ひろゆきと竹中平蔵が問う日本の官僚組織の問題
ひろゆき:元2ちゃんねる管理人,竹中 平蔵:慶應義塾大学名誉教授
東洋経済オンライン より 220723
竹中平蔵さんとひろゆきさんの対談最終回です
⚫︎日本一嫌われた経済学者・竹中平蔵。
現在パソナグループ会長を務める竹中氏は、〈派遣労働〉の象徴的な存在としては、多くの国民から嫌悪されています。
そんな竹中平蔵が嫌われる理由と背景を、今や日本を代表するインフルエンサーの一人である「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」設立者・ひろゆきさんが徹底追及する、最新刊『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』。
現在パソナグループ会長を務める竹中氏は、〈派遣労働〉の象徴的な存在としては、多くの国民から嫌悪されています。
そんな竹中平蔵が嫌われる理由と背景を、今や日本を代表するインフルエンサーの一人である「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)」設立者・ひろゆきさんが徹底追及する、最新刊『ひろゆきと考える 竹中平蔵はなぜ嫌われるのか?』。
今回はその中から、日本で改革が進まない根本的な理由について議論している箇所を、一部抜粋してお届けします。
⚫︎「見えざる手」と「万能の王」の振り子
竹中 平蔵(以下、竹中):日本は際立っているので残念ですけど、他の国でも多かれ少なかれ抜本的に改革できないという問題がありますよね。世界共通の問題とも言えます。民主主義の中では、万能の独裁者が全部決めるということはできません。
パワーバランスや支持率といったものを考慮しながら決まっていきますから、じれったいと言えばすごくじれったいし、虚しいと言えば虚しくもある。ただそれが現実、リアリズムだとわかった上で、何ができるかを考えていくしかないと思うんです。
歴史の話になりますが、経済学の始まりはアダム・スミスの『国富論』だと言われています。刊行されたのは1776年、アメリカの独立宣言とも重なる年です。その中でアダム・スミスは「見えざる手が働いている」と言ったわけです。
⚫︎「見えざる手」と「万能の王」の振り子
竹中 平蔵(以下、竹中):日本は際立っているので残念ですけど、他の国でも多かれ少なかれ抜本的に改革できないという問題がありますよね。世界共通の問題とも言えます。民主主義の中では、万能の独裁者が全部決めるということはできません。
パワーバランスや支持率といったものを考慮しながら決まっていきますから、じれったいと言えばすごくじれったいし、虚しいと言えば虚しくもある。ただそれが現実、リアリズムだとわかった上で、何ができるかを考えていくしかないと思うんです。
歴史の話になりますが、経済学の始まりはアダム・スミスの『国富論』だと言われています。刊行されたのは1776年、アメリカの独立宣言とも重なる年です。その中でアダム・スミスは「見えざる手が働いている」と言ったわけです。
それ以前にはトマス・ホッブズの『リヴァイアサン』(1651年)という本が書かれていて、清教徒革命などで混乱した社会状況があった。その『リヴァイアサン』には「万能の王が出現する」と書かれています。何でも完璧にできる王様がいて、その人が全部決めるのがいちばんいいと言っているわけです。
それに対して,アダム・スミスは「市場は失敗するけれど,政府の失敗はもっと恐いから、独裁者に任せないで見えざる手でいろいろやっていくのが現実的だ」と応えた。どの国のどの時代でも必ず問題はありますが、その際に「見えざる手に任せるべきだ」という思考と、「万能の王が全てやるべきだ」という考えの両極端に振れながら議論は進んでいきます。
今はどちらかと言うと「万能の王」がほしいですよね。ただし、ロシアのプーチン大統領のようになると大問題ですが……。
ひろゆき:コロナ禍においては中国やシンガポールといった強権を振るえる国のほうがうまくやりましたね。
竹中:そうです。民主主義は権威主義に負けている、という。権威主義のほうがこうしたパンデミックには親和性がある。それだけではなく、今まさに第4次産業革命でビッグデータ・AI・ブロックチェーンなど新しいテクノロジーが出てくる中で、パラダイムが変わるときは権威主義のほうが、なんとなく分(ぶ)がいいように見えるわけです。
データを用いるときに、「個人データのプライバシーをどうするのか」なんて言わせないで一気にやってしまう中国のほうが強いわけです。だから実は今、民主主義のアメリカと権威主義の中国の抜き差しならぬ対立にもなってるわけです。
⚫︎オンライン診療は特例的措置?
