よくアイオライトの説明のところに
「太陽に向けてまわすと色が変わる特質を利用して、北欧のバイキングはこの石を羅針盤として身に付けていた」
といった伝説が引かれます。
「んなわけねえだろ」と最初は思っていました。「商品を神秘めかして売ろうとしてるんじゃね?」「太陽の位置なんて人間の目でわかるだろうに。それに太陽がどこにあるかわかったって、どうやって方角を導き出すのさ」(お前性格悪いと言われるだろ)
ところが、どうも違う。
バイキングが活動するような地域では、厚い雲や霧のせいで、太陽がどこにあるかわからないことがあるらしい。そこで、石を使って「光の来る方向」を探り出す。
アイオライトの場合、ある種の石は、ある面を光の来る方向に向けるとほぼ完全に透明になってしまうことがあります。
あちきの持っているアイオライトの一つもそうで、横の面を自分に向けて、反対の面を光に向けると、ほとんど透明になります。
ところがそうやって持ったまま、光の大元ではない方向に体を回転させると、青い色が出てくる。
これ、結晶の「光学的異方性」による「方向変色」の現象で、光源-ある角度に固定した石-観察者が直線になった時に、石が透明に見えるわけです。
あくまで概念的に図示すれば、こういうことかな。
だから、特別なアイオライトを選んで、特別な角度がわかるようにカットして、それを目の前にかざして空を探れば、「光源」の位置がわかる。
本当かい、と思ってやってみました。曇り空で、アイオライトをかざして、ぐるぐると体を回してみる。
すると、確かに「太陽の位置」で最も明るく透明になるんです。
まあ日本ですから、普通の目でもぼんやりと太陽の位置はわかるわけですけど、もっと厚い雲や霧に覆われている時、石の透明さを微細に見分ける視力さえあれば、太陽の位置はわかるだろうと思われます。
太陽の方角と高度がわかったら、方位が分かるか。
正確な太陽高度情報入りの暦を持っていれば、方角も時刻もわかる。たとえば10月1日で高度が28度だったら、午前10時か午後2時(昼飯食ったかどうかくらいは誰でもわかるでしょう)、そして南の方向は○度左(右)とか。
ただしこれは緯度が一定だったらということ。大洋を航海していて緯度が変わった場合は、どうなるのか。正確な時計があればどうにかなるか。星の位置で緯度を割り出して修正するか。
……ちょっと文系のあちきにはわかりません。誰かおせーて。
そのあたりはよくわからないけれど、「石を羅針盤代わりにする」というのは、あながち神話ではない。アイオライトがバイキングにとって聖なる石だった可能性はある。
ところが、バイキングの羅針盤は「カルサイト」だという研究が、近年出ていました。AFP記事より抜粋。
《古代スカンジナビアの海洋民、すなわちバイキングたちは、太陽や星が[注:星は無理じゃね?]雲に隠れると謎の石「サンストーン(太陽の石)」を使って航海を続けたという言い伝えがあるが、これは単なる伝説ではないと主張する研究が発表された。
今から1000年以上前、羅針盤などまだ発明されていなかった頃、バイキングたちは故郷のスカンジナビア地方からアイスランドやグリーンランドへ向かって進み、さらに何千キロをも航海し、クリストファー・コロンブスに数世紀先駆けて北米にも到達していた可能性が高い。
恐れを知らないこの船乗りたちが、陸の目印や、潮流や波に関する深い知識を駆使し、太陽や星の位置を読み取りながら航海していた証拠はある。しかし、彼らがどのようにして、霧や雲に覆われやすい高緯度の北半球で長距離を旅することができたのかはこれまで謎のままだった。そこで語られてきたのが、「サンストーン」だ。
今回、仏レンヌ大学のギー・ロパール(Guy Ropars)氏率いる国際研究チームが、実験的証拠と理論的証拠を集め、その答えを見つけたと発表した。
バイキングたちはカルサイト(方解石)、別名アイスランドスパーと呼ばれる透明な結晶を使い、太陽の方角を誤差1度以内という正確さで把握していたと、研究チームは主張している。
その仕組みはこうだ。カルサイトの上部に点印をつけ、下からカルサイトを通してその印を眺めると、印はふたつあるように見える。次に、ふたつの印の濃さや暗さがまったく同じに見えるところまで、結晶を回転させる。それらが同じになった角度の時、上を向いている面が太陽の方向を指している。》
AFP/Laurent Banguet、2011年11月4日
(カルサイトの塊が沈没船から発見されたとかも書いてあります。)
アイスランドスパー。あるいはオプティカル・カルサイト。ミニ標本です。この写真、石が寝そべっているのかきりっと立っているのか、両方に見えて面白い。
ここで書かれている仕組みの説明はちょっとわかりにくい。
透明なカルサイトは「複屈折」を起こす、つまり向こうのものが二重に見える。その二重の像を比較する。たぶんこういうことだと思うのですが、
aとbは長さが違うが、cは同じ。距離が長いと像は霞む。霞みの度合いを正確に見分けられれば、cになる石の角度は決定できる、ということでしょう。
けれど、これちょっと「?」。直進してきた光は屈折しないのではないか。
よくわかりません。
ちょっとやってみようかと思ったけど、あちきの持っているアイスランドスパーは薄すぎて、とても無理そうなのでやめた。
アイオライトだったのかオプティカル・カルサイトだったのか。両方だったか。
本当に実利的なものだったのか、神話的象徴だったのか、それとも今の人間にはわからない神秘的現象があるのか。
そのあたりはわかりません。
石が起こす光学現象は面白いものですね。