尿路感染症は施設入所者の感染症としてはコモンなものです。実際に自分たちも特養の嘱託医をやっていて、頻繁に遭遇します。欧米では施設入所者における耐性菌の増加が問題となっているようですが、耐性菌を意識した経験的治療を行う必要があるのでしょうか?今回はこのテーマについて勉強会で調べてみました。
- Faine BAらの報告(Ann Phamacother 2015)
救急受診してUTIと診断された360例をケースとしたケースコントロールスタディ(米国)⇒6.7%が多剤耐性。多変量解析で「男性」「血液透析」「ナーシングホーム入所者」が有意なリスク因子であった。
- Xie Cらの報告(Intern Med 2012)
救急受診した65歳以上のナーシングホーム入所者と一般高齢者の耐性菌を比較した過去起点コホート研究(オーストラリア)⇒有意にナーシングホーム入所者において耐性菌の割合が高かった。
- Sundvall PDらの報告(BMC Geriatr 2014)
スウェーデンの22か所のナーシングホーム入所者421名を対象とした横断研究。UTIの症状あるなしに関わらず尿培養をとり、耐性菌の割合を調査。
⇒35%に何らかの耐性菌があった(カテーテル留置者は45%)。前月の抗菌薬使用歴・半年以内の入院歴がリスク因子であった。
(ちなみに2003年と2012年を比較して耐性菌は増加していなかった。)
- Faganらの報告(BMC Geriatrics 2015)
65歳以上の232名のナーシングホーム入所者と3554名のコミュニティグループの尿培養結果を比較した横断研究(ノルウェイ)。
⇒耐性菌の有無に関して有意差なし。男性と比較して、女性では有意に大腸菌が多く、腸球菌が少なかった。女性では有意に耐性菌が少なかった。
- Das Rらの報告(Infect Control Hosp Epidemiol 2009)
米国の5つのナーシングホーム入所者551名を対象とした2年間のコホート研究(透析患者や尿道カテーテル留置患者は除外)。240例450回のUTIエピソードあり。そのうち菌が生えた267検体を対象として分析。
⇒大腸菌が5割以上、その他クレブシエラやプロテウスがそれぞれ15%弱。これらの菌においては75~80%以上、TMP-SMXやセファゾリンが感受性あり、ファーストチョイスとなるであろうと結論。
- まとめ
施設入所者は耐性菌のリスク因子と言えそうではありますが、最後の文献内に書いてあったこととして国によってもだいぶ違うようです。国内の報告は調べた範囲では少なく、非常に小規模な報告があったのみでした(山本ら,日老医誌2007)。
文献もふまえると、男性・最近の抗菌薬使用歴・入院歴などある施設入所者は、耐性菌のリスクは意識しつつ、診療にあたる必要があるのでしょう。その反面、Das Rらの文献にもあるように、多数の入所者はそれほど広域の抗菌薬を使う必要はないと思われ、臨床的な重症度なども考えながら余裕があればできるだけ広域の抗菌薬を控えるのがいいのでしょうね。
まあ、あたりまえのことですが・・・。