東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

DMARDSの減量・中止について

2018-11-16 21:15:05 | 勉強会

 今週の勉強会で扱った内容についてのせたいと思います。今回は、抗リウマチ薬(DMARDS)の減量・中止についてです。私自身、長い経過の関節リウマチの患者をみていて、寛解状態が続いているが漫然と薬剤を継続していることが多いのが現状です。どのような状態であれば減量や中止を考えてもよいのか、またどれくらい再燃するものなのかについて調べてみました。

 

 <DMARDSの減量・中止について>

•ガイドライン

ACR:寛解に入ったらDMARDSの減量を行う

再燃のリスクはあるものの副作用や過度の治療の可能性を考慮して最小限の治療を

ただし、中止については寛解に入っても全ての治療薬を中止することはしない

EULAR:持続的な寛解に入ったら減量を考えてもよい。中止はすべきではない

日本:長期間寛解が続けば、患者と医師の意思共有のうえで投与量を慎重に減量することを考慮してもよい

 

•ちなみに….寛解基準
 
DAS28(ESR)<2.6

SDAI<3.3 

 SDAI=圧痛関節数+腫脹関節数+患者の全般的評価+医師の全般的評価((0~10㎝VAS)+CRP

CDAI<2.8

 CDAI=SDAIのCRP省いたもの

Boolean法(以下の3つを満たす)

 圧痛関節数≦1

 腫脹関節数≦1

 患者の全般的評価≦1㎝(0~10㎝VAS)

 

•Kujiper TMらの報告(J Rheumatol 2015)

低活動性もしくは寛解にあるRA患者で、DMARDSを減量・中止した際の再燃リスクについて評価したSys Rev

減量の後、24週で8%、4か月で63%が再燃

•Haschka Jらの報告(Ann Rheum Dis 2016)

寛解にあるRA患者で、DMARDSを減量、もしくは中止した場合と継続した場合での再燃リスクを評価したRCT

対象:6か月以上 DAS28<2.6

介入:3群に分ける arm1:DMARDS継続 

arm2: DMARDS減量  arm3:6か月の減量の後中止

結果:101名中34名(33.7%)が12か月以内に再燃 

3群で有意差あり(arm1:15.8%, arm2:38.9%, arm3:51.9%)

 多変量解析で、ACPA(抗CCP抗体)陽性が再燃と有意な関連

•El Miedany Yらの報告(Clin Rheumatol 2016)

対象:6か月以上 DAS28<2.6の

    RA患者(DMARDS投与中)157名

介入:5群に分ける 

グループ1:DMARDS継続+生物学的製剤50%まで減量グループ2: DMARDS+生物学的製剤共に50%まで減量  グループ3: DMARDS 減量+生物学的製剤中止

グループ4: DMARDS +生物学的製剤共に中止

グループ5:すべて変化なく継続

結果:12か月以内の再燃

グループ1:41.9%、グループ2:59.3%、グループ3:67.7%、グループ4:77.4%、グループ5:6.5%

多変量解析で、ACPA(抗CCP抗体)陽性と2か月時点の機能低下が、再燃と有意な関連

 

まとめ
DMARDSといっても多岐にわたるので、どのような薬剤を使っているかにもよるのかなとは思いますが・・・
抗CCP抗体は減量前に評価した方がよさそうなことがわかりました。また、とりあえず、減量してみるのはよいが中止はより慎重に行った方がよいと思いました。
途中に機能低下がないか確認していくこともやはり重要なのですね。

 


高齢者の家族は、看取りの代理意思決定をどのように行っているのか?

