東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

セレコキシブにPPIは併用した方がよいか

2020-09-29 19:54:51 | 勉強会

最近、患者さんのエピソードを通じてカンファレンスで話題になったので、「セレコキシブにPPIを併用した方がよいか」について調べてみました。セレコキシブはCOX-2選択阻害薬で他のNSAIDSと比較して消化管合併症が少ないため、使用することも多いくすりです。他のNSAIDSの場合、PPI併用した方がよいわけですが、セレコキシブでもPPIはルーチンで併用するのがよいのか、もしくはどのような人には併用した方がよいのか疑問に思い調べています。

 

<セレコキシブにPPIは併用した方がよいか>

  • 消化性潰瘍ガイドライン(2015年) 

潰瘍既往歴がある患者は潰瘍発生予防治療を行うことを推奨する(A

 潰瘍既往歴がある患者はCOX-2選択阻害薬で3.7~24.1%の潰瘍発生の報告あり、他のNSAIDSと同等

潰瘍既往歴ない患者は潰瘍発生予防治療を行わないことを推奨する(A

Feng GSらの報告(World J Gastroenterol 2008)が根拠

  • Feng GSらの報告(World J Gastroenterol 2008)

Celecoxib-related gastroduodenal ulcer and cardiovascular events in a randomized trial for gastric cancer prevention.

対象:高度萎縮性胃炎や腸上皮化成や異形成のある中国人1024名(35~64歳)

介入:セレコキシブ200㎎1日2回とプラセボ、1.5年までフォロー(2重盲検RCT)

結果:胃十二指腸潰瘍の発症率はそれぞれ3.72%と3.31%で有意差なし、心血管イベントに関しても有意差なし

自分の解釈⇒対象患者としては偏りあるか(もともと胃がんの予防に関して調べた研究のため?)、また比較的若年の患者を対象としている 高齢者では?

 

ということで、さらに文献を調べてみました。

  • FKL Chanらの報告(Gastroenterology 2007)

対象:NSAIDS関連の潰瘍による出血で入院した287名を無作為割り付け(潰瘍が治癒し、ピロリ菌陰性を確認して登録)

介入:セレコキシブ200mgを1日2回、または徐放性ジクロフェナク75mgを1日2回+オメプラゾール20mgを1日1回 

6か月追跡し、症状がでたら内視鏡、なければ最後に内視鏡で確認

主要アウトカム:上部消化管合併症の再発

結果:セレコキシブ群18.7%、併用群25.6%に発生で有意差なし(P=0.21)

  • FKL Chanらの報告(Lancet 2007)

対象:上部消化管出血で入院した、関節炎に対して非選択性NSAIDSを内服していた441名を無作為割り付け

(潰瘍が治癒し、ピロリ菌陰性を確認して登録)

介入:セレコキシブ200mg1日2回に、エソメプラゾール20㎎1日2回併用群とプラセボ群 12か月追跡

主要エンドポイント:出血性潰瘍の再発

結果:主要エンドポイントの発生はPPI併用群0、プラセボ群8.9%で有意差あり

結論:出血性潰瘍のリスクが高いがNSAIDSを必要とする患者においては、COX-2阻害薬とPPIの併用がよい

 

この2つの論文からは・・・

出血性潰瘍の既往がある場合でも、上部消化管イベントに関して、セレコキシブはPPI+NSAIDSと同等の予防効果がある

さらにセレコキシブにPPIを併用するとより予防効果がある

費用対効果は不明であるが、出血性潰瘍の既往があるがNSAIDSを使用しなくてはならない場合においてはPPI併用したほうがよいか

 

さらに・・・

  • E Rahmeらの報告( Arthritis Rheum 2007)

Do proton-pump inhibitors confer additional gastrointestinal protection in patients given celecoxib?

