2005年12月1・2日に開催された「EU司法・内務関係閣僚理事会(Justice and Home Affairs Council)」(http://www.statewatch.org/news/2005/dec/jha-press-rel-1-Dec.pdf)(注)は、EUの生体認証国民IDカードに関する「最小限のセキュリティ規格(minimum security standards)」について承認した。
公表されたリリースによると、採択された結論は次のとおりであるが、英国のように積極的な国がある一方で、なお、国内法としての判断は各国に委ねるべきとする意見が併記されており、なお今後の調整があるように思える。
①ハーグプログラムにより各国に与えられた権限ならびに2005年7月13日の同理事会の決議を承認する。
②安全な旅行ならびにその他の個人識別文書によるセキュリティの保証の重要性を承認する。
③セキュリティ基準に関する権限は承認するが、これは国民IDカードの国内使用や法的な拘束力ならびに発行スケジュールを強制するものではないことを承認する。
④国民IDとしての最小限の安全規格の調和を得る方法とについて可能な法的根拠問題について先入観を持つべきでないし、また、生体認証技術を使用の可否について各EU加盟国の判断に影響を与えるものでない。
⑤パスポートに関する「2004年EU理事会規則(EC 2252/2004)」およびビザや住民に関す修正立法についての規則案において確立された規格遵守の優先性につき承認する。これらの規格は国民IDカードの開発に当たり参照すべき点となる。
⑥パスポートに関し、すでに機能を始めた安全手段を構築すること、ならびに国際民間航空機関(ICAO)規格との相互運用性確保を優先すること。
これと並んで、同理事会は欧州委員会が提案していたこの数年以内に約7千万人の指紋を用いた生体認証ビザシステムのEUでの展開工程表について議論している。
この欧州委員会の提案は、既存の「シェンゲン情報システム(Schengen Information System)」(シェンゲン条約(Schengen treaty)とはヨーロッパにおける、相互国境間での検問廃止並びに共通の出入国管理政策に関する取り決め。アイルランドと英国を除く全てのEU加盟国およびEUに非加盟であるアイスランド、ノルウェーとスイスの計26カ国が条約に調印し、そのうち15カ国が施行している。)をカバーしているが、委員会はその他の取組み課題も提唱している。すなわち、①EU域内の移動の登録・退出についてのモニタリング・システム、②頻繁な旅行者(frequent traveller)システム、③欧州犯罪者自動指紋識別システム(AFIS)の設立である。
以下の内容は、英国チャールズ・クラーク内相等が閣僚理事会におけるEU加盟国の「国民IDデータベース」の構築を前提としたセキュリティIDカードシステムの導入に保守的な姿勢について批判を述べたものである。
IDカードで採用される最小限の規格(Minimum security standards)は、ICAO規格に準拠したEUの生体認証パスポート(FRID ICチップを用いた顔イメージ認証と2本の指紋認証)ですでに効率的に採用されている。
欧州のシェンゲン条約の調印国間の越境移動においてID識別は不要であり、またIDカードは域内の航空機の旅行(英国とアイルランド間も同様)において不要とされる。このため、各国で識別方法が異なる各国のカード搬送者が利用することから、すでに実用化されている数カ国のIDカードシステムは鍛造(偽造)可能であり、「弱いつながり(weak link)」と言えるため、現行のEUの各法律は生体認証規格によるセキュリティ盲点をふさぐことには極めて制限的である。
一方、英国が導入を進めている国境において英国以外のIDカードも読めるシステムは十分に機能するものであり、このことは生体認証ビザを広く行き渡らせることを支援するため導入されたカード読取機によってはじめて可能となる。現状のEU加盟国の国民に関する「集中化した生体認証データベース」がないということは、カード上の登録指紋データと指紋の保有者との比較が可能となるのみで、本当にカードが偽造されておらず、また詐欺的にカードが発行されていない場合のみセキュリティ上問題がないということになる。
閣僚理事会の保証自体についても、「規格に合ったIDカード」は実は本来の標準規格ではなく、拘束力はないといえる。つまり、理論的に加盟国は意図しなければ忠実に守らない、しかし政府間では国ベースで合意によって守ることのないEU規格カードに関与する内相の事例(バランスの悪い妥協)が多くなるといえる。
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(注)同理事会はEUの意思決定機関である欧州連合理事会(Council of the European Union)のうち「36条委員会(司法・内務閣僚が参加)」である。今回の理事会で決定された内容は、EUにおけるテロ対策、過激主義および雇用問題に対する行動計画を合意・決定した。その内容は、①行動計画の適用に関する報告書の作成、②国内における法的調整の評価、③反テロリズムに対する勧告方針、④テロ資金との戦い関する報告書、⑤EU加盟国における緊急・危機時の協調に関する調整、である。また、以下の合意がなされた。①12月15・16日に開催される次回欧州理事会(European Council)での移住問題に関する優先的な行動についてのフォローアップ報告書の準備、②EU全体にわたる法執行機関間の情報交換強化に関する枠組み決定、③人身売買阻止の観点からの行動計画ならびに難民の受入れ及び強制送還に関する加盟国の手続きについての最小限の標準化、である。
〔参照URL〕
http://www.theregister.co.uk/2005/12/01/jahc_biometric_id_standards/
http://www.statewatch.org/news/2005/dec/jha-press-rel-1-Dec.pdf
(今回のブログは2005年12月4日登録分の改訂版である)
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