2018-10-21 13:00:02 | 勉強会

 今回は、先日行った勉強会の内容をのせたいと思います。高齢者が終末期となり、看取りに向けての意思決定を行わなければならない状況によく直面しますが、認知機能低下などがあったりしてご本人が意思表示できないことがあります。そのようなときに、家族とともに意思決定を行っていくこととなりますが、家族も代理意思決定をするにあたり、様々な迷いや葛藤を感じられているのを拝見します。看取りの場をどうするのか、人工栄養はどうするのか、どこまで合併症の治療を行うのか、など様々なことを決めていかなくてはならないのは家族にとっても負担なことでしょう。今回は、家族がどのように看取りの代理意思決定を行っているのか、について調べてみました。

<高齢者の家族は、看取りの代理意思決定をどのように行っているのか?>

•二神らの報告(老年看護学,2010)

3か所の介護老人福祉施設において認知症高齢者の代理意思決定を行った家族12名を対象にインタビューを行い、質的に分析

⇒5段階のプロセス(代理意思決定の過程・困難・対処を調査)

プロセスの段階 

        困難

        対処

①看取りに対する情報入手

不十分な情報

情報収集、自分なりの解釈

②看取りのイメージ化

イメージ化不足

自分に置き換えて考える

③高齢者の意思の推測

意思・意向が不明

高齢者の生活史を回顧

高齢者の意思を思い起こす

④実現可能な看取り方針の決定

希望と現実が折り合わない

方針決定が不可能

他の家族に相談、施設にゆだねる、寿命を受け入れる、自分の気持ちや自分なりの看取りを優先

⑤決定への納得

決定の不確かさに悩む

気持ちを整理する

 
 
•湧波らの報告(プライマリケア,2007)

地域住民23名(平均66.3歳)を対象としてフォーカスグループ・インタビューを行い、質的に分析

高齢者の終末期医療に対する自分が患者の場合の意思表示と家族としての意向形成の過程を調査

⇒家族の立場に立つと、高齢者の意思表示を受けた場合であっても、生命への愛情と充分な介護をしたいという感情が延命処置要望へと働く。しかし、家族間の葛藤も起こり、世間体や医師の説明を参考に家族間での話し合いを通じて条件と体験により死の受容に至る。

家族による判断へのプロセスでは「医師の対応」は大きな位置を占める。

 

•Fritch Jらの報告(J Clin Ethics , 2013)

入院した65歳以上の患者の家族で、最近、代理意思決定をした35名を対象に半構造化面接を行い、質的に分析

 代理意思決定の要因について調査

⇒患者中心の要因と代理意思決定者の要因の2つに大別

★患者中心の要因

①患者の考えを尊重

②患者の希望を推測するために患者の過去の認識を使う

③患者の最善の利益が何であるか考える

★代理意思決定者の要因

①代理意思決定者の希望

②代理意思決定者の宗教的信念、スピリチュアリティ

③代理意思決定者の利益(退院の場所に関してなど)

④家族のコンセンサス

⑤義務と罪悪感(やらないで亡くなることに関してなど)

 

まとめ

•(推測した)患者の希望や考えを優先しつつも、家族自身の希望や利益も代理意思決定に大きく影響する?
•愛情や介護したい気持ち、義務や罪悪感などにより、(積極的な治療をやらないことに)家族は葛藤を感じている?
•上記のような背景のもと、家族のコンセンサスや医師の説明はたぶんに影響する?
 
根本的には、「本人にとってどうなのか」を家族と考えることが重要とは考えます。しかし、現実には家族自身の希望が強くでることがあり、医療者としてどのようにしていけばよいのか、迷うことも多いです。家族の希望のなかには、葛藤があるなかでの希望であることも多く、そこにどうアプローチするのか、医療者としてどのように支援して、患者本人にとってよい形とできていけるか(その答えが分からないのがまた難しいのですが・・)、今後も模索していく必要があると感じています。
 
 

あかつき病について

2018-09-30 20:23:42 | 勉強会

 先日外山先生がやってくれた勉強会の内容についてのせたいと思います。在宅や施設では皮膚科的なプロブレムも多いのですが、時々在宅で遭遇するあかつき病について調べてくれました。

★定義(坂本、1983)「通常の日常生活を送ってさえいれば脱落、清浄化されるはずの物質が、主として心的機制によって局所的正常化が妨げられて、鱗屑痂皮として蓄積した状態」
★類縁疾患:pomade crust, terra firma-forme dermatosis(TFFD、アルコールで拭くととれる=診断的治療、小児に多い 文献1:腫瘍、母斑等との鑑別で重要らしい)
★常在するマラセチアM.obtusa,M.slooffiae との関連(文献2)→治療:ケトコナゾール外用、オリーブ油による浸軟・角質除去
★うっ滞性皮膚炎との合併報告(文献3)→治療:毎日のイソジン足浴・洗浄、5%サリチル酸ワセリン(疣状局面)、アクトシン(潰瘍局面)
★蜂窩織炎との合併報告(文献4)→治療:抗生剤投与、洗浄、10%サリチル酸ワセリンODT(閉鎖密封療法)
★異型白癬(Trichophyton mentagrophytes)との関連(文献5)→治療:イトラコナゾール内服
 
