東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

がん検診アップデート

2019-06-20 19:15:46 | 勉強会

後期研修医向けのミニレクチャーで、がん検診をテーマにしたので、その一部を載せます。

<補足事項>
•乳がん検診

40歳代の効果については賛否あり:40歳代は50歳~74歳までと比較してNNI(Number Needed to Invite)が大きい。(2000vs667) これらへの解釈の違いにより推奨が異なる。

•大腸がん検診

S状結腸鏡+便潜血、全大腸内視鏡(10年毎)などの死亡率減少の根拠はあるが、日本では検査のリスクを考えて、対策型検診としては推奨せず。

ちなみに、2014年Annals of Internal Medicineに、Frank van Heesらの報告があり、それによると、合併症のない高齢者であれば86歳まで、中等度の合併症ある場合には83歳まで、便潜血でのスクリーニングはcost-effectiveであるとの結果が出た。

•胃がん検診

USPSTFでは有病率低いため、記載なし。

国内ガイドライン2005年度版→2014年度版との違い

⇒X線もともと推奨していたが、国内の複数の症例対症研究以外に、国内2件・国外1件のコホート研究で胃がんによる死亡率減少認めた。

内視鏡に関しては、2005年度以降に、国内2件・国外1件の症例対症研究で胃がん死亡率減少を認めたことを根拠にB。


超高齢者の心房細動に対する抗凝固療法

2019-03-17 22:07:18 | 勉強会

 90歳代くらいの患者さんに心房細動が見つかった際に、抗凝固療法をはじめるか、またはじめるとして薬剤は何を選択するかなどで迷うことがあります。虚弱な超高齢者の場合には、転倒のリスクもあったりして、治療開始が裏目に出ないかと心配になってしまうことも多いかと思います。今回は、ちょっと前の勉強会でそのあたりのことを調べたので、のせたいと思います。

 

<超高齢者の心房細動に対する抗凝固療法>

•超高齢者の心房細動に、抗凝固療法(OAC)はどの程度行われているか?

★Wulzler Aらの報告(J Am Med Dir Assoc 2015)

Berlin AF Registryに登録された11888例のうち、89歳以上の279例を対象(観察研究)

→病院死の患者などを除いて104例が13.8±17.5monthsフォローアップされ、OAC実施率は、最初35.6%、エンドポイントまでで56.7%。OACの有無により、Stroke/TIA、大出血、死亡で有意差なし。VKA受けていた症例のPT-INRは1.76±1.0と低かった。

結論:超高齢者でOACの施行は少なく、 OACの有無に関わらず、Stroke/TIAは高く、VKAのコントロールもよくなかった。

★Yamashita Yらの報告(Chest 2016)

伏見レジストリに登録された3304例のうち、85歳以上の479例を他のグループと比較。

→OAC実施率は、85歳以上では41.3%と有意に少なかった。平均フォローアップ2年で、脳梗塞・全身塞栓症の発症率は85歳以上で有意に高かったが、大出血の発生は有意差がなかった。

 

•超高齢者の心房細動にOACは有効か?

★Chao TFらの報告(Circulation 2018)

台湾の健康保険のデータから抽出 

①1996年~2011年(NOAC登場前) 90歳以上

(1)抗血栓療法していないAF群(11064例)と非AF群(14658例)を比較、平均フォローアップ約2年

→AF群は有意に脳梗塞発症が多かった(5.75%/年vs3.00%/年)が、脳出血は有意差なかった。

(2)AF患者を無治療群11064例、ワーファリン群617例、抗血小板薬群4075例に分類し、比較

→無治療群と抗血小板群では脳梗塞発症で有意差なし。

ワーファリン群は無治療群と比べて有意に減少(3.83%/年vs5.75%/年)、脳出血に差はなし。

②2012年~2015年(NOAC登場後)

AF患者10852例のうち、ワーファリン群768例とNOAC群978例を比較

→脳梗塞の発症に有意差なし、脳出血はNOAC群が有意に少ない(0.42%/年vs1.63%/年)

結論:90歳以上でも抗凝固療法は考慮されるべきであり、NOACがより選択肢としてよいかもしれない。

 

 ここまでの感想・・・

•超高齢者においても、心房細動に対して抗凝固療法に対するメリットはありそう。かつ、NOACの方がワーファリンより、安全?
•ただし、死亡率に対するエビデンスや費用対効果の検討は乏しいので注意が必要
•抗凝固療法の効果はNNT:53程度であり、それをどう考えるか
•実際に迷う転倒のリスクがある超高齢者への投与をどう考えるのか・・・
 
ということで、転倒リスクとの兼ね合いをどのように考えればよいかについても調べてみました。
 
 
•転倒リスクがある患者に対する抗凝固療法のリスクとベネフィット

★Gage VFらの報告(Am J Med 2005)

