東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

骨粗鬆症の治療薬についての疑問

2018-02-07 20:32:26 | 勉強会

  久しぶりのブログになります。また少しずつ再開していきたいと思います。今回は、骨粗鬆症の治療薬についての疑問を少し調べたので、それをのせたいと思います。

 

<骨粗鬆症の治療薬についての疑問>

疑問1:アレンドロン酸(ボナロン)は点滴と経口、どちらが効果ある?

 ボナロンの点滴を他院で今まで行っていた方が、紹介されました。薬剤のアドヒアランスも悪くなさそうだし、点滴でなくてもよいのでは?と思いましたが、もし点滴の方が効果あるのであれば続行かなと思い、調べてみました。 

Curr Med Res Opin. 2012 Aug;28(8):1357-67. doi: 10.1185/03007995.2012.709838. Epub 2012 Jul 20.

A multicenter randomized double-masked comparative study of different preparations of alendronate in osteoporosis - monthly (four weeks) intravenous versus once weekly oral administrations.

 アレンドロン酸の4週毎900μgの点滴群と週1回35㎎内服群を、RCT(多施設)で比較した研究。48~87歳の骨粗鬆症の患者325名(日本人)を対象として、52週追跡。プライマリアウトカムは、骨密度(BMD)。BMDは両群とも増加し、有意差はなかった。安全性に関しても両群に差は認めなかった。

⇒この結果から考えると、服薬アドヒアランスが保たれていれば、点滴と内服とであまりかわりないのかなと感じました。ちなみに薬価は後発医薬品で、点滴が2100円程度・35mg内服が1か月分で1020~1230円程度(255~310円/錠程度)となります。

 

疑問2:デノスマブと経口ビスフォスフォネート、どちらが効果ある? 

 プラリアなどのデノスマブを今まで定期的に打っていた方で転医されてくる方がやはりいらっしゃいます。これも、内服ではだめかなと思う部分もあり、調べてみました。

Int J Clin Pract. 2012 Apr;66(4):399-408. doi: 10.1111/j.1742-1241.2011.02806.x. Epub 2012 Feb 7.

Comparison of clinical efficacy and safety between denosumab and alendronate in postmenopausal women with osteoporosis: a meta-analysis.

 デノスマブとアレンドロン酸の効果と安全性を、閉経後の骨粗鬆症の女性を対象として調べたメタ分析。6ケ月毎のデノスマブ60㎎皮下注と週1回アレンドロン酸70㎎内服とを比較。デノスマブ群はアレンドロン酸内服群と比較して、骨折のリスクに関しては有意差がなかったが、骨密度は有意に増加した。感染症や悪性腫瘍の合併に関しては両群で差がなかった。

⇒骨折に関しては有意差がないのが判断の難しいところですね。アレンドロン酸も日本での通常量の倍である点も判断を迷わせます。ちなみに薬価はプラリアが3万程度となります。やはり、高いは高いですね…。

 

疑問3:費用対効果が高い治療は?

 ここまで調べてきて、費用の面がやはり気になってきました。費用対効果が高い治療はどれなのかを調べてみました。

Endocr Pract. 2017 Jul;23(7):841-856. doi: 10.4158/EP161678.RA. Epub 2017 Apr 27.

CLINICAL EVALUATION OF COST EFFICACY OF DRUGS FOR TREATMENT OF OSTEOPOROSIS: A META-ANALYSIS.

