🌸🌸オペラと日本人🌸🌸①
🔹村上、佐藤さんと初めてお会いしたのは、テレビ神奈川の番組『佐藤しのぶ 出逢いのハーモニー』に呼んでいただいた時でしたね。
🔸佐藤、最初にお目にかかったのが平成13年2月21日で、2度目が22年7月20日でした。
先生には私の熱烈なラブコールで二度も番組にお出ましいただき本当にありがとうございました。
🔹村上、こちらこそ、読んでいただき光栄でした。あの番組は、かなりの長寿番組でしたね。
🔸佐藤、はい。皆様のおかげで16年半続きました。
🔹村上、それはすごいな。僕もこの連載を約9年続けていて、今回が101回目になるんですよ。
🔸佐藤、おめでとうございます。私こそ、この度お呼びいただきまして大変光栄です。
先生、実は私はこの『致知』の愛読者なんです。
🔹村上、そうでしたか。どのくらい読まれているの?
🔸佐藤、ある方にプレゼントしていただいて以来ずっとですから、もう17年以上になります。
🔹村上、そんなに長く。
🔸佐藤、はい。ですから、まさかこうしてお呼びいただける日が来るなんて思ってもいなかったので、今日はほんとに嬉しいです。
🔹村上、なんだか不思議なご縁ですね。
🔸佐藤、はい、ほんとに。
🔹村上、佐藤さんは日本を代表するプリマドンナですけど、最近はどんな活動されているんですか。
🔸佐藤、私のライフワークとして、23年前から、「母の日に贈るコンサート」を行っています。
これは娘の誕生をきっかけに、「母への感謝と命の尊さ」をテーマに始めました。
毎年「母の日」に行っていて、今年5月14日(東京オペラシティコンサートホール)で23回目を迎えます。
🔹村上、それもすごいな。
🔸佐藤、娘も24歳になります。私はそれまで音楽の世界だけで生きてきたので、娘を出産した時、
我が身を2つに分けて1つの命を世に送り出すことの感動と神聖な気持ちに、強い衝撃を受けました。
「命」は先祖から代々受け継がれてきたもので、もしの途中で誰か1人でも命を繋ぐことをやめていれば私はもうこの世には存在しない。
この世にある「すべての生命」は、いかに尊いか、ということが、
母親になり、初めてわかった気がします。
それで、どうしても母の日のコンサートを行いたいと始めました。
🔹村上、僕自身、生命科学を50年以上やってきたから、頭では命の尊さを感じてはいるんですけど、その実感がなかなか持てない。
🔸佐藤、そうですか。まさか先生がそんなことをおっしゃると思いませんでした(笑)。
🔹村上、実感として、自分の身を切るような体験がないわけですよ。だからその点で、男性は女性にとても敵(かな)いません。
🔸佐藤、出産直前に母から、「たいしたことないからね」と言われましたが、あんなに痛いとは思いもしませんでした。
出産後、初めて母に会ったときに、「お母さん!」って思わず叫んだら、
「ごめんね。最初に大変だなんて言ったら、怖くなるでしょう」って(笑)。
これが唯一、母が私についた嘘でした。
🔹村上、よいお母様ですね。
🔸佐藤、そのお母の日のコンサートの後、恒例の全国リサイタルツアーがあり、
今年は念願叶って東北地方に伺うことができます。
そして今年の秋に新しいオペラに出演します。
新作のオペラは出産と同じくらい大変なのですが(笑)、
覚悟を決めて全力で挑もうと思っています。
🔹村上、ちなみに佐藤さんは音楽を始められて、どれぐらい経つの?
🔸佐藤、4歳のときにピアノを始めたので、もう半世紀以上になります。
今もこうして歌い続けていられるのは、
まず何といっても、
恩師や家族をはじめ、多くの皆様のご協力と叱咤激励をいただいたこと。
そしてもう一つは、作曲家と作品への畏敬と感謝の念です。
本当にたくさんの方から応援やチャンスをいただき、いまの自分があります。
皆さんの愛で、私の音楽はできていると感じます。
その方たちに報いたい、その思いが私を駆り立て、辛い時も諦めずにやってこられたのでしょう。
真剣に取り組めば取り組むほど、音楽は奥が深いものです。
また、音楽の世界以外にも、様々な分野の方とご縁を1たくさんいただきました。
その中でも鍵山秀三郎先生の存在は大きかったです。
🔹村上、イエローハット創業者の?
