🍀この一道に生きる🍀③
🔹鳥羽、越智さんはどうして靴下の道に進まれたんですか?
🔸越智、僕は愛媛県の農家に生まれましたんや。
ところが、中学一年の時に悪ふざけをして、父親から
「こんなやつは高校に行かす必要はない。丁稚に出して性根を叩き直させる!」
って叱られましてね。
何と、その晩に父親は脳出血で亡くなってしもうた。
そうしたら、兄貴から
「これは父親の遺言だ」
と言われまして、僕は中学卒業と同時に、大阪の靴下問屋に丁稚奉公に入ることになったんてんす。
🔹鳥羽、奉公先ではどんな生活を?
🔸越智、もう想像を遥かに超える厳しさでしたわ。
六畳一間の部屋に六人で住まわされ、寝てる間に先輩に体が当たろうもんなら、脇下をつねられるから、寝返りも打てない。
朝は毎日5時55分に起床し、深夜まで働き詰めです。
愛媛と大阪じゃ言葉も風習も違うので、仲間から格好のいじめ対象になり、
例えば僕が二階にいても、一階で起こった問題が僕のせいにされ、しごかれる。
丁稚に入って一週間でいつたあだ名は、「防波堤」やった。
🔹鳥羽、それは酷いですね。
🔸越智、上の人間はみんな軍隊出身で、「アホ!」「ボケ!」と罵られ、ちょっとでもミスすれば殴られる。
でも、そうやって僕を仕込んでくれた大将にはいまも感謝してます。
恩人はいっぱいおりますけどね、一人だけに絞れって言われたら、そりゃ大将ですわ。
あと、僕を救ってくれたのは中国古典。16 歳から18歳までは『孫子』だけ読んでました。
🔹鳥羽、しかし、16歳で『孫子』を読んだんですか。よく読めましたね。
いやぁ僕には難しくて歯が立たない。
🔸越智、朝から晩までしょっちゅうど突かれてたんですよ。そこから何とか脱出しようと思うて。
🔹鳥羽、どうして『孫子』だったんですか?
🔸越智、丁稚奉公に行く直前、中学校の先生が
「おまえは学校の勉強をしてこなかったんだから、
大阪へ行ったら中国の古典を勉強しなさい」
と言うたんですわ。
ある日、先輩が夜店に連れて行っ
てくれまして、近くに古本屋がありましたんや。
その時に先生の言葉を思い出したんですわ。
で
「中国の古典という本はありませんか?」
って聞いたの。
ほんなら、椅子に座ったまま無言で指差してくれた本が『孫子』でした。
🔹鳥羽、一つの運命ですね。
🔸越智、それで買うたんですけど、丁稚が勉強したらえらい目に遭わさせるから、仕事の合間や消灯までの僅かな時間に隠れて、辞書を片手に繰り返し読んでました。
丁稚の厳しさに心が折れそうになっとった僕にとって、『孫子』は人生唯一の教科書であり応援歌でしたな。
三年経つ頃には全部を暗唱し、『論語』『孟子』『十八史略』『史記』など、
他の古典にもどんどんのめり込んでいったんです。
(つづく)
(「致知」3月号 鳥羽博道さん越智直正さん対談より)
🔹鳥羽、越智さんはどうして靴下の道に進まれたんですか?
🔸越智、僕は愛媛県の農家に生まれましたんや。
ところが、中学一年の時に悪ふざけをして、父親から
「こんなやつは高校に行かす必要はない。丁稚に出して性根を叩き直させる!」
って叱られましてね。
何と、その晩に父親は脳出血で亡くなってしもうた。
そうしたら、兄貴から
「これは父親の遺言だ」
と言われまして、僕は中学卒業と同時に、大阪の靴下問屋に丁稚奉公に入ることになったんてんす。
🔹鳥羽、奉公先ではどんな生活を?
🔸越智、もう想像を遥かに超える厳しさでしたわ。
六畳一間の部屋に六人で住まわされ、寝てる間に先輩に体が当たろうもんなら、脇下をつねられるから、寝返りも打てない。
朝は毎日5時55分に起床し、深夜まで働き詰めです。
愛媛と大阪じゃ言葉も風習も違うので、仲間から格好のいじめ対象になり、
例えば僕が二階にいても、一階で起こった問題が僕のせいにされ、しごかれる。
丁稚に入って一週間でいつたあだ名は、「防波堤」やった。
🔹鳥羽、それは酷いですね。
🔸越智、上の人間はみんな軍隊出身で、「アホ!」「ボケ!」と罵られ、ちょっとでもミスすれば殴られる。
でも、そうやって僕を仕込んでくれた大将にはいまも感謝してます。
恩人はいっぱいおりますけどね、一人だけに絞れって言われたら、そりゃ大将ですわ。
あと、僕を救ってくれたのは中国古典。16 歳から18歳までは『孫子』だけ読んでました。
🔹鳥羽、しかし、16歳で『孫子』を読んだんですか。よく読めましたね。
いやぁ僕には難しくて歯が立たない。
🔸越智、朝から晩までしょっちゅうど突かれてたんですよ。そこから何とか脱出しようと思うて。
🔹鳥羽、どうして『孫子』だったんですか?
🔸越智、丁稚奉公に行く直前、中学校の先生が
「おまえは学校の勉強をしてこなかったんだから、
大阪へ行ったら中国の古典を勉強しなさい」
と言うたんですわ。
ある日、先輩が夜店に連れて行っ
てくれまして、近くに古本屋がありましたんや。
その時に先生の言葉を思い出したんですわ。
で
「中国の古典という本はありませんか?」
って聞いたの。
ほんなら、椅子に座ったまま無言で指差してくれた本が『孫子』でした。
🔹鳥羽、一つの運命ですね。
🔸越智、それで買うたんですけど、丁稚が勉強したらえらい目に遭わさせるから、仕事の合間や消灯までの僅かな時間に隠れて、辞書を片手に繰り返し読んでました。
丁稚の厳しさに心が折れそうになっとった僕にとって、『孫子』は人生唯一の教科書であり応援歌でしたな。
三年経つ頃には全部を暗唱し、『論語』『孟子』『十八史略』『史記』など、
他の古典にもどんどんのめり込んでいったんです。
(つづく)
(「致知」3月号 鳥羽博道さん越智直正さん対談より)