東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

アルツハイマー型認知症に伴うてんかん発作について

2015-08-16 04:26:46 | カンファレンスの話題

 施設診療していると、アルツハイマー型認知症(以下AD)に伴う初発てんかんに遭遇することがしばしばあります。ADや血管性認知症があると10倍ほどてんかん発作のリスクが高まるとの報告があります(Imfeld Pら,2013)。抗けいれん薬のデメリットも出やすいため(食事とれなくなるなんてことも時々・・・)、どのようなタイミングで投与開始するかは迷う場合もありますし、薬剤量なども悩ましいところです。最近もADのある施設の患者さんがてんかん発作で入院したのもあり、以前、ADのてんかんレビュー2つと高齢者てんかんレビュー1つをまとめたことがあるので、その内容を今日はご紹介させていただきます。 

 

★ADてんかんレビュー2つと高齢者てんかんレビュー1つを中心に

•AD患者のてんかん治療におけるRCTはなし
 
•高齢者のてんかん治療に関する文献がほとんど

①高齢者は若年者と比べて治療への反応はよい(6割が症状なしに)

②しかし、副作用で中止多い 65歳以上:64%vs65歳未満:33%

③新世代の抗痙攣薬のほうが、副作用少なくコントロール可能

(3つのRCTより、CBZよりGBP・LTGの方が)

④70歳以上では半量から開始が推奨 

(Cameronらの観察研究で、血中濃度正常下限以下が有意に副作用少と痙攣コントロール良好と関連)

そもそもどのような人に開始したほうがよいかは不明・・・

★高齢者におけるQOLと抗痙攣薬について(Saetreら,2010)

65歳以上の新規てんかん患者に、CBZ・LTG投与⇒ともに健康関連QOLは40週時点で、有意な改善なし

★初発高齢者てんかんにおける再発のリスク(Kanitpongら,2013)

脳波で異常ありは多変量解析で有意差あり(non-specific abbormalityはOR:1.24, epileptiform discharge5.72)

 

 ADのてんかん発作に関してはまだまだ不明な部分が多いようです。薬剤適応に関しても、予後以外に、療養の場や本人のQOLにどのように影響するかなど、多角的な面からの判断が必要かなと思います。


心不全における水分制限について(カンファレンスの内容:本当は医療と介護の連携のはなし・・・)

2015-06-08 00:09:34 | カンファレンスの話題
 先日のカンファレンスで後期研修医の先生が発言していた事として、心不全の患者さんに対する水分制限の話しがありました。施設入所中の心不全がある患者さんで、やや増悪傾向にあったのですが、利尿剤の増量にはあまり反応なかったものの水分制限を設定することで、ずいぶん改善したというエピソードでした。介護施設では、水分をできるだけ1L以上とるよう心掛けている部分もあります。たしかにそれは重要ですが、心不全のある患者さんに対しても一律にそのようにしてしまう部分があり、こちらで適宜注意しないといけない部分があります。以前、在宅の患者さんでショートステイから帰ってくると、心不全が増悪傾向になる方がいて、よくよく聞くとショートステイ中の水分がその患者さんにとっては過剰なことがありました。後期研修医の先生が、重要性を実感したこととしては、そのような医療と介護の連携の話しでした。水分摂取をまめにすることは高齢者にとっては重要なことですが、医療的なアセスメントのうえでの個別化は重要であり、そのあたりを介護職の方と共有していくことは重要と思います。1つの例ですが、心不全患者の水分摂取に限らず、このようなことは多々あると思います。
 実は本筋はそのようなことですが、ではメディカルには心不全における水分制限は実際どのようなことがわかっているのでしょうか?