🔸佐藤、はい。迷った時、鍵山先生のお言葉を読み、
「あぁ、これでいいんだ」と思いました。
というのも、私たちの仕事は外側から見ると大変華やかですが、
内側は大変地道で気の遠くなるような自己との戦いであり、修練の積み重ねなのです。
その基本精神が鍵山先生の掃除哲学にありました。
私、掃除はあんまり得意じゃないのですが、身の回りをきちんとすることは大変気持ちがよいし、
練習する時も、まずきちんとした状態で始めるのがやはり基本です。
先生はどのようにお考えでしょうか。
誰しも人間として生まれはますが、やはりその後の教育によって初めて「人間に成る」のではないでしょうか。
🔹村上、そうだと思います。僕たちの世界では生物としての人間を「ヒト」とカタカナで書くんですよ。
なぜなら動物としての面を持っているからです。
しかし、ヒトと人間は違う。
人間というのはヒトが精神的に成長することで人間になっていくんです。
ほとんどの動物たちは、本能のままに生きているけど、人間は生まれた後の環境や出会いによって人間として形づくられていく。
そこがやはり人間の人間たる所以んじゃないかと思います。
🔸佐藤、生まれた国の文化というのもやはり大切ですよね。
🔹村上、そうです。しかし、オペラというのはヨーロッパの文化でしょう。
そこに日本人である佐藤さんが活躍できるというのは、どんな秘訣があるのでしょうか。
🔸佐藤、私の場合、まず運がよかったのだと思います。
オペラというのは、ヨーロッパ文化の華であり、総合芸術です。
音楽、文学、美術、舞台が1つの作品として花開く。
そんな頂点を極めるオペラですが、「楽譜」という存在によって世界中の文化における共通分母となれます。
つまり、技術を習得すれば、国籍や人種を超えて、どんな人でもクラッシックやオペラの表現者となれる可能性が平等に開かれているのです。
もちろん、西欧人が生んだ西洋文化の華であるオペラに日本人が挑戦することは、決して簡単ではありませんが、
勤勉な日本人だからこそできることがあると考えました。
言語も風習も違い、西洋の長い歴史と文化は私たちの価値観とは異なります。
たとえば、どんなに海外に長く住んだとしても、やはり鏡を見れば「日本人」です。
しかし違うからこそ、異文化を常に謙虚に注意深く検証し、
努力することができると思いました。
(「致知」5月号 佐藤しのぶさん村上和雄さん、対談より)
🔹村上、佐藤さんと初めてお会いしたのは、テレビ神奈川の番組『佐藤しのぶ 出逢いのハーモニー』に呼んでいただいた時でしたね。
🔸佐藤、最初にお目にかかったのが平成13年2月21日で、2度目が22年7月20日でした。
先生には私の熱烈なラブコールで二度も番組にお出ましいただき本当にありがとうございました。
🔹村上、こちらこそ、読んでいただき光栄でした。あの番組は、かなりの長寿番組でしたね。
🔸佐藤、はい。皆様のおかげで16年半続きました。
🔹村上、それはすごいな。僕もこの連載を約9年続けていて、今回が101回目になるんですよ。
🔸佐藤、おめでとうございます。私こそ、この度お呼びいただきまして大変光栄です。
先生、実は私はこの『致知』の愛読者なんです。
🔹村上、そうでしたか。どのくらい読まれているの?
🔸佐藤、ある方にプレゼントしていただいて以来ずっとですから、もう17年以上になります。
🔹村上、そんなに長く。
🔸佐藤、はい。ですから、まさかこうしてお呼びいただける日が来るなんて思ってもいなかったので、今日はほんとに嬉しいです。
🔹村上、なんだか不思議なご縁ですね。
🔸佐藤、はい、ほんとに。
🔹村上、佐藤さんは日本を代表するプリマドンナですけど、最近はどんな活動されているんですか。
🔸佐藤、私のライフワークとして、23年前から、「母の日に贈るコンサート」を行っています。
これは娘の誕生をきっかけに、「母への感謝と命の尊さ」をテーマに始めました。
毎年「母の日」に行っていて、今年5月14日(東京オペラシティコンサートホール)で23回目を迎えます。
🔹村上、それもすごいな。
🔸佐藤、娘も24歳になります。私はそれまで音楽の世界だけで生きてきたので、娘を出産した時、
我が身を2つに分けて1つの命を世に送り出すことの感動と神聖な気持ちに、強い衝撃を受けました。
「命」は先祖から代々受け継がれてきたもので、もしの途中で誰か1人でも命を繋ぐことをやめていれば私はもうこの世には存在しない。
この世にある「すべての生命」は、いかに尊いか、ということが、
母親になり、初めてわかった気がします。
それで、どうしても母の日のコンサートを行いたいと始めました。
🔹村上、僕自身、生命科学を50年以上やってきたから、頭では命の尊さを感じてはいるんですけど、その実感がなかなか持てない。
🔸佐藤、そうですか。まさか先生がそんなことをおっしゃると思いませんでした(笑)。
🔹村上、実感として、自分の身を切るような体験がないわけですよ。だからその点で、男性は女性にとても敵(かな)いません。
🔸佐藤、出産直前に母から、「たいしたことないからね」と言われましたが、あんなに痛いとは思いもしませんでした。
出産後、初めて母に会ったときに、「お母さん!」って思わず叫んだら、
「ごめんね。最初に大変だなんて言ったら、怖くなるでしょう」って(笑)。
これが唯一、母が私についた嘘でした。
🔹村上、よいお母様ですね。
🔸佐藤、そのお母の日のコンサートの後、恒例の全国リサイタルツアーがあり、
今年は念願叶って東北地方に伺うことができます。
そして今年の秋に新しいオペラに出演します。
新作のオペラは出産と同じくらい大変なのですが(笑)、
覚悟を決めて全力で挑もうと思っています。
🔹村上、ちなみに佐藤さんは音楽を始められて、どれぐらい経つの?
