見積りの引き合い業者数など、調達の基本(民間では、国税庁の仔細な指導がある)はおろか、法律の手続きにも無関心でよい、と裁判所がお墨付きを与えてくれたと感じるであろう。これでは本訴訟を提起したことの意味は逆効果となって、地方の時代と言われる自治をますます後退させることとなる。官尊民卑が健在なのかもしれないが、民間は法令順守に懸命である。
 より詳しくは、長野地裁判平25・10・25の判決文ではよく分からない背景を、幾つかの準備書面の原本〔平成24年(行ウ)第13号 損害賠償請求住民訴訟事件〕で是非研究していただきたい。すなわち判決は、判例とした“最判昭62・3・20”の一般論の部分をなぞる形で、あたかも「棄却」という結論が先にあり(注7、8、9参照)、結論に対する理屈付けが難しい論点は省いているようなので、地裁の保管期間が数年という「準備書面」(判決文では無視している論点がかなりある)を是非参照していただきたい。
 (注7)荘司雅彦著『嘘を見破る質問力』163ページ「法曹界の論理は“結論”が先にあり、“理由”は結論をもっともらしくするための“理屈”にすぎない」
 (注8)オリ・ブラフマン著『あなたはなぜ値札にダマされるのか?』123ページ「自分が下した評価と矛盾するデータを無視するようになる。」
 (注9)矢野輝雄著『あきれる裁判と裁判員制度』:p.30「裁判官は、すでに自分の結論を出しているので、結論に合致しない部分は無視する。どんな事実の証拠を提出しても、裁判官が『信じられない!』といえば、それまでである。」

 判決に異議があるなら、折角の司法制度に則って、高裁へ「控訴」すべきであったとも言える。しかし私ばかりでなく、市側にも新たに多額の弁護士費用が発生することと、「控訴には弁護士を立てないと、法曹世界の争い方を知らない一般市民には難しい」と文献にあったので、観念的論争は止めることにした。
 ここに述べた違和感についての現場は、私が現役時代にくどいほど経験してきたことなので、少なくとも法曹の方々よりは熟知しているつもりである。事後に読んだ文献(注10)は「住民訴訟は予定調和的にほぼ100%が負ける」と述べているので、裁判のような外部に頼るのではなく、市民自らが足元から考え行動する所にしか道は無いようだ。
(注10)矢野輝雄著『あきれる裁判と裁判員制度』:p.29
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地方自治の危機(11)…【実例2】不作為を決める行政自前の「規則」とは?

2015-04-20 15:32:06 | 地方自治
【実例2】「予定価格調書を省略できる規則」の改訂に関する提案
  <疑問点> 如上の住民訴訟の契約起案書においては、業務委託業者選定のための「予定価格(単価)」が決められていなかった。諏訪市は、「諏訪市財務規則第120条」によって、予定価格調書の作成はしなかったという。
 「諏訪市財務規則第120条」の趣旨を次に掲げる。「予算執行者は、業務委託先を随意契約に付するときはあらかじめ、価格の総額または単価について予定価格を定めなければならない。予定価格が決定したときは、予定価格調書を作成し、保管しなければならない。ただし、特に必要がないときは、予定価格調書の作成を省略することができる。」
 本規則の最後の文言、「特に必要がないときは、予定価格調書の作成を省略することができる」を適用すれば極端な場合、全ての契約で予定価格調書を作成しなくてもよいことになり、本規則は有って無いようなものである。あるいは、「予算決算及び会計令 第99条の5」で、予定価格の作成を義務付けていることと矛盾する。例えば、「50万円を超えない契約で、調書の作成を省略できる」というような形なら理解できる。因みに、「特に必要がないとき」には、その理由を明記させるべきである。
 「規則」は、執行部門である市長が自ら定めることができるというが、「“予定価格を作るべし”と、条例なり法令が課している義務を、担当者の判断で守らなくてもよい」と、自前でルール逃れの「規則」を作っていることはおかしい。少なくとも「議会」の承認が必要な「条例」にするべきではないか。裁判所は、法令の不整合について何も言わない。
 「陳情」の形で諏訪市議会にこの提案をした所、議会運営委員会は「(市議会として意思を示すべき内容でないので採否の)審査はせず、全議員に(陳情書を)配布」するに留めるとした。議会にこの種の要望が今まで出されたことがないので、どうしてよいか分からない為という。議会の役割とは?
 因みに、先進的な自治体は「議会基本条例」を制定して、議会が従来以上の役割を果たそうとしている。
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地方自治の危機(12)…【実例3】諏訪市議会には住民の要望を取り扱う仕組みが無い?

