東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

アセトアミノフェン投与と血圧低下

2020-07-11 22:31:41 | 勉強会

今回はアセトアミノフェン誘発性低血圧について調べて、勉強会を行ったのでブログに載せます。

NSAIDSの座薬などは血圧低下をきたすことがよく知られており、特に高齢者においては解熱剤や鎮痛剤として使用する際は相当注意するかなと思います。、恥ずかしながら、アセトアミノフェンに関してはあまり血圧低下について気にしていなかったのですが、特に点滴において血圧低下による害が言われているようです。

 

<アセトアミノフェン投与と血圧低下>

  • アセトアミノフェン投与で血圧は下がるのか?

★Soo Kang et al. Am J Emerg Med. 2018

救急を受診した発熱のあるUTI患者に対してアセトアミノフェンを投与した後の循環動態の変化について、後方視的に分析。

195例中、87例(44.6%)で低血圧を認めた。

全例を対象として、有意に収縮期血圧低下(135.06±20.45 vs 117.70±16.41)、拡張期血圧低下(79.74±12.17 vs 69.69±10.96)、心拍数低下 (97.46±17.14 vs 90.72±14.90) を認めた。

低血圧が続いた患者は、一時的な低血圧の患者と比較して、菌血症の率が高く、よりベースラインの血圧が低かった。

⇒菌血症の患者や熱にも関わらずノーマルな血圧の患者に対しては、持続的な低血圧となる可能性を考慮すべきであると結論。

★Aymeric Cantais et al. Crit Care Med. 2016

多施設(3つのICU)での前向きコホート研究。

アセトアミノフェンIVした後の血圧を動脈カテーテルで3時間測定。(低血圧は、ベースラインよりも平均の血圧が15%以上低下と定義)

160例のうち、83例(51.9%)がアセトアミノフェン誘発低血圧を経験した。

低血圧となった患者では、最低の平均血圧は64mmHg (95%CI:54-74)で、低血圧は投与後平均30分後(95%CI:15-71)に認めた。

体温の変化は平均血圧と相関しなかった。

29例(34.9%)が治療的介入を必要とした。

⇒アセトアミノフェンIVをうけた患者の半数が低血圧を認めており、そのうち1/3が治療を必要とした。適切なパワーのRCTが必要である。

★ June-Il Bae et al. Intern Emerg Med. 2017

救急室で発熱に対してアセトアミノフェン点滴を受けた1507例を対象とした後ろ向き研究。循環動態変化の頻度とリスクファクターを調査。

有意な循環動態の変化は、収縮期血圧<90 or 拡張期血圧<60 or収縮期血圧30超える低下し、輸液や昇圧剤の投与が必要と定義

162例(10.7%)が有意な血圧低下があり、治療を要した。

関連する因子として、うっ血性心不全(OR 6.21, 95 % CI 2.67-14.45) 、悪寒(OR 3.10, 95 % CI 2.04-4.70)が独立した因子であった。

⇒アセトアミノフェン点滴により約1割に血圧低下を認めた。うっ血性心不全、悪寒のある患者には注意して使用する必要がある。

★ Hyun Jong Lee et al. Am J Emerg Med. 2018

インフルエンザA型の患者に対して救急室でアセトアミノフェン点滴を行った循環動態の変化を観察することを目的とした後ろ向き研究。

101例のうち、有意な血圧低下は30例(29.7%)に認め、うち6例(20%)にクリスタロイドの点滴が必要であった。投与前の血圧が高い方が血圧低下を有意にきたした。

★Erin N Maxwell et al. Ann Pharmacother. 2019

アセトアミノフェンIVによる血圧低下について調べたシステマティック・レビュー。

人を対象とした英文の19研究をもとにしたところ、アセトアミノフェン500㎎or1000㎎のIVは、有意に収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧の低下をきたしていた。また、昇圧剤の使用が有意に増加していた。

 

  • どのようなメカニズムで血圧が下がるのか?

Adéla Krajčová et al. Aust Crit Care. 2013 Aug.

ICUセッティングの前向き観察研究。

アセトアミノフェン点滴後の末梢体温、循環動態について3h持続的に観察。対象者6名。

アセトアミノフェン点滴後の血圧低下は、心係数と末梢血管抵抗の低下によって引き起こされていた。中枢や末梢の体温とは関連しなかった。

 

  • 点滴と内服とで血圧低下はかわるのか?