転倒リスクのあるAF患者1245例とその他のAF患者18261例を比較した観察研究、アウトカムは脳出血による入院

→転倒リスク群は有意に脳出血が多かったが、ワーファリン群・アスピリン群・無治療群で有意差なかった(ただし、ワーファリン群は脳出血による死亡は増加)。脳梗塞・脳出血・心筋梗塞・死亡などの複合エンドポイントでは、CHADS2スコア2点以上の場合には、抗凝固療法の利益があった。

★Donze Jらの報告(Am J Med 2012)

退院時に抗凝固薬を内服していた515例を対象とした前向きコホート研究、退院後1年以内の大出血をアウトカム

→転倒リスクの高さと大出血には関連が見られなかった

★Inui TSらの報告(J Trauma Acute Care Surg 2014)

カリフォルニアの大規模データを用いた過去起点コホート。OAC群42913例、対照群334960例。

→転倒歴がある高齢者へのOACは、その後の死亡率の上昇と関連があり,脳梗塞の発症リスクが低い(CHA2DS2-VAScスコア0~3)場合には,抗凝固療法によって生じるリスクがベネフィットを上回る可能性がある

 

以上をふまえて、さらに感想・・

転倒歴がある高齢者(転倒リスクよりも)で、 CHADS2スコアが低い患者では抗凝固療法を慎重に判断した方がよいか

ただし、過剰に心配して投与しないのもよろしくないか

 


高齢者が食べられなくなったときに~どのように工夫するか、快適な食事とは?~

2019-02-01 20:13:25 | 勉強会
 認知症や老衰の経過で、「食べられなくなること」は避けがたいことであり、患者さんをケアするにあたってしばしば問題となることでもあります。経口摂取量を増やすためにどのような工夫をすればよいのか、患者にとっての快適な食事とは何かについて、少し調べてみました。
 
•どのように工夫するか

★経口栄養補助食品(oral nutritional supplement:ONS)の有用性について

Stange Iらの報告(J Am Med Dir Assoc 2013)

ドイツの6か所のナーシングホーム(NH)入所者のうち、低栄養もしくは低栄養のリスク高い方を対象としたRCT

介入群:2 × 125 mL ONS (600 kcal, 24 g protein)/日

アウトカム:体重, BMI, 上腕と下腿の最大囲, MNA-SF,握力,歩行速度,うつスケール[GDS], 認知機能 [MMSE], ADL[Barthel]),QoL (QUALIDEM)をベースラインと12週後に測定

結果: 77例(78%が認知症、55%が全介助) 介入42例、コントロール35例コンプライアンスは平均73% ( 23.5%-86.5%)

介入群の方が、MNA-SF以外の栄養指標は有意に改善、QOLスコアの一部で有意に改善 

★ ONSのコンプライアンスが栄養状態に影響を与える

Jobse Iらの報告( J Nutr Health Aging 2015)

87例のNH入所者のうち低栄養もしくは低栄養のリスク高い方を対象として、ONSのコンプライアンスが栄養状態に与える影響を検討したRCT

介入群:2 x 125 ml ONS (2.4 kcal/ml)/日 

    低コンプライアンス:30%以下、高コンプライアンス:80%以上

アウトカム:体重, BMI, 上腕と下腿の最大囲, MNA-SF

結果:高コンプライアンス群は、低コンプライアンス群やコントロール群よりも有意に、体重, BMI, 上腕最大囲, MNA-SFの改善を認めた。

(高コンプライアンス群は低栄養や咀嚼の障害の患者が多く、低コンプライアンス群は動けない患者やうつ、胃腸障害の合併がある患者が多かった)

★頻回少量にONSを提供することでより多く摂取できる

234例の低栄養の入院患者を対象としたRCT

ONS (300 kcal and 12 g Protein /125 ml )を3つの異なる方法で提供

コントロール群 食事の間に125ml×2

介入群1 12時と17時に125ml×2

介入群2 8時、12時、17時、20時に62ml×4

アウトカム:75%以上のONS摂取ができている率

結果:コントロール群と比較して、介入群1は有意差なかったが、介入群2は有意に75%以上の摂取率が高かった。(平均して84Kcal/日増加)

 

•快適な食事とは?

Palecekらは、経口摂取が困難となってきた時の1つの選択肢として、Comfort feeding onlyというオーダーを提案

経口摂取の目的を、体重維持のための栄養補給ではなく、「苦痛とならない範囲で本人が楽しめるように」ということにしたもの(J Am Med Dir Assoc 2010)

★介助者の観点から;食べる目的を明確にすることは重要?