 <心不全に塩分・水分制限は有用か?>

★慢性期の管理
ガイドライン
①2013ACCF/AHAガイドライン
stageC :classⅡa 3g/日未満の塩分制限(レベルC)
stageD: Ⅱa 1.5~2L/日の水分制限。特に低Na合併。(C)
②2010慢性心不全治療ガイドライン
塩分制限:重症心不全では3g/日以下。軽症では必要なし(7g/日以下程度)。
水分制限:軽症では不要。重症で低Na合併では必要。
③Philipsonらの報告(Eur J Heart Fail 2013)
対象:NYHAⅡ~Ⅳで、以前体液貯留の経験がある97例
方法:RCT 1.5Lの水分制限・5gの塩分制限を介入群 12W
結果:複合エンドポイント有意に改善(NYHAと足の浮腫の改善)
口渇・食欲・QOLの低下は認めなかった

★急性期の管理
①ガイドライン
2010HFSA(The Heart Failure Society of America)ガイドライン
 2g/日以下の塩分制限と、Na<130で体液貯留ある場合は2L/日未満の水分制限を推奨
②Graziellaらの報告(JAMA 2013)
対象:急性非代償性心不全で入院した75例(Ccr30未満・心原性ショック・認知症などは除外)
方法:RCT  
介入群 800mg/日以下のNa制限、800ml/日以下の水分制限 
コントロール群 3-5g/日のNa、2.5L/日以下の水分
結果:入院3日後の体重減少・clinical congestion score及び退院30日以内の再入院率は有意差なし。期間中の口渇は有意に介入で悪化


 複合エンドポイントではありますが、慢性期において、ほどほど?(食事も入れるとそれなりに少ないですが)の水分(+塩分)制限は有用かもしれません。急性期においても、厳密な制限ではなくてもほどほどでよいかもしれませんね。

 個人的には、超高齢者に対しては、塩分・水分制限を本人のQOLという面で考えることが重要と考えています。制限せずに入院したり、呼吸苦が出てもQOL下がると思いますし、そうかといって過剰であったり不必要な制限は食などを楽しむという意味でQOLを下げることもあると思います。そのはざまで悩んだり、葛藤することも多いです。




健康教育について

2015-06-03 21:33:39 | カンファレンスの話題
 当科は、月に1回、地域の老人福祉センターで健康講話を行っています。蓮田市の在宅医療連携推進事業の1つとしてやらせていただいています。(詳しくはhttp://www.esaitama-hosp.jp/zaitaku/report.html#fukush)テーマは在宅とは必ずしも関係なく、健康に関することに対する様々な話題です。主には、後期研修医の人に、健康教育やヘルスプロモーションの経験としてやってもらっています。当然、指導は行いますが。今月もあるので、今日は少しその導入を行いました。まずはテーマ選びからです。よく導入時に、下記の内容で後期研修医の人たちに話をしています。非常に一般的な内容で恐縮ですが・・・。

■健康増進に対するアプローチ
・ハイリスクアプローチ:リスクの高い個人に対して健康介入を行う
・ポピュレーションアプローチ:集団全体に介入することで集団全体の健康水準を変化(社会的環境整備、物理的環境整備、啓発など)
(・Vulnerable population approarch:リスクをもつ可能性が高い人に介入。社会的特徴によって定義。)

■健康教育の実際
★対象者を意識する
ある程度対象者を絞る→効果的・効率的に健康教育を行える
対象者があらかじめ決まっている場合→対象者がどのような人々で、どのようなニーズがあるのかなどを検討
★どのように伝えるのかを考える
 「何」を強調して訴えるのか→具体的なイメージを抱いてもらうように工夫(視覚的、参加型)
メッセージの伝え方:一面的メッセージと二面的メッセージ
    一面的メッセージ→その行動のメリットだけを伝えてデメリットには触れないこと。既にその行動に対して前向きな人々によく作用
    二面的メッセージ→その行動のメリットとデメリットの両方を伝えること。その行動にまだ気持ちが傾いていない人々によく作用
★評価を行う
 プロセス評価(健康教育を計画通りに行えたか、対象者がどれくらい満足したか)、影響評価(対象者の知識や行動にどのように影響を与えたか)、結果評価(対象者の健康状態やQOLにどのような効果を与えたか)

 このあと、テーマ選びや実際に話す内容などについて、指導医との相談を繰り返しながら行っていきます。当日の様子はビデオにとるので、それをあとで閲覧して、みんなでフィードバックしたりしています。当人はだいぶ恥ずかしそうにはなりますが(笑)。6月の内容が楽しみです。