 費用対効果の観点から骨粗鬆症の治療を調べたメタ分析。「骨折の予防」を効果としている。患者の平均年齢は67.3 ± 8.1 歳、フォローアップ期間は25.5 ± 12.6 月。最も費用対効果が高い最初の治療は、ジェネリックの経口アレンドロン酸とジェネリックのゾレドロン酸点滴であった。経口アレンドロン酸で治療中に骨粗鬆症に伴う骨折を起こした際の治療の変更に関しては限られたデータしかなかったが、ジェネリックのゾレドロン酸点滴は、アドヒアランスや副作用の観点から考慮してもよいかもしれない、と結論。

⇒治療薬の使い分けは専門医の方からすれば、いろいろと個別化して使い分けるのかもしれません。しかし、一般医としては、この結果も考えると、骨折の一次予防としては、とりあえず経口のボナロンでいいかなと思ってしまいました。

 


がん終末期におけるせん妄について

2017-07-11 21:50:07 | 勉強会

 最近、がん終末期の患者さんでせん妄の症状を呈し、それを苦痛に感じる方が多かったので、知識のアップデートをはかろうとちょっと文献検索してみました。いくつか興味深い論文があったので紹介したいと思います。

 

Oncologist. 2015 Dec;20(12):1425-31. doi: 10.1634/theoncologist.2015-0115. Epub 2015 Sep 28.

The Frequency, Characteristics, and Outcomes Among Cancer Patients With Delirium Admitted to an Acute Palliative Care Unit.

 進行がん患者のせん妄に関して、その頻度・経過・標準的なマネージメントを行ったうえでのアウトカムについてはほとんど研究がなされていないために、それを調査した研究。Acute palliative care unit(APCU)に入院したがん患者556例を対象に電子カルテのレビューを行った。せん妄の診断はmemorial delirium assessment scale(MDAS)score 7点以上。

⇒入院時にせん妄があった患者は229例(41.2%)、入院後にせん妄となった患者は94例(16.9%)であった。介入により、せん妄が解決した患者は全体では26%(入院時からせん妄の場合は30%)。せん妄の患者の半数は死亡退院となっていた。入院後にせん妄となった患者は、入院時にせん妄であった患者と比較して、有意に予後が悪く、せん妄からの回復も乏しかった。

 文献の結論:APCUに入院した患者の半数以上がせん妄をきたしており、そのうち3割程度が改善していた。せん妄の診断は、予後不良と関連していた。

 

感想:後ろ向きの調査ではありますが、貴重なデータなのだと思います。介入を行っても必ずしも改善しないことや、せん妄自体が予後不良に関連していることなどは、家族へ説明するうえでも重要なことかと思います。今までも一般的には言われていることであり、実際に上記のような説明を行うことも多かったですが、それをデータとして出した研究なのだと思います。

 

 JAMA Intern Med. 2017 Jan 1;177(1):34-42. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.7491.

Efficacy of Oral Risperidone, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial.

  緩和ケアサービスを受けている入院患者を対象とした、せん妄に対する薬物療法に関する2重盲検のRCT。

対象は、治癒困難な進行性の疾患をもったホスピス・緩和ケアの入院患者で、MDAS score 7点以上・苦痛を伴うせん妄症状の存在・delirium symptom score1点以上の患者(9割ががん患者)。リスペリドン群・ハロペロドール群・プラセボ群に分けた2重盲検のRCT。ドーズは年齢によってかえ、治療効果や副作用によってドーズの増減を行った。アウトカムは3日目のdelirium symptom score、その他に錐体外路症状や生存期間。

⇒247例がITT解析された(リスペリドン群82例・ハロペロドール群81例・プラセボ群84例)。リスペリドン群とハロペリドール群は、プラセボ群と比較して有意にdelirium symptom scoreが高かった。また両群ともプラセボ群と比較して有意に錐体外路症状が多かった。またハロペロドール群はプラセボ群と比較して有意に生存期間が短かった(リスペリドン群とは有意差なし)。

 文献の結論:軽度~中等度のせん妄症状に対しては、抗精神病薬を投与するのではなく、早急な対処や支持的な介入が重要であろう。

 

 感想:インパクトがある論文かとは思います。ただし、この論文に関しては個人的にはやや違和感があります。実際には改善可能なせん妄の原因を検索したり、その中で調整できる部分は調整するなど多面的なアプローチを行いながら、必要に応じて少量より薬剤を使うというのが実臨床なのではないかと思います。論文の中身を見る限りでは薬剤投与以外の調整や介入がどのように行われていたかは不明でした。最初から薬剤ありきというのはやや違和感を感じます。この結果で、がんなどの終末期患者のせん妄に対して抗精神病薬は使わないという結論には個人的には達しませんでした。ただし、せん妄を抗精神病薬のみで解決しようというような考えは持ってはいけないとの再認識はできました。

 

 Arch Intern Med. 2000 Mar 27;160(6):786-94.