2015-04-20 15:22:01 | 地方自治
【実例3】用水路占有許可について
<疑問点> 家屋の出入り口などで農業用水路を跨ぐ橋を架ける場合、水路の個人占用許可届を市役所に提出する必要がある。その際、橋の下の水路に溜まったごみを除去できるような構造にすべきことを窓口が指導していないので、掃除できない所が多い。申請窓口で指導してほしい。
 ① この件につき、行政へ要望書を出したが返事は無く、こちらからの問い合わに対してはじめて、「実施は難しい」という返事であった。住民の要望を整理して、結論が出るまで管理表などでフォローしていないことをうかがわせる。
 ② 議会へ陳情書として提出したが【実例2】①と同様に、「採否の審査はしない」とされた。議会にこの種の要望が出されたことがないので、どうしてよいか分からない為という。
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地方自治の危機(13)… 【実例4】「業者決定根拠を情報公開できない」とは? 

2015-04-20 14:17:24 | 地方自治
【実例4】プロポーザル方式の随意契約
<疑問点>諏訪湖周2市1町が合同でごみ焼却設備を新規に作るために組織された湖周行政事務組合は、「環境影響評価準備書」の業務委託の発注を、「幅広い知識および高度な専門能力が必要、云々」を理由としてプロポーザル方式の随意契約とした。しかし事後完成した、生データを並べた部分の多い分厚な「準備書」を見ても、一般的な専門知識があれば作成することが出来、総合評価方式の競争入札も十分可能であったと考えられる。
  また、ごみ焼却場は方々で建設されているので、「環境影響評価準備書」も特殊なものでなく、先人(他市町村)の指導を仰ぐ努力をすべきであり、一から慣れないプロポーザル方式にする必要性は低かったのではないかと推察される。
  この方式を認めるとして、どのように高度な専門的能力を有する委託業者を選んだのか、選定根拠が分かる書類(決定価格7,800万円)を見せて頂くべく、担当部門にお願いしたが、見せていただけなかった。それでは監査委員あるいは裁判所へ異議申し立てしてもよいか尋ねたところ、担当部長さんには「どうぞ」と言われた。
 このプロポーザル方式の透明性確保について、例えば大阪府は「公募型プロポーザル方式実施基準」にて、選定の手続きや選定の過程等の透明性を高めるため、契約交渉相手と評価点、選定理由などを相手方が決定した後、速やかに公表することを定めている。湖周行政事務組合には、そもそもプロポーザル方式の実施基準が無い。
 公金を使う仕事なので、企業の極秘情報は伏せるにしても、本工事の請負者選定の根拠は、組合員が納得できるように公開する義務があると考える。全く非開示では、いったい何があったのか余計に知りたくなる。
 仕方が無いので、湖周行政事務組合の監査委員に監査を請求したが、「請求は地方自治法242条1項の要件を具備しない不適法なもの」として却下された。自治体の「まずはお断り」の慣例を知らなければ、お願い側は、かなり傷つくことになる。
 裁判所なら、ある程度の情報公開を命ずるだろうとは思ったが、非開示の取り消し訴訟まではしなかった。しかし今になれば、本稿で既述の他テーマについての裁判経緯や、参照した文献などから、裁判では何を言っても自治体が勝つようにできているということが分かったので、苦労してまで正義ぶった旗を振らなくてよかったと嫌に納得した。そして、湖周行政事務組合の部長さんの言われたことばの意味が改めて了解できた。
 なお、予定価格に当たる本事業の予算が、組合の予算書によって予め公開されているが、業者と価格交渉するのに、発注側の懐具合を予め公開するものだろうか。
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地方自治の危機(14)…  追伸 

2015-04-20 14:11:01 | 地方自治
 【追伸1】「購買・調達の手続き」などの多くは、一般企業に対する国税局の指導やISOの国際規格によって民間では鋭意努力・実行されている事柄である。市役所は民間と真摯に対話(平田オリザ氏の定義で、あまり親しくない人同士の価値観や情報の交換、あるいは親しい人同士でも、価値観が異なるときの刷りあわせなど)することが必要だと思う。お互いに「傾聴」的態度も重要となる。
 【追伸2】「対話が必要」と言ったことと相反するようだが、特に若い方々へ、組織(民間を含む)や地域の伝統もあり、日本では意見を言うこと自体が理解されず、反対に疎外されることも少なくない、ということを心に留めておいていただきたい。
 【追伸3】自治体として諏訪市の例になってしまい、生まれ育って大好きな自分の市の内を曝すようで申し訳ないが、他の市町村も大同小異であると想像する。
 期待されている地方自治が他市町村に遅れないよう、諦めないで元気を出し、意見を出し合う端緒になればよいと思い、民間と比較しての違和感の一端を述べました。
以上
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