•文献
1.Aslan et al, Features of Terra Firma-Forme Dermatosis. Annals of Family Med. 2018
2.田島ら、Malasseziaの菌相を解析したアカツキ病の3例、日本真菌誌、2005
3.前田ら、うっ滞性潰瘍を伴った高齢者のアカツキ病の1例、臨床皮膚科、2001
4.江野澤ら、蜂窩織炎を伴ったアカツキ病の1例、臨床皮膚科、2011
5.田中ら、異型白癬の一例、第50回日本医真菌学会総会抄録集、2006
 
 
 症例報告などが主であり、あまり体系だった治療方法などは確立されていないようではあります。
ただ、あかつき病を疑った場合には、抗真菌薬の外用やサリチル酸ワセリンは、皮膚病変みつつ使ってみるのがよいのかなと勉強会内では話になりました。
 
 

高齢糖尿病患者の血糖コントロール不良は感染症リスクか?

2018-07-25 21:17:45 | 勉強会

 先日、川野先生が勉強会で調べてくれた内容についてのせたいと思います。

高齢者、特に虚弱高齢者においては血糖コントロールは甘めでよいという傾向となってきておりますし、実際に在宅・施設高齢者においては、我々も甘めにコントロールして、時には急性代謝失調などを起こさないことを目的にすることもあります。血糖コントロールについて、気になるアウトカムの1つに感染症のリスクがどうなのか、ということがあります。今回は川野先生がその点について調べてくれました。

 

<高齢糖尿病患者の血糖コントロール不良は感染症リスクか?>

高齢者を含むデンマーク住民10063人(22-91歳) 7年間の患者・対照研究

糖尿病患者の入院リスク 肺炎1.75倍、尿路感染症3.03倍、皮膚感染症3.43倍

空腹時血糖値が18㎎/dl上昇するごとにこれらの感染症リスクは6~10%上昇した。

Benfield T et al.  Diabetologia. 2007 Mar;50(3):549-54.

 

デンマークの住民342390人(平均74歳、61-82歳) 8年間の患者・対照研究

糖尿病患者は肺炎による入院を1.6倍起こしやすく、そのオッズ比は、

HbA1c7%未満の群で1.22、HbA1c9%以上の群で1.60であり、高血糖ほどリスク上昇が認められる。

糖尿病歴10年以上は1.37倍。

高齢になるほどリスクが低下する。

 (19-39歳 2.15倍、40-64歳 1.62倍、65-79歳 1.22倍、80歳以上1.11倍) 

Kornum JB et al.  Diabetes Care. 2008 Aug;31(8):1541-5.

 

65歳以上の高齢糖尿病患者19806人を対象にした1年間のコホート研究 イギリス

HbA1c8.5% 以上の群はHbA1c7%未満の群に比べ、

    肺炎 2.38倍、尿路感染症 1.28倍、皮膚軟部組織感染症のリスク 1.30倍

Mc Govern AP et al. Lancet Diabetes Endocrinol 4:303-304,2016

 

後ろ向きコホート研究 米国117介護施設入所しているインスリン治療中の高齢2型糖尿病患者583人(平均78.9歳)

75歳以上の群ではHbA1c9%以上で感染症の頻度が増える

Davis KL et al. J Am Med Dir Assoc. 2014 Oct;15(10):757-62.