S J Kelly et al. Anaesthesia. 2016

重症患者50例を対象として、発熱や痛みの対して、アセトアミノフェンを点滴群と内服群に分け1g6h毎投与したRCT

低血圧の定義:薬剤投与60分以内に、収縮期血圧90未満が5分以上、もしくはベースラインの収縮期血圧より20%以上低下が15分以上

16の低血圧エピソードあり(IV群12、内服群4)。

incident rate ratio(IRR)は2.94(IV群vs内服群、P=0.06)、 adjusted IRR:5.01(P=0.03)⇒IV群の方が低血圧をきたす傾向

 

まとめ

  • アセトアミノフェン誘発性の低血圧は存在する。
  • 菌血症の患者やそれを疑う所見がある人(血圧低め、悪寒あり)、心不全ある人には、点滴での使用は注意が必要である。
  • 内服の方が血圧低下が少ない可能性あり。

 


超高齢者の高血圧について

2020-06-09 19:08:22 | 勉強会

 超高齢者の高血圧について、今回勉強会で調べましたので、共有させていただきます。超高齢者には明確な定義はありませんが、85歳以上や90歳以上を指すことが多いようです。ただし、今回は80歳以上を目安にさまざまな文献を調べています。

 

<超高齢者の高血圧について>

  • 超高齢者の高血圧、降圧剤治療と予後

★Thomas van Bemmel et al. J Hypertens. 2006.

85歳となった571例を対象とした前向きコホート研究。

平均フォロー期間は4.2年、39.2%が高血圧の既往あり。高血圧の既往があると、ない場合と比較して、心血管死は増加(RR:1.60)、しかし総死亡は有意差なし。

超高齢者では、高血圧は総死亡のリスクではない。

★Nigel S Beckett et al. N Engl J Med. 2008.

収縮期血圧160以上が持続する80歳以上の患者3845例を対象としたRCT。介入群は150/80を目標にサイアザイドを使用して治療(不十分な場合はACEを使用)。

2年の時点で、介入群で平均して血圧15.0/6.1の低下。

ITTで、総死亡を21%減らし(P=0.02)、心不全を64%減らした(P<0.001)。→80歳以上でも降圧剤治療は利益がある。

★Vijaya M Musini et al. Cochrane Database Syst Rev. 2009.

60歳以上の高血圧患者に対して1年以上の期間で介入しているRCTを対象に分析。治療は総死亡を減らし(RR:0.90)、治療は心血管イベントや心血管死を減らす(RR:0.72)。80歳以上においては、心血管イベント・心血管死に関しては同様であったが(RR:0.75)、総死亡は減らさず(RR:1.01)、副作用による治療中止は増加した(RR:1.71)。→総死亡に関しては、6080歳までに限定される。

★Rosalinde K E Poortvliet et al. J Hypertens. 2013.

271例を対象として、85~90歳の血圧の推移と90歳時の血圧が、5年以上のフォロー(平均3.6年)において総死亡と関連するかを調査した前向きコホート研究。85~90歳の血圧の低下(2.9mmHg/年以上)は90歳時の血圧とは独立して死亡のリスクであった(HR:1.45)。特に施設入所者においては、よりその傾向は強まった。90歳時の血圧150以下は150超える群よりも1.62倍死亡リスクあり(降圧剤や心血管イベントのありなしは関係なし)。→過去5年の血圧の低下と90歳時の血圧は総死亡と関連していた。

  • フレイルや認知機能は、血圧コントロールの意義に影響するか?

★Michelle C Odden et al. Arch Intern Med. 2012.

65歳以上の2340例に対して、6mの歩行速度(0.8m/Sをカットオフ)により対象を分け、高血圧と死亡との関連を交絡因子を調整して調査。

歩行早い群は、140以上の血圧と死亡が関連。歩行遅い群は、収縮期血圧も拡張期血圧90以上も死亡と関連しなかった。歩行を完遂できなかった群は、高血圧が有意に死亡減少と関連していた。→歩行速度は高血圧のアウトカムを識別するうえでシンプルな測定項目である。

★Jane Warwick et al. BMC Med. 2015.

前述の2008年のRCTをもとに、フレイルインデックスと高血圧治療の効果の関連を調査。フレイルとの関連を認めなかった。→高血圧があるフレイルの人もそうでない人も治療の効果があった。

★Nicholas M Pajewski et al. J Am Geriatr Soc. 2020.