小浦らの報告(老年学雑誌 2011)

特別養護老人ホームの介護職を対象とした質的研究

食事介助に関して、命を守るという責任の自覚と入居者にとっての食べることの意味(美味しく食べて欲しい、口から食べて欲しい)との間でジレンマを感じている

その人にとって食べることの意味が大きいと判断した場合には創意工夫などチャレンジ的な態度を、命を守る責任の方が強い場合には無難な対応をするようになるという結果が得られており、創意工夫を行う場合は後ろ盾となる専門職の存在が不安を軽減させることが示唆されている。

 

前半はONSについて書きました。栄養状態改善に寄与しそうであること、ただしコンプライアンスがキーであること、それを高めるには少量頻回に摂取してもらうのがよさそうであることなどがわかりました。後半は、食事の目的として、Comfort feeding onlyという考え方があること、また食事の目的を明確にすることが介助者の心理面やケアへのチャレンジに影響するであろことがわかりました。いずれも、普段の実践では実感していたことでありますが、こうやってあららめて調べてみると、根拠があったりするのだなと思いました。


日本プライマリケア連合学会誌41巻4号に「在宅医療における死因としての老衰の診断に関する調査」が掲載されました

2018-12-31 12:52:50 | 勉強会

以前投稿した論文が、日本プライマリケア連合学会誌41巻4号に掲載されました。

「在宅医療における死因としての老衰の診断に関する調査」という論文で、昨年行った全国在宅療養支援診療所連絡会の会員を対象に行ったアンケート調査の一部結果をまとめたものです。在宅医がどのように老衰の診断を行っているかを検証したものとなっています。ご興味のある方はぜひご覧になってください。J-STAGEで閲覧できるようになっています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/41/4/41_169/_article/-char/ja

 


CDI(Clostridium difficile infection)におけるプロバイオティクスの効果について

2018-12-15 17:10:17 | 勉強会

 今週行った勉強会の内容をのせたいと思います。高齢者が増えるなか、日常診療でCDIに遭遇する機会も多々あります。今回は、そのなかでもCDIにおけるプロバイオティクスの効果についてまとめてみました。

 

<CDI(Clostridium difficile infection)におけるプロバイオティクスの効果について>

•予防

★本邦のガイドライン(2018年11月)

CDIの発症リスクを有する患者において、プロバイオティクス製剤による予防を弱く推奨

★IDSAガイドライン(2017年)

CDI の一次予防のためのプロバイオティクスの投与を推奨するにはデータが不十分である(推奨なし)

★Johnston BCらの報告(Infect Control Hosp Epidemiol 2018)

18のRCTに対してメタ分析

⇒unadjusted model(OR:0.37,95%CI:0.25-0.55)

 adjusted model(OR:0.35,95%CI:0.23-0.55)

サブグループ解析では、CDIリスク5%以上の臨床セッティングでより利益あり

単種より多種のプロバイオティクスの方が利益あり

★Goldenberg JZらの報告(Cochrane Database 2017)

31のRCTを分析⇒プラセボ群4.0%、プロバイオティクス群1.5%(RR:0.40,95%CI:0.30-0.52) ただし、CDIリスク5%未満の臨床セッティングでは有意差がなかった。

★Shen NTらの報告(Gastroenterology 2017)

19のRCTを分析⇒プラセボ群3.9%、プロバイオティクス群1.6%(RR:0.42,95%CI:0.30-0.57)

抗菌薬投与開始から早めに始めれば始めるほど効果高い

(2日以内RR:0.32、3日以降RR:0.70)

 

<IDSAガイドラインが出た2017年以後のメタ分析で、予防に関して効果を示す研究が出てきているよう

ただし、CDIのリスクが高いセッティングかによって効果が異なる

⇒リスク高い患者に対しては使用がよいか、また使用するなら早めに使用開始するのがよさそう>

 

•治療(併用薬として)

★本邦のガイドライン(2018年11月)

プロバイオティクスはCDIの治療に有効とする十分なエビデンスはみられない(実施しないことを弱く推奨)

★Hempelらの報告(JAMA 2012)

CDIを含めた抗生物質関連下痢症(AAD)におけるプロバイオティクスの効果を検証したメタ分析(31のRCT)⇒重症の下痢患者が有意に減少(RR:0.52,95%CI:0.36-0.75) しかし、CDIに限定した研究ではない

★Pillaiらの報告(Cochrane Database 2008)

CDIの患者を対象として、VCMやMNZに併用して治療したRCT4つを分析⇒1つは有意に減少、3つは有意差なく、併用薬として使用するエビデンスは乏しいと結論

★Barker AKらの報告(J Antimicrob Chemother 2017)

33例の軽度~中等度のCDIを対象としたパイロットのRCT

⇒下痢の回数や期間は有意に減少 ただし、より規模の大きい研究が必要とコメント

 

<現時点ではプロバイオティクスが併用治療として有効である証拠は乏しいか>

 

 プロバイオティクスといっても、様々な種類のくすりがあり、それぞれのくすりによって入っている菌種も異なる現状があります。日本で発売されている整腸剤には比較的エビデンスがある菌種が必ずしも入っていないようです。そのあたりが効果の解釈においても難しいところかなと感じました。害はあまりないので(免疫抑制剤使用中の患者などで敗血症になることが稀にあるくらいのよう)、リスクが高そうな患者に対して予防的に使用してみるのはよいかなと個人的には思いました。