 

後ろ向きコホート研究 台湾 介護施設入所中233人(76.9±10.6歳、男性54.9%、糖尿病27.9%) 173例の肺炎を発症。

「HbA1c7%以上」は介護施設での肺炎発症とは関連しない。

Chen LK et al,J Am Med Dir Assoc. 2011 Jan;12(1):33-7

 

→結論

 高齢者では、高血糖が感染症リスクであるが、相反する報告もある。

 リスクとしてはHbA1c8.5~9%以上があげられる。

 高齢になるほど、高血糖による感染症リスクは、軽減するようである。

 

  個人的には、高齢になればなるほど高血糖による感染症リスクは軽減するという結果は興味深いと思いました。その他の様々な要素が大きくなるのでしょうね。また、上記の施設入所者の研究は、本邦の特養や我々が嘱託医をやっている特養と比べると平均年齢も10歳程度若くなっています。本邦でのデータがあるといいなあと思いました。


アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のリスクについて考える

2018-06-19 20:34:56 | 勉強会

 今回、プライマリケア連合学会の学術大会に参加した際、「ACPの光と影」というシンポジウムを拝見しました。川口篤也先生の「影」の部分にフォーカスをおいた講演内容はうなづける部分も多く、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のリスクについてあたらめて考えさせられました。

 そこで、少し調べて勉強会のネタにしてみました。

 

<アドバンス・ケア・プランニング(ACP)のリスクについて考える>

•まずは、どんなメリットがエビデンスとしてあるか再確認

★Palliat Med 2014 28(8) システマティックレビュー

ACPは、生命維持治療を減らし、ホスピスや緩和ケアの利用を増やし、入院を防ぐ

★J Am Med Dir Assoc 2016 17(4) ナーシングホーム(NH)を対象としたシステマティックレビュー

ACPは、入院を9~26%減らし、NHで亡くなる入所者を29~40%増やす。医療費を減らす報告もあり。

★JAMA 1995 274(20) SUPPORT研究:事前指示(AD)の効果をみたRCT

9105人を対象として、熟練した看護師が病状の理解を確認し、ADを患者から聞き,その情報を医師に伝えるという介入の有効性を検証

介入群と非介入群で,アウトカム(DNR取得から死亡までの日数、疼痛、医療コスト、患者・家族の満足度、ADの遵守)に有意差なし

  つまり、ADを取るだけではだめで、ACPというプロセスが重要!?

 

 

•リスク、デメリットはあるのか?

★Am J Kidney Dis 2018 71(2)  腎不全末期の患者・家族を対象とした質的研究

腎不全末期の患者24名・家族15名を対象として、ACPに対する患者・家族の考えや態度を描写する目的

5つのテーマ:本質的な価値を明確にする、直面する対話、相互的な理解を交渉する(対立的な介護者の援助、タブーを切り出す)、患者の自律への挑戦、決定的な無力化(医療の透明化の欠如、無関心に対する失望)

ACPはタブーとも考えることができ、介護者に葛藤を克服することを求めているかもしれない。患者や介護者が病状の現実を受け入れていない場合はより複雑である。

⇒医療者はACPを行う際に、そのあたりへの配慮が必要という主旨の結論。

★Int J Palliat Nurs 2014 20(1)  clinical nurse specialist(CNS)を対象とした質的研究

CNSがACPを始めるかどうか決める時に、影響を与える因子について探索

ACPは、CNSに「綱渡りをする」ことを要求する(利益と潜在的なリスクのバランスをとりこと)。3つの因子⇒その話題を話し合うことへの患者の心構え、患者の身体状況、患者や家族との関係性   ACPを開始することはリスクを含んでいると結論

★Palliat Support Care 2011  通院中の進行がん患者77例を対象としたRCT

訓練されたケアプランニング・メディエイターがACPを行うことを介入

不安や抑うつは介入しても増えなかった

専門職・家族・友人とのend-of-life planningの議論の程度(VAS)は介入で増えた

しかし、コミュニケーションの幸福度やサービスへの満足度は減少した

 

患者や家族の心構えや病状への受け入れなどを考慮して行う必要がある「綱渡り」であることに自覚的であることが重要か!?

 

 シンポジウムや今回調べてみて、あらためてACPを行うときに、患者さんや家族の表情・しぐさ・発言などをみながら、どのように話すか・どこまで話すか・話しをやめるかなどを考えていく必要があるなと再認識しました。同時に、「察する」ことの難しさ、特にそれを教育することの難しさはあるなと感じました。そのあたりが今後も課題かなと個人的には感じています。