ヘルスサービスのデータベースを使用して、1999年4月~2002年12月にセレコキシブか非選択性NSAIDSを処方された患者を対象にした過去起点コホート

セレコキシブ単独(1161508名)より、セレコキシブ+PPI(360799名)の方が上部消化管疾患による入院は有意に少なかった(HR:0.69)

サブグループ解析すると、PPI併用は75歳以上で利益があったが、66-74歳では有意差なかった。

結論:75歳以上ではセレコキシブにPPI併用した方がよいだろう。 66-74歳では必ずしも必要ないであろう。

・まとめ

出血性潰瘍の既往がある患者や75歳以上においては、セレコキシブにPPIを併用した方がよいかもしれない

(ただし、PPIの副作用や費用対効果も考慮したうえで処方する必要があると思いました。)

 


心不全に対するフロセミド皮下注について

2020-08-23 22:37:31 | 勉強会

ある緩和ケアのWEB勉強会に参加した際に、心不全の緩和ケアのトピックスの1つとしてフロセミドの皮下注の話が出てきました。

フロセミドの皮下注がある程度心不全に効果があるようであれば、日常診療の選択肢の幅が広がるなあと思い、今回調べてみました。

  • Arun K Vermaらの報告(Ann Pharmacother 2004)

12名の健康なボランティアを対象とした2重盲検のクロスオーバーRCT

フロセミド20㎎皮下注群とプラセボ群で尿量を比較

(飲水量と食事量はコントロールされた)

尿量やNa利尿は、皮下注群で有意に多かった

結論:フロセミドの経口・静注が望ましくない時、利用できない時に選択肢となりえる。他の様々な対象での確認が必要である。

  • Hannah Zachariasらの報告(Palliat Med 2011)

32名の進行した心不全の患者に対してフロセミド持続皮下注を行った43のエピソードを後ろ向きにレビュー

28エピソードは入院回避のため、15エピソードは死にゆく人の症状予防のため

26/28で入院回避でき、20/28で体重減少を認めた(中央値-5.6kg)

15エピソード全てで症状コントロールできた

フロセミドの量は40~250㎎/日

投与日数は10.5日(中央値)

10/43で留置部の反応があったが2例を除いて軽度であった

結論:進行した心不全患者に対してフロセミドの持続皮下注は入院回避や体重減少に関して効果があるのではないか

  • Zatarain-Nicolasらの報告(Rev Esp Cardiol 2013)

非代償性心不全患者24名にフロセミド皮下注を行った41のエピソードを解析(外来セッティング)

治療の効果は体重減少で評価した

患者の平均年齢は75歳、NYHAⅢ~Ⅳが93%

皮下注の平均量は146㎎/日、投与日数は平均9日

介入後に、有意に体重が減少したが、Cre、Na、Kの有意な変化はなかった

患者の61%がNYHAのclassが改善、36%が変化なく、2%が悪化

結論:フロセミド持続皮下注は、忍容性があり、入院を回避するためや医療コスト削減に有用であると考えられる。

  • Domenic A Sicaらの報告 (JACC Basic Transl Sci. 2018)

フロセミドのPHを低くして(9程度⇒7.4)、皮膚への刺激を少なくして行った2つの調査、経口でフロセミド内服している心不全患者を対象

①10名を対象としたクロスオーバーRCT

経口群(80㎎内服)と皮下注群(最初30㎎/h、その後4hで50㎎:計80㎎)で薬物動態を調査

⇒皮下注群は30分以内に治療域に達し、5h維持

②16名を対象としたクロスオーバーRCT

静注群(最初40㎎、2h後に40㎎)と皮下注群(最初30㎎/h、その後4hで50㎎)で薬物動態と尿量、Na利尿を調査

⇒皮下注群は30分以内に治療域に達し、5h維持

絶対的バイオアベイラビリティは99.65%であった

尿量、Na利尿は静注群と同様の効果であった

①②とも局所の皮膚反応も問題となる事象はなかった

  • Nisha A Gilotraらの報告(JACC Heart Fail 2018)

心不全が増悪している外来患者を対象としたRCT

19例が静注群(IV群)、21例が皮下注群(SC群)

IV群:平均量123㎎(±47㎎)、SC群:5hで80㎎(固定)