Occurrence, causes, and outcome of delirium in patients with advanced cancer: a prospective study.

 上記論文を読んだ後に、あらためてせん妄の可逆的な原因について、文献的な部分で調べたところこの論文にあたりました。教科書に書いてあることの根拠にもなっているのかな?

 APCUに入院した患者104例を対象に前向きに研究。せん妄の頻度や原因・転帰について調査。

⇒44例(42%)に入院時せん妄を認めた。入院後に27例に新たなせん妄を認めた。71例の患者の94エピソードのうち46エピソード(49%)が可逆性であった。単変量解析でpsychoactive medications・predominantly opioids・dehydrationが可逆性と有意に関連していた。Hypoxic encephalopathy・metabolic factorsが不可逆性と有意に関連していた。

感想:脱水補正やオピオイドの調整、せん妄をきたすような薬剤の中止など可逆的なものに対して介入していくことはやはり重要なのだと再認識しました。

 


インフルエンザの重症化のリスク因子は何か?

2017-04-21 22:08:37 | 勉強会

 

以前、「高齢者施設でインフルエンザが流行したら、抗インフルエンザ薬の予防投与を行うべきか?」というテーマをブログにのせました。(http://blog.goo.ne.jp/higashisaitama/e/dd2a234c82c0274102814fd6ffe16801

そのときに、インフルエンザに罹患することにより入院・細菌感染合併・死亡のリスクが高い患者さんはどのような方なのか疑問に思い、今回調べてみました。

 

<インフルエンザの重症化のリスク因子は何か?>

 

★Populations at risk for severe or complicated influenza illness: systematic review and meta-analysis  (BMJ 2013)

表題のとおり、メタ分析

季節性のインフルエンザにおいて

①    年齢について

高齢者は非高齢者と比較して、入院・全死亡率が有意に高い(それぞれOR:4.65と2.95)。肺炎合併・ICU入室・人工呼吸器使用に関しては有意差なし。

②    合併症について

慢性肺疾患は、入院・ICU入室・人工呼吸器使用のリスク(それぞれOR:2.38、4.46、4.02)。肺炎・全死亡率では統計学的に有意差なし。

喘息は、肺炎合併のみリスク(OR:1.35)。

心疾患は、肺炎合併・入院・人工呼吸使用・全死亡率のリスク(OR:1.56、16.45、3.31、1.97)。

神経筋疾患は、全死亡率のリスク(OR:3.21)。

糖尿病は、入院のリスクとはなっていた(OR:9.91)。

   しかし、文献内ではエビデンスレベルは低いことを指摘。

 

その後の発表されて参考になりそうな研究をいくつか

 

★Clinical courses and outcomes of hospitalized adult patients with seasonal influenza in Korea, 2011-2012: Hospital-based Influenza Morbidity & Mortality (HIMM) surveillance. (J Infect Chemother. 2014)

前向き研究。検査で確認された成人のインフルエンザ患者2184例のうち、123例(5.6%)が入院し、うち40例が合併症(肺炎など)を起こしていた。

多変量解析で、合併症に有意な因子は、糖尿病であった(OR:3.63)。

 

★Patients hospitalized with laboratory-confirmed influenza during the 2010-2011 influenza season: exploring disease severity by virus type and subtype. (J Infect Dis. 2013)

 入院したインフルエンザ患者を対象とした研究。アウトカムは死亡もしくはICU入室。

成人において、医学的状態としては、慢性肺疾患と神経筋疾患が独立したリスク因子であった(それぞれOR:1.46、1.68)。

 

 これらを考えると、エビデンスレベルは必ずしも高くないものの、心肺疾患や神経筋疾患、糖尿病患者などはリスクがあると考えたほうがよいのかもしれません。臨床的な感覚とも一致はしますが、虚弱高齢者や施設入所者に絞った研究などはあまり見当たらず、これらの患者に関して、様々な医学的状態を検討するような研究が出ると参考になるのになと感じました。


高齢者施設でインフルエンザが流行したら、抗インフルエンザ薬の予防投与を行うべきか?