80歳以上の糖尿病がない高血圧患者1167例を対象として、血圧120未満目指す群と140未満目指す群とに分けたRCT。

120未満目指す群は有意に心血管イベント、死亡を減らしたが、腎機能悪化は増加した。歩行速度は結果に関係なかったが、認知機能が低い群には効果がなかった。→認知機能がい場合には、厳格な血圧コントロールは利益は少ないかもしれない。

  • 薬剤の減量を考えるうえで

★Athanase Benetos et al. JAMA Intern Med. 2015.

フランスとイタリアでおこなわれた80歳以上で施設入所中の1127人を対象としたコホート研究。収縮期血圧が130未満かどうか、降圧薬を2種類以上服用しているかどうかで分類。

2年後までフォローして、死亡がアウトカム。SBP<130かつ降圧薬を2種類以上服用群が、有意に死亡と関連していた(HR 1.78; 1.34-2.37)。

★James P Sheppard et al. JAMA. 2020.

血圧150未満で少なくとも2剤の降圧剤を内服している80歳以上のPCセッティングの患者569例を対象としたRCT。介入群は1剤減量し、12週後の血圧をアウトカム。

12週時点で150mmHg未満だった割合は、通常ケア群87.7%に対して、減薬群は86.4%で、補正後RRは0.98(97で、減薬群の非劣性が確認された。

 

まとめ

  • 血圧のコントロールは、超高齢者においても心血管イベントや心血管死を低下させるが、総死亡は低下させない可能性が高い。

 コントロールしても、治療目標は150/90くらいが目安か。特に85歳以上では血圧が下がらないようにする方がよいであろう。

  • 特に認知機能低下がある場合には、利益は少ないか。フレイルに関してはなんとも言えない。
  • 血圧が高くなければ、積極的に減量を行っていってもよいかもしれない。(特に、施設入所者でSBP130未満で2剤以上内服していれば)

今回調べてみて、やはり患者さんそれぞれ個別に考えていく必要を感じました。


COVID-19パンデミックによる在宅ケアの変化

2020-05-17 16:55:10 | 勉強会

先日の勉強会で、COVID-19パンデミックによる在宅ケアの変化 について、感染予防の観点からと患者ケアの観点から科内でディスカッションしました。感染予防については、日本在宅ケアアライアンスの指針、日本在宅医療連合学会のQ&Aが最近出ており、それを基に科内としてどのように対処するかについてあらためて相談し、その後、下記のようなパンフをつくり、お願いや理解も含めて、訪問診療時にお渡しすることにしました。長期化することが予測されるなか、患者サイド・医療者サイドがお互い感染しないよう努力していくことが重要であると思います。

また、患者ケアの観点からは少し参考になりそうな文献を引用しつつ、私見を述べながら科内でディスカッションしました。在宅医療も今までにない転換を迫られている気もしており、このようなときこそ、多職種での連携を強めていくことが必要であると感じました。MCSなどのツールももっと積極的に使用できればその方がよいように感じます。

 以下、作成したパンフ内容

新型コロナウイルスの感染防止に向けてお伝えしたいこと

新型コロナウイルスの流行はしばらく続くことが予測されます。私たち専門職と患者さん・ご家族が協力して、お互いに感染しないような取り組みが重要となります。以下のことについてご理解やご協力をいただければと思います。

・私たちも日々体温や体調の自己チェックを行いますが、患者さんやご家族にも毎日の体温測定や体調管理をお願い致します。

・訪問前の電話で、患者さんのみならず、ご家族の体調についてもお聞きすることがあります。患者さんやご家族に発熱や体調不良があるようであれば、訪問前に事前にお伝えいただければと思います。

(患者さんやご家族に発熱や体調不良があるから訪問を止めるということはありません。適切な感染予防を行うための準備をすることが目的です。)

・私たちは診察の際に、マスクの装着をし、手指や診察器具の消毒を適宜行います。また、患者さんやご家族に発熱などの症状がある場合には、通常の診察時よりも厳重な感染予防を行うことがあります。

・自宅にある体温計や血圧計を使用させていただくことがあります。

・訪問中、患者さんやご家族にもマスクの装着を可能な範囲でお願いできればと思います。また、室内の換気をお願いすることがあります。

・患者さんのご状態にもよりますが、ご希望があれば、訪問の間隔を延ばしたり、電話による診察で処方箋を出すことができます。

                                                 国立病院機構東埼玉病院内科

 