複雑性について(カンファレンスの内容)

2015-05-23 18:08:02 | カンファレンスの話題
 先日のカンファで、後期研修医が訪問診療を行った方で、様々な問題が複雑にあり、どこをどうしてよいのかわからなくなったという話題がありました。その時に、一般診療や在宅診療においては、複雑性にどう対処するかの能力が重要であることの話しをし、クネビン・フレームワークの紹介をしました。JIM(医学書院)2011年9月号の藤沼先生の記事や日本プライマリケア連合学会誌2014年6月号(37巻2号)の宮田先生の記事が参考になります。宮田先生の記事は、J-stageでネットでみることが可能です。以下「クネビン・フレームワーク」については、宮田先生の記事を一部まとめたものです。

★クネビン・フレームワーク(複雑性を考える枠組み)
①単純な状況(Simple)
内部での相互作用がなく安定的で因果関係が誰の目にも明らかであり、振る舞いが予測可能である。
例:合併症のない健康成人のマイコプラズマ肺炎例
②込み入った状況(Complicated)
複雑であるが静的であり、全体は部分の総和として考えることが可能である。因果関係ははっきりしているが、本当にそうなのか判然としない。
例:高齢者の糖尿病患者で動脈硬化病変が進み、冠動脈疾患・末梢血管の血流障害もある。5年前に胃がんの手術をうけ、イレウス気味の症状となることがある。患者の理解力や家族の介護力も良好。
③複雑な状況(Complex)
内部の相互作用は絶え間なく変化し、全体は部分の総和を遥かに超え、何が起こるか分からない。何が分からないのかも分からない状況。
例:都市部の集合住宅で寝たきりとなっている虚弱老人。患者の認知機能は正常だが、軽度認知機能障害のある配偶者が介護を行っている。娘は時々来るが、あまり深く関わりをもっていない。患者の病状について前医に問い合わせても高血圧・狭心症・糖尿病・大腿骨頸部骨折の既往があることしか情報は得られなかった。患者のケアについては、市内にすむ長男に連絡をして説明をしながら進める必要があるが、長男は全く患者宅には訪れない。
④カオスな状況(Chaos)
混乱が渦巻いており因果関係がはっきりせず、適切な解を探しても意味がない。因果関係は絶えず変化するため、制御可能なパターンは存在しない。緊張が張りつめており、わかりあえない状況である。
例:集落のはずれのかなり古い住宅に住む60代の姉妹。民生員が自宅を訪問すると、長女は異臭のする部屋で寝たきりになっていた。次女は世話をしている様子はあったが、真夏であるのに窓は閉め切られていて、熱気が充満していた。排泄物が部屋の簡易トイレの周りにみられた。長女は精神疾患で通院歴があった。次女も通院歴はないが精神疾患があると考えられた。長女は発熱もあり、入院が必要な状況であったが姉妹は入院には同意しなかった。
⑤無秩序な状態(Disorder)
①~④のどれにも一致しない状況。秩序が存在しないため、その中にいてもそれに気づきにくい。


Sturmbergらは、上記の①②にあたる状況であれば「問題解決」が、③④にあたる状況であれば「安定化」がゴールになるとしています。
③や④のような状態は、訪問診療で遭遇することもしばしばあり、医療者としてもストレスとなることがあるかと思います。特に経験が少ないうちはどうしてよいかわからず、わからないことがストレスとなり、患者さんへネガティブな感情を抱いてしまうことがあるように思います。しかし、それをクネビン・フレームワークなども参考に分析し、どこを目指していくのかを明確にすることで、患者さんにうまく向き合えたり、マネージメントすることが可能になることもあるかなと感じています。④のような状況だと「見守ること」、「最悪の状態を防ぐようにすること」などのみを目的としたほうがよい場合もあるでしょう。
私自身、まだまだ「複雑性」への対処に困ることも多々ありますが(というか大体困っています・・・)、そのようなときはチームで診療を行っていることが心強かったりすることも多いです。「複雑な」患者さんこそ、チームで共有し、一緒に悩んでいくことが大事なのかなと感じています。