2017-03-18 23:29:09 | 勉強会

 現在2つの特養の嘱託医と1つの有料老人ホームの訪問医をやっていますが、この冬もそれなりにインフルエンザが流行しました。入院となったり、細菌感染を合併する方もいらっしゃいました。抗インフルエンザ薬の予防投与がどの程度流行を防げるのか、入院や死亡率を下げることができるのかを調べてみました。

 

<高齢者施設でインフルエンザが流行したら、抗インフルエンザ薬の予防投与を行うべきか?>

★日本感染症学会提言2012「インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて)」

 「高齢者施設では、入所者間の接触が多くてインフルエンザの感染が拡がり安く、症状も不明確なことが多いので、フロア全体や入所者全員への予防投与を病院の場合よりもさらに早期に積極的に実施することを提案」

 「すなわち、高齢者施設では、インフルエンザ様の患者が2~3日以内に2名以上発生し、迅速診断でインフルエンザと診断される患者が1名でも発生したら、施設や入所者の実情に応じて同意取得を心がけたうえで、フロア全体における抗インフルエンザ薬予防投与の開始を前向きに考慮する」

 上記の内容は2009年のIDSA(米国感染症学会)のガイドラインに準じている。

★Interim Guidance for Influenza Outbreak Management in Long-Term Care Facilities

                        (CDCの暫定的ガイダンス)

 72h以内にインフルエンザ患者が2名発生した場合には、入所者全員への予防投与を開始するべきである。(優先的に投与するのは同じフロアやユニットの入所者)

 

★Booy Rらの報告(PLoS One 2012)

 16のaged care facilitiesを対象としたクラスターRCT。3年間で23のinfluenza-like illness(以下ILI)のアウトブレイクあり。治療のみ行う群と治療+オセルタミビルの予防投与を行う群で比較。この研究でのアウトブレイクの定義は3日以内に2名のILIもしくは7日以内に3名のILIが入所者もしくは職員に生じた場合としている(1名は血清学的にも診断)。予防投与は同じフロアの入所者と職員に行う。

⇒予防投与群で、有意にインフルエンザの罹患率減少(23%vs36%)やアウトブレイクの期間短縮(11days vs 24days)を認めた。しかし、死亡率・入院率・肺炎合併率は有意差がなかった。

 

★van der Sandeらの報告(Emerging Themes In Epidemiology 2014)

 42のnursing homeを対象とした2重盲検のRCT。4年間で、17のアウトブレイクあり。そのうちベースラインの指標に違いが少ない15のアウトブレイクに対してRCTを施行。この研究でのアウトブレイクの定義は、同じユニットで2名のILIの入所者が出た場合1名は血清学的にも診断)。6のアウトブレイクがオセルタミビル投与群に、9のアウトブレイクがプラセボ群に振り分けられた。アウトカムは、暴露後予防投与となったユニットでの、血清学的に確認されたインフルエンザの発症及び臨床的に診断されたILIの有無。

⇒2つのアウトカムとも有意差なし

 血清学的に確認されたインフルエンザの発症(2/6 vs 2/9)

 臨床的に診断されたILI(2/6 vs 5/9)

 

 パワーが少ないことの限界が記載されている

 

★Gorisek Miksic Nらの報告(Infection 2015)

 アウトブレイクコントロールのために異なった手法を行った3つのnursing home(以下NH)を対象。

 NH1:全ての入所者にオセルタミビルを予防内服

 NH2:直接接触した入所者のみオセルタミビルを予防内服

 NH3:予防内服行わない

 