以下は、患者ケアの観点から議論した際のプレゼン資料

◎患者ケアの観点から

  • Tzyy-Guey Tsengらのletterより

(The Gerontological Society of America 2020)

障害者やがん終末期患者は感染しやすく、できるだけ入院せずに自宅で治療ができたらよいであろう→結果として、病院の救急医療の負担も減る

  • Milchael A Stelnmanらのview point

Meeting the care needs of older adults isolated at home during the COVID-19 pandemic(JAMA Internal Medicine 2020)

☆孤独やうつは氷山の一角に過ぎない

→食生活の変化に伴う心不全悪化、運動できないことによる筋力低下や転倒、認知機能の悪化など

☆支援サービスが減ることに関する諸々の問題

緊急時の在宅サービスや配食サービスの必要性

☆受診への恐怖→他の重篤な疾患の入院↓、電話やビデオ診察への挑戦(聴力障害者や認知症患者、不慣れな人はヘルスケアシステムが唯一のつながり)

  • 文献などをふまえた患者ケアに関する私見

☆療養の場に関する意思決定の変化

患者側の入院のデメリット↑(面会制限、感染のリスク)

医療者側の入院対応の負担↑(COVID-19対応病棟開設に伴う他病棟の負担増、発熱患者への対応の変化など)

→在宅での療養のニーズが、患者・医療者の両サイドから高まっている

☆患者サイドの感染への恐怖やリスクを減らすための試みの必要性(電話再診や訪問間隔をあけること)

☆上記をふまえた患者ケアの実践

環境は目まぐるしく変化→変化に合わせて考え方を柔軟にかえていく

在宅での緊急対応をより考慮(他職種の緊急対応は?連携の強化も):ただし、「在宅の押し付け」にならないよう注意

電話での事前情報収集や電話再診の質を向上する


認知症のスクリーニングの利益と害について考える

2020-04-23 19:11:28 | 勉強会

診療を行っていて、認知症のスクリーニングを行うことの意義について考えさせられることがあり、認知症のスクリーニングの利益と害について、勉強会で調べてみました。

 

<認知症のスクリーニングの利益と害について考える>

  • USPSTFは、地域在住の65歳以上の高齢者に対する認知症のスクリーニング検査に関するエビデンスは不足していると結論    (JAMA 2020)
  • Fowler NRらの報告(J Am Geriatr Soc 2020)

  インディアナ州、プラマリ・ケアセッティングの65歳以上の患者4005名を対象としたRCT

  2008名を介入群としてMemory Impairment ScreenかMini-Cogでスクリーニングを行う(コントロール群は1997名)

  結果:12か月後の健康関連QOLで有意差なし(P=0.81)

     1か月後のうつ、不安の症状にも有意差なし

スクリーニングの利益や害は現時点でははっきりしないが、利益も害もないかも? いずれにしてもエビデンス不足 個別性が大事?

  • どのような人にスクリーニングの害についてより気をつける?

 ★Boustani MAらの報告(J Am Geriatr Soc 2011)

 インディアナ州、プラマリ・ケアのクリニックに通院中で認知症の介護経験がある81名と経験がない125名(ランダムサンプリング)を対象に調査した横断研究

 結果:年齢・性別・人種・教育などを調整して解析した結果、介護経験群は非経験群と比較して、認知症スクリーニング検査に対してacceptance scoreがより低く、 suffering scoreがより高かった。

 認知症の介護経験は、認知症スクリーニングを受け入れに影響を与えるかもしれないと結論。

 ★Stites SDらの報告( J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci 2017)

 Penn Memory Centerの患者で認知機能正常、MCI、軽度のADを含む259名を対象とした研究。

 結果:MCIやADの診断を認識している人は、認識していない人と比べて、QOLや幸福感が有意に低かった。また、今後悪化することを予測している人は、そうでない人と比べて、QOLが低く、より高いストレスを抱えていた。

 MCIやADという診断のラベルや予後を認識している人は、そうでない人と比較して低いQOLとなっていたと結論。

認知症の介護経験があったり、識があるような人にはスクリーニングの意義を考えて慎重に行う必要あり?

 

  • 診断後のことも考えてみる⇒MCIや軽度のADに対して介入することはそもそも意義があるのか?