施設での抗精神病薬投与について

2015-05-05 23:54:34 | カンファレンスの話題
 ゴールデンウィークですね。当科でも交代で休みをとっています。ということでちょっと更新さぼってしまいました。言い訳です・・・。
先日のカンファの中で施設での抗精神病薬投与の話が少し出ました。訪問診療をやっていて、時々家族が、デイやショートで利用している施設の方から抗精神病薬の内服を医師と相談するようすすめられ、家族から相談されることがあります。また、嘱託医を行っている施設の患者さんでも、入所時や経過中に抗精神病薬の処方が行われることがあります。抗精神病薬の関しては、メリットもあればデメリットもあると思うので、そのあたりの知識を整理しておくことは重要なことですし、他の職種にも説明できるようにしておくことも必要かなと思います。とはいっても、現場では、知識とは別の次元で行動することも時には必要とは思いますが・・・。
 ということで、少し施設での抗精神病薬投与についてまとめてみたいと思います。

★抗精神病薬投与の害について
・FDAは2008年に、高齢認知症患者への定型•非定型の抗精神病薬投与は、死亡率を増加させることを勧告。
・Nursing Home(NH)において、抗精神病薬の投与は骨折の発生と関連
 (Rigkerら,J Am Geriatr Soc 2013)
★抗精神病薬を中止することのデメリット
 NH患者に限定した研究ではないが、抗精神病薬の中止により症状(NPI score)は悪化しない(コクラン2013)
★抗精神病薬を減量•中止することは可能か?
 心理社会的介入により、ホームの患者の抗精神病薬を減量することが可能(コクラン2012)
★実際にはどれくらい使用されているのか?
 EU8ヵ国を対象とした研究で、NH患者の3割以上が抗精神病薬内服(Foebelら,J Am Med Dir Assoc  2014)
★投与する場合の薬剤選択は?
・NH患者で、第1世代の抗精神病薬の方が180日以内の死亡率高い:リスペリドンと比較してハロペリドール有意に高く(HR2.07)、クエシアピン有意に低い(HR0.81)。 (Huybrechtsら,BMJ 2012)
・NH患者で、第1世代の方が開始20日以内の入院率高い。(Aparusら,Psychiatr Serv 2014)
・NH患者で、第1世代の抗精神病薬の方が、180日以内の感染症・MI・大腿骨頸部骨折の入院率を上げ、脳血管障害は下げる。
非定型の中では、リスペリドンと比較して、オランザピンとクエチアピンは脳血管障害の入院少なく、クエチアピンは感染症の入院少なく、大腿骨頸部骨折の入院は増える。
ドーズと入院との関連あり。  ( Huybrechtsら, J Am Geriatr Soc 2012)
★ちなみに、抗痙攣薬に関しては、BPSDに対してカルバマゼピンは有効だが、バルプロ酸は有効でない(YehらのSyS Rev)

上記を考えると、やはり抗精神病薬の投与はできるだけ最小限としたいですし、使うときも量などは少な目からにしたいなと再認識しました。また、種類でいうと、デメリットを考えると、やはり第1世代は第1選択としては避けたほうがよいのでしょうね(効果という面でどうかは違った検証が必要と思いますが)。


ちなみに、日本では・・・
最近、JーCATIA;1万人以上のアルツハイマー型型認知症を対象とした前向きコホートの結果が出たようです。ちょっと前に調べた時点ではまだ論文化はされていないようでした。(されていたらごめんなさい)それでは、「24週までの死亡率で抗精神病薬内服による有意な死亡率上昇なし」との結論でした。中身みないとわかりませんが、FDAの勧告が出てからそれなりに時間がたっているし、本当に必要な人に少量ずつ使うようになっているといったこともあるのでしょうか・・? 論文となったら、よく確認してみたいと思います。


自分たちが嘱託医をしている2つの施設では、約8%程度が抗精神病薬の内服をうけていました。EUのデータと比べるとだいぶ少ないのでちょっとほっとしましたが、引き続き非薬物的なアプローチでどうにかならないか施設のスタッフとともに今後も模索していきたいと思います。