ひろゆき:尚更、今の日本が小手先で何かやってもどうしようもない気がしますね。良くなったものを悪い方向に戻す動きまであるじゃないですか。オンライン診療もある程度進んで便利になったのに、「あれはコロナの時限的、特例的措置だから元に戻せ」って医師会が言ってますよね。
竹中:その通りです。
ひろゆき:どこに住んでても受けられるオンライン診療があるほうが,国民にとって明らかに便利じゃないですか。無医村みたいな田舎では特に。オンライン診療,受けたくない人は受けなければいいだけですし。でも,医師会の人たちが嫌だって言ってるわけじゃないですか。
オンライン診療を丁寧にやっている医者がいるとそこに人が集まって、なんとなくダラダラやっているリアルの病院にみんな行かなくなっちゃう。結果として、そういう病院の仕事がなくなってしまうから。反対する医師会を尊重して、正義ではない方向に物事が進むのはすげえなって思うんです。
竹中:本当にそういうことが現実に今、起こりつつあるわけですよね。オンライン診療もしかり、オンライン教育もそうですよね。ひろゆきさんは「鉄の三角形」という言葉を聞かれたことはありますか?
ひろゆき:知らないっす。
竹中:英語では「アイアントライアングル」って言うんですけど、どこの国でもある程度存在する癒着構造です。例えば、医師会のような既得権益を持っている産業界。新しい政策をやろうとすると当然、反対します。
それから政治献金を受けたり、選挙のとき助けてもらってる政治家がいるわけですよね。「族議員」とも呼ばれます。既得権益団体と族議員の間を取り持って、根回しをして法律をつくったりするのが官僚です。
この官僚と既得権益団体と族議員、三者の強い結びつきが「鉄の三角形」です。政治が存在する以上、程度の差はあれ、どこの国でもありますが、日本の場合、それが特に強い。
ひろゆき:なるほど。
竹中:業界団体が鉄の三角形でものすごい政治力を持っていて、そしてそれに動かされる政治家と官僚がいる。ここの構造は残念ながらずっと変わっていないけれど、それは甘受しながら、変えられるところを少しずつ変えていくしかありません。
例えば仕事のやり方も兼業・副業がコロナ以降、割と社会に定着してきました。フレックスタイムも普及して、電車に乗る時間など、多くの人がちょっとずつ変わっているわけです。でも、ひろゆきさんが言うように、根本的なところで変えてもらわないと、特に次の若い世代にさまざまなしわ寄せがいくことになってしまいますね。
⚫︎日本と欧米の公務員は何が違う?
竹中:日本で「鉄の三角形」が特に強固である理由は、官僚にあるんです。官僚がものすごい量の情報を抱えていて、その情報を基盤にした力を持っている。
ひろゆき:アメリカとかフランスとかって公務員がぽこぽこ辞めたり、そのあとまた民間から公務員に戻ったりする。公務員になる人と民間で働く人の人材流通が盛んじゃないっすか。アメリカだと政権が変わったら、ひとまず偉い官僚は全員辞めさせられて、共和党なら共和党系、民主党なら民主党系に入れ替わってしまう。そうすると、官僚だけが情報を持ってるという状況にはならないっすよね。
竹中:ご指摘の通り、ワシントンの場合は、政権が変わったら、官僚のトップ約3000人が入れ替わるわけですよね。それはrevolving door(回転ドア)とも呼ばれています。ヨーロッパはアメリカに比べると官僚が強いほうだけど、それでも日本みたいに直接的なことはないですよね。
ひろゆき:日本の場合って、官僚は一度就職したらずっと同じ省庁に勤めて、政権がどう変わろうとずっと同じ省庁で情報を持ち続ける。だから強いわけじゃないっすか。
法律自体も省庁がつくるわけだから、「こういう法律だから、これできませんよ」って言われちゃうと民間はどうしようもない。「こういう法律をつくったら自分たちの省庁が得する」ってわかって法律もつくれちゃう。官僚を別の省庁に異動させるか、クビにするかっていうどちらかできないと、その仕組みを壊せないですよね。
⚫︎日本の官僚主導の問題点
竹中:おっしゃる通りで、だから第1次安倍内閣のときに公務員制度改革をやろうとしたわけです。当時、行革担当大臣の渡辺喜美さんがそれを担当しようとしたんだけれど、自治労のものすごい反対に遭ったんです。
思い出深いエピソードがあります。アメリカから帰ってきた小泉進次郎さんが2009年に初の選挙に出るとき,私は初めて彼に会ったんです。そのとき進次郎さんが最初に私にした質問は,すごくストレートでした。「先生、官僚主導の何が問題ですか?」って聞かれたんです。
ひろゆき:なるほど。
竹中:業界団体が鉄の三角形でものすごい政治力を持っていて、そしてそれに動かされる政治家と官僚がいる。ここの構造は残念ながらずっと変わっていないけれど、それは甘受しながら、変えられるところを少しずつ変えていくしかありません。
例えば仕事のやり方も兼業・副業がコロナ以降、割と社会に定着してきました。フレックスタイムも普及して、電車に乗る時間など、多くの人がちょっとずつ変わっているわけです。でも、ひろゆきさんが言うように、根本的なところで変えてもらわないと、特に次の若い世代にさまざまなしわ寄せがいくことになってしまいますね。
⚫︎日本と欧米の公務員は何が違う?