 USPSTFによるシステマティックレビュー(2020)

 MCIや軽度~中等度の認知症に対しての介入をレビュー

 薬物的介入:AChEIsやメマンチンは、軽度~中等度の認知症(特にAD)においては認知機能スコアの改善を認めるが、臨床的に意義があるとは言い難い程度である。

 非薬物的介入:介護者への複合的な心理的教育的な介入は、介護者の負担やうつの軽減に少しの利益を認めた。

cognitive stimulationは、MCI・認知症ともに短期間の認知機能の改善は認めた。

これらの介入の臨床的な意義については、まだ明らかでないと結論。

 

今回、調べてみて思ったのは、それぞれの患者さんにおいて、認知症の診断をつけることの意義を今一度考えることが必要だなと思いました。また、害について、個別に医療者が自覚的に考える必要があるのではないかと思いました。

そのうえでのスクリーニングであり、画一的にスクリーニングすることには慎重でありたいなと感じました。


水分摂取を増やすことは尿路感染症の予防になるか?

2020-03-13 22:01:37 | 勉強会

久しぶりの更新となってしまいました・・・。最近の勉強会でやった内容を載せたいと思います。

カンファレンスで、高齢者で尿路感染症を繰り返す方がおり、その方の水分量を増やすことで尿路感染症の予防となるのかについて話題になり、調べてみました。再発性の尿路感染症を起こす方に、慣習的に水分摂取を増やすことをすすめる場合がありますが、実際にはエビデンスとしては乏しいことがわかりました。

 

<水分摂取を増やすことは尿路感染症の予防になるか?>

  • Fasugbaらのシステマティックレビュー(Journal of Hospital Infection 2020)

採用できる論文が少なかったため、メタ分析はできず(narrative synthesis)

2つの論文が採用

①HootonらのRCT(2018)

対象:膀胱炎再発したことがある閉経前女性(18歳以上)140例

介入:通常の飲水に加えて、1.5L/日の水分を摂取

   介入群70例、コントロール群70例

   (脱落はそれぞれ10例、7例⇒ITT解析)

アウトカム:1年間のUTIの頻度

結果:介入群は平均1.7回、コントロール群は平均3.2回(P<0.001)

②Mentes,CulpらのクラスターRCT

対象:4つの施設(long-term care facilities)

介入:個々の水分摂取の目標値を設定して介入

(最初の10㎏は100ml/㎏、次の10㎏は50ml/㎏、残りは15ml/㎏)

アウトカム:2か月間のUTIの頻度

結果:介入群25例のうち12例が水分目標値に到達せず

               (3例は75%未満)

コントロール群24例のうち13例が水分目標値に到達せず

               (4例は75%未満)

ITT解析はなし

UTIの頻度は、介入群が0回、コントロール群が1回で有意差なし

システマティックレビューの結論:2つのうち1つの研究はバイアスの高いリスクもあり、十分なエビデンスはなく、さらなる研究の蓄積が必要

 

  • Lean Kらの報告(BMJ Open Quality 2019) 質改善による前後比較

対象:3つの高齢者施設の150例

介入:ポスターや2hのセッションでスタッフにUTIや脱水の知識について知ってもらい、その後7回/日の飲水励行を行った(6~8glassesを目安)

アウトカム:12か月間の抗生物質投与が必要なUTI発症数、入院が必要なUTI発症数(月平均)

結果:

①抗生物質投与が必要なUTI

介入前の12か月間:月平均1.8、介入後の12か月間:月平均0.75

                         (58%減らす、P=0.10)

②入院が必要なUTI

介入前の12か月間:月平均1.4、介入後の12か月間:月平均0.9

                         (36%減らす、P=0.09)

低いコストで、UTIを予防できるであろうと結論

 

二つの論文の内容から次のように感じました。

  • 現時点で、水分摂取を増やすことで尿路感染症の予防になる明確なエビデンスは乏しい。
  • 膀胱炎を繰り返す若年の女性においては だいぶ多い量の飲水を追加してもらうことで、予防できるかもしれない。
  • 施設入所などの高齢者においては、効果の証明はできていないが、低コストであることを考えると、可能な範囲で水分摂取を心がけてもらうことはいいかもしれない。ただし、それによるデメリット(誤嚥、心不全の悪化など)も想定されるため、個別で考える必要があるであろう。