東埼玉病院 総合診療科ブログ

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高齢者における脂質異常症の治療

2021-03-20 17:16:51 | 勉強会

後期高齢者や脆弱な高齢者の脂質異常症にどこまで介入するべきか迷うことがあるので、今回調べてみました。当然、リスクファクターやその他の要因も含めて考える必要があるのですが、少し一般的な原則というか、今の時点である程度わかっていること、わかっていないことが整理できました。

 

<高齢者における脂質異常症の治療>

  • 後期高齢者の脂質異常症への治療は意義があるのか?

★Baris Gencerらのシステマティックレビュー(Lancet 2020)

ACC/AHAガイドラインで推奨されているLDLコレステロール低下療法の心血管アウトカムを検討したRCTのうち、フォローアップ期間中央値が2年以上で、高齢患者(75歳以上)のデータを含む試験を対象として解析

⇒合計29件の試験(日本のエゼミチブの研究含む)に参加した24万4090例のうち、2万1492例(8.8%)が75歳以上。
LDLコレステロール1mmol/L(38.67mg/dL)低下当たり、主要血管イベント(心血管死、心筋梗塞・他の急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合)が26%低下した(P=0.0019)。
スタチン治療とスタチン以外の治療のいずれもが主要血管イベントを有意に抑制し、これらの間には有意な差はなかった。

★Ariela R Orkabyらの報告(JAMA 2020)

2002~12年の期間に、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)がない75歳以上の退役軍人患者を対象とした過去起点コホート研究。

 (ベースラインの背景因子のバランスを取るため傾向スコアを使用)


⇒32万6981例(平均年齢81.1歳)のうち、17.5%が新たにスタチン治療を開始した。フォローアップ期間は平均6.8年。
①全死因死亡の発生は、スタチン使用群が1000人年当たり78.7件と、非使用群の98.2件に比べ有意に低かった。
②心血管疾患による死亡も、スタチン使用群が1000人年当たり22.6件、非使用群は25.7件であり、使用群で有意に低下した。
③複合ASCVDアウトカム(心筋梗塞、虚血性脳卒中、CABG・PCIによる血行再建の複合)の発生は、スタチン使用群は1000人年当たり66.3件、非使用群では70.4件と、使用群で有意に少なかった。

 

  • これら2つの研究から考えると、75歳以上の高齢者でもスタチン等の薬剤を使用して積極的にLDL-Choを低下させた方がよいか?
  • それでは虚弱な高齢者においても同様であろうか?

 

  • 虚弱高齢者の脂質異常症への治療は意義があるのか?

★Matthew Haleらのシステマティックレビュー(Drugs Aging 2020)

虚弱な65歳以上の高齢者を対象として、スタチンの主要血管イベント(MACE)への効果をみた研究を対象。

⇒6つのコホート研究が基準に合致(RCTはなし)。死亡率に関しては、1つの研究でスタチンは死亡率を有意に低下させていたが、その他の研究では有意差がなかった。また、2次予防としての1つの研究では、死亡率が有意に低下していた。1次予防としてのスタチンのMACEへの効果をみた研究はなかった。

結論:虚弱高齢者において、2次予防としてのスタチン投与は死亡率を低下させていたが、1次予防としての効果についてはエビデンスが欠如している。RCTが必要。

上記文献より、虚弱高齢者へのエビデンスは不足しており、判断困難

  • 予後が限られているような高齢患者にスタチンをやめることは?

★Jean S Kutnerらの報告(JAMA Intern Med 2015)

対象:予測予後が1か月〜1年、身体機能が低下、最近心血管系イベントがない、3ヶ月以上スタチンを心血管系疾患の一次もしくは二次予防で内服している、これらを満たす患者

介入:スタチン製剤を継続した群と中止した群で1年間観察し、両群を比較(盲検化なしのRCT)

結果:381例が登録。平均年齢:74.1歳、22%が認知症、48.8%ががん。

両群で60日以内に死亡した患者の割合に有意な差はなく、QOLは中止群の方がむしろ高かった。また、薬を中止によって抑制できた医療費は一人あたり716ドルでした。

まとめ

  • 75歳以上でも、患者が元気であればLDL-Choを下げる治療を行っていくのがよいか
  • ただし、虚弱高齢者に対する効果は不明であるため、個別化が重要であろう
  • 予後1年以内と考えられる患者(特に担癌)にはスタチンの中止について患者に提案してもよいであろう(ちなみに今回詳細は明記しませんでしたが、患者側としても限られた予後のなかではスタチン中止に対して肯定的であるという結果の文献がありました https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28520522/)

悪性腹水の治療について

2021-02-21 15:39:26 | 勉強会

今回は悪性腹水の治療について調べてみました。がん末期の方の緩和ケアではしばしば遭遇するプロブレムですが思った以上に治療に関するエビデンスが乏しいと感じました。腹水穿刺、CART、利尿剤について調べています。

  • 腹水穿刺

★Up to date

卵巣がん以外の悪性腹水に対する主な治療

(卵巣がんは外科的な腫瘍減量や化学療法が治療のオプションとなる)

ケースシリーズでは数Lの排液で約9割が症状改善

通常1~2週ごとに穿刺が必要となる

繰り返し穿刺が必要な場合は、カテーテル留置(ポート含む)も行われる(感染のリスクは低い)

★がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017(日本緩和医療学会)

2C(弱い推奨、弱い根拠に基づく)

観察研究のみ(計8件、主なものは下記)

①McNamaraらの報告

悪性腹水40名に単回穿刺。2h後の症状がスケール平均5.7→3.6に減少。(平均5.3L排液)