NH1がNH2・NH3と比較してアウトブレイクの期間短縮

 

★Ye Mらの報告(BMJ Open 2016)

 127のLong-Term Care Facilitiesを対象として、サーベイランスデータを使用した後ろ向き研究。インフルエンザがアウトブレイクしてから予防内服を決定するまでの期間と、アウトブレイクの期間・ILI発症率・入院について関連を、交絡因子を調整して解析。

⇒アウトブレイクの期間は有意に減少(1日の予防内服決定の遅れが2.22日のアウトブレイク期間の延長を招く)、しかしILI発症や入院については有意差を認めなかった。

 

 

 今回調べてみて、ガイドラインや提言では早期からの予防投与をすすめていますが、その根拠は必ずしも強いものではないと感じました。だからCDCもあくまで、「暫定的な」ガイダンスとしているのでしょう。種々の研究結果を組み合わせて考えてみると、現時点では、予防投与により、アウトブレイクの期間は短縮するものの、インフルエンザやILIの罹患率・入院率などに関しては今の時点では有効性は証明されていないと考えられるのかなと思います。予防投与をするとなると、自費となってしまうために費用の問題も出てきます(4500円/人以上かかりそうです)。投与しなくてはいけない人数も多いので(例えば同じユニット全員にとどめるにしても10名以上)、施設側で出すのは現実的には困難でしょうし、家族に自費で内服することをすすめるにあたっては、臨床医的な立場からすれば、メリットやデメリット(費用・薬の副作用)の説明を十分に行う必要があります。そう考えるとなかなか敷居は高いのかなと思います。しかし、経験的にはインフルエンザ流行を契機に状態が悪くなる入所者さんもいらっしゃるので、非常に悩ましいなと思います。接触歴のある中でも、インフルエンザに罹患することにより入院・細菌感染合併・死亡のリスクが高い方のみに内服してもらうという考えもあるのでしょうか。これは、アウトブレイクのコントロールというより個々の患者の健康被害により重点をおくこととなります。どのような方がそのようなリスクが高いか、今回は調べていませんが、また調べてみようと思います。あと、費用対効果の研究も今後出てくるといいですよね。そうでないと公費負担や保険適応については議論がすすまない気がします。


認知症患者の疼痛評価について

2017-02-12 21:58:19 | 勉強会

 先日、川野先生が勉強会でやってくれた内容について載せたいと思います。川野先生自身が、認知症患者の苦痛評価のむずかしさを実感して、勉強会の題材にしてくれました。

<認知症患者の疼痛評価について> 
 
認知症患者の疼痛評価尺度
進行した認知症の苦痛評価にはおもに観察による方法が用いられる。
いろいろ文献をあたり、代表的と思われるのは下記。
①③④⑤は日本語版開発あり。
 
①DOLOPLUS 2 日本語版あり 文献2では高評価
有用性について最も包括的に検証されているスケールで,10項目について0~3で数値化(最高30点,身体的項目5,精神運動項目3,精神社会的項目2の3つの副項目にわかれている)し,5点をカットオフ値としている
 
②l`echelle comportementale pour personnes agees (ECPA) 
 
③pain assessment checklist for  seniors with limited ability to communicate (PACSLAC) 日本語版PACSLAC-Jあり 文献2で高評価
  カナダ,60項目 
  最も行動の微妙な変化を検出できるが,60項目からなるため日常のケアでは用いにくい.
 