🔸佐藤、4歳のときにピアノを始めたので、もう半世紀以上になります。
今もこうして歌い続けていられるのは、
まず何といっても、
恩師や家族をはじめ、多くの皆様のご協力と叱咤激励をいただいたこと。
そしてもう一つは、作曲家と作品への畏敬と感謝の念です。
本当にたくさんの方から応援やチャンスをいただき、いまの自分があります。
皆さんの愛で、私の音楽はできていると感じます。
その方たちに報いたい、その思いが私を駆り立て、辛い時も諦めずにやってこられたのでしょう。
真剣に取り組めば取り組むほど、音楽は奥が深いものです。
また、音楽の世界以外にも、様々な分野の方とご縁を1たくさんいただきました。
その中でも鍵山秀三郎先生の存在は大きかったです。
🔹村上、イエローハット創業者の?
🔸佐藤、はい。迷った時、鍵山先生のお言葉を読み、
「あぁ、これでいいんだ」と思いました。
というのも、私たちの仕事は外側から見ると大変華やかですが、
内側は大変地道で気の遠くなるような自己との戦いであり、修練の積み重ねなのです。
その基本精神が鍵山先生の掃除哲学にありました。
私、掃除はあんまり得意じゃないのですが、身の回りをきちんとすることは大変気持ちがよいし、
練習する時も、まずきちんとした状態で始めるのがやはり基本です。
先生はどのようにお考えでしょうか。
誰しも人間として生まれはますが、やはりその後の教育によって初めて「人間に成る」のではないでしょうか。
🔹村上、そうだと思います。僕たちの世界では生物としての人間を「ヒト」とカタカナで書くんですよ。
なぜなら動物としての面を持っているからです。
しかし、ヒトと人間は違う。
人間というのはヒトが精神的に成長することで人間になっていくんです。
ほとんどの動物たちは、本能のままに生きているけど、人間は生まれた後の環境や出会いによって人間として形づくられていく。
そこがやはり人間の人間たる所以んじゃないかと思います。
🔸佐藤、生まれた国の文化というのもやはり大切ですよね。
🔹村上、そうです。しかし、オペラというのはヨーロッパの文化でしょう。
そこに日本人である佐藤さんが活躍できるというのは、どんな秘訣があるのでしょうか。
🔸佐藤、私の場合、まず運がよかったのだと思います。
オペラというのは、ヨーロッパ文化の華であり、総合芸術です。
音楽、文学、美術、舞台が1つの作品として花開く。
そんな頂点を極めるオペラですが、「楽譜」という存在によって世界中の文化における共通分母となれます。
つまり、技術を習得すれば、国籍や人種を超えて、どんな人でもクラッシックやオペラの表現者となれる可能性が平等に開かれているのです。
もちろん、西欧人が生んだ西洋文化の華であるオペラに日本人が挑戦することは、決して簡単ではありませんが、
勤勉な日本人だからこそできることがあると考えました。
言語も風習も違い、西洋の長い歴史と文化は私たちの価値観とは異なります。
たとえば、どんなに海外に長く住んだとしても、やはり鏡を見れば「日本人」です。
しかし違うからこそ、異文化を常に謙虚に注意深く検証し、
努力することができると思いました。
(「致知」5月号 佐藤しのぶさん村上和雄さん、対談より)
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