②Mercadanteらの報告

悪性腹水34名にCVカテで持続ドレナージ。留置期間:平均5.5日。最初の24hの平均腹水2.85L。前後で65%で腹部症状が改善。(スケール値は不明)

③Courtneyらの報告

悪性腹水34名に間欠的ドレナージ(1日1200~2000ml)

2週、8週後の腹部膨満感スコアが有意に改善

④Rossらの報告

悪性腹水104名に持続ドレナージ。最初の24hで平均3.5L。37.5%で腹部症状が緩和。

8件の報告全体での重篤な有害事象は2%(腹部の激痛、肺梗塞による死亡、輸血が必要な貧血、代謝性アシドーシス、重篤な低血圧、感染性腹膜炎)

重篤でない有害事象は20.4%(嘔吐、感染、めまい、脱力、低血圧、腹膜炎、カテーテル閉塞など)

以上より、根拠は不十分。想定される益と害の差は小さい。薬物に不応性、速やかな症状緩和が必要な際に患者の意向を確認して十分な説明のうえで施行。

(ドレナージ量は日本人で安全な量は不明。経験的に委員会の合意として1~3L)

★その他の文献

①Cochrane Database Syst Rev 2019(12)

Management of drainage for malignant ascites in gynaecological cancer.

婦人科がんの悪性腹水に対するドレナージに関するシステマティック・レビュー

RCTは1つだけ

腹水穿刺+catumaxomab vs 腹水穿刺のみを比較したRCTで高いバイアスのリスクがあった

婦人科がんの悪性腹水に対する適切なドレナージを推奨する根拠は不十分である

② Cancer Manag Res 2017;9

Drainage of malignant ascites: patient selection and perspectives.

悪性腹水に対する異なったドレナージ方法の効果、安全性、 patient-reported outcomes (PRO)を評価するシステマティック・レビュー

ほとんどの患者はドレナージ後に症状改善。

19.7%(255/1297名)が有害事象あり。6.2%が重篤。

単回穿刺やCVカテでは有害事象少ない(単回穿刺では有害事象5.5%、重篤な事象4.4%) シャントで多い。

(単回穿刺は持続と比べて低血圧や腎障害多い)

 

  • CART(腹水濾過濃縮再静注法)

★ Up to date

記載なし

★がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017(日本緩和医療学会)

エビデンスが不足しているため結論できない

観察研究3件のみ

①Itoらの報告

悪性腹水37名の前向き観察研究。治療後24h以内の腹部膨満感のNRSは7.19→3.18

②加藤らの報告

悪性腹水27名のうち96%で食欲不振の改善あり。

③植田らの報告

婦人科がんによる悪性腹水20名に延べ51回CART施行。腹部膨満感84.4%で改善。1週間以内に腹水穿刺が必要となる症例は全体の25.5%。重篤な有害事象はないが、半数近くで有害事象あり(発熱35%、悪寒戦慄19%など)。

★その他の文献

Support Care Cancer 2018 ;26(5)

Efficacy and safety of reinfusion of concentrated ascitic fluid for malignant ascites: a concept-proof study.

悪性腹水51名に延べ104回CART施行。次の腹水穿刺までの期間は中央値27日(95%CI:21-35)。血性腹水、腹水WBC数、血清TP、リンパ球比率が規定因子。

腹部症状は全て有意に改善。GRADE3(入院期間の延長を要するような)低血圧1例あり。微熱が5%にあり。

 

  • 利尿剤

★ Up to date

一部の患者においては有効であるかもしれない(特に門脈圧亢進がある患者)。

RCTはない。

悪性腹水に対して61%の臨床医が利尿剤を処方するが、効果があると思っているのは45%との調査あり。

★がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017(日本緩和医療学会)

2D(弱い推奨、弱い根拠に基づく)

比較試験なく、症例数が少ないケースシリーズ3件のみ

★その他

利尿剤はケースの4割程度で症状を改善する

                                                 World J Gastrointest Surg 2012 ; 4(4)


臨床雑誌「内科」に老衰の原稿が掲載されました

2021-02-07 14:10:13 | 講演・著書など

今月号の臨床雑誌「内科」に、原稿が掲載されました。

今月号のテーマは「非がん疾患における緩和ケア」がテーマでした。「老衰とフレイル」の項目で原稿依頼をいただき、書かせていただきました。

もしご興味ある方は読んでいただければ幸いです。


特定健診(メタボ健診)の効果について

2021-01-13 19:31:17 | 勉強会

 調べてみて、特定健診の本来の目的自体の効果は懐疑的な面もあるかなと思いました。政策としては効果的な健診という意味で見直しも検討しなくてはいけないのかもしれませんね。ただし、実際に臨床をしている立場としては、より個別にどう対応していくかが重要であるなと感じました。健診の面談の中で喫煙のことや運動のことに触れたり、治療が必要な疾患に介入するきっかけになったりすることもあります。また有効ながん検診をすすめる機会となることもあります。これは本来の特定健診そのものの目的ではありませんが、健康増進という意味では意義があるかもしれません。特定健診の副次的な効果を臨床医としては追い求めて、受診者と接する必要があると再自覚しました。


宿便の合併症や予後

2020-12-05 17:40:20 | 勉強会

施設の高齢者などで重度の宿便(fecalomaというらしい)に遭遇することがあります。時に、それによる嘔吐やイレウス、尿路感染症の合併などをきたすことがあります。高齢者では「たかが便」とは言えないような合併症をきたすことがあり、注意が必要だなと思い、今回調べてみました。