竹中:日本で「鉄の三角形」が特に強固である理由は、官僚にあるんです。官僚がものすごい量の情報を抱えていて、その情報を基盤にした力を持っている。
ひろゆき:アメリカとかフランスとかって公務員がぽこぽこ辞めたり、そのあとまた民間から公務員に戻ったりする。公務員になる人と民間で働く人の人材流通が盛んじゃないっすか。アメリカだと政権が変わったら、ひとまず偉い官僚は全員辞めさせられて、共和党なら共和党系、民主党なら民主党系に入れ替わってしまう。そうすると、官僚だけが情報を持ってるという状況にはならないっすよね。
竹中:ご指摘の通り、ワシントンの場合は、政権が変わったら、官僚のトップ約3000人が入れ替わるわけですよね。それはrevolving door(回転ドア)とも呼ばれています。ヨーロッパはアメリカに比べると官僚が強いほうだけど、それでも日本みたいに直接的なことはないですよね。
ひろゆき:日本の場合って、官僚は一度就職したらずっと同じ省庁に勤めて、政権がどう変わろうとずっと同じ省庁で情報を持ち続ける。だから強いわけじゃないっすか。
法律自体も省庁がつくるわけだから、「こういう法律だから、これできませんよ」って言われちゃうと民間はどうしようもない。「こういう法律をつくったら自分たちの省庁が得する」ってわかって法律もつくれちゃう。官僚を別の省庁に異動させるか、クビにするかっていうどちらかできないと、その仕組みを壊せないですよね。
⚫︎日本の官僚主導の問題点
竹中:おっしゃる通りで、だから第1次安倍内閣のときに公務員制度改革をやろうとしたわけです。当時、行革担当大臣の渡辺喜美さんがそれを担当しようとしたんだけれど、自治労のものすごい反対に遭ったんです。
思い出深いエピソードがあります。アメリカから帰ってきた小泉進次郎さんが2009年に初の選挙に出るとき,私は初めて彼に会ったんです。そのとき進次郎さんが最初に私にした質問は,すごくストレートでした。「先生、官僚主導の何が問題ですか?」って聞かれたんです。
その際に私は、「2つ問題がある」と答えました。
1つは、官僚が終身雇用・年功序列でやっているということです、と。終身雇用・年功序列だから、国民のために本当にやるべき政策よりも、官僚組織のために何をやったらいいか、自分の先輩が天下りするための仕組みをどうつくったらいいかを考えてしまうわけです。政策が官僚の利権になってるということです。でも官僚がころころ入れ替わったらそんなことは考えませんよね。
もう1つは、官僚主導だと大きな制度改革が絶対にできません、と。官僚は非常に大きな仕事をしているように一見思えるけれど、国民からの信託を所詮は受けていないので、郵政民営化とかベーシックインカム導入のようなブレイクスルーはできないのです。この2つが官僚制度の弱点ですと進次郎さんに申し上げたんですよ。
1つは、官僚が終身雇用・年功序列でやっているということです、と。終身雇用・年功序列だから、国民のために本当にやるべき政策よりも、官僚組織のために何をやったらいいか、自分の先輩が天下りするための仕組みをどうつくったらいいかを考えてしまうわけです。政策が官僚の利権になってるということです。でも官僚がころころ入れ替わったらそんなことは考えませんよね。
もう1つは、官僚主導だと大きな制度改革が絶対にできません、と。官僚は非常に大きな仕事をしているように一見思えるけれど、国民からの信託を所詮は受けていないので、郵政民営化とかベーシックインカム導入のようなブレイクスルーはできないのです。この2つが官僚制度の弱点ですと進次郎さんに申し上げたんですよ。