1次アウトカム:6hの尿量は有意差なし

         (IV群:平均1425ml、SC群1350ml)

2次アウトカム:平均の体重減少は有意差なし

      (IV群:平均-1.5±1.1kg、SC群-1.5±1.2kg)

         Na利尿はSC群で多い

結論:フロセミドの静注と皮下注で尿量の有意差は認めなかった。自宅での治療として許容されるかもしれないが、さらなる調査が必要。

 

まとめ

  • フロセミド皮下注の効果は望めそうである。
  • しかし、フロセミド皮下注が静注と同等の効果があるかを判断するには、エビデンスはまだ不足している。
  • 静注で治療可能な状況のときは、静注での治療が望ましいと思われる。
  • ただし、静注での治療が困難な場合(末梢ルート困難であるがCV挿入するような状況ではないなど)や自宅での治療を希望した場合には選択肢となりえるのではないか。
  • (PH調整されていない場合は)皮下注刺入部の皮膚反応には注意が必要。

アセトアミノフェン投与と血圧低下

2020-07-11 22:31:41 | 勉強会

今回はアセトアミノフェン誘発性低血圧について調べて、勉強会を行ったのでブログに載せます。

NSAIDSの座薬などは血圧低下をきたすことがよく知られており、特に高齢者においては解熱剤や鎮痛剤として使用する際は相当注意するかなと思います。、恥ずかしながら、アセトアミノフェンに関してはあまり血圧低下について気にしていなかったのですが、特に点滴において血圧低下による害が言われているようです。

 

<アセトアミノフェン投与と血圧低下>

  • アセトアミノフェン投与で血圧は下がるのか?

★Soo Kang et al. Am J Emerg Med. 2018

救急を受診した発熱のあるUTI患者に対してアセトアミノフェンを投与した後の循環動態の変化について、後方視的に分析。

195例中、87例(44.6%)で低血圧を認めた。

全例を対象として、有意に収縮期血圧低下(135.06±20.45 vs 117.70±16.41)、拡張期血圧低下(79.74±12.17 vs 69.69±10.96)、心拍数低下 (97.46±17.14 vs 90.72±14.90) を認めた。

低血圧が続いた患者は、一時的な低血圧の患者と比較して、菌血症の率が高く、よりベースラインの血圧が低かった。

⇒菌血症の患者や熱にも関わらずノーマルな血圧の患者に対しては、持続的な低血圧となる可能性を考慮すべきであると結論。

★Aymeric Cantais et al. Crit Care Med. 2016

多施設(3つのICU)での前向きコホート研究。

アセトアミノフェンIVした後の血圧を動脈カテーテルで3時間測定。(低血圧は、ベースラインよりも平均の血圧が15%以上低下と定義)

160例のうち、83例(51.9%)がアセトアミノフェン誘発低血圧を経験した。

低血圧となった患者では、最低の平均血圧は64mmHg (95%CI:54-74)で、低血圧は投与後平均30分後(95%CI:15-71)に認めた。

体温の変化は平均血圧と相関しなかった。

29例(34.9%)が治療的介入を必要とした。

⇒アセトアミノフェンIVをうけた患者の半数が低血圧を認めており、そのうち1/3が治療を必要とした。適切なパワーのRCTが必要である。

★ June-Il Bae et al. Intern Emerg Med. 2017

救急室で発熱に対してアセトアミノフェン点滴を受けた1507例を対象とした後ろ向き研究。循環動態変化の頻度とリスクファクターを調査。

有意な循環動態の変化は、収縮期血圧<90 or 拡張期血圧<60 or収縮期血圧30超える低下し、輸液や昇圧剤の投与が必要と定義

162例(10.7%)が有意な血圧低下があり、治療を要した。

関連する因子として、うっ血性心不全(OR 6.21, 95 % CI 2.67-14.45) 、悪寒(OR 3.10, 95 % CI 2.04-4.70)が独立した因子であった。