④pain assessment in advanced  dementia(PAINAD)scale 日本語版あり
 呼吸,ネガティブな哺鳴,顔の表情,ボディ・ランゲージ,慰めやすさの5項目でそれぞれ0~2点,計10点で評価する.項目が少なく,日常のケアの現場で,
認知症患者に苦痛があるかどうかをみるにはすぐれている。
⑤Abbey Pain Scale  日本語版あり(APS-J)
 オーストラリア,6つ の痛み行動評価
 看護師や介護職者が利用できるよう開発されて信頼性・妥当性も高く、最近の研究によりその有用性も報告されている
 
 声をあげる、表情、ボディーランゲージの変化、行動の変化、生理学的変化、身体的変化の6つの項目について「なし」、「軽度」、「中等度」、「重度」で評価して計算
 
⑥Checklist of Nonverbal Pain Indicators(CNPI)
  6項目の 痛み行動評価
 
⑦Non-communicative Patient’s Pain Assessment Instrument (NOPPAIN)
  6項目評価
 
 
認知症患者の疼痛とBPSD
 痛みや痛みに関連した苦痛からBPSDが起こることがある。
・Huseboらは、ノルウェー北部の352人の中等度から高度認知症患者について、18施設中の60ユニットについて、痛み治療を積極 的に実施したグループとコントロールグル ー プにわけてクラスターRCTを実施。(鎮痛薬はアセトアミノフェン、モルヒネ、ブプレノルフェン、プレガバリン使用)
8週間後 Cohen-Mansfild Agitation Inventory(BPSDを評価するスコア)が有意に軽減したが、治療を中止す ると元に戻った。
痛みの治療 がBPSD(うつ、アパシー、夜間行動、食欲)減少に効果的であった。(文献4)
 
認知症の程度と疼痛の有病率、治療実施の関連
・オーストラリアのナーシングホーム12施設で425人を対象にした疼痛と認知機能の関係を調査(文献5)
言語的に疼痛を訴えられない高度認知症患者(CI-NV Conge)では疼痛を感じている割合が、言語的に疼痛を訴えられる認知症患者に比べ高くなっている
 
group CUS (cognitively unimpaired/slightly impaired)MMSE18点以上
group CI (cognitively moderately – severely impaired) MMSE17点以下
 group CI-V (verbally communicating)
 group CI-NV (not verbally communicating).
 
鎮痛薬なしに痛みを感じている割合が認知機能低下とともに増える。
 
(川野先生のまとめ・感想)
文献2のレビューでは29個も!評価対象となるスケールがあり、信頼性・妥当性が検討されています。
日本語版が開発されているものも複数ありますが、PAINAD以外は、日本語版があってもなぜかアクセスできるものが少ないので、コメディカルと共有するのはなかなか困難な気がしました。
文献からは、言語的コミュニケーションがとれない認知症患者さんは、痛そうなそぶりが報告されたら、様子を見るよりは鎮痛薬を積極的に試してあげたほうがよいとわかりました。
 
(文献)
1.認知症の緩和ケア  平原佐斗司  緩和医療学 vo1.11 no.2 2009
2.Sandra MG Zwakhalen et al.  Pain in elderly people with severe dementia: A systematic review of behavioural pain assessment tools BMC Geriatrics 2006
3.鈴木みずえ 認知症高齢者の痛みに関するアセスメントツールとケア介入  日本早期認知症学会誌第7巻第1号,2014
4.Husebo BS et al.  Efficacy of pain treatment on mood syndrome in patients with dementia: a randomized clinical trial.   Int J Geriatr Psychiatry. 2014 Aug;29(8):828-36.  
5.Ulrike Bauer et al. Pain treatment for nursing home residents differs according to cognitive state – a cross-sectional study   BMC Geriatrics (2016) 16:124
 
 
 私自身の感想です。数年前くらいかな・・・外山先生が、認知症患者さんの疼痛評価スケールについてしらべてくれたことがありましたが、そこからあまり研究自体はすすんでいないのかなという印象を受けました。研究としてやるには難しい内容ですもんね。
臨床的には、言語的コミュニケーションがとれない認知症患者さんは痛みが過小評価されやすいのでしょう。それは気をつけなくてはなと思いました。普段ケアにあたっている人から状況をよく聞くことが大事かもしれないと再認識しました。また、BPSDの背景に苦痛がないかの確認も重要ですね。