- 死別反応
★悲嘆反応
死別に対する喪失感は誰しも経験する正常な反応で、6カ月をピークに軽減すると言われている。
★複雑性悲嘆
悲嘆反応の程度や期間(6カ月)が通常の範囲を超え、日常生活に支障をきたす程度となり、医療的な介入を要する。 DSM-5でも定義された。
★うつ病
DSM-IVでは死別後のうつを、2ヶ月以上続くもの、または重度の特徴を持つものと定義されていた。DSM-5では2ヶ月や症状などの人為的な線を引かず、死別反応の範囲か否かは、臨床的な判断に委ねられた。
- 複雑性悲嘆はどれくらいの頻度で起こるのか?
★Fujisawa Dらの報告(J Affect Discord 2010)
日本の一般住民を対象とした研究で、過去10年間に近親者との死別を経験した40~79歳を対象として、郵送質問紙調査を行った。
⇒969名から回答があり(回答率39.9%)、複雑性悲嘆の有病率は2.4%であった。リスク因子は、続柄が配偶者・予期せぬ死別・脳卒中や心疾患による死・ホスピスでの死別・自宅での死別・最期の1週間を共に過ごした人、であった。
★青山らの報告(J-HOPE3報告書より)
ホスピス・緩和ケアを受けて亡くなったがん患者遺族を対象とした多施設での郵送質問紙調査。(死別後3.5カ月~2.5年)
⇒複雑性悲嘆は14%、中等度以上の抑うつとされた遺族は17%。複雑性悲嘆を有する遺族の59%、中等度以上の抑うつを有する遺族の45%が両方を混合して有していた。またなんらかの不眠症状を有していた遺族の割合は46~69%であった。
悲嘆・抑うつの重症度の割合は、一般病院>緩和ケア病棟>在宅で有意差あり。
いずれの研究も複雑性悲嘆の評価にはBrief Grief Questionnaire(BGQ)を使用
これらの研究から言えることは・・・
死別からの期間や疾患により、複雑性悲嘆の頻度は異なる。
複雑性悲嘆と抑うつはオーバーラップしている。
ケアの場や看取りの場が悲嘆に与える影響に関しては、はっきりしないか(様々なバイアスや交絡の関与がありそう)
- どのような遺族が複雑性悲嘆のリスクが高いのか?
★在宅ホスピスを受けていたがん患者の遺族の場合
Jessicaらの報告(J Palliat Med 2012)
188名の在宅ホスピス受けていたがん患者の家族を対象とした前向き研究。亡くなったあと1年後のうつ・複雑性悲嘆をアウトカム。
⇒ホスピス導入時の抑うつスコアが亡くなった1年後のうつや複雑性悲嘆と関連していた。
★在宅ケアを受けていた認知症患者の遺族の場合
Schulz Rらの報告(Am J Geriatr Psychiatry 2006)
217名の在宅ケアを受けていた認知症患者の遺族を対象とした前向き研究。18か月間の追跡。
⇒20%の遺族が複雑性悲嘆に。亡くなる以前のうつ症状あり・認知機能がより重度な患者をケアした人がリスク因子であった。また、専門職による心理社会面への介入に登録していた家族は、有意に複雑性悲嘆が少なかった。
★高齢者の場合
(高齢者は複雑性悲嘆のリスクであることが先行研究で報告済み)
Bruinsmaらの報告(J Palliat Med 2015)
ケースとコントロール100組ずつの夫婦を対象としたコホート内ケースコントロールスタディ⇒ベースラインのうつだけが複雑性悲嘆と関連していた。
これらの研究から言えることは・・・
複雑性悲嘆のリスクに関しては、家族の介護開始時や介護中の「うつ」がある。その他に関してはあまりはっきりしているものはなく、様々な要素が絡んでいるのか・・・。
- 複雑性悲嘆の治療について(Carenら NEJM2015のレビューより)
いくつかのRCTで認知行動療法の有効性があり
抗鬱薬(SSRI・SNRI)に有効性報告あるが、いずれもオープントライアル。
- 在宅におけるグリーフケアの現状は?
小野らの報告(日本在宅ケア学会誌 2011)
全国の訪問看護ステーションを対象とした郵送質問紙調査。
332回答(90.7%)⇒149施設(44.9%)が看取り後のグリーフケアが業務として位置づけられており、そのうち147施設(98.7%)が自宅訪問を実施していた。1ケースあたりの訪問回数は1回が9割を占めていた。
時間不足・人員不足や採算・グリーフケアの方法の不明瞭さ・グリーフケアの地域のサポートに未確立といった実施上の課題があった。