⇒アセトアミノフェン点滴により約1割に血圧低下を認めた。うっ血性心不全、悪寒のある患者には注意して使用する必要がある。

★ Hyun Jong Lee et al. Am J Emerg Med. 2018

インフルエンザA型の患者に対して救急室でアセトアミノフェン点滴を行った循環動態の変化を観察することを目的とした後ろ向き研究。

101例のうち、有意な血圧低下は30例(29.7%)に認め、うち6例(20%)にクリスタロイドの点滴が必要であった。投与前の血圧が高い方が血圧低下を有意にきたした。

★Erin N Maxwell et al. Ann Pharmacother. 2019

アセトアミノフェンIVによる血圧低下について調べたシステマティック・レビュー。

人を対象とした英文の19研究をもとにしたところ、アセトアミノフェン500㎎or1000㎎のIVは、有意に収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧の低下をきたしていた。また、昇圧剤の使用が有意に増加していた。

 

  • どのようなメカニズムで血圧が下がるのか?

Adéla Krajčová et al. Aust Crit Care. 2013 Aug.

ICUセッティングの前向き観察研究。

アセトアミノフェン点滴後の末梢体温、循環動態について3h持続的に観察。対象者6名。

アセトアミノフェン点滴後の血圧低下は、心係数と末梢血管抵抗の低下によって引き起こされていた。中枢や末梢の体温とは関連しなかった。

 

  • 点滴と内服とで血圧低下はかわるのか?

S J Kelly et al. Anaesthesia. 2016

重症患者50例を対象として、発熱や痛みの対して、アセトアミノフェンを点滴群と内服群に分け1g6h毎投与したRCT

低血圧の定義:薬剤投与60分以内に、収縮期血圧90未満が5分以上、もしくはベースラインの収縮期血圧より20%以上低下が15分以上

16の低血圧エピソードあり(IV群12、内服群4)。

incident rate ratio(IRR)は2.94(IV群vs内服群、P=0.06)、 adjusted IRR:5.01(P=0.03)⇒IV群の方が低血圧をきたす傾向

 

まとめ

  • アセトアミノフェン誘発性の低血圧は存在する。
  • 菌血症の患者やそれを疑う所見がある人(血圧低め、悪寒あり)、心不全ある人には、点滴での使用は注意が必要である。
  • 内服の方が血圧低下が少ない可能性あり。

 


第2回在宅医療連合学会大会に参加しました(WEB開催)

2020-07-01 18:37:20 | 学会活動

先週末の6/27~6/28に、第2回在宅医療連合学会大会に参加しました。今回は、COVID-19感染対策で、全面WEB開催となりました。

外山先生が指導医大会の座長をやりました。はじめてのWEB開催での座長は大変だったことと思います。

また、今永が、最優秀演題候補で「入院した在宅非がん患者において、退院後1年以内の死亡と関連する因子の検討」という演題名で発表しました。今回もまた候補どまりで受賞は逃しました。

WEB開催は便利なところもあり、気軽に様々なシンポジウムや演題を聞くことができ、これはこれでよいのかなと思いました。その反面、やっぱり年に1回の全国の在宅医療に関わる職種が集まる場でもあり、来年以降、COVID-19感染が落ち着いて現地開催できるとよいなと感じました。

 


日本プライマリ・ケア連合学会誌に、原著論文「老衰に肺炎を併発して死亡した際の死亡診断書記載についての調査~老衰の診断に関する郵送式調査より~」が掲載されました。

2020-06-23 19:00:14 | 講演・著書など

日本プライマリ・ケア連合学会誌に、原著論文「老衰に肺炎を併発して死亡した際の死亡診断書記載についての調査~老衰の診断に関する郵送式調査より~」が掲載されました。

老衰の経過の中で、肺炎の併発により死亡することはしばしばあり、そのような際に、直接死因を老衰と記載するか、肺炎と記載するかについては迷うことがありました。以前行った質的研究のインタビューで他医師も同様の迷いを持つことがわかり、今回のリサーチクエスチョンを立てました。ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/43/2/43_39/_article/-char/ja