資源がないのに“お人よし”すぎた日本。家電、半導体…最先端技術を惜しみなくオープンにして失った、あまりに大きなもの
幻冬社ゴールド onlain より 221209 佐藤 まさひさ
世界地図をのぞくと日本はロシア・中国・北朝鮮に囲まれており、現在の世界情勢を照らし合わせると、地政学上大きく危険をはらんでいる国の一つといえます。
2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻による戦場の痛ましい現状の報道を目にして、罪のない人々が苦しむ姿に心痛めるとともに、自国の安全への不安を募らせれている人も多いのではないでしょうか。
本連載では「2027年、日本がウクライナになる(他国に侵攻される)」と予測する、元自衛官で「戦場を知る政治家」である佐藤まさひさ氏の著書から一部一抜粋して、日本防衛の落とし穴についての知識を分かりやすく解説します。
⚫︎ウクライナ危機でNATO加盟国の足並みがそろうも…
国際関係は一筋縄ではいきません。それぞれの国がさまざまな国と、経EU済支援、技術協力、歴史などで連携しているからです。各国には事情があり、思惑もあります。EUもNATOも一枚岩とは言えませんでした。トランプ前大統領は、NATOの防衛費をGDPの2%に引き上げよと要求していました。
「なんでヨーロッパとの貿易赤字が7兆円以上あるのに、NATOの国防費の8割をアメリカの血税で負担しなければならないのだ。おかしいだろう。自分のことは自分でやれ」
と。そんな風潮の中、今回のウクライナ危機があり、潮目は一気に変わりました。おそらくこれは、プーチン大統領も計算外だったでしょう。ヨーロッパがこれほど急にまとまるとは思わなかったはずです。
経済重視のドイツでさえ「国防費をGDP比2%超」に増額して予算を組み、フィンランドやスウェーデンはNATO加盟を正式に申請しました。2022年3月24日にG7(先進7ヵ国)首脳会合がベルギーで開催されました。G7はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本、カナダ、イタリア。日本からは岸田首相が参加しました。
会議では「中国がロシア制裁の抜け穴になってはいけない」と話し合ったのに、結局、共同声明には、それが抜けていました。ドイツの反対があったからです。ドイツと中国は経済的な関係が深く、例えば中国の公用車にはドイツ車が並んでいたりします。
ヨーロッパは一気にまとまったように見えますが、やはり国ごとに利害関係があり、何が作用して、どんなことが起こるかはわからないのです。
台湾問題などの“有事”を想定するなら、日本が今しなければならないのは、ヨーロッパに“本気”で連帯を示すことでしょう。そうしなければ、本当の意味の「日・米・欧」というつながりが、台湾有事においては機能しません。日本有事でも同じことです。
おそらく台湾有事にはNATOは条約上も地理的関係からも、まとまって動くことはできません。国連も期待できません。ASEANはどうか? 中立の立場を取るでしょう。中国との関係がありますから、あからさまに台湾や日本に味方をすることはできません。
それでは、お隣の韓国はどうでしょうか? 動いてくれるはずがありません。中国とのビジネス関係が非常に深いのですから。ただ台湾海峡が不安定になれば、韓国に中東の石油が入ってこなくなるリスクはあります。ゆえに韓国の新政権は台湾海峡の安定に汗をかくべきです。
そう考えると、現段階では、助けてくれる国はアメリカとオーストラリア、そしてNATO諸国の英仏ぐらいしかありません。とはいえ、オーストラリアは強力な友好国ですが同盟国ではないので、アメリカと比べるとやや弱くなります。
英仏は近年、インド太平洋地域に関心を強めていますので、その関係を強化するチャンスです。アメリカは同盟国ですが、どんどん内向きになっているし、自分が汗をかかないと助けてくれないということは、この本で再三述べてきたとおりです。
中国の暴走を抑えるためには、インドは絶対に必要な存在です。QUADが本格的に動き出したことは、第四章でもお伝えした通りです。
しかしインドは歴史的にもロシアとのつながりが深く、長年、軍事を含めた技術的な恩恵を受けてきました。いきなり離れる訳にはいかないでしょう。
サイバーやレーザー技術等、技術分野でのイスラエルとの連携も重要な視点です。そうしたことも含めて、新しい連携を模索し続けなければならないのです。
⚫︎日本が誇る「技術力」は有事にも大きな意味をもつ
やはり大事なのは“技術”ということになるのかもしれません。戦争をするためではなくて、自分の国を守るためにも技術が必要なのです。ヨーロッパやアジアとの連携にも、日本の技術力は大きな力になることは間違いありません。
ウクライナ危機では官民を問わず大きな支援が集まりました。企業間の深いつながりが”いざ有事”にも生きるはずです。少なくともイギリスやフランスは、日本に協力してもらえるよう、努力しないとならないでしょう。
例えば、新しい次期主力戦闘機の導入計画「F―X」では日本企業が開発主体ですが、そのエンジンをアメリカを通じてヨーロッパに売り込めばよいのです。その技術が日本にはある訳です。
日本のエンジンがNATOなどのヨーロッパ諸国、あるいはアジアの国々に入っていけば、いざという時にも、その関係はものを言います。日本の協力がなければ、彼らはいざという時エンジンが入ってこなくなる訳ですから。
もちろん多岐にわたる自衛隊の活動が、多国間との連携を深くしていることは言うまでもありません。世界は、洗練され統制の取れた自衛隊に一目置いています。こうした“人的交流”は、やはり日本を守る大きな力になるのです。
⚫︎意識するべき「総合安全保障」という新概念
最後にもう一つだけ「総合安全保障」という言葉を覚えておいてほしいと思います。防衛や外交だけでなく、経済安全保障、エネルギー安全保障、食料安全保障など、トータルで考えるのが総合安全保障です。
例えば、今、小麦がどんどん値上がりし、中東やアフリカのほうでは大変な状況になっています。需給バランスが崩れたからですが、そういう食料の安全保障も考える必要があります。
コロナ禍では、マスク不足やワクチン不足にどう対応するかという医療の安全保障もクローズアップされました。今後は技術の安全保障にも深い施策が必要になってきそうです。やはり日本は資源のない国ですから。
これまで日本はちょっと“お人よし”すぎたのかもしれません。サイバーセキュリティも、当時は日本が一番だったのに、今は地位が低くなりました。半導体もそうです。白物家電などは、もはや見る影もありません。一番いいものを、みんなに教えてしまうからです。
各国と連携しながら、その中心となり、お互いの力を平和利用に使っていく。大きなビジョンが必要かもしれません。防衛や外交の枠にとらわれない、総合安全保障戦略。
それを考えるには、より大局的な観点から物事を捉えなければならないでしょう。
そのためにも、まずは現実を知ることが大切だと思うのです。
佐藤まさひさ
参議院自民党国会対策委員長代行、自民党国防議員連盟 事務局長